第20話_scene3:航海者たち
橋立大陸と霧大陸を隔てる嵐の絶海。
常に嵐を呼んでいるこの海において、わりかし天候が穏やかなエリアを進む船があった。
船のデッキには二人の少女が立っている。柿之本家の子女柿之本萌枝と、気象一族のサイクロンだ。風を読めるサイクロンと、航海の知識がある萌枝で海の様子を確かめているのだ。
「風は段々と強くなっていますわ、波もちょっとずつ高く……どう思います、萌枝ちゃん?」
「それはサイクロンちゃんもわかっての通り、また嵐になるんだと思うよ。航路からして避けられないだろうし。となると……」
「ですね」
会話の節々で何かを匂わせ確認し、共通認識を持つ萌枝とサイクロン。そんな二人の元へもう二人、少女が近付いてくる。萌枝の親友こと花一族のサクラに、サイクロンの同輩気象一族のスノウである。
「あっ、スノウちゃん。どうだった? トルネード君の具合」
「冷やしたから少しは落ち着いたけど……また海荒れるんでしょ?」
「ええ。大いに嵐となるでしょう。トルネード君の船酔いが酷くなるのは避けられませんね。どうします? 船長のサクラちゃん」
そう、彼女達は船酔いでダウンしている一行唯一の男子、トルネードのコンディションを心配していたのだ。名誉のために言っておくと、トルネードはそこまで船に弱いわけではない。しかしフィールドが嵐の絶海ともなると話は別。女性陣が「ショートカット優先」と主張して押し通った暴風雨の中で彼はダウンし脱落したのだ。船長職もその際サクラに交替したというわけである。冷気能力を持つスノウがトルネードの看病に当たり、その結果戦力外となったトルネードとスノウの仕事は残る萌枝とサイクロンに引き継がれたのだ。
悩む少女達。しかし嵐は待ったなし。とうとうサクラ船長が決断した。
「トルネードにはわたしが分泌した麻酔花粉を投入するよ。3時間くらい寝かせておけば嵐を突破できるかな、萌枝ちゃん、サイクロンちゃん?」
「それなら十分だよサクラちゃん。今の座標から計算すると目的地である霧の大陸まではあともうちょっとのはずだから。このままの速度で進めば3時間後には接岸できるはず。ね、サイクロンちゃん」
「ええ。萌枝ちゃんの計算は間違っていません。それにわたしの力で対抗する低気圧を発生させれば幾許か嵐も抑えられるでしょう」
「よっしゃ決まりね! サクラちゃんは舵に戻って。サイクロンは能力に集中。わたしと萌枝ちゃんはトルネードに付くよっ!」
「承知!」
リーダー気質で決断力のあるスノウがテキパキと指示を出し、サクラ、萌枝、サイクロンも機敏な動作で歯車を回す。
立場も出身も違う彼女達が一緒にいるのは、目的が同じだから。
即ち、「ミコの後を継いだという、ヒカリと名乗る少女を見定めること」
「待ってなさいヒカリ。レインさんを継ぐのは、わたしたちなんだからっ!」
少女達は確かな決意を胸に、見据えていた嵐から踵を返して船の中へと戻っていった――。