第17話_滅多にない、ミコの本当の実力披露
影帽子のがま口チャックを開き、中から黒い腕一本とそれに握らせた無反動砲一本を出した形で、ミコは地中から姿を見せた。漆黒の影帽子に桜色の髪、土の中に居たとは思えない、白く穢れのない上着の長袖を風に靡かせ長ズボンで包んだ足で大地を固く踏みしめている。魚達神様達やウィンドを初めとした気象一族の面々にとって、もう見慣れた(寧ろ見飽きた)も同然の姿であるが、一つだけ決定的に、今迄と違う容姿面の特徴があった。
ミコが、怒った顔をしていたのである――。
何時も柔く笑っている筈のミコが、敵と戦う時でも余裕綽々の態度を崩さないミコが、凡そ其のキャラに似付かわしく無いイライラを隠さず現状に不満げで敵意バリバリの、まるで別人別キャラ別の物語の登場人物のような顔で、普段と真逆180°反対方向を行く顔で頗る面白く無さそうに周囲を見回していたのである。其の誰彼構わず無差別に向けられる敵意と闘気に、ミコの事を「味方」だと思っていた筈の神様達は皆一律一様にゾッと身震いして固まってしまう。魚でさえ例外では無い。背中の首元から氷を入れられブルッときた時の様に凍り付き微動だにしない状態となる。そんな彫像と化した魚を含む神様連中の内6名の背後に気象一族の(何とか)立ち上がったメンバー――ウィンド、カーレント、スノウ、サイクロン、トルネード、そしてメテオの六人が回り込み、「しっかりしてください。すぐに逃げるんです!」と声を掛け、且つ魚達の身体を荒く揺すって力ずくで解してきたのである。御陰で身体の緊張は解れた魚だったが、今度は頭の方がこんがらがって凝り固まってしまう。
(逃げる? どゆこと?)
気象一族の言っている事がまるで分らず頭がプチパニック状態となる魚だったが、神様でも悩む暇は与えてもらえないらしい。魚の身体をウィンドが横にガクンガクンと揺すり出したのだ。魚達神様達の疑問に対する答と一緒に。
「マズいんです。今のレインちゃんめちゃくちゃ怒ってるんですよ。虫の居所が悪すぎって奴です。今はまだ黒い手を使っているから間に合いますけど多分あと数秒で自分自身の手持ちに切り替えて幻の身体能力を――って、ひゃあっ!」
ウィンドが其処迄魚に話掛けた所で、説明は終った。何故か――ミコが顔を見せ合い話合っていた魚とウィンドの隙間に威嚇射撃の銃弾を撃ち通してみせたからだ。半ばキスさえ出来る距離、其処迄接近していた魚とウィンドの顔の間を銃弾が掠める――神様人様俺様問わず、ビビってビクッて当たり前である。ゾッと寒気に襲われた魚とミコの事をまだ知っていた分反射的に顔を下げられたウィンドは恐る恐る銃弾が来た方向に振向くと、其処には自身の左手にリボルバー式の特注拳銃を握り、振向き様に冷たい視線を向けていたミコが居たのでした(敬語)。
ニコリともせず冷笑する事も無くこっちを見ている鋭い眼光がとても怖い。口上以来一切喋らなくなった無口さも相まって、まるで暗黒戦士か死神の様だ。
「み、ミコ……ちゃん」「レインちゃん。あは、あははは……」
魚とウィンドは共に引き攣った表情の一部、ブルブル震えた唇から辛うじてと云った具合に社交辞令を口にするが、ミコの目付きは険しいままで変わらない。神様気象一族全員、「ダメだ〜」と腰砕けになり瓦礫の上にへたり込みそうになったのだが。
「おい! オレを無視するな! こっち向け、バカども!」
ミコの登場以来すっかり皆の認識外となっていたエレクトロが怒鳴り散らしたのである。其れを受けてミコは後方魚達神様達とウィンドを初めとする気象一族の面々に向けていた鋭い視線を漸く逸らして敵の筈であるエレクトロに目を向けてくれた。
(そうそう。この構図で間違っていないはずなのよ)
詞に出すとどんなとばっちりが来るか分らない為、魚は胸中思うだけにしとく。その後改めて対峙したミコとエレクトロの二人を視界に捉える。
ミコと闘う・勝負する為に生まれたと云っていた、『狂気』エレクトロ。
信じる事も信じられる事も嫌う俗世最強の女、ミコ=R=フローレセンス。
その二人がこうしてエレクトロの希望通り敵対関係で以て対峙しているのを鑑みると、事態はエレクトロの思う侭になっていると云う懸念が湧いてくる。魚がそんなことを考えていると、実に嫌な事だがエレクトロも同じような台詞を口にしだした。
「フッ……フフフフ、アハハハハ! なにもかもオレの望み通りだな。お前を誘い出す為に国なんて面倒な物を作ったが、建国宣言から一日経っただけでこうして目的が達せられるとは! 我慢するのも善い物だ! さあ俗世最強を誇る怪物ミコ=R=フローレセンス、信じられるのが嫌ならばオレと生命を賭して闘え……グアッ!」
エレクトロが其れ以上発言する事は無かった。喋っている途中でミコの銃撃を受けたからである。ミコの方に注目すると、ミコは拳銃を持った左手を腕ごとエレクトロに向けていた。何時の間に――周囲皆に然う思わせる程の凄技だった。だがミコの動作はそれだけでは終らなかった。最初に使っていた無反動砲を保持していた、影帽子から伸びた黒い手が其の無反動砲を影帽子のがま口の中に仕舞ったと思ったら、中から別に刀、背心刀と云っていたヒヒイロカネで出来た刀を鞘ごと取出し、そして鞘ごと地面に差し立てたのだ。
そして役目を終えた黒い腕はなんとこっちにバイバイと手を振ってから影帽子のがま口の中へと戻っていった。正直、腕一本の癖にユーモラス過ぎであると魚は感じた。どんなキャラ付けしたのか気になりはしたがすぐに其の気も失せるのだ。こんな感覚は永い神様神生でも初めてなのである。
然し、そんな浮気心は消えて正解だったと直ぐに気付かされた。一方的に先制攻撃したミコが、其の行動に負けず劣らず吃驚するような台詞を口にしたのである。
「どうにも新人さん電気さんは勘違いしているようね。わたしはね、俗世最強なんじゃなく、最強の俗物ってだけよ。誤った認識のまま死ぬのはかわいそうだし、せいぜい正しい認識を抱いて逝きなさいな。誤った幻想を抱いて死ぬよりよっぽど気持ちいいんだから。あなたも、あなたが作った国も、全部壊す。殺す。熟す。かつての冬夏戦国時代、『国殺しのプロ』と呼ばれたこのわたし、ミコ=R=フローレセンスがね。光栄には思わなくて結構。せいぜい悔しく恨めしく思って死ぬことね」
言い終ると同時にミコから発せられる、圧倒的且つ純粋過ぎる殺気と闘気。
其れを感じ取った魚達第三の勢力は、此れ迄に無い寒気怖気に震え上がる。
そして、神様達もコンタクトの国民達もエレクトロも皆、思い知らされる。
彼女=ミコが隠し封じ秘めたりし秘密。その本当の実力というものを――。
この度は愚者ぐしゃなわたくしの作品を読んでいただき、心より感謝申し上げます。
さて、本日も無事第17話を章ごとに分割してサブタイトル付けて無事投稿完了しました。
昨日の16話でミコちゃんの旅の目的は大方達成されておりまして、それを踏まえた演出の意図もあり、本日の17話では狂言回しだった神様達と気象一族が実質主役になっております。ミコちゃんは「主役は遅れてやってくる」的に最後の方だけでした。
敵は最後に登場した神様零=ファクタが誑かした元気象一族の殺し屋サンダーでもなく、そのサンダーから生まれ、殺し、成り代わっていた『狂気』エレクトロです。
新しい概念の電気”シーミィ”に神様達も怖れる”信じる力(信仰の力)”を加算したエレクトロ、神様61名全員+気象一族の猛攻も捌き切るシリーズ最強の敵となっております。ですが、『最強の俗物』であるミコちゃんの前では…どうなるんでしょうね? 明日の18話で決着が着きますのでお楽しみに!
相当愚者ぐしゃな作品ですが、みなさんの才能・感性・能力でなにか感じてもらえるものがありましたらこれ以上嬉しいことはありません。
一日1話のペースでチャプター・章ごとに分割してUPしていきたいと思っています。よろしくお願いします。
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2017年ミコちゃんシリーズエイプリルフール企画(!?)でもある「シリーズなろう投稿運動」。この4月の間、お付き合いいただきそして楽しんでいただければ幸いです。