第20話_scene Final:後継者たち
俗世惑星のどこか。白い砂浜とエメラルドグリーンの海が綺麗な場所にみっつの人影があった。遠浅の海に裸足で浸かり、手で海の水を掬い上げては互いにかけ合い、浴びせ合っている。水遊びに興じているその顔は微笑ましいまでに笑顔で、動くたびにスカートが穏やかな風に靡いている。
そう、みっつの人影は一人残らず少女だった。あどけなさと幼さを残した、まだまだ大人になりきれない少女たちだったのだ。
一人は、橙色の髪をまとめツインテールにした小さな少女。
一人は、色の薄い黒髪に黄色いリボンが似合う大きな少女。
そして最後の一人は、桜色の髪に帽子を被った中背の少女。
背も年齢もバラバラの三人の少女は、きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぎ遊び終わると、濡れた身体を陽射しに当てながら砂浜へと上がっていく。そこに、ころころとボールが転がってくる。それを追って、兄妹らしき男の子と女の子のペアが、少女達の元へと近付いてきた。帽子の少女は転がってきたボールを手に取ると、走ってきた女の子が来るのを待って、絶妙なタイミングでボールを女の子へと手渡した。
「ありがとう」女の子は笑顔を見せて言った。
「どういたしまして」帽子の少女も微笑んだ。
その様子を見ていたツインテールの少女とリボンの少女が帽子の少女を茶化してくる。
「ひゅーひゅー。ヒカリは優しいねー。さすが、ミコ姉様が託した女の子だわ」
「うんうん。キティの言う通りだよ。この性格にミコ様も惚れたんでしょうね」
「もう、キティ、アリス、やめてよー。満更でもないから照れちゃうじゃない」
ツインテールの少女――キティ=ノイマンとリボンの少女、アリス=アマノハラの冷やかしに、帽子の少女――ヒカリ=R=R=マイディアは少しだけ顔を赤くさせ上気して二人に対して手を振りジェスチャー。それを二人もにまにまと受ける。
そんな三人に、ボールを返して貰った女の子と兄らしき男の子がボソッと一言。
「ヒカリ……? それがお姉ちゃんの名前?」
ヒカリはその囁きを耳で聞き留めると、兄妹の方を振り向いてうんと頷いた。
「そうよ。彩=R=R=マイディア。大切な人から貰い、そして自分で考えたわたしを表す大好きな名前よ」
「ひかり=だぶるあーる=まいでぃあ……」男の子がヒカリに言われた通りにその名前を鸚鵡返しに繰り返す。ヒカリは正しく言ってもらったお礼に最初に男の子、次に女の子の頭をその手で優しく撫でてやる。「よくできました♪」そう言うとヒカリはキティとアリスの方を向き、「そろそろ行こうか」と出発の提案。キティとアリスも頷いた。
「よーし、いっくよー。影帽子さん、open!」
ヒカリが声を上げた直後、ヒカリの影のてっぺん――ヒカリが被っている白い帽子とは明らかに形状の違う魔女帽子みたいな帽子の影から何かが開く音と一緒にチャックらしきものが出現して勢いよく開き、中から大きな黒い傘をヒカリに向かって吐き出した。ヒカリは手に取ると同時にボタンを押してすぐに傘を上に放り投げる。すると傘は展開すると同時にさらに何倍もの大きさに巨大化。その上地面に落ちることもなく、なんと空中に浮いたのだ。
うわ〜と目を点にして驚く男の子と女の子を尻目に、靴下と靴を履いたヒカリ、キティ、アリスの三人は傘へ向かって大きくジャンプ。巨大化した傘の持ち手部分に備え付けられた座席と持ち手に引っ掛けられていた左右に落ちた座席、計三席に乗り込む。左のキティと右のアリス、そして持ち手席のヒカリ、三人みんながシートベルトの着用を確認すると、ヒカリは下にいる男の子と女の子に向かって手を振り挨拶を済ませてから「全速発進!」と号令をかける。そのコマンドを受けて傘は風に乗ってもいないのに、勢いよく海の先へと空中を飛び出したのだ。後に残ったのは、呆然とその様子を見ていた、男の子と女の子だけ。女の子の手にあったボールも、気付かないうちに砂浜へと落ちてしまっていた。子供達が見ているのは、ボールではなく、遠ざかっていく黒い影だったのだ。
奇跡と愛情を知り、惜しみない愛の力で成長したキティ=ノイマン。
記晶石全てを揃えて無機人形から人間になったアリス=アマノハラ。
Rain、Rainbowとして今を生きている、ヒカリ=R=R=マイディア。
ミコ=R=フローレセンスに関わり、導かれた三人の少女は出会い、意気投合し共に旅をする仲間となった。みんなミコに感謝して、ミコの思いを胸に秘めて旅を続ける。旅の目的は特にない。ただ知っているから旅をする。ミコの旅路を見聞きし知ったひとつの真実が原動力。それはただひとことの真理。
旅はいい――ただそれだけ。
それだけ知っているからそれだけで十分だから、少女達は旅をする。
まだ見たこともない景色を求めて、三人の少女達は旅を続ける――。
其処に居れども 掴むこと叶わず
心は在れども 肉体は持たず
声はただただ己が為 外に漏らすはもってのほか
許されるのは ただただ輩といることのみ
その居場所は 地図にもなく
辿ることも 追いつくこともできず
知れているのは 還るしかないということだけ
だが其れを為すのは 何にも増して難儀なこと
故に其処に居るのは 影の少女でようやく三名
たったみっつの心は 永遠に出番の来ない女優
其処は無にして嘘を憑き
其処は無にして歌を歌い
其処は無にして影を編む
現に残した思いと形が 後の世代へと残るだけ
なんと無情な掟と枷を 受け入れしみっつの女
其の思いは受け継がれ 其の形は残り在り継ぐ
人生拍手喝采雨あられ 其れ以上など必要ない
だからみっつの女は消えた
記録と記憶を俗世に残して
只々気持ちよく消えたのだ
これは其の様を描き綴った、なんてことない物語
その夢もその心も背中で語り魅せた女の子の物語
「ミコの影帽子 夢心背話」、これにて終幕でございます――。
この度は愚者ぐしゃなわたくしの作品を読んでいただき、心より感謝申し上げます。
さて、本日ようやく無事第20話/最終話を章ごとに分割してサブタイトル付けて投稿完了しました。
昨日投稿した19話でミコちゃんとはさようならでしたので、この20話はエピローグです。ミコちゃんに関わった登場人物達がミコちゃんのいない俗世でどうなったのか、どうしていくのかを淡々粛々と書かせてもらいました。いや〜本当に、文量少なくてすいませんです(超自虐ora)。丁度1年前2016年の4月1日に最初にpixivにUPしようとした際、間に合わないと感じて文量を最初から少なくする方向で書いていましたので(何言い訳してるんだよ→ウッ、ごめんなさいora)。でもその分余計な詞は使わずに書きたいこと伝えたいことをダイレクトに書けたような気もします。短い文章だからこそ、って感じで。
ミコちゃんシリーズは「アルコ村編」「ポスティオ編」「洞窟編」と1話完結の短編が続き、そこから三部作の「花一族編」が始まりました。これが長くなりすぎて(特に6話は長かったですよね〜)、次いで閑話休題と書いた「桜島編」のあと、「ノイマン家編」「神様編」「シク=ニーロ編」と中〜長編が一気にみっつも続きました。これは幾つか重なっていたシリーズを貫通する『流れ』を消化し、この先の物語の自由度を高める目的がありました。特に「神様編」で神様達との決着が着いた後、神様達は「敵」から「狂言回し」にジョブチェンジし、扱いやすくなりましたからね。そして「宇宙編」と「アリス編」をそれぞれ1話を費やして書いた後、この時代の最強キャラを敵に据えた「最後の闘い編」を17、18話で描き、19話が「ミコの最期編」、この20話が「エピローグ/消還後編」となりました。ほんといろいろ書いた気がしますね。宇宙とかなんだよって。これファンタジーなのかって(作者も疑問に思っている)。
全20話。相当愚者ぐしゃな作品ですが、みなさんの才能・感性・能力でなにか感じてもらえるものがありましたらこれ以上嬉しいことはありません。
一日1話のペースでチャプター・章ごとに分割してUPしてきたこの「夢心背話」。また懐かしくなったら何度でも読み返してやってください。新たな発見があるかもしれません。
Twitterやってます。「心環一乃(ここのわむの)自称"地球人"(@kokonowa_life)」です。書き手さんも読み専さんもフォロー歓迎します。逆にこちらも無言フォローすることありえますのでそれは御了承ください。最終話投稿しても宣伝ツイートは止めないと思うのでそれで興味を持ってくれたら大成功でとても嬉しいです。
感想・評価・誹謗中傷に御意見に至るまで絶賛募集中です。アカウント作らなくても感想受付中ですよ?
2017年ミコちゃんシリーズエイプリルフール企画(!?)でもある「シリーズなろう投稿運動」。とりあえず本編小説「夢心背話」の投稿は完了です。この4月の間、お付き合いいただき本当にありがとうございました!
貴方の未来に、幸せがありますように…。
心環一乃でした。