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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第一章【白銀の英雄】
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第一章 18 【邪眼怪魔(パジフ・マカラサヌ)】

 ハリガン砦跡地―――元はカヅム大森林より来る魔物や王国が目の敵にしている亜人種に対しての防衛拠点及び補給線の役割を持っていた場所で、特徴としてはトンネルのような内部構造をしており、侵入者の待ち伏せや物資の保管等を担う横穴が多く存在する。

 元々あった岩山を切り崩し、小高い地形に造られた城塞の出入り口は大きな門が一つ。巨人をも収納できる大きさで並みの破城槌では壊すことは叶わないほど。

 迂回しようと森に入れば、罠や待ち伏せで一日二日は優に浪費してしまう。五メートル以上の岩を切り崩して作られた砦柵が砦の正面広場から森の端まで建ち並び、外部の侵入を一切許さない。

 そして、唯一の出入り口を突破するにしても、続くは正面一本道の坂。

 左右の陰にはその道を挟むように投石機や大砲が段々と置かれており、攻め入ろうものなら大岩に砲撃の雨あられが敵の進軍を瞬く間に崩れさせるであろう。

 

(着いたか…)


 昼を過ぎた頃合い、狩りには最適な時刻。

 今はくたびれて過去の堅牢な栄光を影に落とした魔物の根城へと、“白銀”と“イータイルト”の冒険者チーム二組は到着した。


「では、皆さん。作戦通りにお願いします!!」


 クインツの言葉に各々が返事よく頷いて。

 “白銀”と“イータイルト”による邪眼怪魔――――パジフ・マカラサヌ討伐作戦の開始である。










「アレが今回の冒険者か……」


 もはや雨風をも凌ぐ事もままならない開けっ広げられたハリガン砦最上階の窓よりプレクト・ビレッジは気配を殺して下方を覗き、計画通りにやって来た冒険者を吟味するように見下ろす。


(あいつら、何やってんだ………?)

 

 見れば、白いコートの男や二本の角の飾りを付けた女どもが廃品寸前の備品類を何やら弄っている様子だ。そして、頃合いを見てやって来た軽鎧の男が角女と話し込んでいる。


「ははぁ…投石機いじくりまわして使うつもりか? ま、無駄な努力だと思うがね」


 流石にこの距離だと読唇術は使えないものの持っている道具からして、投石機を直して再利用するのだろうとプレクトは予想し、見事に的中。

 白コートの男を筆頭に四人は配置に付く。先程言葉を交わしていた金髪の男は、目配せで確認を取っており、ジェスチャーでの返答は肯定の意を表すように右手を軽く回転させて。

 それに頷き、こちらに向かってくるは軽鎧の男が二人。金髪の男と赤いバンダナを頭に巻いた男だ。

 

「なるほど。あの鎧の男二人が陽動でマカラサヌをおびき出し、白コートと三人が投石機を使っての挟撃………ヘッ。大型の魔物の倒し方としては、定石ちゃあ定石だが――――残念だったな」


 冒険者稼業に身を費やしていた昔を思い出し、プレクトは彼等のそんな頑張りを鼻で笑う。

 無駄も無駄だ。

 金剛月華会の魔物はどのような品種も特別で初心者の登竜門たるパジフ・マカラサヌも例外ではない。コイツにとって投石機を用いた攻撃は、例えるのならそよ風のようなもの。

 殺すにはその三倍は持ってこなくてはならないだろう。


「よし、起きろ。戦闘訓練だ」


 育成において必須課目の一つである魔物の戦闘訓練。

 そつなく仕事をこなすべく、赤に輝くひし形の魔石を右手に握って男は魔物に命令を下す。

 

『………ウジュルルル』


 すると、房の形を取っていた肉体がズルリと音を立てて自らの触手を自由に伸ばし、伸びて、全くもって快調に目覚めたようだ。

 多腕であり脚をピトッと地面に、眼球を軽くふるふると振って商品(パジフ・マカラサヌ)はプレクトの号令を準備万端に待ち望んでいる。


「………?」


 ふと、彼は窓の外に視線を移す。

 太陽は快晴の大空に昇り、平和な青空――――誰かに見られた気がしたのは、気のせいだったのだろう。と、気持ちを切り替えつつ。


「んじゃ、金剛月華会入社初の大仕事といきますかね~」











「では、こちらは任せるがよい」

 

 イータイルトの盾役、ガウス・ゴンゴルドの自信満々な言葉を背にクインツとレナードはハリガン砦跡地正門へと歩を進める。


「ま、余裕だろうけど…――――」


「…慢心は毒だぞ。レナード」


「分かってますって、リーダー」


 一応にレナードの言う通り“余裕”だが、これより始まるのは命のやり取り。気は引き締めるだけ、引き締めていた方が良いと自身も含め、クインツは軽く檄を飛ばす。

 今回の“白銀”と“イータイルト”による邪眼怪魔(パジフ・マカラサヌ)討伐作戦。

 概要はこうだ。


「馬車の番と臭いの結界。任されましたぁ」


 初めにリクス特製のマカラサヌ種が嫌う軟膏を砦周辺の木々に塗って、獲物を逃がさない様にする。

 荷物持ちの彼女はほぼ非戦闘員の人員なので、大体の仕事において馬の番。今回も同様で、馬の首元に気持ちを落ち着かせる軟膏を塗り、周囲の景色に紛れるよう荷馬車を木々や葉(迷彩)で彩れば、彼女の仕事は完了だ。


「<全属性抵抗付与(ジレオルド)>、<速度向上(ス・パリド)>、<筋力増加(マルグダト)>、<鉄肌付与(アイスクド)>…――――うん。いいよ!」


「魔法の効力期待してるぜ、メアリー嬢!」


「まっかせなさーい!!」


 次にメアリー・マクベルの魔法で陽動を行うクインツとレナード、ガウスを強化。そして、彼女には作戦通りパジフ・マカラサヌを正面広場に誘い出した際、盾を構えて魔物と相対するガウスの後ろから魔法での援護射撃を行ってもらう。


「どうでしたか?」


「……ああ、大丈夫だ。使えるヤツがちょうど四つあってな。アンタの作戦通りに事が運ぶだろうぜ」


 “白銀”のロー・ハイル・ヘルシャフト、獄炎火煉、フィリアナ・ルーゲル・フェンドルド、ニーナ・レイオールド以下四名の役割は投石機を用いて討伐対象の動きを止める事にある。

 パジフ・マカラサヌの動きを止めるのに使用するのは岩ではなく、『ネストボレル』という粘着性の高い網である。

 食人虫フルブガの巣を利用したモノで、元来は魔物の捕獲用に多く使われる道具だ。

 その粘着性はもがけばもがく程逃げられなくなり、小動物や子供なら逃げるのはほぼ不可能。カーペット(タイプ)の『ネストボレル』も売られていたものの子供が引っ掛かる危険性を考慮し、今では投擲網(タイプ)の物だけが売られている。

 因みにコレはクインツ達が自腹を切って購入した道具である。

 更に因めば、ロー達はかなり強めに「外さない様に」とクインツから念を押されている。何故なら、結構なお値段であるからして。


「よし。じゃあ、後はオレ達次第だな」


「…ああ。そうだな」


 “白銀”の四名が準備完了なのを確認すれば、クインツとレナードは一歩、一歩と足音をなるべく立てないようハリガン砦正面入り口へと坂を上る。

 その間にクインツの脳内で行われるのは、作戦の順序確認を踏まえたイメージトレーニングだ。


(まず、私たち二人がパジフ・マカラサヌを強襲して中央広場まで引き付ける…)


 この点に関しては問題ない。討伐対象を起こすのに今回使うのは、レナードお手製の爆音を奏でる投擲物――音響爆弾――である。

 ボタンを押せば内部の火薬が混ざり合って、押したボタンを離すと三秒後に強烈な破裂音を出す。

 深酒をして爆睡を決め込んでいたガウスが起きるぐらいなのだ。性能はお墨付きで、これで起きない者はいないはずだ。


(その次にガウスがマカラサヌの注目(ヘイト)を買って、引き付け、動きが止まったら投石機で『ネストボレル』四発を的中させる)


 “白銀”の四人についてはフィリアナ・ルーゲル・フェンドルドがメアリーと同じく、<全属性抵抗付与(ジレオルド)>等の魔法を扱えるらしいので石化対策は皆万全だ。


(…メアリーの特大<魔法の矢(マロウ)>で怯んだところに四対四の挟撃)


 相手は『ネストボレル』により動きを封じらている。

 中距離からの攻撃が一番最適解で、近距離の持ち込むのは相手の体力が少なくなってからだとクインツは腰の剣を撫でる。


(そして、炎の魔法でネストボレルごとパジフ・マカラサヌを燃やせばいいか…。でも、不測の事態は考慮しておこう)


 不測の事態。例えば、討伐対象の体力を見誤っていたのなら、次に待っている展開は負傷者を出してしまうという事。

 石化についてはマカラサヌ種の最底辺であるので魔法をかけておけば問題は無いが、触手による鞭のような一撃や鋭い一刺しは少しばかり厄介だ。

 傷口に魔眼を当てられた際の解呪薬はリクスが用意した物を“白銀”と“イータイルト”の全員が作戦時に常備しているものの、負傷してしまえばガウスかメアリー、もしくはフィリアナによる回復の手筈と援護(カバー)に入らなければならない。

 負傷者、回復役、援護(カバー)の最低でも三人は戦闘から抜けることになるので、戦線を維持する為にも常にリーダーとして気を配っておくのがせいぜいの対策。


(撤退の合図として指笛を吹く判断は任された事だし、不測の事態(アドリブ)についてはこちらに合わせてもらえるから………ま、問題は無いかな)


 万が一という場合も考えて、撤退の手筈は討伐作戦よりも先に話し合っている。

 クインツの指笛に始まり、各々の判断で戦闘区域からの撤退。そして、集合地点は野営を行った昨日の川辺だ。


「クインツ………いいか?」


「いつでも」


 砦の古ぼけた木製の門の両側に二人は張り付く。幸いにも正門は少し開いているので、後は中を窺って音爆弾を投げ込むだけだ。

 レナードが音響爆弾を構え、ボタンに親指をかけて、何時でも良いとこちらに目配せ。


「………ッ」


 クインツは頷き、少し開いた門に手を掛け、身を乗り出しながら中の闇を覗き込む。


『シュゥルルルル………』


 覗き込めば討伐対象が寝ているはずだった。なにせ、目の大きいマカラサヌ種は夜行性。

 こんな真昼間に起きているはずはない。


(や、ば………)


 クインツ・アーケロイは巨大な黄色の瞳と目が合った。

 彼を覗き込むのは、黒い点が穿たれたかの様な吸い込まれるぐらいに大きな瞳孔。自らの鎧姿が頭から足の先まで綺麗に見事に映し出されている。

 その巨大生物の威圧感(プレッシャー)が故に彼は動けず。

 次第に、その巨大な怪魔は重たい眼球を動かし、突然やって来た部外者を品定めするかのようにすべてすべての目玉で見る。

 生暖かい息、逃げられぬよう彼を見つめる眼孔、身体がこわばりクインツは動けない。


『シ………?』


 まるで、蛇に睨まれた蛙。

 そして、その蛙を助けたのは足元に投げ込まれた丸いモノ―――音響爆弾である。


『シュウふルルルッッッ―――――!!?』


 耳をつんざく爆音の後、蛙は首元を後ろから思い切り引かれて尻もちを着く。そうして見上げるのは、爆弾を投げ込んだレナード・アンダーソン。


「来るぞッ、走れ!!」


 彼の言葉で我に返ったクインツは立ち上がって踵を返し、坂道を駆け下がる。


『グカカカカカァァッッッ―――――!!』


 どこから出ているのか。甲高い咆哮を喚き散らしながら、その長い首達をたゆませ、住処を荒らされた怒りに目をカッ開いたパジフ・マカラサヌは正門をぶち破ると、瞳に捉えた二人を真っ直ぐ追いかけてきた。


「やべぇッ?! 怒り心頭ってカンジだなオイ!!」


「そうだなっ!」


 老朽化していたとはいえ、あの堅牢な正門を体当たりのみで粉砕したのだ。レナードの言う通り、かなり怒っているのに間違いはない。


『クァァァアアアアッッッ――――――!!!』


 獲物目がけて一直線する巨大な八本歩行の怪魔類。対する二人は魔法の強化があるものの、ただの人間。

 魔物の速度に敵うはずもなく距離はみるみる縮まるかに思えたが、ここは坂道の下り。生き物としての本能が自然と全力を出さずにパジフ・マカラサヌの多脚にブレーキを掛けたのだ。


「飛べぇッッ!!」


 そんな事は露知らず。無我夢中で走っていた二人は顔を合わせて左右の岩陰に飛び退き、声を上げた。


「今だ!! ハイルさん!」


 ガウスが盾を叩いて広場の中心に進ませ、来るは粘着する大網が四つ。


「な………?!」


 本来ならば、ネストボレルが命中してパジフ・マカラサヌは身動きが取れなくなるはず。しかし、目の前の光景はクインツの立てた作戦通りではないし、何より異常過ぎる光景だった。


「ど、どうなっておる! ()()()()()()?!!」


 クインツ、レナード、ガウスの三人の目にはネストボレルの着弾を確認できていた。だがしかし、ヤツに当たる直前で大網四つは霞の如く掻き消えた。

 何かあったのかと、お目目を傾げて辺りを見回す巨大な怪魔。

 はっきり言って異常なこの事態、クインツは自身の持てる知識で現状を打破するべく鑑みる。


(…魔法を唱える魔物がいるというものの、その素振りはヤツに無かった。パジフ・マカラサヌが魔法を使う前例はない。あるとすればヤツの上位個体――――それに、ヤツには魔法の力は感じられなかった。まるで生来の力のような………)


 どう言葉を紡ごうが、ヤツの起こした現象についての答えは出ず。

 なら、やるべきことは一つだと。異常な敵に対し、リーダーとしてクインツは右手を口元に撤退の合図として指笛を鳴らすだけ。


「う、あれ………?」


 動かそうと、持ち上げよう。しかして、右腕は一ミリも動かない。

 それはある種当然の出来事――――足先、指先から<石化>が始まっていたのだから。


「かっ、クソッ…?!」


 気付いた時にはもう遅い。首から下の全てが鼠色の石像に色と形が変わり始めている。

 じわり、じわり…身体が石塊に蝕まれる感触は、自らの死を体現するかの如く得体の知れない気持ち悪さで、もう逃げられない。


(あ、の時…か?!)


 もはや見えるのは左目だけ。その石に変わり逝く感覚に弄ばれながら、クインツは<石化>がいつからだったのか答えを得た。


(そう、か。ヤツが正門を壊したあの瞬間……!)


 “どこから出ているのか。甲高い咆哮を喚き散らしながら、その長い首達をたゆませ、住処を荒らされた怒りに目をカッ開いたパジフ・マカラサヌは正門をぶち破ると、瞳に捉えた二人を真っ直ぐ追いかけてきた。”

 興味本位に覗くだけならば、興味本位に相手を見定めるだけで終わったであろう。ただ、クインツ達の行為は興味以上に害をなした爆音。

 害されたのならその返礼は更なる力による強襲。

 未だ戦闘に関しての命令をされていなかったパジフ・マカラサヌは生来の気質により一番得意な<石化>の魔眼で、そんなどこにでもある弱肉強食の(ルール)に従ったまでだ。


(まさか、遅効性の<石化>だったとはな。しかも魔法で対策してたってのに……)


 クインツは自身の不甲斐なさを心残りにして、


(ああ、くそ! メアリー。本当にすまない…)


 仕えるべき主への謝罪を最後に、意識もまたじわじわと石と化していく。

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