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カムイモノ  作者: 食食食御さん
第一章【白銀の英雄】
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第一章 11 【広まる知見】

「本当に申し訳ない。まさか、ハイルさん達が娘の命の恩人でしたとは……」


「いえいえ、構いませんとも」


 ハンナの父親ことルイ・カンベルトは本当に申し訳なさそうな面持ちで机に両手を着いて頭を下げ、対面するロー・ハイル・ヘルシャフトはというとお構いなくと笑顔を見せて首を振る。

 カンベルト家のちょっとした騒動より、ハンナに呼ばれた村長が事細かに顛末を説明して帰ってから三十分後。

 人間ゴリブの遺品(ドロップアイテム)とも言える赤いククリナイフを証拠品として見せれば、あらぬ誤解も解けて。設けられたのはカンベルト夫妻主催の謝礼を込めた話し合い。

 四つの席の内、玄関側にはロー・ハイル・ヘルシャフトと左隣には記帳係としてフィリアナ・ルーゲル・フェンドルド。後ろのベットに腰を下ろすのは火煉とニーナだ。

 反対側に座るのは勿論、家主のルイ・カンベルトとケイナ・カンベルト。ハンナは水を注いだ全員分のコップを机に並べてから母親の傍へとちょこんと座る。

 そして、この対面会こそローの目論見が一つ。情報収集の場であり、友好関係を結ぶ為の算用であった。


「それよりも聞かせてほしいのです。何故、火煉を目の敵に? それと先程口走っていた“ギフト”とは一体なんでしょうか…?」


 色々と聞きたいことはあるものの、直近で思いつく疑問はその二つだ。

 火煉を見た瞬間のカンベルト夫妻のあの態度は尋常ではなかったし、“ギフト”というゲームでは聞いた事の無い単語は実に気になる所。


「………ギフトと()()()()について、ご存じないのですか?」


「―――…あ、ああ! 実は四人で遊歴の旅をしておりましてね。ここより山々を越えた遥か東から足を運んだばかりでして………何分、こちらの世情に疎いのですよ。察してくだされば助かります」


 ルイの疑る様な覗き込む視線に若干たじろぐも、嘘は言っていない説明で持ち直してローはすかさず難を逃れた。


「…なるほど、そういう事でしたか。――――では、まずこちらを」


 納得したルイが懐から取り出したのは、青い革表紙の手帳だ。


「このページです」


「これが、“双角の魔人”ですか……?」


 ルイが手渡すと同時にページをめくって指をさしたのは、一ページ丸々使って描かれた彼等の言う“双角の魔人”の姿とその詳細である。

 

(……うーん、読めん)


 描かれた魔人の姿は赤黒い二本の角が額ではなく目に位置する箇所から螺旋状に生えており、針の筵の如き赤い頭髪は腰まで長く、身体はというと筋骨隆々で布などを一切纏わず、生殖器は無い。

 火煉に似てる、似てないで言えば圧倒的に似てない。だが、カンベルト夫妻が勘違いした理由は他にあるのだろう。


(日本語喋ってるから、てっきり日本語で文字が書かれてると思ったけど………何だこりゃ)


 例えば、ローが全く読めない“双角の魔人”についてメモの取られた項目だとか。


(キリル文字のДを反対にしたようなやつに、ψに線が三本掛かってるやつ………おお、こっちはYを横にした文字か、筆記体の様なモノもいくつかある…―――――文法は日本語だろうけど、解読には時間が掛かりそうだな)


 持てる知識を総動員するも取られたメモの内容は全く分からずじまい。

 文字の不可思議さに感心しつつも読めない内容について、どうやって切り出そうかと手をあぐねていると思わぬ助け舟が後ろからやって来た。


「ンだよ。全然オレに似てねぇじゃねーか!」


 手帳を覗き込んだ火煉はその描かれた魔人の姿形に腕を組んでそっぽを向き、慌ててルイ・カンベルトは平に謝罪。


「その件に関しては本当に申し訳ありません。――――ですが、この“双角の魔人”。ここに記されている通り、この形状に変身する前は女性だったのです」


「…どこにそんな事が書かれるんだよ?」


 ここですよ、とその太い指でルイが差した先には確かに文字が掛かれているも、依然読めず。同時、コレはいい機会だとローは右手を口元に添えた後、思いついたように手を火煉へと向けて質問を投げ掛ける。


「火煉」


「あ? なんだよロー様」


「一応聞くが、この文字は読めるか?」


「…いや。ロー様は?」


「私もだよ。フィリアナ達はどうだ?」


 主の問いにフィリアナとニーナは首を横に振り、そのやり取りに若干困惑していたカンベルト夫妻に対し、ローは間を開けず自らの失態つらつらと述べる。


「…ああ、御見苦しい所をすいません。実は、私達が暮らしていた国とこちらの大陸の文字はかなり異なっていましてね」


 これぞ、十川四朗の処世術が一つ。

 あえて弱みを見せる事によって完璧超人ではないのをアピールし、人としての距離を身近に感じさせる事で円滑に交渉が進められるのだ。


「では、字が読めないという事で?」


「はい。ですので、この手帳の内容だけでも教えてもらいたいのですが………」


「か、構いませんとも! そんな事で役に立てるのなら、このルイ・カンベルト。喜んで説明させていただきましょう」


 胸に右手の握りこぶしを添えて、心配ご無用と言わんばかりに一家の大黒柱は高らかに宣言。


「ありがとうございます」


 ひとまずとして識字の問題は解決し、軽く頭を下げてから早々に本題へと入る。

 そうして聞かされたのは“双角の魔人”が起こした事件、この大陸の地理とロー達が知らぬ世情についてだった。

 

「二十年前の事です。テリュール王国の王都の南西にて突如“双角の魔人”が出現し、王都の冒険者と王国騎士団総出でこの正体不明の存在へと果敢にも挑みました」


「…実際に戦ったことがあるのですか?」


「いえ。あの頃は駆け出しの冒険者だったので避難誘導に尽力し前線にこそ出ていませんでしたが………紙屑のように蹴散らされた上位の冒険者が担架で運ばれていたのは今でも記憶に新しいですね」


 犠牲者百九十二名、重傷者三十二名の被害を出したその事件。冒険者を管理する冒険者組合での呼称は“青霧の晩”。王都の歓楽街で起こった正体不明の存在“双角の魔人”による虐殺を指し、その撃退劇を表す言葉である。

 時刻は夜の十九時頃。食事時や遊び時の最中に突如として青い霧が歓楽街に発生し、同じ様に現れた女が両目から角を生やした双角の怪物となったらしい。

 その際、冒険者と王国の騎士団が救助と討伐の対処に出たものの、結果は撃退が関の山で未だに討伐はされておらず、一応に魔物として未だに指名手配されているのが件の“双角の魔人”だそうだ。

 女の姿形については色々と証言があり、ある者は赤髪の女だった、ある者は黒い髪をした二人組の女であった、またある者は最初から角を生やしていた、など様々。

 幻覚剤や魔法が用いられた可能性を考慮し、帝国や商業国の間者ではないか。と、王国上層部でまことしやかに囁かれたものの、結局のところ犯人は分からずじまいで終わった事件なのだとか。

 因みに、魔人と言われている所以はその昔に大陸南部に生息していた言葉を解す人型の魔物に似ているとか。


(…運が良かったな。このまま町に直行でもしてたら、危うく冒険者達の集中砲火で歓迎されるとこだった)


 創作物の展開をなぞるという自身の判断に安堵するも、この展開については少々思い悩む所あり。


(はぁ~、気は乗らないけど火煉には被り物で角を隠してもらうとするか………)


 町へと赴く際、件の魔人を知った獄炎火煉は自身の角を平然と隠すだろう。しかし、迷惑云々以前の問題として、ロー・ハイル・ヘルシャフトは正直言ってソレを快く思っていない。

 この異世界に来て彼女達は『個』を獲得している。なら、フィリアナ、ニーナ、火煉に姿形を偽るような窮屈で退屈な生活を強いるのは彼女達の主として避けるべき…いや、あってはならないことだ。


(鬼への………いや、人々から火煉の信用と信頼を得る。今後の課題だなコレは)


 それこそ、ロー・ハイル・ヘルシャフトの直感が告げた十川四朗なりの考えなのだから。


「手帳に記されている“双角の魔人”の情報はこんなところです。何か質問はありますか?」


 “双角の魔人”についての説明が終わり、ルイは木製コップの水を仰いで一息。


「………今の話とは関係ねーが、いいか?」


 見計らって挙手したのは火煉であった。


「いいですよ」


「王国ってのはどのくらい帝国や商業国と仲が悪いんだ?」


「ま、まあ、顔を合わせられない程には………」


「ハッ。だったらその事件も他国(よそ)のせいにするのは頷けるぜ」


「王国は人間至上の実力主義の国であり、世界最大の宗教である“四天教”の総本山が王国領土内にありますからね。一応王国民である私が言うのもなんですが、そういった排他的な考えは当然なのでしょう。特に王都では“四天教”の教えも相まって『他種族との交流は軽蔑すべきもの』という風習や『獣人への国属制度』が今でも残っていますし………」


「……『国属制度』とはどういったものなのでしょうか?」


 記帳していたフィリアナの視線が夫妻を糾弾するかのように鋭くなる。

 いくら言葉で取り繕おうが彼女にとって、その話題には良い思い出がないのだから。


「おおよそは獣人で構成された難民に対しての制度です。『獣人は未来の市民、大切に関係を築いていきましょう』というお題目で王国に人権を委ね、難民自らの衣食住を保証させるのがこの制度ですが――――」


「実情は荷馬車の馬と同等の扱いを受けるのが現実。自らの権利が王国に属している以上、人身売買は常といっていいでしょう」


 二人の答えに目を伏せて深呼吸。後に怒りを飲み込み、そうですか、と一言述べたフィリアナは記帳の仕事に戻った。


「ああ、と……―――――ケイナ、地図を」


「え、ええ」


 ルイの目配せにハンナが机のコップを下げて、ケイナ・カンベルトが床に置いていた雑嚢から取り出したのは、机一杯に広げられる大きな地図。

 恐らく“王都”と記された都市の絵を中心に四つの大きな都があり、周辺には山岳地帯や大きな森林地帯。その森と山を越えた王都の裏側にはもう一つの都市が大々的に記されている。


「…質の良い地図じゃん。最近買ったのか?」


 自らが張り詰めてしまった河岸を変えるかのように。

 職人らしい火煉の言葉に視線を地図へと向けると、確かに日焼けはしているものの虫食い穴などは無く色合いも鮮明で、この中世っぽい世界には似つかわしくない程に綺麗であった。


「御明察です火煉さん」


 ふと火煉が投げ掛けたその言葉に、ケイナは柔らかな笑みを浮かべてその声音は若干と明るくなる。


「この地図は一年前に買った物で、地理情報も最新なんですよっ」


「へー、よくそんな金があったな。最新の地図ってのは高いのが通説じゃないのか?」


「冒険者稼業に走る前、魔法を込めた巻物(スクロール)の販売、製造を行う仕事に務めていたことがありましてね。その時の友人に、この地図は融通してもらったのですよ」


 ルイ・カンベルトとの出会いもその仕事に務めていた時らしく。


「じゃあ、最初はただの客と店員だったのか?」


「そうなんですよ! 店に来た時、ルイは私の作った巻物(スクロール)をいつも買い付けてくれた常連さんでしてね」


「やめろいケイナ。客人の前だぞ? 恥ずかしいじゃないか…」


「いいじゃん。聞かせてくれヨー」


 脱線したその話。存外にも火煉は食い入るように聞き入り、ケイナ・カンベルトはというと湯水のように言葉(のろけ)を潤し、ルイはただただ赤面。


「―――で、ルイがある日食事に誘ってくれまして…」


「おうおう」


「私も常連さんでよく話していたルイの事は嫌いではなかったですし、日頃のお礼がしたいって言われて了承したんですよ」


「ほうー、それで?」


「『専属の巻物(スクロール)製作師になってくれないか』って! 似合わないキザな言葉にバツの悪そうに赤面する彼を見たら、いいなこの人。て、思っちゃったんです。それから色々あって冒険者として一緒に仕事をしていくうちに……―――――――――」


「―――ハイそこまでッッ!!」


 止めどなき惚気の濁流に対して鋭角から水を差したのは、未だ赤面の話題の当事者の彼であった。


「ケイナ。これ以上は恥ずかしいから本当にやめて…」


「えー、オレは別にいいぜ? ルイさんよ」


「いやいや。まずはそちらに恩を返す方が先ですので……ね? ハイルさん」


 鈍角からの振りに思わずローは咳払い。気を持ち直し、目を伏せて軽めに頷く。


「…え、ええ。興味深い話ですが、またの機会にお願いしましょう。―――あと、火煉は自重しなさい」


「あー、すまん。つい、な?」


 ともかくとして話は戻り、咳払い。

 地図の所有者ケイナ・カンベルトによる周辺地理の説明が始まる。


「この丸印が現在位置のプカド村となります。そこから北東にあがった四つの都市と山と森に囲まれた地図の中心、ここはテリュール王国の王都“テルンラシア”です」


 最初に指をさしたのは地図の中心から少し南西にある丸印、プカド村。

 村を管理するのはナイアル・フォン・ラトプ辺境伯で、地図に目を通したなら流石は辺境伯というべきか。広大な領地のほぼ全ては辺境伯が籠っている森ことカヅム大森林が占めており、その大きさはなんと王都東に位置するテリュール山岳の三分の二を占める程だ。


「そのテルンラシアを囲むように顕在する四つの都は、ナイアル・フォン・ラトプ辺境伯を除いた“五大貴族”と呼ばれるテリュール王国の各方面を支配する貴族が管理しています」


 続いてケイナが指さしたのは中央の王国とその周辺の都である。

 王都テルンラシアから北東、ラシャル平原という場所に面した都市の名は“イスタラト”。王国にとっての平原より来る魔物防衛への要であり、それ故にか亜人種への偏見は強い。

 そのイスタラトより西進すれば、位置する都市の名は“サブグレム”。他宗教を吸収し、古来より受け継がれる神話から一神教を作り上げた四天教の総本山がある都だ。

 地図の北西部、クヘド平原に面した“フーシード”という都市がある。他の都と違い特筆して何かあるという訳ではないが、距離としては商業国に最も近い。だからこそなのか、フーシードは平和そのものでカンベルト夫妻も仕事に出向くことがほぼ無いという。

 最後に。王都テルンラシアから南東、テリュール山岳を後ろに構えた山岳麓の都の名は“サノベジア”。山岳地帯を管理下に置いており、帝国とは最も距離の近い都市だ。

 

「そして、王国の反対側に位置するのはエル・ダ・ルルエド帝国、首都の名は“ヒガロス”。そこから北東に進めば、帝国と貿易をしているドワーフの国“アロイア”があります――――――商業国についてですが……申し訳ありません。かの国は海に面した最西端にありますので、この地図には記載されてないのです」


 地図を見れば王国領土はとても広く、その広さは地図の半分を占める。

 おまけに四天教を領土内に抱え、他種族に排他的ならば確かにと。肥沃な大地を持つ王国が他国と顔が合わせらない……いや顔を合わせる必要がない程に険悪なのは納得できる。


「大丈夫ですよ。直近の問題という訳でもありませんからね」


 そして、サノベジアより山岳を越えた南東にあるエル・ダ・ルルエド帝国。話に聞けば、大陸の南側というのは強力な魔物が多く存在し、その対応に毎年と追われているそうだ。

 カンベルト夫妻も南方からの魔物進行を食い止める帝国による防衛線の構築に参加したことがあるそうで、猫の手も借りたほどに苛烈なその防衛線、帝国の雇う冒険者は亜人種に問わずらしく。

 つまるところ、排他的な王国とのそりが合わなくなるのは当然であろう。


「ですが、ご安心を。私達が仕事に出ている商業都市“コルコタ”は商業国の関係する都市ですので」


「商業都市…ですか?」


「ハイ。コベルニクス商業国の技術が詰め込まれたこの大陸において物流の要である都。王国領土、帝国領土に点在している自治の認められた中立地帯で、この都市内でなら亜人種への偏見も差別もありません―――――“双角の魔人”は例外ですけど………」


 地図の丸印より南東部、コルコタは行くことが多いので二重の丸印が設けられている。


「因みに。もしそういった事をしている者がいれば、各国の取り決めた国際法で裁かれる事でしょうね」


 商業都市。その歴史は神話とも言えぬおおよそ三百年前のコベルニクス誕生時に遡る。

 商業国誕生と同時期に五大魔神という神を名乗る魔物が各地に突如として出現し、人々はコレを討伐した。そうして後に、「自分こそが五大魔神を屠った勇者だ!!」「私こそが人々を守った英雄だ」などと自称英雄が町や村に対して盗賊まがいの行為を行っていた所、コベルニクスの女王は彼等を管理する為の秩序となる“冒険者組合”“魔法組合”そして商業都市を設立し、成功させたのだ。

 その間にも邪険であった各国を自らの手腕と結果でまとめた女王は、国際法を設けてその法律(ルール)に基づき険悪である各国の交易や冒険者の拠点となるコルコタなどの商業都市を活性化させたそうだ。


「で、その女王がまだ生きていると?」


「ハイ。なんでも獣人故に長命な方らしく、だからこそ王国に目の敵にされているのだとか……」


 次いで商業国の謂れを聞けば、コベルニクス建国の初代女王はご存命のようで。

 なぜそこまで長生きなのかを問われれば、獣人だからという理由の一点張り。定命の者が喉から手が出るほどに欲する不老不死を体現せしめているかのような存在が、軽蔑する獣人とくれば。

 王国から嫌われている要因の一つとして、これ以上ない理由である。

 

(三百年も前から生きている、か。ケイナさんが嘘を言っている様子もないし、()()()()から見てプレイヤーの可能性は高いかも………)


 十川四朗にとってその情報、存外にも驚くべきことではなかった。

 何故なら持てる知識に該当する項目が一つあり、他のプレイヤーがいる予感はシルベの件で理解していた。

 それにその建国をした()()、まるで自身と同様に創作物の展開をなぞっているかのようだと、ローは該当する項目を心の内にて思い出す。


(確か『体外的理由以外では不老不死』という設定だったかな……)

 

 【ブレイスラル・ファンタズム】の世界に来た理由、自身でつけた設定以外にもゲームではあらかじめ組み込まれた公式設定があり、コンシューマゲームらしくストーリーを進めていくことで【ブレイスラル・ファンタズム】世界の真実に迫ることができる。

 外堀を埋めるような『体外的理由以外では不老不死』もその一つで、ゲーム序盤も序盤で開示される情報な為、プレイヤーならほぼ全員が周知している設定である。


(それにしてもこの身体はそんな長生きなのか? だとすると、商業国に反目しそうなプレイヤーも居そうなものだけど―――)


 コベルニクスの女王陛下をプレイヤーと仮定して自分に人間ゴリブを除き、出会っていないプレイヤーの数は恐らく九十七名。

 そう仮定付ける理由は、この世界に来る前の十川四朗に遡る。

 未だにあの時の事は思い出せないものの、異世界転移の発端になったのは【ブレイスラル・ファンタズム】八周年記念のプレゼントキャンペーンが関係しているはず。

 なら、イベント上位百位以内のプレイヤーが転移している可能性は自身の状況から鑑みても頷ける。


(―――いや。俺が昨日この世界に転移して、商業国の女王が三百年前に現れたんだ。転移時期はもしかすると、バラバラなのかも………)


 可能性の高い仮説ではあるが、所詮仮説は仮説。


(まあ、なんにせよだ。国を作って管理する程の知的で理性的な人物のようだし、その辺りは上手くやりくりしてるんだろう――――シルベのようにいきなり襲ってくるような人じゃないのは確かだ)


 答えの出ない考察に、十川四朗は心の中で溜息をついて切り替える。


(いずれ商業国には赴くだろうけど…さっきの言葉通り、女王に至っては“直近の問題ではないな”)


 ともかくとして周辺地理と世情を聞き終えて、残る疑問は一項目。


「あとはギフトについてですね。では、当事者に説明をお願いしましょうか」


()()()ですか?」


 場を仕切るルイの言葉に黙々と手帳とにらみ合いメモを取っていたフィリアナが首を傾げ、応じるように夫妻の視線が一人の愛娘へと向けられる。


「…えっと。あの、ハイ」


 少女、ハンナ・カンベルトは夫婦に次いで四人の視線にどぎまぎと手を動かした後、頬を赤らめて深々と頷いた。


「お主がッ?! なんと、人は見かけによらんものじゃな………」


 思わぬ登場人物にニーナは腕を組んでウンウンと事実を噛み締めるように頷き、構わなくてよいと言わんばかりにハンナへとフィリアナは手を向けて。


「それでハンナさん。ギフトとは一体なんですか?」


 話を促し、少女は応じる。


「…生まれ持って能力を授かる事があってですね。それを“ギフト”って言うんですよ」


「能力?」


「えっとー。例えば水の上を走れたりとか、空中を十秒間飛ぶことができたりとか………とにかく色々あってですね、魔法やスキルとは違って魔力を消費しないのが特徴です」


 この世界では、生まれてきた赤子に魔法でもスキルでもない稀有な能力が不特定に宿るという。

 後天的には絶対に授かることができない所から、四天教の通説から“神より賜った贈り物(ギフト)”と呼ばれており、その種類は二つとあるそうだ。


「【名無し(ノーネーム)】と【名在り】。前者は普通にギフトと呼ばれて、後者はネームドと呼称されることが多いです」


「何か違いがあるのかしら?」


「………うーん、そうですね。【名無し(ノーネーム)】から【名在り(ネームド)】に変化する事があるんですけど、その際には能力が大きく強化されるらしいです」


 ギフト能力者が何かとてつもない窮地や心境の変化に陥った場合において、生まれ持ったその能力に名前が付き、その窮地を脱するようなとても強い力へと変貌するのが通説のようだ。

 生まれた際に最初から【名在り(ネームド)】のギフトを授かる者もいるらしいが、そんな事は稀。

 授かるとすれば、ほぼ全員が【名無し(ノーネーム)】だそうだ。


「じゃあ、ハンナ君のギフトって言うのは【名在り(ネームド)】?」


 ゲームにはなく自分たちが持っていない超能力。つい身を乗り出して質問を投げ掛けてしまうローに対し、彼女は首を振った。


「いえいえ! そんな大層なギフトは授かっていませんよ。私のは【危険な時に最善の道を見出す直感】というただの普通の名無し(ノーネーム)ですので」


 ハンナ・カンベルトのギフトとは、自身の命が危ぶまれた時のみに発動する能力で、それ以外の普通に暮らす分や戦いなどの役には立たないそうだ。


「あー…だから、あの時に『助けてください』なんて叫んだんだね?」


「は、はい。お恥ずかしながらそうなんです………」


 思い返せば、彼女の奇行…もとい最善の行動にはローも心当たりがある。

 人身御供として運ばれている最中、シルベの脅しがあったのにも拘らず助けを求めたのにはこういった理屈があったのかと納得だ。


(ギフトか………ハンナ君は大層なギフトじゃないといっているが、なかなかコレは凄い能力じゃないか)


 理屈があり、実績のある能力ことギフト。

 存外にも侮れないこの世界特有の力。彼女は別だが、その他のギフト能力者を警戒するに越した事は無いだろう。


「ギフトについては以上ですね。―――他に何か役立てる事はありますか?」


 頃合いを見たルイが会話を切り上げて、問われたローは右手を口元に添えて考え込む。

 取りあえずは世情、地理、この世界特有の力についての知識を彼等のおかげで得ることができた。

 あんな言い訳だけで追及もせず説明してくれたのは感謝感激と言った所。


「…ここまでして貰って図々しいのは承知ですが、実はお願いしたいことがあるのです」


 だが、こちらも感謝の念で謙遜に引き下がるワケにもいかない。


「いやいや、私達は当たり前の知識を当たり前に喋っただけですからお気になさらず…―――――それで、()()()とは一体? あ、もしや金銭の問題でしょうか?」


「いえ。そちらは人間ゴリブを退治した事で、村の総意として村長殿から幾ばくかの路銀は貰っていますので大丈夫です」


 残った最後のやるべきことが一つ。ツテを頼らなければ、今後の異世界生活において困るのは明らかだ。


「ところで、ルイさんやケイナさんは“冒険者”という職業に就いているのですよね?」


「ええ、まあ」


「では、単刀直入に申します。――――コルコタへの道案内と、カンベルトさんの紹介(ツテ)で我々を冒険者という職業に就かせてほしいのです」


 この世界の情報を手に入れた現状、プカド村に居る理由は無く。多少のリスクはあるものの商業都市へと赴いた方が、この異世界生活を優位に立ち回れることができるはず。

 それに、プレイヤーっぽいコベルニクスの女王陛下がどんな文明開化の音を鳴らしているのかは実に気になるところ。

 地図に関してはフィリアナが書き写しているので赴くにしても問題ないが、実際に歩くのと見るのとでは大違い。土地勘のあるカンベルト夫妻に道案内を頼めば、その大違いの知識の感覚を埋めてくれることだし、彼等が居ると検問や憲兵等に怪しまれる事はまず無い。


「………え、そんな事でいいんですか?」


 意外過ぎる程に慎ましいお願いだった為か、身構えていたルイはがっくりと椅子にもたれ掛かる。


「まあ、ここら辺りで旅の腰を下ろす事にしましてね。言語や通貨も若干違うことですし、しばらくはコルコタで仕事をして路銀を稼ごうと思った次第でして」


「なるほど、構いませんよ。私達も皆さんにコルコタへとご同行を願いたかったので」


「………というと?」


 ローの疑問に持ち直したルイは言葉を続けた。


「ハイルさんの討伐したという“人間ゴリブ”について、私達冒険者は組合でその情報を共有しなければなりません。ですので、討伐者と目撃者両名の信ぴょう性が高い証言が必要なのですよ」


「ついでにこの証拠品もでしょうか?」


「はい。その怪しげなナイフも必要になるでしょうね」 


 異空間インベントリにしまっていた赤いククリナイフポケットから取り出したかのように提示し、ルイはその問いに頷く。


「では、出発は何時頃に?」


 双方が納得できる謝礼の取り決めが終わり、後はいつプカド村を出発するかの相談だけだ。


「そうですね………ハンナ、畑仕事はもう終わっているんだよな?」


「うん。ローさんと火煉さんが手伝ってくれたから……」


「…決まりだな。じゃあ、明日の早朝にここを出ましょうか」


「分かりました。では、道中の案内をよろしくお願いします」


「はい、勿論ですよ」


 話し合いは当然のこと躓くことなく。

 同意の証としてのルイとローの握手を最後に情報収集の場はお開きとなった。

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