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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第一章【白銀の英雄】
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第一章 12 【商業都市コルコタ】

 プカド村より南東へと進み、なだらかな丘隆地の道中を越えて約三日ほど。

 天気が崩れる事も無く、夕暮れ模様に照らされて。やっと着いたは、八角形の外壁で囲まれた堅牢な都市“コルコタ”であった。


「次の人、どうぞー」


 時刻は夜も間近。故にか、松明の焚かれた南口の検問には馬車や竜車、荷物を持った人だかりがまあまあとできており、腰に剣を携えている茶色の革鎧を着た憲兵二人が流れ作業で列に並んだ人を着々と捌いている。

 もちろん、カンベルト一家とロー・ハイル・ヘルシャフト御一行もその列に加わって順番を待ち、最後の最後尾に時は来た。


「オヤオヤ…手戻りですかな? カンベルトさん」


「まあ、そんなところだ。それにしてもアグルス。何でお前が南門で仕事してんだ? いつもなら西門に居るはずだろうがよ?」


 憲兵二人を合間縫って現れたのは、なんと黄色と白のストライプ柄のネクタイに黒いスーツを着た色白の男性。


「……ねぇ、ハンナ君。あの服装は?」


「珍しいですよね。アレは商業都市で公務をする人に配られる“スーツ”っていう服なんですよ」


 話し込むルイの後ろに立つ少女に耳打てば、ハンナは声を潜めてローの問いに相づち。


(…“スーツ”を着た公務員ね。いよいよコベルニクスの女王がプレイヤーって仮説も確定だな。しかも、()()()て。もしかすると女王陛下は日本人なのかもな…)


 少女の回答を、ローは自らの尺度でしみじみと噛み締める。

 元より現地民(かれら)が日本語を使っているのだから、コベルニクスの女王が日本人というのはある意味当たり前に考えられるのかもしれない。

 ただ、そういった確信を持てるのは良い事だ。

 例えばの話。女王陛下と交渉事になった際、話す言葉を選ばなくていいのは好都合であるからして。


「なに、休日出勤というヤツですよ。ココの担当が病に伏してしまいましてね。………それで、そちらの方々は?」


 ルイと公務員の話題は移り変わり、細目細身の病的なまでに色白で白髪のスーツを着た彼がロー達へと手を向ける。


「プカド村でちょっとした魔物騒ぎがあってな。その事態の沈静化をしてくれたのが彼等なのさ――――手戻りなのも、その報告の為だよ」


「ほうほう……死人は出ましたか? 被害規模は?」


「死者は自警団員が二名、冒険者が一名、村民が一名。怪我人は多いが命に別状はない。被害は倉庫の扉や防護柵の一部が壊されるなど。あと、被害者たちの葬儀はもう済ませてあるって村長が言っていたな」


「なるほど。つまりはカンベルトさんの関係者ということですか………」


 事務的なルイの紹介に、ローはコベルニクスに関しての考察を頭の隅に追いやって。

 一歩前へと進み、向けられた手に右手を差し出した。


「こんにちは、ロー・ハイル・ヘルシャフトです。しばらくこの町に滞在することになりますので、宜しくお願いします」


「ええ、こちらこそよろしく。私はアグルス・モーガン。いつもは西門で仕事をしていますので、その時はご贔屓に―――――ところで、大変物珍しい服装を皆々様お召になってらっしゃる………出身はどちらに?」


 ローの差し出した右手をアグルスは言葉を含ませながら取り、握手。


「…山々を越えた遠い東の方から来ました」


「ほうほう。それは、アロイアよりも向こうですかな?」


「そんなところです」


「…………そうですか」


 蛇のような顔をした何処か胡散くさい人物というのが、アグルス・モーガンの第一印象であった。

 しかしながら、手を取って話してみると驚きや関心の感情がころころと表情に出るその様、蛇というよりは狐という例えが適切であろう。


「ま、いいでしょう」


 そう言うと白毛の彼は手を放して胸ポケットから手帳を取り出し、何やら書き込んでいる様子。


「それは?」


「ああ、これですか? 私の大事な仕事の一つですよ」


 ローが興味本位で聞いてみれば、アグルスはメモを取りつつも淡々と答える。


「貴方様とお仲間の特別処置を記載しているのですよ。本来、旅人なら入都料を払っていただくのが当たり前なのですが、プカド村の件でカンベルトさんに連れられて来られたのなら話は別です」


 つまりは、諸事情から徴税を拒否した人物を記録する為のメモで、


「未知の魔物に関しての報告は徴税よりも優先されますからね。まあしかし、払わなくてよい訳ではございませんよ? 無利子、無担保、無期限で冒険者組合が肩代わりするだけですから、いずれ払うことになるでしょう」


 その入都税(ツケ)は冒険者組合に一旦回されるようだ。


「…では、形式上必要なので。ハイルさん、改めてお名前を」


 どうやら商業都市に輸入されている文化はスーツだけではないようだ。

 アグルスは持っていたボールペンをローへと向けて、催促。


「ロー・ハイル・ヘルシャフトです。他に言う事は?」


「いえ、ございません。………そう言えば、どうやって魔物を討伐したんですか? 武器も持っていないご様子ですが…?」


「『魔法の道具袋(マジックポーチ)』ですよ。ご存知ですか?」


「…そういうことですか。勿論ですよ、この仕事をしていれば様々な人に出会いますからね」


 『インフィニット・ヨゴレオチール』があるのだから『魔法の道具袋(マジックポーチ)』だってある。という事実を知りつつもちょっとした賭けであったが、アグルスの何ともない様子から【ブレイスラル・ファンタズム】の魔道具というのは、この世界の常識の一端であると再認識できたのはありがたい。


「では、エルフの君」


「フィリアナ・ルーゲル・フェンドルドです」 


「…良い名前ですね。ハイルさんとのご関係は恋人ですかな?」


「いえ。従者と主です」


 体面こそ冷徹に返事をするフィリアナ。

 その実、垂れめのエルフ耳が真っ赤なのをアグルスは見逃さず。しかして言及せず微笑むに終わる。 


「獄炎火煉だ。何か言う事はあるか?」


 喰い気味にアグルスへと名乗る火煉。

 彼女の問いかけに、しばらくの間をおいて彼は答えた。


「………服装の自由とは表現の自由ですから、好きな物を着て生きるのを誰も咎めはしませんよ」


「なンだよ今の間は……?」


「あー、いえいえ、その額当てが大変に似合っている。というだけですので―――――それと、まあ、好敵手(ライバル)は手ごわそうですし…月並みな言葉となりますが、頑張ってください」


「?」


 彼の含みのある言い方に火煉は首を傾げるも、それ以上の追及を避けるべくアグルスは話題の矛先を次の彼女へとずらし込む。


「…最後にお嬢ちゃんの名前をお願いします」


「ニーナ・レイオールドじゃ。―――――あと、お主。一人前の()()()()()()()()という言い回しはマナー違反じゃぞ?」


「はいはい分かっていますよ。ところで、飴ちゃんいります?」


「分かっておらぬではないかーっ…!!」


 仲間の三人はぐぬぬ、と唸るニーナをどうどうと押さえ、片や仕事を終えたアグルスは手帳を胸ポケットへとしまって行儀よく一礼。


「ご協力ありがとうございます。ようこそ、商業都市コルコタへ」


 この異世界初の都市。心の底から歓迎しているかのような素振りするアグルスを背に、十川四朗ことロー・ハイル・ヘルシャフトは期待に胸を膨らませつつ、門を潜るのであった。











 異世界初の都“コルコタ”、造りとしては中世によく似た…というよりは流用した街並みが広がっている。


(やっぱり西洋人モドキな人種だけあって、街並みは半木骨造のモノが主流だな)


 石畳の舗装、町を練り歩くのは二足歩行をす()る服を着た狼()やハンマーを携えた小さい髭面のおじさん(ドワーフ)顔の整った()耳長な金髪()の女性()、こちら…というか恐らく火煉を二度見する人々、四足歩行の竜や馬が牽引する荷車などなど。

 正に創作物で見たような、剥き出しの木造の骨組みの間に漆喰やレンガを埋めたハーフティンバー様式、チューダー様式風味の建築物が連ねる異世界の都。

 南門を抜けたすぐの大通り故にか、旅人相手にその場で焼いた肉や仕入れた魔道具などの屋台が建ち並んでおり、“商業都市”というのは名の通りだいぶ活気立っている様子だ。


(―――アレはどうかとおもうけど…)


 よく似た。流用。この言葉こそ、コルコタという異世界初の都を表していた。

 一見こそ中世を彷彿とさせるものの、その実。二度三度見としてしまえば、近代チックが過ぎている。

 道の両端には溝蓋(グレーチング)を備えた排水路、夕日が沈んで道を照らすは魔力で明るい街灯、店頭に飾られるのは赤や黄色の異世界文字が眩しいネオン、ガラス窓には乱雑に張られた俳優か何かの広告写真群、酒場からは軒並み足を揃えて罵声や怒鳴り声がちらほらと聞こえてくる治安の良さ。


「驚きましたか?」


「それは…そうでしょう」


 何とも飾りの無いローの同意に、ルイは軽く笑って目的地に向かいながら説明を始めた。


「商業都市は各方角の門から中央の噴水広場に繋がる十字路の大通りを基軸に、四つの区画に区分されていて南側は夜になれば歓楽街になるんですよ」


 コルコタをはじめに商業都市の都市設計は他の場所においても特筆して変わらないらしく、都市の中心に噴水広場があるのは“生活基盤(ライフライン)を完璧に管理できている”という商業都市の見栄(あかし)だそうだ。

 

「“生活管理区”、“居住区”、宿や雑貨店が建ち並ぶ“旅人区”、そして冒険者の傷を癒す“歓楽街区”。この町に居て仕事や物資に遊びと、そう困る事はないでしょうね」


「へぇ、凄いですね…」


 ローに続いてフィリアナ達も感心に相づち。


「のうのうハンナ。あの屋台で焼いているのはなんじゃ?」


「アレは“グリンタプ”という肉料理ですよ。細切れにした肉を商業国特有の味付け“テリヤキ”のソースに絡ませて焼いてから、新鮮な野菜と一緒に薄く伸ばしたパン生地に包んで食べる―――…という商業都市に必ずある料理の一つです」


 ルイの説明を背にキョロキョロと街を眺める物見遊山である。


「魔道具が多いが、フィリアナの見立ては?」


「……うーん、良くも悪くも旅行者に売りつけるような見栄ばっかりの初心者用が多いわね。そういう火煉はどうなの?」


「同意見。自分で作った方がまだマシだな」


 “生活管理区”とは、上下水道や電力ならぬ魔力を管理する施設や憲兵の詰所がある区画を示す。場所は歓楽街区の真反対、噴水広場から見れば南西だ。

 住宅街もとい“居住区”、町の快適さから商業都市に移り住む人間も多いようで物価は小金持ちならば余裕だ。管理区から北にある。

 噴水広場から北東の“旅人区”。冒険者がよく利用する宿、住民がよく利用する食料雑貨店の立ち並ぶ区画で、魔道具師や薬師にケイナ・カンベルト夫人の元職場もそちらに店を構えているそうだ。

 最後に、南東部の“歓楽街区”。娼館から酒場までありとあらゆる娯楽施設が一区画に詰め込まれており、王都や帝都以上に女の子の質は良いとルイ・カンベルトは語る。


「そうだそうだ、ハイルさん。円月の館っていう酒場の女の子が特に良くてですね―――――」


「ねぇ、ルイ。なんでそこまで詳しいのかしら………?」


「い、いやー……道案内だからパンフレットで前もって勉強していたんだよ。―――――いやホントに、他意は無い!!」


 さながら一つの小国だと、ローは感心しつつ。

 妻から痛い視線に前しか向けなくなったルイを先頭に、先の話に出ていた噴水広場へと一行は躍り出る。


「…で、噴水広場には各区画を代表するように“冒険者組合”“魔法組合”“役所”、商業国に認められた“鍛冶屋”群があります」


 生活管理区には住民登録や税金の支払いを済ませる“役所”があって、銀行はその裏手にあるという。

 居住区側には魔法に関するモノを販売や斡旋、教育をする“魔法組合”。

 歓楽街区を代表するのが何故寄り集まった“鍛冶屋”なのかというと、煙害や火事への対策で都市中央に集結させられているのが主な理由の一つである。

 どの商業都市にも言える事だが、この都市自体は冒険者の為の都。ほかの理由としては、仕事道具の調整を済ませられる店が目星の付きやすい利便性に配慮した場所にあるのが常…言うなれば商業都市の都市設計だそうだ。


「コルコタの目ぼしい場所の紹介はこんなところですかね。では、行きましょうか」


 薄茶の石畳が続く広場の中央には大きくも無く小さくも無く、往来の人々の邪魔にならないよう一応に中世の景観を損ねないような白い器の二段噴水が居を構えている。オリーブ色の石畳で中央線が引かれているところを見るに、噴水は栄華を示すだけでなく実用的な役割として環状交差点(ランドアバウト)の基点を担っているようだ。

 その場を背に歩んで向かうは、他の建物よりも抜きんでて一段と高い四階建ての“冒険者組合”。

 正面出入り口には竜の頭蓋骨に咥えられた看板が掲げられ、異世界文字で“冒険者組合”と書かれているのであろう。


「これはまた…」


 なんともまあイメージ通りの入り口――玄関扉にルイが手を掛け、中へと入ればそこもまたイメージ通りの世界が広がっていた。

 玄関口から左手には二階へと続く階段、天井に吊るされている飾り気のないシャンデリアが木造の内装を照らしている。

 正面には垂れた犬耳を頭から生やした女性二人が受付として座っており、その左の階段下の壁面にはたくさんの依頼書(はりがみ)が張られた掲示板と睨み合うルイやケイナのような恰好をした金髪の男二人に巨漢の冒険者の姿が。

 右手はどうやら待合室のようで長椅子と机が几帳面に並べられており、そちらの正面にも掲示板が三つとあって冒険者が話し合っている様子だ。


「外も中も随分と立派な施設ですね。それで、私達はどうすれば?」


「大丈夫ですよ。成り行きで終わりますから」


 そう言ってルイは受付へと歩き、一同はついて行く。それと同時、聞こえてくるのは冒険者達の隠しているようで隠せていない声を潜めた会話であった。


「おいおい、ありゃ何だ? 美女ぞろいってレベルじゃねぞ…」

「あの三人。ありゃ王国の三大王女にも引けを取らない美貌だな」

「ちょっと、あの男の人も中々じゃない!?」

「というかあの頭の……防具だよな…?」

「受付にいるのはカンベルトさん!?」

「どういう経緯であんな人たちと知り合ったのかしら…?」


 ルイが受付嬢と話している間、色々な事が囁かれて視線が痛い。打開する術も無いので、ヒソヒソ話を甘んじて受けるしかないだろう。


「なあなあロー様よ」


「何だ火煉?」


 そんな中で背中を突っついてきたのは焔色の彼女、獄炎火煉。これだけ注目されているので彼女なりの配慮だろうと、声を潜めたその耳打ちに身体を少し傾ける。


「やっぱし、無理があったんじゃねーかコレ?」


 火煉が指をさすのは角隠しとして装備している赤黒の角と同色の飾り気のない額当て。

 二つの空いた穴が絶妙な具合で彼女の角にジャストフィットしており、言われなければ双角を生やしてるとすら疑われないであろう一応に防御力高めの無名の品。


「あ、ああ、そっちか…」


「そっち?」


 注目され過ぎての双角がバレているのではという不安から彼女の指摘、火煉の額当てをまじまじと見つめて生返事で考える十川四郎ことロー・ハイル・ヘルシャフト。 


「いやなんでもない。角もごまかされているし、大丈夫だ。うん絶対」


 時間にして二秒もないその間。彼女の不安とは別種の緊張感、多人数の視線と噂話から湧き出る内心の脂汗を拭い去るべく自身に言い聞かせるようにしてローは頷き、火煉も「だよなー」と納得をしたのかニコッと笑顔を見せる。


「ハイルさん。話は通りましたので、ハンナについて行ってください」


 受付嬢との話を終えてルイはこちらへと振り向いた。


「と、いいますと?」


「人間ゴリブの件は別室で組合長達と話す事になるので、そちらに。私達はハイルさん達の保証人の手続きをその間にしておきますよ」


 その彼に挙手をするのは至極色の少女、ニーナ・レイオールドである。


「その話し合いは妾らも同席せねばならんのか?」


「………いや、しなくとも構いません。討伐者、目撃者、証拠品の三つが揃っていれば十分ですので」


「では、保証人の手続きはどのぐらいかかるのじゃ?」


「手続きに関してはすぐに終わりますよ。件の魔物についての報告は別ですが…」


 ルイの返答に少女は少しばかり間を置いて、


「ならば、宿を先に紹介してほしいのじゃが」


「…確かにその方が効率的でしょうね。ハイルさん、構わないですかね?」


「ええ、どうぞ。――――フィリアナ、火煉、ニーナ、迷惑をかけるじゃないぞ?」


 出した提案に彼も納得で、ローも頷いて軽く忠言。


「ンな迷惑かけるような事するわけねーだろ。サッサといけよロー様」


 主の言葉に火煉とニーナは肩をすくめ、フィリアナはというとそんな二人を見て微笑むのであった。


「ハンナ、報告は二階の三号室でするそうだ。案内は頼むぞ」


「うん。ローさん、ついて来て下さい」


「わかった」


 そうして、少女の後ろをすごすごと身長二メートル弱のロー・ハイル・ヘルシャフトはついて行く。


「迷いが無いな。両親の付き添いで冒険者組合にはよく来るのかい?」


 階段を駆け上がって二階の廊下を歩く中、彼女の慣れたような足運びにふと感心の言葉を漏らす。

 まるで、組合内の間取りを知り尽くしているかのような道案内。その疑問を口にすれば、ハンナはウンウンと頷いて。


「はい。実は畑仕事が終わった季節の後半は、この冒険者組合で仕事のお手伝いをしているんですよ」


「なるほど。だからこんなにも詳しかったのか」


 心の中でだが、ほほう。と、十川四朗は彼女にまたぞろ感心した。

 聞けば組合での仕事は受付が中心で、事務的な仕事もそつなくこなせているらしい。齢十五歳、そんな年齢で畑仕事と組合受付、二つの仕事の両立には正直“目を見張る”以外の言葉は見つからない。


(凄いな。後でアメちゃんをあげよう)


 と、少女を労う事を決心し、辿り着いたのは異世界語で“三号室”という札の下げられた扉の前。


「取りあえず中で待っておきましょうか。鍵もかかってないですし」


「………そうしよう。ところで、誰が来るんだっけか?」


 組合長が来るのは知っている。ただ、ルイの口ぶりからしてその人一人だけが話を聞きにくるわけではないのは確かだろう。


「えーっと、冒険者組合長と魔法組合長…それに絵描きさんですね」


「絵描き?」


「はい。どんな魔物だったかを証言をもとにスケッチする人ですね」


「ほうほう、組合長二人と絵描きさん…………なるほど。じゃあ、中で待っておくか」


 眉一つ動かさず彼女の答えにローは納得し、室内への先陣を切る。

 各方角に窓のある内装はシンプルそのものあった。出入り口と対角線上に赤い革張りの長いソファの間にはひざ下高さの長い机、天井には電球ならぬ魔法球が室内を明るく照らしている。

 取りあえずは下座に着席し、内心の焦りを押さえつつ来る現状を十川四朗は鑑みる。


(いきなりお偉方二人との面談………例え、魔物の報告であっても気が抜けないな)


 例えるのなら、明日より世話になるであろう仕事場の社長二人との面談。

 どんな理由にせよ好印象を持たせておかねばならないのは、ここに討伐者として来た者の使命とも言える。


「ま、なるようになるか……」


「?」


 天井を仰ぎ、何か好印象になるだろう物言いを考える。

 ロー・ハイル・ヘルシャフトこと十川四朗は、組合長二人と絵師を相手取る算段を立たせず、舌戦へとただただ赴く。

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