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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第一章【白銀の英雄】
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第一章 15 【冒険者としての生活】2

 村落や町にて、人々に害する魔物の駆除が仕事の中心であるの冒険者は、十段階の(ランク)と付随される金属板(プレート)によって区分けされている。

 第一から第三級、下級冒険者と呼ばれる彼らが装備するのは銅で作られた金属板(プレート)

 第四から第六級、仕事にも慣れて中堅と名指しされることが多い部類の冒険者で下級とは違い危険な仕事も多く、首から下げた鋼鉄の金属板(プレート)が致命傷を退けた話は珍しくない。

 第七から第九級、上位の冒険者だが後述する第十級とは違い金属板(プレート)はそのまま。代わりに彼らの多くは討伐した魔物の一部を加工して、金属板(プレート)と共にその経歴を飾っている。

 そして、第十級。

 最上位冒険者らしくプラチナの金属板(プレート)を身に着けた皆の羨望の眼差しを一身に受ける存在。指折り数える程度しかおらず、少数精鋭の冒険者。一部では情報を秘匿されている冒険者がいるという噂話も。

 これらの位分けは各冒険者団体(チーム)の強さや顧客からの満足度を表し、見栄を張る下級の冒険者が規則を破って自らの位より二つ以上の身の丈に合わない仕事を受けないようにする為の処置。

 基本的に冒険者は組合の掲示板に張られた依頼や受付嬢から斡旋された仕事などを吟味して受諾するので、その点は特筆して普通は問題ない。しかし、時として火急の依頼もある。

 その場合、受付嬢に頼るのは当然だが、事態の解決は急を要する案件。そんな依頼主が規則を破らぬよう失礼なく冒険者の強さをどう推し量るのかというと、彼らが首にぶら下げた冒険者の証――――“位の刻まれた金属板(ランクプレート)”で見定めるのだ。

 氏名、血液型、冒険者組合の登録番号が書かれた言わばドッグタグ。先の区分けに出てきた金属を素材に使用した八センチ程度の長方形の金属板。

 銅よりも鋼鉄が。

 鋼鉄よりも魔物を屠った証を。

 白金に勝る輝きはどこにもなく。

 そんな冒険者の階級の上げ方とは、自身と同じ階級の仕事を十回と受けるか、一つ上の階級の仕事を三回以上完璧に成し遂げるか。または、顧客からの評価で位が上がったりと、おおよそ三通り。

 当然、規定の数の仕事をこなしていても昇格試験を受けなければ、階級が上がる事はまず無いのだが。


『………………』


 昨日手続きを済ませた冒険者団体“白銀”。

 ロー・ハイル・ヘルシャフト、フィリアナ・ルーゲル・フェンドルド、獄炎火煉、ニーナ・レイオールド、以下四名は駆け出し冒険者の証『銅で作られた金属板(ブロンズプレート)』を首から下げて今現在、冒険者組合の依頼が張られた掲示板と睨み合いの最中である。


(この魔道具(アイテム)で一応読めるようにはなったけど………――――)


 もちろんの事、ただの睨み合っているだけではなく彼等四人はしっかりと依頼内容を吟味できていた。

 その理由(ワケ)は目元に掛けた【ブレイスラル・ファンタズム】産の魔道具(マジックアイテム)こと普通に見える()()のおかげである。

 見た目こそ涼しげなスカイブルー色の眼鏡だが、その実はゲームのオフラインストーリーにて古代遺跡の石板に記された古代文字を読み解く為の翻訳機。

 試しにと翻訳機…もとい『翻訳眼鏡』を掛けて見てみれば、その効力はゲームの古代文字を解読するだけに至らず異世界文字までも完璧に読破できるのであった。

 結果、人数分持っていた眼鏡を彼女達にも渡して“白銀”の全員で読解中の今に至る。


(ない。ないぞ……第一級や二級相当の仕事(クエスト)が圧倒的に少ないッ)


 しかして、異世界文字への対策を整えたのにも拘らず現実は非常。

 白銀の階級は冒険者としてひよっこもひよっこの最底辺の『銅で作られた金属板(ブロンズプレート)』をぶら下げた第一級。その位で受けられる仕事と言えば、薬草の採取や留守中の警備などが殆どで、魔物討伐もあるにはあるが遠征費用など諸々を加算すれば赤字(マイナス)へと算盤をはねる結果に陥る。

 低位の冒険者の仕事が少なく平和なのは良い事だが、“白銀”にとっては少々悪い事だ。おまけに報酬も少ないし、これでは来月分の宿代を払えるかどうか怪しい。


「おい、ロー様。これなんかどうだ?」


 火煉が指さすのはとある魔物の討伐依頼。


「えーと、食人虫フルブガの巣の確保………火煉、コレは第五級冒険者の仕事(クエスト)だ」


「じゃったらこっちはどうじゃ?」


 ニーナが見上げる視線の先、あるのは旦那の浮気調査である。


「…金額も悪くないが、こういう解決時期が不明瞭な仕事はまた別日にしよう。一週間後にやらねばならぬ事があるからな」


「えー、楽しそうじゃのに」


「それはニーナだけだ。―――――というか、これも冒険者の仕事なのか…」


「ロー様。この依頼はどうでしょう?」


 フィリアナが指しているのは、これまた魔物の討伐依頼。しかし、よくよくと見れば風変わりな内容だ。


「大人数による魔獣ガルガドの合同討伐……参加者は十六名。内第五級が一名以上、第三級が三名以上必要不可欠で、その他冒険者のランクは不問である、か」


「良いンじゃねーの? 報酬も一人頭三千ルティだしよ」

「ふむふむ。確かに、これならば第一級冒険者の参加を拒否されておらぬしな」


「そうだな。金払いもいいし、これは良い依頼――――…………あ、ダメだ」


 思いもよらぬ主の否定に火煉とニーナの視線はムスっとローへ向いて、フィリアナは心底びっくりとたじろいで見せる。


「な、何故でしょうか?! 依頼選びには結構自信あったのですが……」


「この紙の右端、よく見てみろ」


 ローが指さす先、そこには注意書きとして小さくある一文が記されており、フィリアナ達は声を揃えて口に出す。


『一見さんお断り?』


「そう。つまり、依頼主と面識が無ければこの依頼を受ける事は出来ない―――――ま、冒険者は信頼・信用を念頭に置いた準公務員の類の職業だし、仕方ないと言えば仕方ないか…」


「言ってる場合じゃないぞロー様。どうするのじゃ?」


 冒険者組合、入って左手の階段下の掲示板からローはクルリと背中を翻し、ニーナの言葉を背に受け止めて一歩、二歩。進み着くは組合受付。

 つまり、彼と彼女達の()()が勤務している組合の顔である。


「眼鏡お似合いですよ」


 二つボタンの袖なしジャケットに肘丈の白シャツ、下半身はジャケットに合わせた青のスカート。

 

「ありがとうハンナ君。キミもその服、似合ってるよ」


 農民然とした恰好ではない公人然とした目新しいハンナ・カンベルトの装いには、ついつい歯の浮く台詞を自然と口に出してしまう。――――これも、自らの記した設定のなせる業か。


「フフッ、ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですよ」


「いや、お世辞じゃないんだけど…まあいいか」


 昼下がりなので組合内に人は少なく、稀有な目で見られる事もほぼ無い絶好の雑談日和だ。


「それで、どうなさいました?」


 しかし、雑談よりも先に少女の言葉を背負った彼はやらねばならぬ事がある。


「実は…仕事が無くてね。その、なんだ………二、三日で行って帰れるような討伐依頼とかってあったりする?」


 ローの言葉を聞いたハンナからはあどけない少女の態度が消えて、受付の仕事を慎ましく務める仕事人の顔となる。そして、机の一番下の引き出しから赤い木の表紙に包まれた資料を取り出すとパラパラとページをめくり、しばらくもせずその手が止まった。


「えー、コホン。これは規則で決められた質問なのですが、ローさんは他の冒険者団体と連携して依頼を達成した事はありますか?」


「………こっちでは、ないな」


 そういえば、と。

 ハンナの質問にローが言い淀んだのは、ゲーム時代をチラリと思い出したからだ。

 十川四郎には二人のフレンドがいる…いや、()()というべきか。

 フィリアナ達NPCを作る前のソロ時代に出会ったのだが、実際に会った事はなく何度か一緒にパーティーを組んだネットでの典型的な間柄ではあるものの、印象の強い二人だった為によく憶えている。

 一人が銃の掃射で遠距離から敵を減らし、一人が呪符でパーティー全体の強化を施して回復を行い、ロー・ハイル・ヘルシャフトが敵陣へと斬り込む。

 連携も取れていて近距離戦になれば戦況を一気に押し上げられるようなパーティー。ただ、そんな楽しい時間は長く続かず、二人がギルドに入るとそのギルドの決まりからか、流れる様に音信不通となった。 


(もしかしたら、マナ・イーターさんもニャルトリアさんもこっちの世界に来てるかもな)


 自分が来ているのだからという淡い期待、淡い思い出につい浸ってしまうも彼女の声が彼を現実に押し戻す。


「……あの、ローさん。大丈夫ですか?」


「あ、ああ…大丈夫。少し昔を思い出していただけだ」


「そうですか。―――――じゃあ、気を取り直して……でしたら、ローさんの出した条件に見合う仕事が一つだけあります。ですが、この依頼は他の冒険者団体との合同で行われる仕事です。それでも、構いませんか?」


「乗った! で、私達は何をすれば?」


「少々お待ちください」


 指を鳴らし、少女の提案をローは承諾。すると、ハンナは受付の机に備え付けられていた青色のハンドベルを手に持ち、三度と振って鳴らす。

 音色は見た目の通り、ハンドベルのあの音だ。僅かに魔力を纏っている様子から魔道具(マジックアイテム)なのは確かだが、コレといって変化は見えず。 

 と、思っていたのも束の間。()()()が鳴ったことで外で待ちぼうけていたであろう冒険者たちが、組合の入り口を勢いよく開いたのだった。


「ハンナさん。一緒に仕事をしてくれる冒険者が来たんですか?!」


 雑に切り揃えた短い金髪に青い目、人体の可動部に鎖帷子が見える軽装の鎧を着こなす『銅で作られた金属板(ブロンズプレート)』を首から下げた青年が、真っ直ぐこちらに歩いてくる。

 彼の整った顔立ちには覚えがあった。

 この冒険者組合へと最初に着た際、階段下の掲示板を今日のロー達と同じように睨み合っていた男の一人だ。


「はい、クインツさん。こちらの方々です」


「あ、貴方達は昨日の……?!」


 ハンナの紹介にクインツと呼ばれた彼がこちらを向いて驚いていると、受付に立つクインツの姿を確認した仲間達がぞろぞろと彼に続く。


「やっとかよクインツ。オレら人望なさすぎじゃね?」


 クインツの肩に肘を乗せて話すのは、赤いバンダナで金髪の頭を覆う()()()()()軽そうな青年だ。

 装備しているのはクインツと同じ皮鎧に似ているが、肩や腰に掛けた革の帯や雑嚢を見れば、投げる用のナイフや遠心力で投げる紐状の投石器(スリング)を携える箇所がある。クインツを『戦士』というのなら、後から現れた彼は『盗賊(シーフ)』と言った所か。


「そうだのう。このまま、仕事がお流れになる所だったわい」


 大きく、分厚く、二メートル弱のローよりも大きい岩ような初老の男性。それでありながら、温和な印象を受ける優し気な人物。

 頭を丸めており、その反動にか茶色の混じった黒い髭は胸元まで伸びている。装備するのは象が踏んでも壊れないような鉄板を塗り固めたような重鎧で、『階級を示す金属板(ランクプレート)』の他にXとIを組み合わせた様な十字架もどきのアクセサリーを付けている所から見て、話に聞く“四天教”の信徒なのだろうとローは推測。


「やっとー…?! もう、待ちくたびれたわー」

「そう言わない。一緒に来てくれる人が現れたのですから、彼等の参上を喜ぶべきですよぉ」


 巨漢と金髪の冒険者。ぞろぞろ現れた二人にはクインツと同じ理由で見覚えがあったものの、最後に入り口から続いた少女二人は初見も初見である。

 

「ま、そうね」


 頷くのは茶色の長髪をシニヨンで纏め、藍色の魔法使いらしいローブと指揮棒のような木製の(ワンド)を装備した身長百五十センチ程度の少女だ。恐らくはフィリアナと同じく魔法使い(ウィザード)


「そうですよ全くぅ…」


 その魔法使い(ウィザード)を呆れるように諫めるのは、金髪を後ろで一括りに纏めて身の丈と同等の背嚢を背負うどこかふわふわとした少女だ。

 装備は他の面子とは違って、軽装も軽装で探検家のようなポケットが沢山とある薄い茶の服に靴。彼女が近づいてくるにつれ、薬草や花の匂いが漂う所から薬師か、それに類するチームの回復係に見える。

 背丈等の類似点から一見、茶髪の魔法使い(ウィザード)と姉妹に見間違うかもしれないが、彼女の髪と豊満な胸を見ればそんな考えは露と消える。


「て、この人らは………?!」


 軽そうな盗賊(シーフ)の彼の言葉を筆頭に、やって来た全員の視線が“白銀”…もとい二本角の額当てを被った火煉へと集まる。


「痛てぇッ。」


 仲間の反応を見かねたリーダーであるクインツは盗賊(シーフ)の彼にひじ打ちをかます。それから、コホンとわざとらしく咳払いをしてローへと手を差し伸べてきた。


「変な態度を取って申し訳ございません。私はこの冒険者団体(チーム)“イータイルト”のリーダーを務めているクインツ・アーケロイという者です。今回はよろしくお願いします」


 右手を差し出すクインツに、すかさずローは応じる。


「ええ、こちらこそ。私は“白銀”のリーダー、ロー・ハイル・ヘルシャフトです。名前が長いので、好きに呼んでもらって構いません―――――それと私達は今回の依頼が初めてなので、先輩冒険者の皆様の足手まといにならないよう努めます」


「そう畏まらなくとも大丈夫ですよ。何かあれば、色々と聞いてくださいね。これからハイルさん達とは同じ仕事をする仲間なのですから」


 クインツのおかげで場は何とか滞らずに済み、初仕事の折り合わせも順調の一言に尽きるはず。


「じゃあ、ハンナさん。二階の一号室、使わせてもらいますね」











 二階の部屋の内装はどうやら全て同じように造られているらしく、三号室を見た故に何もかも同じな間取りには少々驚きである。


「では改めて自己紹介を。私は第三級冒険者チーム“イータイルト”のリーダー、クインツ・アーケロイです。主な役割は敵陣への斬り込みや退避時の殿を務めております。クインツと呼んでもらって構いません」


 昼下がりの柔らかな日差しが差し込む一号室。最初に始まったのは同じ仕事に就く間柄に必要な自己紹介だった。

 対面に座るクインツが紹介を終えると、すかさず軽そうな盗賊(シーフ)の彼が口を開いた。


「んで、オレっちはチームの目と耳と罠を担当するレナード・アンダーソンさ。索敵、罠の解除に設置、遠距離からクロスボウで支援、近距離で敵をかく乱。とまぁ、細かい作業から大胆な仕事まで得意だから思う存分頼ってよ、白銀の皆さん」


 ウィンク、ウィンクと右目をぱちくりとするレナードを遮るように、ソファの幅の関係で脇に立っていた最も落ち着いている初老の彼が、咳払いをしておもむろに用意していた口上で述べる。


「ワシはガウス・ゴンゴルド。ワシの大盾は壊れる事を知らず、敵を引き付け一挙に叩き、時として神の奇跡の力で傷を癒すぞ。怪我をすればワシに言え」


「そーそー、ガウスの信仰魔法は天下一品なんだから。ま、私とは比べ物にならないけどさ!」


「へー、信仰魔法……初めて聞きましたね」


 神も一種族となる【ブレイスラル・ファンタズム】では信仰という概念がなく、単純に回復は回復で支援はただの支援魔法とされていた。

 正直な話、彼の言う奇跡の力がどのようなものか気になるが、今はぐっと好奇心を抑えてローは流れるように話を伺う。


「―――――で、ゴンゴルドさんよりも凄いと称するそんな貴方は?」


 続けて、茶髪の幼げな彼女の機嫌を損なわず問いかければ、少女はソファから勢いよく立ち上がって、無い胸を朗らかに張る。


「ふっふっふー…聞いて驚きなさい。私の名は、メアリー・マクベル!! 偉大な魔法使い(ウィザード)にして、最強の―――――あでっ?!!」


 杖を片手に調子に乗ってマントをひらひらと仰々しく名乗りを上げていた彼女に、クインツからの脳天チョップが頭上に飛来、着弾。

 メアリーはモロに喰らった痛みに頭を押さえて、深く唸る。


「もう! 何すんのクインツ!?」


「メアリー。ちゃんと自己紹介しなさい」


 そこからリーダーというかオカンと言い表せば適切なのか、ともかくとしてクインツの青年とは思えない無言の圧にメアリーちゃんはすごすごと消える様に押し黙った。


「あー………で、マクベルさんは魔法使い(ウィザード)なんですよね? どのくらいの実力なのでしょうか?」


 空前の灯火にも似た彼女にローは船を渡し、受け取ったメアリーは明るさを取り戻す。


「メアリーで良いですよお兄さん。―――――それはともかくよくぞ聞いてくれました! なんと、このメアリーちゃんは齢十四歳ながら、第三階級魔法を扱える魔法使い(ウィザード)なのです!!」


「第三階級……それは凄い事なんですか?」


「もちろんよ! クインツ、説明してあげて!!」


「はぁ………仕方ないですね」


 嫌々と言った感じではないものの、クインツは彼女の注文に多少の照れと渋々さを交えながら応じた。この自慢話に付き合ってください、と歯止めの効かないものを止められぬように白銀の四人に苦笑いで軽く頭を押さえつつ。


「ええと、ハイルさんは第何階級まで魔法があるのをご存じでしょうか?」


 クインツのすごく微妙な質問にローは言葉を詰まらせる。

 “魔法”とは【ブレイスラル・ファンタズム】において一から十まで区分けされており、その数が大きいほど強く、第○○級と呼ばれるのは第九級…正式には第九階級までの魔法だ。

 そこから上の第十階級は『超級魔法』と区分されて、次の魔法が撃てるまでの冷却時間(クールタイム)が長い代わりに、文字通り()()()()()()が使える。

 余談だが、超級魔法の冷却時間(クールタイム)は個人ではなくチームで持つことになるので、チームの一人が発動させると、他の者は冷却時間(クールタイム)が終わるまで待たないといけない仕様である。


「…」


 ゲーム時代の知識を会話に引っ張り出せば、魔法の階級は最高“超級魔法”まであるという答えになる。しかし、ナイアル・フォン・ラトプ辺境伯に出会えなかった為に、現状この世界の魔法の平均はどこまでなのか把握できておらず。

 悩み、悩んで。


「………第」


 <冷槍(イジャリス)>や<火球(フォルボ)>が分類されている第三級魔法で凄いとメアリーは言っているのだ。

 ここで、第十階級…超級魔法と答えてしまえば彼女の面子は苦々しくなるだろうし、例えば神話の魔法使い(ウィザード)が超級魔法を扱っていて今は失われた魔法だったら。最近街に来た素性の分からない人物が、簡潔に素直に答えた言葉が、回りまわって()()()()()()使()()()()()という噂や疑い、おのずと好奇の目に晒されるかもしれない―――――実際にフィリアナは使えるのだが。

 そうなれば、話を聞きつけたプレイヤーや他の国に狙われる可能性が高くなるし、ホラを吹聴している冒険者としての信頼はガクッと落ちるだろう。

 或いは実験動物、或いは生物兵器、或いは悪魔とかとかとか……謂れもない罪を被せられたりして話に聞く“四天教”の粛清対象になったり、異世界生活は逃亡生活へと変貌を遂げてしまったりの結果に陥る可能性は無きにしも非ず。

 考えすぎかもしれないが用心に越したことはないので、


「第五…階級魔法とか、ですかね?」


 ならば、と。

 メアリーのどや顔からして普通は二個上ぐらいだと、若干に背筋を凍らせつつ回答。


「………よくご存じですね。()()にはそう言われています」


「い、()()には…?!」


 クインツの含みのある言い方に思わず身を乗り出しそうになるも、理性が身体を間一髪踏みとどまらせ、事なきを得た。


「はい。一般に流通している巻物や魔石は第五級以内の魔法が取り扱われた物が多くを占め、階級が大きくなるにつれて魔道具の値段は天と地ほどに分かれます。付与された魔法の貴重さも同様です」


 説明を促した少女は鼻高々に頷き、リーダーの説明に皆が聞き入る。


「それで、メアリーの何が凄いのかというと第一から第三階級の特殊なモノから、防御に武具への付与魔法、回復に眩暈や昏倒を誘発させる攻撃魔法などを全て修めているからなのですよ」


 確かに凄いと、ローは先輩冒険者の顔を立てる様に相づちを打つ。

 魔法は第五階級が一般の最上級で、メアリー・マクベルという少女は第一から第三階級の魔法を余すところなく習得している。つまり、彼女は最上級二歩手前まで魔法を修めているという事だ。

 しかも、髪の色や鎧の着色を変更できる特殊魔法等の覚える魔法のジャンルを選り好みしていないところから、魔法を覚えれる許容量がまだまだ存在する見立てができる。

 冒険者の位は下から三番目と低いが、その才能には正直言って感心するし、この年齢でこれなのだから伸びしろも大いにあるだろう。


「まぁ。一般と言ったのは鋼鉄の金属板(プレート)に証を付けた高位の冒険者や辺境伯が第五階級以上の魔法や魔道具(マジックアイテム)を当然に扱うらしいので……」


 そして、どうやら第五階級以上の魔法はクインツの言葉からして“一般”という枠組みから逸脱しているらしく、またそれらを扱う存在も珍しくはあるものの少なからず居るそうだ。

 若干安心だと、心の中でローはため息をつく。


「もう。最後の一言は余計よクインツ! あの人達は特別なんだからッ!!」


「あのぉー……そろそろいいですかぁ?」


 二人を割くようにして会話に入り込んできたのは、持ってきた窓際の椅子に座っていたふわふわとした印象の豊満な胸を持つ金髪の彼女だった。


「薬師のリクス・トラシアですぅ。魔物の嫌う香を焚いたり、活力みなぎる丸薬とか作ったりしてるのでよろしくですぅ――――じゃあ、これ以上話がこじれるのは御免なのでぇ、白銀の皆さんは自己紹介お願いしますぅ……」


「あ、はい」


 メアリーと同じ背丈であり柔らかな印象とは裏腹に、さながら最年長者の叱咤にも似たリクス・トラシアの催促に対し、ローはただただ頷いて。

 僅かながら白銀のリーダーは深呼吸。後に口を開いておもむろに応じる。


「私は冒険者チーム“白銀”のリーダーを務めておりますロー・ハイル・ヘルシャフトです。主な役割はクインツさんやゴンゴルドさんと同じ、敵陣へと斬り込みつつ敵の注意を自身に向くようにしています」


 リーダーの自己紹介が終わり、ソファの左から順に“白銀”の紹介が続いた。


「獄炎火煉だ。ああ、こっちじゃカレン・ゴクエンて言った方がいいか? …まあいいや。役割はロー様と同じ、斬り込み隊…――――――あと、オレは鍛冶師だから。ちょっとした武器の刃こぼれや防具のヘコみ、雑多な小物の修復なら任せろ。直してやるぜ、格安でな」


 指を鳴らす(フィンガースナップ)火煉の強気の姿勢にフィリアナは若干呆れつつ、対照的に右手を胸へと添えて丁寧に自己紹介。


「私はフィリアナ・ルーゲル・フェンドルドと申します。チームでの役割は料理と魔法ですね」


「へぇ!? 階級は? どんな魔法を使うの?!!」


 フィリアナが魔法使い(ウィザード)という事実に、身体を前のめりにして目を輝かせるメアリー。


「えっと、そうですね………」


 彼女の思わぬ喰いつきにフィリアナは少しの間を置いて、笑顔で右手の指を三つと立てる。


「第三階級の魔法を少し、でしょうか………」


「ほ、ほぉ、ふーん………少しはできるようね」


「ですが、流石にメアリーさんみたく第一から第三までの魔法を覚えてはいませんので、尊敬いたします」


「?! ま、まあ、そうよね。私みたいな天才が一人、二人ポンポンいたらこの世界が危ないかしら」


 驚きを隠すよう気丈に振る舞い、少し落ち込み、またドヤ顔で立て直すメアリー・マクベル十四歳―――何故か、左目を手で隠しての演説だ。

 先輩風を吹かせんとする彼女へのフィリアナの気遣いにローは小さくサムズアップし、よくやったと目配せ。クインツはというと苦笑いで頬を指でかきつつ軽く頭を下げていた。


「………構わぬか?」


「ええ、どうぞ!」


 上機嫌を取り戻したメアリー・マクベルに敵はおらず。ニーナの言葉にも即答である。


「ニーナ・レイオールドじゃ。そこな優男と同じく盗賊(シーフ)とよく似た役割しておるぞ」


「へー、そうなんだ。よろしくニーナちゃん――――このレナード兄さんに、うんと頼りなさいよ!」


「うむ。妾も楽がしたいので、そうさせてもらうぞ」


 この場に飽きてしまったのか、はたまた疲れたのか。ニーナの受け答えは少々淡泊だがそれも致し方ない。

 自己紹介だけでこのカロリー消費なのだ。

 ロー・ハイル・ヘルシャフトこと十川四朗も若干疲れた。しかし、仕事の打ち合わせはこれからである。











「―――パジフ・マカラサヌの討伐、及び撃退ですか…」


 雇用主との契約書とも言える依頼書に記された仕事の内容は、要約すれば商人の通り道に最近巣食った魔物一体の討伐を冒険者チーム二組で行うというモノだ。

 条件は第三級の銅のプレートを持った冒険者が四名以上で他は不問。


「しかも、一人頭千ルティとは」


「へー。難易度だけ見れば、あのガルガド討伐の仕事よりうめーじゃん」


 一見すれば普通な依頼でよくよくと見れば美味しすぎる初仕事。

 早々にビギナーズラックの女神が“白銀”へ微笑んだと、火煉の言葉にローは頷く。


「ええ。なんでも、依頼主のバウロス氏はサノベジアで一山当てたらしく、その機会を逃さない為にもこの道は必須なのだとか………商人の考える事は分かりませんね」


 百眼の魔物“マカラサヌ”――――【ブレイスラル・ファンタズム】世界にも居た“初見殺し”の異名を持つ魔物である。


(依頼書の概要を見た感じだと、ゲームに出てきた個体とそこまでの違いはなさそうだな)


 全体的な色は明るい紫で全体像は例えるなら葡萄。だが近くに寄って見てみれば、その果実のような球体全てが“マカラサヌ”の眼球で本体。

 五メートル越えの触手八本をある時は蛇のように、ある時は蜘蛛のような足として用い、天井に張り付いたりして立体的な動きをする魔物だ。

 レベルはマカラサヌの種別によって二十五、三十、三十五と三通り。ゲームでは魔物のヒエラルキー最底辺の最上部に位置するプレイヤーの登竜門的な立ち位置である。


「全くですね」


 今回相手をするのは、そのマカラサヌ種の中でも最底辺のパジフ・マカラサヌだ。

 “初見殺し”の異名らしく、マカラサヌという魔物は一つ一つに工程(アクション)なしに間髪入れず魔法を繰り出せる“魔眼”をその眼球全てに宿しており、加えて持ち前の触手で弓や斧を器用に扱うので魔眼で魔法を飛ばしながら、近接戦闘が得意な者や遠距離にて攻撃を仕掛けてくる者と柔軟に渡り合う事ができる。

 パジフ・マカラサヌもその例に漏れず、石化の魔眼にて敵の動きを止めて武器で止めを刺す攻防一体の登竜門としてローは記憶している。

 レベルは二十五の最弱。

 強いには強いが、それは初見での話。対策を怠らなければどうということはない魔物だ。

 

「――――それで、その通り道について場所は把握してるんですか?」


 弱点、眼球ないし触手を含めた肉体。

 全身が筋肉で眼球がぶら下がっており、魔眼という長所を生かすには最適解な作りであるものの裏を返せば龍などとは違い生身の鎧、鱗が無いので刃は通りやすく打たれ弱い。眼球が露出している以上、ソコを狙い潰せば、魔眼を封じるのは容易。

 ただ、言うは易く行うは難し。マカラサヌ種は目を見開いて対象に狙いを定めてから、自身を軸とした半径十メートルの敵を<石化>させる魔眼を予備動作なし、休憩動作(クールタイム)なしに連続で使用するので、弱点こそ見えているすべてではあるが“初見殺し”の異名を冠した理由よろしく魔眼への対策をしていなければ、おのずと挑んだプレイヤーは仲間共々全滅の一途を辿るであろう。

 対策とは単純明快で<石化>に関しての防衛術が肝だ。

 <石化>を治療する魔道具というのもあるが、基本的には<石化>に掛からなくすればよいだけの話なので第二階級に属する状態異常全般に対する抵抗魔法で<石化>攻撃はほぼ完全に防げる。第三階級の治療魔法を修めていれば<石化>自体を治療できる魔法が存在するので割高の魔道具を買わずとも良く、もはや敵ではない。


「はい。バウロス氏とは事前に打ち合わせてありますので、後は出発して討伐依頼をこなすだけですよ」


 そう言うとクインツは、折れて色あせて買い替える一歩手前な使い古された地図をソファの後ろの雑嚢から取り出し、机に広げる。見れば、コルコタの南東部にある小さな山に赤い付箋が張られていた。


「ここですか…ざっと見た感じ、行き帰りで三日ぐらいでしょうか?」


「そうですね。順調にいけば、今日を入れて三日…いや、二日で終わる仕事でしょう」


「今日、ですか?」


「…まあ、なるべく早く依頼を達成したほうが良いな、と思いまして―――――もしや、何か都合が悪かったですか?」


 今日依頼を受けて、今日出発。というのは随分急ぎ足だと思いはするも彼等の最初の反応からして、かなりの間依頼をキープしていたんだろうと推測できる。

 それに、この町に今のところ用事があるというワケでもないので、クインツの疑問には首を振った。


「ありがとうございます。じゃあ、馬車を引いてきますので白銀の皆さんは組合の前で待っていてください」


「…馬車ですか。魔物一頭の為に?」


「それほど、あの通り道には付加価値があるという事らしいですね」


 随分と通り道にお熱のようで、初老の彼は依頼主の大胆と寛大さを大いに笑う。


「ハハッ、全くに太っ腹であるな」


「えー。私的にガウスも、負けてないんじゃない?」


「なに、ワシが太ってるとでも? ――――否、メアリー嬢。見よ!! これぞ、鍛えに鍛え上げた美しき筋肉である!! 間違えるでないわっ!!」


「いやいや、ガウスの旦那。鍛えたってのは評価するけど、美しいはねーから……オイ。脱ぐな脱ぐな、メアリー嬢も対抗するんじゃあない!!」


 ガウスに始まり、メアリー、レナードと会話に参入し、ガウスはご自慢の筋肉を見せつけるべく鎧を脱皮の如く床に脱ぎ捨てるとムキムキの上半身を裸にフロント・ラット・スプレッド。

 負けじとメアリーが脱ごうとするもレナードが急いで諫めて、一歩手前のセーフである。


「皆様………」


 場が混沌に支配されんとした瞬間、さながら最年長者みたくリクス・トラシアの一喝にて皆が押し黙った。


「これから仕事をする仲間の前なのです。はしたない真似は止めなさいね――――――というより、ガウスさん。昨日のお酒がまだ残ってるんじゃないですか? 罰として今日の御者は任せましたよ」


「そんなぁ」と気持ちの悪い猫なで声が聞こえるも、咳払いをしたクインツが仕切り直す。


「まあ、というわけですので今から二十分後。組合の前に集合をお願いしますね」


「…なにか必要なものは?」


「特に必要なものはないですよ。バウロス氏が冒険者の仕事に際しての道具や食料を馬車に一式積んでありますので、ハイルさん達は自身の装備の準備をしていてください」


「はい。改めて、今回はよろしくお願いしますね」


 今度はローが右手を差し出し、クインツと握手を交わす。

 こうして、冒険者が二組“白銀”と“イータイルト”はテリュール王国領土、ハリガン砦跡地に向かう事になったのである。

クエスト内容

【パジフ・マカラサヌ一頭の討伐及び、撃退】

条件

・六~十人以上

・第三級の銅のプレートを持った冒険者が四名以上、他は不問

・討伐が好ましいが、撃退でも可

報酬

・一人当たり千ルティ

・一部、パジフ・マカラサヌの素材

依頼主 

・テリュール王国商人、ロブコフ・バウロス

場所

・テリュール王国領土、ハリガン砦跡地

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