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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第17話 新国家 コンタクト
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第17話_真の敵と真の主役

「“正体不明”?」――魚の発言を受けた哉と祝が魚の背中で然う呟くと、魚は「ええ」と肯定し、回復させた右手でサンダーだった筈の男を指差し、再度指摘する。

「この男はサンダーじゃないわ。なにせ使っている電気が“善い電気”でも“悪い電気”でもないからね」

 其の通りだった。件の男が使役し纏っていた電気は光や風の様に透明で、視線を偏向させる事とバチバチという電気音でしか存在を勘付かせぬ今迄に無い電気だった。

 すると魚の追及を受けた男は「フッ、ヘヘヘ……」と笑い、驚愕の自己紹介をしたのであった。

「その通り。オレの名は『狂気』エレクトロ。サンダーと“両電気”から生まれその全てを乗っ取った人間深層意識と自然意思の混血児さ。使う電気も善いとか悪いとかじゃない。これまで存在しなかった電気――“新しい電気”こと“シーミィ”がオレの相棒だ」

「“新しい電気”?」「“シーミィ”ですって?」

 祝と哉がエレクトロの発言に鋭く反応を見せると、エレクトロは「おう」と肯定する。

「オレが生まれたのはこの身体の持ち主――親であるサンダーがお前達の仲間である零=ファクタからミコを嵌める依頼を受けたときだ。相手は神様の問題を解いた女。更に幻の身体能力を会得した俗世最強の怪物だ。そいつに絡むと親が決めた時、親の心の奥底にあった『ミコと勝負したい』って無意識の狂気と“善い電気”“悪い電気”の電気意思が反応して生まれたのが親達の『狂気』であるオレなのよ。そしてオレに付随する形でオレ専用の電気である“シーミィ”も同時に誕生した。ただな、オレ達は自分達が生まれたてのガキだってことも十二分に理解していたからすぐに乗っ取ることはしなかったのよ。親と零の布教活動の間気付かれねえように潜伏し“シーミィ”を使いこなすための時間と身体を完璧に乗っ取るための準備に充てた。そしてこの新国家コンタクトの建国宣言前に準備は整った。親の意識も心も“シーミィ”で殺し、『サンダー』に成り済ましたオレは零を追い出して“信じる力”を独占することに成功した。後はオレの生まれた理由であるミコを誘い込み倒せばそれでいい。お前らはいい練習台だったぞ。おかげで“信じる力”と“シーミィ”の使用熟練度が大幅に上がったからな。こんな感じに、なっ!」

 喋り終わると同時にエレクトロは腕を振り払って透明な電気――“新しい電気”こと“シーミィ”を魚、哉、祝の三女神目掛けて投げ飛ばす。敵の攻撃を受けた魚は“feel”を閉じて両手で“R”を持ち上げ天に掲げる。すると天から翠とも蒼とも見れる光の粒が魚の翳した“R”に集まり収束していく。羽根の羽毛に触れた光は其の侭刀状態の“R”を更に強化成長させ、巨大な輝く刀と成る。魚は其れを一閃、“feel”で一度読み取った事で感じ取れるようになった“シーミィ”を相殺すべく、横薙ぎの斬撃を放つ。打つかる電気と光、魚の考えでは両方本質は電磁波なので重なっている間干渉し合って、多少なりとも影響を与えエレクトロが狙う攻撃としての機能を失う筈だった……が。

 予想は儚く脆くも崩れ、“シーミィ”は光の刀と成った“R”を知らぬが如くと擦り抜けて、魚に直撃したのである。予想が外れた時の為に身体に防御用の境界膜も張っていた魚だったが、“シーミィ”は其れすらも簡単に打ち破る。直撃を受けた魚は、エレクトロが“シーミィ”に“信じる力”を配合し擦り抜け効果を付与していた事を理解するが時既に遅し、愛用神器である“R”こそ握ったまま放さなかったが、遂に立っていられなくなった魚は、祝と哉の面前で膝を崩し、横向きに倒れてしまった。

「師匠!」魚の防護境界に護られ、且つ自分達の設計図効果で漸く回復を終えた哉と祝が立ち上がって駆け寄ろうとするが、そんな二人を見ていたエレクトロが手をサッと上げたのを倒れながらも意識はまだあった魚が目撃し、口を開いて警告する。

「ふたりとも! 後ろに気をつけて――」然う魚が言い終るより、鳴り響いた二発の銃声の方が早かった。其れ即ち、愛弟子である祝と哉が銃撃を受けた残酷な現実。祝と哉はその後方に駆付けていた警備員達に銃を構えられ狙われ発砲され、命中させられて倒れたのである。瓦礫の床を鈍く鳴らして、哉と祝は魚同様戦闘力を失い、俯せに倒れたのだ。

「し、師匠……」

「哉ちゃん! 祝ちゃん!」

 自分を呼ぶ掻き消えそうな、泣きそうな、とても弱々しい声に魚は何とか寝返りを打ってエレクトロに背を向けてでも倒れている祝と哉の方へじりじり遅々と匍匐前進で向かおうとしていた。然し其れよりも早く警備長と多数の警備員達が各自神様仲間達や気象一族のメンバー達の元へ駆け寄り、腹を足をそして背を踏付けて、動きを止めてくるのであった。魚、哉、祝も例外では無く、背中を踏付けられて動きを止められた。先の銃撃といい、“信じる力”による出力増長がエレクトロに因って為されているのだろう。

「きゃっ!」「ふにゅ!」「痛っ! 離せっ、コノ野郎。たかが人間のくせに!」

 踏付けられた事に対し魚と祝は悲鳴を上げただけだったが、哉は踏付けた警備員に対して暴言紛いの文句を吐く。其れでも結果は変わらない。三名とも動けないままだったし、警備員達は余裕の表情を崩さない。魚の目に映った哉に文句を言われた警備員に至ってはこんな詞を云う始末。

「ハッ、神様も大したことねえなあ。お前らの言う人間風情が集まって祈って形成した“信じる力”の前にこうも簡単に屈しやがる。全く、ミコ様々だぜ。神様なんかよりよっぽどご利益があるじゃねえの。ほらほら、悔しかったら反撃してみな!」

「あっ!」「哉ちゃん!」

 図に乗った詞を放って何度も哉を足蹴にする警備員。当然魚と祝は助けようとする――したかったのだが自分達も踏まれていたので動けず哉が痛めつけられている様を暫く見せられる事になった。事の終わりは10秒程経った後、エレクトロが「もういい。さっさと殺せ」等と先達者として指令を出して警備員もいたぶる事を止めた。そして指令通りに魚達を踏付けていた警備員達と他の神様気象一族を抑えていた警備長以下の警備隊員全員が銃を構えて下に向ける。銃口からバレルを通して銃弾に“信じる力”のエネルギィが収束していくのが魚には見えた。此れでは『設計図』の不老不死機能も突破される可能性が高い。一回でも突破されれば其の先に在るのは『死』。神様と雖も例外では無い。抵抗しようにも既に“信じる力”の加重で身体を押さえ付けられている現状。もうダメかも――観念諦めそして覚悟と様々な感情が堂々巡りした死の目前――。

 

『声』が聞こえたのだ。聞き間違えようの無い、懐かしいあの声が。

 

「一体全体何を楽しんでいるの、無象ども。よもやこのまま流れに逆らい救いようのない失敗に身を落とすのが、あなたたちの本望かしら?」

 

 其処まで聞こえた後一発の銃声が響いた。だが其れは警備隊が地面の神様達に対して放った物では無い。逆だ。地面地中から空へ向かって飛び出して来た非殺傷性のボール程もある巨大な銃弾が哉を痛めつけていたあの生意気な警備員の顔面に直撃し爆発、警備員を即転落且つ気絶させたのだ。其の一発を皮切りに、地中から続けて重ねて連続して同じ大きさの銃弾が矢継早に飛び出して来た。混乱する警備員たちを尻目に、『声』は続きを語る。

 

「大体、何故あなたたちはここにいるの? 闘いも力も願いも夢も、あなたたちには全て分不相応でしかなく、すべからく慎ましく生きることだけしか権利を持たぬはずのあなたたちが、どうして国などという愚物に集まる? 縋る? 群がっているのかしら?」

 

「うっ、うわあああああっ!」「たっ、助けてくれぇ!」

 正確無比に警備員達を襲う巨大な銃弾。一回は避けられてもまるで其の逃げ道回避行動を読んでいるかの如く次の弾で仕留められていく警備員達。防御も回避も出来ない、今が正に地獄絵図の彼等は誰でもなく、ただ「助けて」と叫ぶ事と駄目だと分っていても逃げる事しか出来ずにいた。

 其れは同時に押え付けられていた神様達と気象一族が自由になる事を意味する。拘束されていた時間が幸いし、神様達は起動出来ずに充填しているだけだった『設計図』の回復機能を此処で一気に発動させ、身体を急速に治し始める。気象一族の面々も此の機を逃さず、回復能力を使用していた。程なくして一人、又一人と“シーミィ”と“信じる力”に一度敗れ去りし神様達人間達は、足を踏みしめ再び立ち上がっていく。警備員達の妨害は無く、其の原因である地中からの巨大銃弾が妨害してくる事も無かった。雨霰と打上げられる此の銃弾、そしてあの『声』は味方なんだと再認識する。何故か銃弾はエレクトロの方には撃たれていなかったが、其れは「ボスは最後に残しておく」的な戦闘美学の一種だろうと、魚達は認識した。

 其の合間にも警備員達を襲い続ける銃弾。そして『声』は更なる文句を口ずさむ。

 

「門出の日。万物皆全て故郷へと還り、新たなる身体慎ましき心得を得て再び家へと帰らんと走る。そこに悲しみはなく、憐れみもない。ただあるのは希望と絶望が彩る新たに開けし未来のみ。未知なる展望抱くは大望。皆遥か彼方の栄光を手にせんと海に出てはことごとく迷子となる。しかし、そこにはひとつの道標。木より巣立ちし我が身と心が、満天の中残すか消すかを選び取る。その選択を無下に改竄せんとするならば――」

 

 其処迄喋っておいて『声』は途切れた。ひと呼吸おいた――魚は直感で感じ取り同時に地の底に確固たる心の気配も感じ取る。再び立ち上がった神様達と気象一族の一部は地面に気を配り、待望む。そして遂に『彼女』が――『声』の持ち主が現れた。今迄の巨大銃弾より更に大きい、鉄球級の砲弾で瓦礫も地面も吹飛ばし、最後の口上とともに現れる。

 

「見逃すわけにはいかない。覚悟しなさい、あなたたち。その愚かさ極まりし心根をひとつ残らず滅し尽くすまで、安息の吐息さえ一息たりともつけぬものと知りなさい!」

 その締詞を以てして、声の持ち主は現れた。

 

 そう、ミコ=R=フローレセンスが現れたのだ。

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