第18話_終わりの真実
ミコがエレクトロを倒し、コンタクトの国民達を追出してから更に10分、漸く曲の演奏が終り、ミコは自らトランペットを宙に放り、がま口チャックから黒い舌を出して回収、影帽子の中へと戻した。そして本気の証であった幻装レインコートも消して脱ぎ、此処へ来た時と同じ格好に迄戻り、魚達神様連中及び気象一族の方を向いた。改めて此方を向かれると、皆変に硬直緊張してしまう。きっとミコが気持を戦闘姿勢の侭にして此方に向いているからだろうと神様達は直に察しがついたが、文句は一言も云えなかった。緊張している硬直している、勿論理由のひとつふたつだが、其れ以上の心当たりが在る。そう、自分達はミコの手を煩わせてしまった役立たずと云う事実。一等一番とても重い。ミコは事を起したエレクトロやコンタクト国民だけでなく、事を収拾しようとして出来なかった神様達と気象一族にも怒っているから戦闘姿勢の心其の侭で此方を見据えているのだと、察しの良い魚は気付いていた。反論出来ないだけに、暫くは針の筵気分を我慢する他なかった次第。
然し暫く経つと我慢の出来ない子達が空気を読まずに発言し出した。「一体誰よ」と魚が振向いてみると、其れは自分が保護していた愛弟子の祝と哉。更に紫と焰が加わって、気象一族の子供達と合流、ミコの後輩の女の子、スノウとサイクロンが先導主導するミコへの主張に合の手を入れていたのだ。
「レインお姉様、助けてくれてありがとうございました! わたしがか弱いばかりにお姉様の手を煩わせてしまってごめんなさい……わたし、お姉様に助けられたご恩、ずーっとずっと、忘れません!」
「サイクロンのいう通りですっ。気象一族は今回の恥とご恩を心に刻みつけて生きていきますよっ!」
「ほんに〜ほんに〜ミコちゃ〜ん、助けてくれてありがとなー」
「ま、こうなるわよね。ありがと」
先ず気象一族の娘っ子二人がミコへの感謝と自分達への恥を公表し、其の後巻かれていた神様陣営から焰がキャラに似合わない、まるで落のような喋り方でミコに馴れ馴れしく礼を云い、紫が淡白に用件をピシャリと告げて終った。未だ戦闘姿勢を解いてない今のミコ相手にこんなトークは「火に油では?」と、魚や周りの神様達は懸念を抱いたが、ミコは後輩に優しかったらしい。先ず抜け抜けずけずけと話をした紫と焰に対して、指差してから『指線』を飛ばしてデコピン級の衝撃を2名の額に当て、軽く「お仕置」すると、其の侭の体勢から顔だけほっこり柔く微笑んでサイクロンとスノウに笑みを魅せたのだ。取り敢えず無難な落し所に着いたので、皆が胸を撫で下ろし安堵した。紫と焰は信賞必罰の因果応報と理解した上でだ。
「ひさしぶりね、みんな。みなさん。随分懐かしい感じではありますが、そもそもわたしとしてはもう会うつもりもなかったのよ。なんで再会しちゃったのかしらね?」
「そりぁー、今回の一件、テーマがミコだったからでしょ? あんたが一番嫌っている信じるだの信仰だの国家だのを持ち上げられちゃったんだからさ。しかも御神体・崇拝対象があんたときたらね〜、誰よりも、あんた自身が放っておけないでしょうに」
「まあね。そこは希のいう通りではあるわ。お金も払われずに勝手に御神体にされちゃあね。ま、気に食わないのでお金自体受け取らないのがわたしですが……でもね、既に人生三周目も終わりに近づいていたわたしが俗世の騒ぎにホイホイと出庭ってくると思ったら大間違いなんだからね。このことは神様さん達なら特によく分かっているはずでしょ?」
「う……むぅ……」
ミコの指摘返しに神様一同は息を呑み黙りこくる。然う、神様達は零以外皆全員知っていた。ミコが辿る“その先”がもう其処迄来ている事を。ミコの“真実”を、知っている。“期限”が“死”より先に彼女の前に来ている事を、あの時アパートでミコから直に教えられ、魚の説明で全員理解させられていた。今になって思い出し、皆が自分を戒める。
「え? え? どういうこと? レインちゃん、いったい何を話したのよ。ねえ?」
ミコの話に納得する神様達を余所に、「まるでわからない」と疑問を示すウィンドを始めとする気象一族。此の時初めて魚達神様陣営はミコが気象一族の仲間達には“あのこと”を知らせずに旅をしていたのかと理解する。同時に話さなかったミコの立場、ミコの気持が分るような気もしていた。人生二周目、39代目レインの人生を共に過してきた気象一族の仲間達だからこそ、云えなかったのだろうと……。
そして此処でもミコは自分の口で“真実”をかつての友人達に教える事はしなかった。「雨が降りそう……わたし行くわ。じゃあね。バイバイ」と会話を切上げ、あの時みたいに湖の水に飛込んで水門連絡で何処かへと消えてしまった。パッと現れ、サッと消える。本当に雨――通り雨みたいな存在だと、神様達はしみじみと感じていた。
一方、サッと消えられ「逃げられた」と感じている風の気象一族の面々達。説明を求める矛先をミコに向ける事が叶わなくなった気象端末達は、其の矛先を神様達に向けてきた。此処で捕捉しておくと、神様達にミコの事を聞きたがる視線を送ってきた気象一族のメンバーは、エレクトロとの闘いを経て尚何とか無事だったウィンド、カーレント、スノウ、サイクロン、トルネード、メテオの六人に、神様達を一定時間足止めして破れて倒れて今になり、仲間や神様達の恩情で復活したボルケーノを加えて七人であった。子供達は保護してくれた魚や祝、哉の方を向き、ウィンド達は近場で適当適切な位置に居る神様達に視線を飛ばしては強請るのであった。其れに神様達も根負けし、「いいかいいや」と話してやる。
ミコの“真実”を、教えてやる――。
「まさか、そんな……」
話を聞いた気象一族の者達は全員震える事も無く、立ち尽し固まってしまった。余りに衝撃的な真実は、心拍も時間も停めてしまうからだ。だが、暫く時間が経つと呆然と固まっていた気象一族の顔に感情が甦る。くしゃくしゃの顔、俯いた顔、泣きそうな顔と、各々がミコと培ってきた『距離』に応じて表情の変化で『自分の気持』を示す。其の様子を神様達は決して馬鹿にする事は無く、真剣に親身に見守っている。
すると、其処へ天から一筋の雫がポトリ……。
雨だった。何時しか空は雨雲に覆われていた。
時が経ち、雨は音も無く本格的に降り始める。
声も無く泣いている、気象一族の涙のように。
軈て、様子を見守っていた神様達が静かに其の場から消えて行く。泣いている気象一族を置去りにして。
静かに。景色に溶ける様に。
すると残った気象一族も泣くのを止め、闘いに敗れ気絶したままの三頂老にシャインとクラウドを瓦礫の中から持上げて荷物にすると、抱えて一歩を踏出した。自分達の里へ帰る為の一歩を。
程なくして気配は消えた。新たに作られた国家コンタクトから、人の存在は完全に消えた。ハリボテの新国家は、たった数日で完全に滅び去ったのだ。
そして、この日俗世からふたつの存在が消えて無くなった。
ひとつは、国家や宗教等を騙る、時代にそぐわぬ社会形態集合形態。
そしてもうひとつは、ミコ=R=フローレセンスという名の女性。
ふたつの存在が、俗世の記録から完全にこの日から消えて無くなったのだ――。
この度は愚者ぐしゃなわたくしの作品を読んでいただき、心より感謝申し上げます。
さて、本日も無事第18話を章ごとに分割してサブタイトル付けて無事投稿完了しました。
昨日の17話でミコちゃんがおいしいところをかっさらうかのように最後だけで登場しましたが、その鬱憤を晴らすかのように本日の18話ではミコちゃんの最終手段/最終兵器こと幻装レインコートが登場しました。
ホントこれは設定上もミコちゃんの最終手段でして、これ以上は頭捻っても首360°回転させてもなにも出ませんよ全く。だからこそこの18話で敵は全て出し切ってミコちゃんの旅を終わりにしていくしかなかったんです。ええ、全てはわたしの修行不足にあります! ゴメンよミコちゃん。こんな能力不足な作者で!
そんな感じで、ミコちゃんシリーズも残りあと2話となってしまいました。4月1日から「1日1話」とはじめて来ましたが、予想以上に時の流れは早いものです。そしてツイートをいいね&RTしてくれたみなさんには感謝してもしたりません! 本当にありがとうございます! 願わくばあと2話なので最後までお付き合いくださると嬉しいです!
相当愚者ぐしゃな作品ですが、みなさんの才能・感性・能力でなにか感じてもらえるものがありましたらこれ以上嬉しいことはありません。
一日1話のペースでチャプター・章ごとに分割してUPしていきたいと思っています。よろしくお願いします。
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2017年ミコちゃんシリーズエイプリルフール企画(!?)でもある「シリーズなろう投稿運動」。この4月の間、お付き合いいただきそして楽しんでいただければ幸いです。