第20話_scene1:気象一族
人里離れた所に在る、気象一族の里の畔で二人の女性が話をしている。片方の名前はウィンド、もう一人の名はカーレントといった。
「レインちゃん、消えちゃったってね」
「そうさね。あいつは殺したって死にそうにない奴だと思ってたけどなあ……わたしらより早くこの世からおさらばしちゃうなんてなあ」
力無いウィンドの呟きに、カーレントもどこか心此処に在らずといった風に相槌を打つ。二人はミコが39代目レインを名乗ったときからの同期でずっと付き合ってきた仲間だった。学都スコラテスで共に学んだ学友であり、力ある者達の生存圏を国や信仰勢力から守るべく冬夏戦国時代を闘い抜いた戦友だった。気象一族最高実力の称号、「デイリークラス・プラネットスケール」に共に到達した三人の中で、ミコが一番の可能性を秘めていたことはウィンドとカーレントの共通見解であった。影の秘術で影帽子なるものを作り、幻の身体能力なるもので運動でも他を圧倒していたミコは二人掛かりでも敵わない実力と他に代え難い魅力を持っていた女としての憧れでもあった。余りにも自分達とはかけ離れた存在だったので、神様の問題を解いたことも、気象一族を出奔したことも、二人はそう驚かなかった。だからこそ――。
ミコが自分達より先に人生を終えるなんて、思いもしなかったのだ――。
ヒカリと名乗った40代目のレインの少女とその同伴者2名から事の仔細を聞いた二人は、すっかり参ってしまっていた。数日の間に白髪が増え、口元には豊齢線も。精神的にもこれまでの活発さが鳴りを潜め、消極的要素が増大した。これは何もウィンドとカーレントだけに限った話ではない。神様の設計図を狙っていたスモッグ、ミスト、ミラージュの三頂老もめっきり老け込み今やミイラ状態。ミコに恩があったウェイブとクエイクは言うに及ばず、達観していたメテオやボルケーノでさえ心の空虚を持て余している。元気なのはヒカリを追ったスノウ、サイクロン、トルネードの子供トリオと婚活の旅に出たシャインとクラウドくらいのもの。かつて生存権を訴えていくつもの国を滅ぼした気象一族が、半分衰退を始めていたのだ。まさに栄枯盛衰だろう。
それでも――。
「まあ、いつまでも腑抜けてはいられないよね、カーレントちゃん」
「そうさなウィンド。レインが代替わりしたように、わたしたちもいっちょ後継者を探しに旅に出てみるか。そして自由気ままに引退だ」
「うん」
空元気を振り絞って喋る詞に力を入れたミコの女友達2名はゆっくりと腰を上げて立ち上がる。畔の先、見慣れた里の外の光景を二人はいつもより広く感じた――。