第19話_ばいばい
それから7日間、ヒカリとミコはずっと一緒に過ごした。
数えるほどしか残っていない食事にこだわり、二人で色々と料理してみたり。
どうせ濡れるならお風呂の方がいいと、二人一緒にのんびりのぼせてみたり。
夜はテンション上がるからと、同じ布団の中でくるまってトークしてみたり。
もっと勝負したいからと、影帽子の中からゲームを取り出して遊んでみたり。
歌心を満喫したいと自分たちで歌も曲も振り付けも作ってライブしてみたり。
マトリョーシカ世界観を理解し探検するために、物語を読みふけってみたり。
雨を感じるのは楽しいからって、一日中飽きもせずに雨景色を眺めてみたり――と。
修行が終わってからの7日間、ヒカリとミコは思う存分好きに生きた。もう楽しみ尽くすというくらい、濃密な時間を共に過ごした。思いつくままの行き当たりばったりではあったが、ひとつとして忘れ得ないかけがえのない思い出の数々がそこにあった。
そして、消還の日の午後2時35分――。
「来たわ」
「先生!」
「おいで、ヒカリちゃん」
リビングのロッキングチェアにそれぞれ座っていた状態から、ミコが消還開始を感知し口に出して告げる。ヒカリもミコから淡い光のようなものが放出され、それと同時にミコ本体が薄くなっていくのを、周囲の景色に溶けるように消えていくのを認識した。ヒカリはミコの誘いに応じてミコの椅子へと移り、ミコに抱かれるようにミコの膝の上に座る。まだ膝の存在、そして温かさは知覚できていた。そんなヒカリをミコは後ろから優しく抱きしめた。ここにきてヒカリの頬を熱いものが伝う。涙だ。
「ありがとう。ヒカリちゃん」
「……うっ、う、うう〜。先生。しぇんしぇ〜」
「これが最後で最期のお話。ヒカリちゃん、本当にほんとうにありがとう。わたし、人生の最後にヒカリちゃんに出会えてよかった。嬉しかった。散々好き勝手やって他人を不幸にもしてきたわたしが、こんなにも幸せを感じながら終われるのは、ヒカリちゃんのおかげだって思ってるわ」
「幸せだなんて……もったいないです。わたしの方こそ救われて導かれて託されて、望外の歓び、幸せすぎるくらいです」
「ありがとう。でもねヒカリちゃん、今が幸せだからってこの先幸せを追求することを放棄しないで。幸せとは、過去・現在・未来にいる自分を省みて・受け止めて・動かしていくことよ。そうすれば、自分のすぐそばに幸せがあることに気付く。いつだって自分は幸せなんだって、思えるの。わたしはここでお別れだけど、ヒカリちゃんのこれからの人生にはもっともーっと楽しいことが待っているわ。それはわたしが保証します。だからね、ヒカリちゃん――」
そこまで喋って、ミコはいっそうぎゅっと力を込めてヒカリを抱きしめた。抱かれるままにミコの力と温かさを感じていたヒカリの耳元で、ミコは囁く。
「あなたはもうわたしの背中を追いかけなくていいの。これからはわたしがあなたの背中を、ずっと見守っているから……ね?」――と。
そう言って、ミコは消えた。時刻は午後2時39分。
完成させた影帽子と泉から預かっていた歌心を残して、いなくなった。消えたのだ。
ヒカリはミコが座っていたロッキングチェアに腰から落ちる。ミコの膝の上に乗っかっていたから、彼女が消えたことで隙間ができ、重力で落下したのである。しかしその落ち方は毛布が被さるかのようにゆっくりで、柔く優しいものであった。
それは、まるでミコが抱きかかえたヒカリを椅子に座らせているかのよう。本当にミコはヒカリを見守ってくれているようだった。当の本人であるヒカリは、感極まって涙を零す。しばしそのまま。
そして――。
ヒカリは椅子から立ち上がり、外の景色をじっと見やる。すると雨傘結界の中半永久的に降り続いていた雨が上がる。雲が晴れる。陽射しが射し込む。虹がかかる。
「綺麗――」
ヒカリはそう呟いた。それと同時に自身の身体と心がふたつの現象意思と繋がったことも自覚する。今ヒカリは正真正銘、気象端末となったのだ。ミコの後を継ぎ、40thレインとして。そして1st――として。
「先生から戴いた名前、早速改名しないと……ごめんなさい、先生」
意味深な一人言を呟いて、ヒカリは手をまわして影帽子を前に持ってくる。ミコから託された影帽子を大切に抱えるヒカリは、ひとつの決意を固めた。
ひとりの女の子の、新たな人生の始まり。時刻は、午後2時40分――。
この度は愚者ぐしゃなわたくしの作品を読んでいただき、心より感謝申し上げます。
さて、本日も無事第19話を章ごとに分割してサブタイトル付けて無事投稿完了しました。
本日の18話でミコちゃんとはさようならです。本当に主人公として活躍してくれました。作者として、いや作者からも心から「ありがとうございました」と言いたい気持ちですね。
そして登場した新キャラことミコちゃんの後継者=託した人であるヒカリちゃん。予想もしない方法でエレクトロさえ抹殺したミコちゃん必殺の月砂鏡を破って魅せました。こりゃミコちゃんも完敗と思い、あんなトチ狂ったように笑っちゃったわけなんです。雨の中寝そべって笑うって…相当ですよね(怖・ブルルッ)。
今回は文字数ネタも絶好調な回でした。何行も同じ文字数で並んだ文章が続くって、読者様的にはどうなんでしょうね。わたしは見やすく全体像も綺麗だと思ってやっているんですけどねー。今度Twitterでアンケート取りたいかもです。
自分はまだプロ作家デビューもできてない身分ですが、初めて構想した物語を書き切ったのが明日の20話で終わりになるこのミコちゃんシリーズなので本当にミコちゃんに惹かれたんだろうな〜と思ってます。みなさんの作品を拝見していてもやっぱりキャラへの愛情が深いですからね。それが大事なんだと書いている最中も投稿している最中も痛感しました。ええ、ほんとホント。
そんなミコちゃんの最期は、普通の死とは違う形です。なにせ死のメカニズムも設定として明確にしてしまっている物語俗世なので、どうしても他の退場方法を取らざるを得ませんでした。それがこの”消還”でした。賛否両論あるかもしれませんが、"消還"に至るまでのヒカリちゃんとの時間は、死を覚悟し受け入れた普通の人間さんと区別することなく、「ミコちゃんならこうするだろう」と思って書いたものです。なにかみなさまの心に引っかかりでもすれば嬉しいですね。
相当愚者ぐしゃな作品ですが、みなさんの才能・感性・能力でなにか感じてもらえるものがありましたらこれ以上嬉しいことはありません。
一日1話のペースでチャプター・章ごとに分割してUPしていきたいと思っています。よろしくお願いします。
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2017年ミコちゃんシリーズエイプリルフール企画(!?)でもある「シリーズなろう投稿運動」。この4月の間、お付き合いいただきそして楽しんでいただければ幸いです。