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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第3話 野に雪を。雪に背中を。
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第3話_ミコちゃんはスノウを可愛がってる

 ミコは影帽子の黒い眼を光らせて最後のステップに移る。身体を止めるだけじゃまたあとをつけられたりと一人旅には面倒なことが多い。特に今は冬。雪も振っているからにして、この子――スノウには飛び出したところでまた追いつかれてしまうだろう。それなら、この子の意識もしばらく停めるべき。そう思って封印兵器、『鎮めの眼光』を放ったのだ。気象一族の中で一番最初に自分に接触した事実もある。この事実でこの子が一族から受けることになり得る不利益を可能な限り防止しつつ、またこれを活かす形で、撹乱を謀るのが作戦というもの。実に楽しい面白い。気付けば自分がスノウに向かって笑っていたことを、ミコはこのとき、初めて自覚した。

 やがてスノウの身体が崩れ、寝るように倒れ込む。世話好きのミコはことここに至って御役目御免の黒い眼をしまうと、がま口チャックの中から寝袋を取り出す。そして取り急ぎ倒れる最中のスノウの下に移動し、その身体を支えつつ、倒れこむと予測されるポイントに寝袋を敷いた。抱きとめたスノウの身体は、やはり前より重たかった。その健康と成長を確認できて、ミコは嬉しくなり、思わず笑顔が綻んでしまう。

 気付けばミコは、微睡みに旅立とうとしているスノウに語りかけていた。

「スノウ、あなたはまだ若いわ。だから急がなくていいの。いずれ『そのとき』が来るまでの間、今はここでお休みなさい。ふぅ……どうせ神様連中との衝突は避けられないし。そのとき話すことになるんでしょうね。泉さんの真相とわたしの宿命を。知らずにいた昔ならまだしも、知ってしまった今のわたしはもう無駄に人生を送れない……。未練がないと言えば嘘になるわね。でも人生は戻ることで手に入れるものじゃない。進むことで手に入れるもの――でしょう? わたしが一番に問題を解いて……そこで嘘の神様、泉=ハートに出会って歌を聴いた。そのとき知った己の宿命に、彼女と交わした嘘っぽい口約束――それらが今のわたしを動かすちっぽけな原動力なのよね。あなたもいずれわかるわ……。ふふ、いつになるかはお楽しみ♪ 最後にひとつ、御褒美にヒントをあげる。わたしの名前……巫、ミコ=R=フローレセンスはね、神様達の名前をまんま受け継いだ名前の形式なの。そこにレインを示すRを挟んだ……。これは神様捜しのヒントになるから、憶えとくといいわ。それじゃ、また会うときまで、ゆっくりお休みなさい。元気でね……」

 長い言伝を喋り終わったミコは、そっと掌を開きっぱなしのスノウの目に被せ、瞼を閉じてやる。一人旅を始めて最初に再会した気象一族の一員スノウ。旧知の間柄だっただけに、少なからず嬉しかった。再会の喜び――古めかしい詞だが生き残るだけの意味がある。ミコは詞の強さと重ね合わせ、腕の中に収まっているスノウの顔を見つめる。

 細かく手入れされたシャギーの頭髪。あどけなさと幼さ、そしてなにより若さと強さを備えた生命力に満ち溢れた顔。自分が通り過ぎていった「過去」を思い出させるその顔を見ていると無性に悪戯したくなるが、飛ぶ鳥後を濁さずの格言に従い、ミコはスノウを寝袋の中に寝かせてやる。その途中スノウの携帯電話を取り出して、同じ気象一族の連中に一通のメールを送信。続けざまに自分の携帯電話でも同じ気象一族の連中にメール送信。このメールを送った事実が、スノウの安全を保障する。

「さて、これでよしと。スノウ……またね」

 スノウの携帯電話を彼女の懐に戻したミコは別れの挨拶を感慨深げに済ませると、寝袋のチャックを閉め、焚き火に薪を補充させると、洞窟の入口へと進み、暗闇に瞬く星空へと飛び出した。

 夜間飛行と言わんばかりに。

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