第17話_魚の采配→神様全員神業披露
其の準備光景を魚は祝、哉と共に微笑ましく見守る。既に自分達は準備完了。気象一族の出方を見て、準備が整い次第又リードする腹積りだったのだ。勿論指揮を執るのは魚である。指揮だけなら祝や哉、絵&迷に幽と失、極に哲、刀に零でも特段問題無いのだが、今は特段気を配らねばならない状況。そんな極限状態に対応出来るのは、あらゆる面に対応しきる魚=ブラックナチュラルだけなのである。
「それじゃあ一斉攻撃で一気に落とすよ。皆は自分達のできる攻撃準備に入ってて」
「了解!」
「いくよー。フィール展開。座標目標敵T! 幻視画拘束開始!」
魚は左腕に接続した本・フィールを開き、今自分達の居るプロマイズの町の風景を立体映像のような幻視画にして見開いたページの上に表示する。そして其処に映っていたサンダーの幻視画に、右手に持っていた羽根剣及び羽根ペンのアールで小突いたりさらっと秘文字を書き出した。其れは“幻因結実”と呼ばれる魚の得意業。フィールに映した対象の幻にちょっかいをかけるとそのちょっかいは現実の対象にも効果を及ぼす。正に勝手し放題、神様の持つ特権を象徴する様な業なのである。この幻因結実で魚がちょっかいをかけているのは当然敵であるサンダーだ。幻視画越しに魚は、サンダーの動きを封じ込めにかかっていたのだ。そして其の効果は早くも現実に現れていた。
「ムッ? くっ……身体が、どうしたのだ、我輩の身体が、思い通りにならぬ、だと……」
「カーレントちゃん! スノウちゃん!」
「了解よ、女神様!」「行きますよっ!」
魚に促されて、気象一族のカーレントとスノウが夫々片手両手を幻因結実で動けなくなっているサンダーに向けて翳し、術を発動させた。狙いはサンダーの身体の中を流れる血液を始めとした体液全て。属性回帰でサンダーの体液から『海水』の頃を呼び覚まし、カーレントとスノウの能力対象とする。先ずカーレントが海流操作の能力でサンダーの体液を超高速循環させ、剰え血液と他の体液をごちゃ混ぜにする暴挙ぶり。当然サンダー、苦しみ出す。腕振り腰振り悶え出す。
其処にスノウが凍結能力をサンダーの体液全てを対象に行使。サンダーも一応は人間、身体の6割〜7割が水分だ。其れを一挙に凍らされて、敵たるサンダー、悶え途中の姿で止まり、冷たい氷像擬きに成って固まってしまった。其れこそ魚が望んだ状況――神様達気象一族が全力の攻撃を無防備なサンダーに打つけられる、願ってもない、願った瞬間。
時は来たりよ。ものども、かかれーっ!――魚の印象に似合わない大声飛び声叫び声が神殿湖プロマイズに響き渡ると、残っていた神様達と気象一族で攻撃準備をしていたウィンド達が一斉に「おおおおおっ!」と掛け声を上げ、思い思いの攻撃を我が先よと繰り出し始める。尤も、衝動的な攻撃群にも秩序は在った。先ずは最速一番手、近接攻撃をメインとする神様達が動けぬサンダーの零距離に群がり包囲し埋め尽くし、徹底的に打ちのめし始めた。順番に己が神業を披露する形で。
失の“機能双失”。
幽の“幽具”攻撃。
完の“無神拳”。
極の“暗殺術”。
葵の“神母格闘術”。
巡の“非対称棒術”。
禊の“戦闘包丁”。
湊の“短槍神技”。
萌の“服飾演武”。
颯の“修身体技”。
帳の“刀髪の舞”。
語の“言霊兵士”。
“円盤”使いの天。
“神器”使いの宝。
“空中殺法”の羅。
“海賊戦法”の礎。
“最終兵器”使いの華。
“神海星剣”を使う剣。
近接戦闘に長けた神様仲間達が夫々の得意業――俗に神業と迄呼ばれる程昇華させた絶対の個性をサンダーに喰らわせ、打つけ、叩きつける。
其の近接戦闘の披露中、気象一族と共に床に足を着け視界の上辺に今正に闘っている仲間達の姿を捉えていた神様達が、各々の神業を使って補助なり中遠距離攻撃で波状攻撃の第二波と成る可く、術を起動させる。先ずは補助・特殊系の神業で下準備。
翠が“カード”でサンダーを拘束し。
暁が“動力配分”で仲間達の力を調節。
刀の“底上げ発見秘めたる力”で仲間達の力を高め。
要の“条件操作”で環境を攻撃に最も適した状態にし。
学が“トンネル”で一部の射撃を空間跳躍系にしたり。
直が“射撃矯正術”でこれから撃つ仲間達の弾道を調整。
雅の“体型類型集”がサンダーの身体をガチガチに固め。
扉が“神眼・千里眼”で付入る隙を探っては見つけ出す。
其の身体を巴の“変異突発”で突然変異させ。
味方の身体には透の“透き通る捺印”を施し。
更に進の“素質覚醒”でポテンシャルを上げ。
治も“超越機関”でもって皆の出力を上げる。
その上彰の“個性伸長”で皆の個性を強化し。
羽の“標識”で敵味方の行動を規制かつ助長。
敵のサンダーには翔の“過負荷重ね”も追加。
仕舞いには整もあの“狂活字獄”を発動させ。
老神始も“作戦資料”で攻撃作戦を調整する。
以上攻撃よりも補助や仲間の強化を得意とする神様達が近距離攻撃を援護しつつ、サンダーへの締付けを一層強化し、且つ此れから出番を迎える中遠距離攻撃を担う神様仲間達の戦力増強を着々と進めていた。
そして遂に其の「時」が来た。近接戦闘中だった神様達が一斉に飛散しサンダーから離れる。固められているだけに血の一滴も流さずに不動の構えのサンダーだが、魚の本・フィールが映し出す幻視画にはちゃんとダメージ蓄積の情報がUPされていた。これを好機と捉えた魚さん、接近戦を挑んでいた仲間達には「撤退」の合図を。補助に回っていた仲間達には「集中」の合図を。そして最後中遠距離、アウトレンジ攻撃を担う神様達には「実行」の合図を送る。神様限定の通神術ではない。気象一族にも通じる思話通信でだ。
其の合図を受けて、先ずは残る神様連中が一斉にサンダー目掛けて射撃砲撃中遠距離攻撃を始めた。
愛がロケットチョークを“八卦の式”で投げつけ。
茂は“水晶球破”で生成した水晶球を投げ飛ばし。
環がボールを“蹴るも投げるも運次第”で連打し。
巧は構えた弓矢を“弓道砲”の威力で撃ち抜いた。
㬢は“万物使い”宜敷く、万物を操って攻撃させ。
牙が“受け継がれし旋律”で音楽攻撃を奏で放つ。
遥も又“指鉄砲”、“指射撃”でサンダーを撃ち。
情報の神である紫は“大気拳”を相手に押し込む。
贅沢な守は杖“律破”を“御日式流杖術”で打ち。
整の自称弟分士は“鉄式布術”で大砲を作り撃つ。
哲は得意分野の“空爆”でサンダー付近を爆破し。
務が“機蟲重来”で機製蟲の大群を敵に向かわせ。
落も又“式神艦隊”を発動させ己の式神達を派遣。
戦は“声無き声”で無意識への干渉を請け負って。
サンダーと同業の雷が“雷価暴騰”で電気を操作。
身体が電磁波の球は“波浪放送”で波動を荒らす。
その上祭の“祭典大音声”で強化された“指鳴子”を希が鳴らし。
挙句熱の“業火炎装”で燃盛っている“引装壊発・巨神兵”で焰が燃える豪腕を落す。
そしてサンダーに利用された零が“現想発声”でサンダー周囲の空間を「弾丸・爆弾」に成り得る物質を創造する事で埋め尽くし、発射せんとす。既に近距離攻撃を行っていた神様仲間達は撤退済みだが、其れより危険な状況にサンダーを追い込んだのだ。
其れから其処に極め付け。残る祝と哉の「魚の弟子コンビ」に迷と絵、そして魚の「神業らしいものしかないトリオ」が其の身から極限の業を繰り出す。
祝が両手から金属爪をサンダーに発射し、十指最高最強の“どの道選べず指示の数”で連絡系統を総攻撃し、次いで哉が取って置きの箱ならぬ“匣”を6個祝と同じようにサンダーに向かって飛ばし、取り囲む様に配置すると、間髪容れず全てを中央サンダーの位置で重ねる様操り、匣を一体化させる。付加していた特殊効果による空間歪曲でサンダーを空間毎圧迫させるのが狙いだ。
二名の女神の個性性格が色濃く彩る二つの神業。其れに続き、迷、絵、そして魚も動く。
三名の女神の、型に嵌らない、説明し難い攻性の業。通称。
迷の“詳細不明”。
絵の“一切不明”。
そして魚が刀と成った羽根ペン“R”で繰り出す斬撃一閃、“名称不明”。
是等三つの技が先の二つの神業に見事に合わさり、サンダーを傷付ける。
そして、其の感触を確かめた魚が待機していた気象一族風属性の三人に最後の「声」を贈る。振向き目で確認する迄も無く、風属性の三人は準備万端。目には目を。声には声をの論理で「声」で以て返して来てくれた。
「了解です魚さん。気象一族風属性の切札、浄破風線、発射ぁ!」
「うおりゃーあっ!」
ウィンド、サイクロン、トルネードの声が重なり、巨大な叫びと成って技を繰り出すトリガーとなる。浄破風線――然う呼ばれた光線成らぬ風の線は其れ迄の攻撃全てを不過視に隠して照準サンダーへと到達。然し其処も通過点と云わんばかりに其の勢いの侭上空宇宙へと光にも負けない速度で伸びて行った。渦中のサンダーは身体を風の摩擦で焼き消され、不過視どころか物理的に消えた。素粒子レベルでの完全なる消滅。其の為に神様達とカーレント&スノウの気象一族水属性が一致団結して何重にもサンダーを拘束制限、抵抗も押さえ付けていたのであるから、此れくらいの結果は要求の範囲内である。魚の頭の中にはサンダーが耐え切る可能性も49分の1くらいの割合で残っていたが、浄破風線を見て、その不安も消し飛んだ。要求通り……いいや要求以上の仕事をした神様仲間達に気象一族の御友達達、其の仕事ぶりが魚から不安を取除き、代わりに小さな安堵を齎してくれた。敵の気配――サンダーの気配は完全に消えている。此れ即ち勝利の証拠。魚同様に気配の消滅を感じていた神様仲間達と気象一族の面々は一斉に勝鬨と雄叫びを上げる。神様達は零の不手際の後始末ができたことに喜び、気象一族の皆はミコを信仰対象とする巫山戯た宗教を解体する第一歩が教祖サンダーの抹殺で以て踏み出せた事に安堵する。お互いの作戦目標が達成された――魚でさえ然う思っていた。其の筈だった……。
が、次の瞬間!
魚の脳裏に只ならぬ直感悪寒が走ると同時に、左腕接続で浮かせてあったフィールの幻視画に、未知なる人影が現れたのだ。其れも、サンダーを攻撃していた位置に。
フィールが映し出した人影の構成素材は未知の素材らしく悠久の時を経て情報を収録していたフィールの索引にも引っ掛からない新情報。魚の直感が直ぐに告げた。「これはマズい」と――魚はすぐに動いた。
「全員防護境界張って防御に専念しなさい!」と声を荒げて叫び呼びかけると共に、自らは愛弟子の祝と哉を術で引寄せて手元に置くと、“R”で“feel”にコマンドを入力し、自分達3体の周りを特殊加工した防護境界を五重に張って事に備えた。“五重の層”と呼ばれる得意技かつ魚が出来る限りの最大級の防御技で以て防御に専念する魚を見て、只ならぬ事が在るとだけ他の神様達や気象一族の者達も頭より先に身体で理解した様子で、各々防護境界を張ったりしようとした矢先だった。
サンダーの居た場所――皆で攻撃していた場所から光が溢れ出し、全方位に光が届き満ちる。そして其の光が触れた途端、防護境界は破砕され、且つ防御の構えを取っていた魚達全員の身体が中から、焼け焦げたのだ。
「ぐうっ!」
唇を閉じ歯を噛み締めて、其れでも悲鳴は出てしまった。神経系と血管系と循環器系と……詰る所身体の全てで感じた何かが走って攻撃された感覚。全身が痙攣し悲鳴を上げて機能停止に追い込まれ、身動きが取れなくなる。一人一体、又一体と仲間達が倒れて行く。
そんな中にあって魚は咄嗟に“feel”を開き、中に映る自分と祝、哉の幻視画に“R”で細工する事で環境其の物をパラメータ変化させて光の攻撃を減衰し、かろうじて身体の自由と直立姿勢を維持していた。然しダメージは酷いもので、節々に痛みがビリビリ走る。これほどの痛み、神様になる前ですら感じたことはないだろうと、走馬灯の様に一瞬神生を思い返す。
でも直ぐに魚は現実に帰る。周囲を見回してみると其処に在るのは死屍累々。防御が間に合わず立つ事叶わず回復も遅々として進まず倒れている神様仲間達と気象一族の面々だった。立っているのは自分だけ。信じ難い事だが、迷と絵迄も倒れていた。そして魚が最優先で助けようとした祝と哉は、倒れてこそいなかったが腰を下して地面に座り込んでいた。おそらくは其れが精一杯なのだろう。
「ぐ……うっ!」
魚も又再度何度と倒れそうになる身体を“R”を地面に突き刺す事で漸く支え、取り敢えず設計図による足の回復に努めた。其の時後ろから愛弟子達の「師匠……」と云う半泣き声が届く。正直後ろを振向いていられない魚は苦肉の詞だけ吐き出す様に話す。
「哉ちゃんも祝ちゃんも……痛いよね? わたしも同じ。今がとってもキツくてしょうがない。手も“feel”も使えないから、自分達の持っている設計図の回復作用でなんとか保たせて。わたしは……あの“正体不明”くんの相手をしてあげ……ないと、ね……」
振向かず前から目を逸らさず然う言った魚の眼が毅然と捉えていたのは――。
サンダー? いや違う。身体がスリムに然も若々しくなっている等の差異が有る、端的に云うと「サンダーを素体とした別物」、であった。