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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第17話 新国家 コンタクト
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第17話_信じる力の脅威

「サンダー! いるか!」

 神殿の最深部、深奥の間と回廊を隔てる扉をシャインとクラウドが破壊し、中に突入した気象一族11名。その代表としてサンダーと面識のある三頂老の一人、スモッグじいさんが姿を確認するよりも先に啖呵を切った。返事は無かった。だが「kkk……」と擦れそうな音量で笑う声が静かな深奥の間に響く。それと同時に気象一族の使節団は目的の人物を視界に捉えた。こちらに背中を向けて床に座ったまま笑っている男、サンダーの姿を。

 サンダーはひとしきり笑い終わると、気象一族の面々の方へと首を回し、横顔を見せ、横目でその姿を見やる。その目には何の感慨も興味も抱いていないことが、目の色目の形で十分に伝わってきた。それだけに気象一族のみんなは腹が立つ。自分達がここにいるのはボルケーノが身を挺して邪魔な神様達を足止めしてくれたおかげ。ボルケーノが切り開いてくれた道を進み辿り着いたという経緯くらい察しろ――なんて誰も思わない。そんな反応誰も期待しちゃいない。だが理性と感情は並び立つ別物の生命要素。こっちが伝えるまでもなくとうに全てを知ってるくせに白々しく鼻で笑われたら怒らないなんておかしい、そういう話である。元々この新国家の壊滅を目的としている気象一族使節団(に神様集団)、昔から頭が切れることで知られたサンダーならこちらの来訪理由なんてとっくに見抜いているはずなのだ。その上で笑われたのだから頭にくるというものだろう。皆、すぐにでも殴り掛かりたい衝動に駆られる。

 が、そこは気象一族。闘いにおいても鉄の規律を遵守するいい子ちゃん達。全員一緒に飛びかかるのではなく、チームに別れて小分けの出陣。なぜなら今回は年代別の波状攻撃と、突入前の井戸端会議の時引いたあみだくじで決まったからだ。なのでまずはサンダーと同世代、三頂老のジジババ三人が前に出る。ちなみにこの出撃順番もくじで決めたものだ。遊び心を忘れないのが気象一族のモットーである。

 後ろに後を未来を担う若者達を待機させ、一歩一歩間合いを詰めていく三頂老ことスモッグ、ミラージュ、ミスト。サンダーの方もそれを受けてようやく体全体を回転させ立ち上がり、重苦しそうな軽々しそうな儀式装束を靡かせて悠然と構えてこっちに振り向く。三頂老もその時点で立ち止まり、軽い緊張状態となる。と同時に訪れる短い硬直状態、その均衡を破り先に詞を口にしたのは三頂老の方だった。スモッグがいつもの口癖を止めて、えらく真剣な口調で口を開いたのだ。

「久方ぶりだな、サンダー。最後にその顔見た時からもう200年近く経ったか……時の流れとは早いものよ。お互いこうして生き存えたが未だに後継者を見つけられずに現役なのだから、重ねた月日に意味も価値もなかったようだな。お前の面の皮も、あの頃と何ら変わらない、電気は通っていても元気の無い顔のままじゃないか」

「そうだろうな。そうだろうよ。我輩は形も姿も変わってはおらんさ。外面は昔と一切変わらん、美しき時のままを保っている。だがそれは外面の話、我輩の中身まで変わってないと思ったら大間違いだ。まあ、察しているようだから良しとしよう。なら訊き返すがお前達はどうなのだ三頂老、外見からしてえらく老けたようだがな」

 スモッグじいさんの社交辞令も中々攻撃的だったが、サンダーはそれを上回る痛烈な皮肉で返してきた。言われたら確実に立腹ものの発言、しかしスモッグじいさんをはじめとして、老けた老体三頂老、そこは流石の老獪さ。顔色一つ変えることなく、飄々とした態度で受け流す。だが、ご隠居ミラージュが手に力を入れて指をコキコキと鳴らし掌底に近づけた拳の形を作るなど、戦闘準備は着々と整いつつあった。もうじき闘いが始まる――その様子を後ろのウィンドやカーレント、シャインにクラウドにスノウ、サイクロン、トルネードの子供トリオ、そして気象一族最終兵器のメテオが一様に息を飲む。

 そしてその時は訪れた。一瞬の間で立ち位置から消え去った四人は互いに間合いを侵略し、出会い頭に技を出す。三頂老はミラージュを軸にスモッグはミラージュの上に飛びミラージュの頭を起点に得意の足技踵落としの構え、そしてミストは『人間兵器』としてピンと背筋を伸ばした体勢で足首をミラージュに掴まれて『人間棍棒』になり、その石頭から爪の先まで固い鈍器として振り回され、サンダーへと振り回されていた。一方のサンダーは、右手左手両腕に電気を纏わせ放電の構え。右手には白い電“善い電気”、左手には黒い雷“悪い電気”を放出し武器扱いのミストと上から仕掛けているスモッグ、そして中心のミラージュに向けて帯電した手と同じく帯電した両目を向ける。その時サンダーは小声だが確かに呟いた。『雷電戦技・許容崩壊』と。

 その詞を聞いた直後、勝敗は決した。

「ぬお……やられた」

 脚本通りのお約束、雑魚キャラがやられる際の定型句とも言える断末魔を言い残して三頂老は床に倒れ置物となった。サンダーの技に肉体の強度と神経系をズタボロにされたのである。しばらくどころかもはや動くことさえ叶わないだろう。治療しようとしても、自分では動けないので自己修復が出来ないのである。助けるには残っているウィンド達が治療を施してやるしかない。必然的に次の相手がサンダーの前に出ることになった。

 状況の暗転を受けて非常時の指揮権を任されていたウィンドとカーレントが集団から一歩前に踏み出す。詳細不明の技で倒れた三頂老を見て少し緊張、もしくは怯えた様子の子供使節団ことスノウ、サイクロン、トルネードを庇うように前に立ち塞がる。その上で二人は子供達を奮い立たせるため、詞をかけるのだ。

「緒戦はこっちの負けね……子供達、見えたかしら?」

「み、見えなかったわウィンド姉さん。じいさん達が倒れた理由はわかるけど……いつ、それを引き起こしたかまでは……」

「わたしも、そこまでは……」「男として悔しいけど、同じく」

 スノウが回答するのに続いて、「子供達」とひとくくりにされていたサイクロンとトルネードも自分の把握している範囲を嘘偽りなく報告する。その回答を聞いたウィンドとカーレントはサンダーの謎を紐解きにかかる。

「サンダーの奴が使った技、あの技に限らずサンダーの攻撃アクションの発動タイミングは実際の所こちらが仕掛ける時とほぼ同時、所謂カウンターさね。でもね、技の規模が問題。あいつはどんな技でも戦略兵器並みの規模として使うのさ。言うならば一対一のガンマンの決闘、こっちがリボルバーのシングルアクションなのに対して相手は大砲かミサイルをぶっ放しているような感じなんだなあ。過剰すぎる戦力差が一方的な戦果の差を生むってこと。サンダーの奴の『雷電戦技』と『戦闘百科』は基本少人数相手の“戦闘”じゃなく、大量数相手の“戦争”用の技ってこと。つまりこっちも最初から戦争技を使えばあそこの三バカ頂老みたいにすぐやられはしないっさね」

「でもだったらなぜ、三バカ頂老様は……一番そのことを知っていようものですが」

 サイクロンが指摘する当然の疑問。それに対しウィンドとカーレントは呆れたような仕草を魅せて答えた。

「単なるボケよ。長年前線から離れていたから身に着けたはずの経験も知っているはずの対応策もぜーんぶ目先の相手に対する戦闘欲で塗り潰されちゃったわけ。まあ、200年ぶりに再会した元お仲間だからね、無理もないってことよ」

「うわーバカだー」

 ウィンドはサイクロンの問いに三頂老を立てる形で敗北原因を解説するが、それを横で聞いていた現実主義者の少年トルネードが無情にも辛辣な口調で痛烈な評価を下す。確かにバカと言えなくもない。弁護側に立ってみたウィンドとカーレントも諦めたように頭を掻きながら溜息をつく。やっぱりバカやった三バカ頂老の弁護はできない。無理難題どころか未解決問題ものの難問。そもそもトルネードの言う通り、庇いようがないのだからしょうがない。人生諦めも肝心である。

 そんな感じにサンダーの攻撃情報を共有した気象一族の残りメンバーは各々が戦争用規模の技の用意をする。すると奇妙なことに気付く。「レインLOVE」の残念な傑物シャインとクラウドがなにも行動を起こさないのである。というより気配すら死んでいた。そのことに気付いたウィンドとカーレントに子供トリオが二人の方を振り向くと、シャインとクラウドの背後にいたメテオが静かに首を振り、固まっていたシャインとクラウドの背中を指一本でちょんと押す。したらばシャインとクラウドは「無念……」と三バカ頂老よりも情け無い末期の詞を残して押されるままに倒れたのである。「どうやらサンダーの攻撃はこの二人にも照準が合わさっていたみたいだね」とメテオが簡潔に解説すると、ウィンドは踵を返してサンダーに向き直り、「あなた、なんてことしてくれるのよ!」と轟々に非難するが、サンダーは澄ました顔して素知らぬ様子。そのとぼけぶりがウィンドとカーレントの癇癪玉を刺激する。破裂寸前となった癇癪玉を抱えた二人はその爆発の勢いそのままにピエロ三番手となってしまいそうになったが――。

 後ろにいたメテオが二人を遮るように最前線に移動したことで、二人は急停止するとともに理性を取り戻して急速に落ち着いていく。

 ウィンドとカーレントはなにも言えず。むしろこの反応を蚊帳の外から見ていたスノウ、サイクロン、トルネードの子供三人がメテオに向かって声を投げる。

「メテオ兄さん、やる気なの……?」と。

 すると呼ばれたメテオという名の優男は、少し後ろを向いて結んだままの口で笑みを魅せるとサンダーの方に顔を戻し、「もちろんやる気さ」と前置きして続ける。

「これは説得でも戦闘でもない、戦争なんだ。なら気象一族最終兵器と呼ばれたボクさんが出るべきだろうよ。ねえ? ウィンド、カーレント?」

「道理ではあるけど……ねえ?」

「そうさねー、巻き添えが怖い」

 戦争に乗り気であるメテオの詞に対し、彼の事をよくわかっているウィンドとカーレントは彼の戦争がもたらす被害を受ける前から怖れていた。しかし既に戦闘から戦争へとカテゴリージャンプが起こってしまった事態を鑑みるに、それしかないのも事実だった。二人の女は「しょうがないかー」と嘆息した後、メテオに次を任せて後ろに下がり、子供達の方に合流する。まるでサンダーではなく、メテオから子供達を護ろうとしているかのように陣取る。スノウ達三人の子供組はそんなウィンドとカーレントの間からメテオの背中をじっと見守る。その視線を追い風に、メテオは不敵な微笑みを崩さず、サンダーに話しかけるのだ。

「初手から五人も失うとはね……気象一族も墜ちたもんだね。それとも相手にしている200年前の脱退者が強すぎるのかな? まあ、どっちに採ってもいいことだね。どっちにしろ……そう、そのお陰でボクさんはこうして闘いの舞台に立てるのだから」

「ほう……次の相手にはヒストリークラス・プラネットスケールの封印型端末である君が出てきてくれるのか1044代目のメテオよ。これは期待を上回る選択だな。どうやら今日の我輩はことごとく神の、ミコ様の加護を得ているようだ。フフフ……とっても気分がいい、そして胸が高鳴るぜ」

「神――ですって?」サンダーの戯言そして許されざる暴言にメテオの後ろにいたウィンドが過敏に反応する。レインを勝手に神様なんて崇めて、挙句の果てにこんなに信者を集めといて――ミコを、レインのことを俗世で一番よく見てきた親友だからこそ、レインがもっとも嫌うことをやっておいてしたり顔をするサンダーに過剰な敵意が湧いて出た。再び飛び出しそうになるが、メテオが出した手に阻まれてすんでのところで思いとどまる。

「メテオ、あなた……」

「まあ、ここはボクさんにやらせてよ――死ぬ前に一度くらい見ておきたいんだ。ボクさんの中にある隕石が、空を割る景色をね」

 そう言ってメテオはウィンドの前に出した手をそのまま持ち上げ、人差し指一本を上に突き出す。

 来るか隕石――味方のウィンド達に敵のサンダーもメテオが指差す天井を見上げた。そしたら――。

 なんと屋根を破ることなく屋根の内側天井直下にメテオが封じていた隕石の一部が召喚されすぐさま爆散したのである。メテオの大技の一つ、『隕石伝技・直落爆砕』であった。天井下で起こされた爆発、10メートルも離れていない距離で起こされた爆発。ウィンド達も敵のサンダーも反射神経で防御に入った。

 そしてほぼ同時に、メテオ達のいる神殿深奥の間は内側からの爆発と大量に飛び散った隕石の衝突貫通により原型を留めないほど崩れ去った。それどころが、壁を突き破った隕石はとても大気圏から放たれたとは思えない、宇宙からの落下速度に匹敵する速度そのままに神殿の壁を次々破り遂には地面をも抉って湖の霊水を異物と熱で穢すのであった。当然神殿は建っている状態を保てず、程なくして神殿全てが崩壊した。

「ぷっはぁ! みんな、生きてるわね?」

 ほとんど零秒反射で防御を行ったウィンド、彼女の風殺空獄に同じく風属性であるサイクロンの「旋風」とトルネードの「回転風射」が合わさり、即興の風属性三重合体技でもってメテオを除く5人はその身を隕石や瓦礫から守っていた。メテオはこの防護境界の中に入っていなかったが術者本人なので問題はない。自分に当たる分は自分の身体に最封してしまえるから。

 なのでメテオの心配はせず、攻撃対象であるサンダーがどう対処したかが目下の焦点関心事。粉塵舞い踊り曇る視界の中、ウィンド達気象一族のメンバーは前線のメテオ同様、消えない気配を放っている砂塵の中の一点を凝視する。煙が晴れ出したその一点から、経度のように“善い電気”を並べ、それと並行緯度のように“悪い電気”を横に回し、惑星儀の半球でも描くかのように雷電防護境界・絶界円蓋を展開するサンダーの姿が見えた。メテオの爆散させた小隕石を全て電気の持つ斥力でもって弾いていたのだろう、全くダメージを受けていない様子だ。不敵に笑うその姿にウィンド達は腹が立つが、この惨状を引き起こしておいて唯一なんの防御もしなかったメテオだけはその様子を注意深く観察していた。少しの猶予で考えていたのだ。自身に対して相性の良さそうなサンダー相手に次はどう攻めるかを。僅かな時間、迫りくるプレッシャー、しかしメテオは結論を出した。

 すぐさまメテオはもう一度手を天に翳す。そして今度は口でブツブツ、呪文を唱え出したのだ。

「我は星の蔵なる者。現世に地獄を敷く者。空を紅に染める者なり。我が身我が蔵に在りし星の欠片よ、その身を魔法で輝かせ理の敵対者を打ち砕け!」

 呪文を唱え終わると同時に、既に暗く夜の漆黒に染まっていた空が夕焼けに逆光したかのように赤く塗り潰されていく。その赤い空の中心から、屋内での展開故に小さめのサイズだったさっきの隕石とは桁違いの大きさを誇る第二の隕石が赤い空気摩擦を突き破るかのように加速し続け、ここに向かって高速で落ちてきていた。「デカっ!」とカーレント達気象一族の仲間達が叫ぶほどの代物。神殿どころか、神殿のある湖をも潰してしまいかねない巨大な隕石を使ったことに結構動揺させられる。こりゃ防御より回避を選択する他に手段はないと感じ足を落として「跳ぶ」用意をする。一方サンダーはあくまで絶界円蓋で防御の構えを崩さない――と思いきや、足を屈めて全力跳躍し、壊れた屋根も通り越して、自ら隕石に向かっていったのである。その行動を見ていたスノウが、驚きを隠さずに口を開く。

「あいつ、メテオ兄さんの隕石を空中で押し返すつもりなの? そんなこと、できるわけないのにぃ……」

「いいえスノウ、あいつが“信じる力”をその身に纏い電気を強化すればあの隕石を再度衛星軌道上に持ち上げることだってできるはずよ。ただ今のところは“信じる力”を纏ってはいないわ。雷電戦技と戦闘百科だけでなんとかできると思っているんでしょうけど、メテオの隕石伝技は質も量もケタが違うわよ!」

 幼いスノウの心配を年長者のウィンドが懸念混じりとはいえ、払拭させようと詞を紡ぐ。同時に術者であるメテオがこっちにやってきて、「そろそろ皆ボクさんのところへ」と囁く。ウィンドとカーレントは間髪容れずに同意肯定したが、そのときだった。

 ハッと見上を見上げたスノウが、サンダーの動きを察知して声を張り上げたのである。

「見て! あれ、街中から見えない力がサンダーに集まってるよぉ!」

 その詞に術者のメテオ、引率者役のウィンドにカーレント、そして残る子供仲間のサイクロンとトルネードが総員一斉に空を見上げる。そこには今にも落下接触しそうな位置で隕石の真下で宙に浮いているサンダーの姿があった。ただここにいた時と明確に違うのはスノウも言っていた通り、見えざる力がサンダー一点に集約されているということにあった。それがサンダーのばら撒いた“信じる力”だと気付いた時には手遅れだった。空中へ飛び立ったサンダーは絶界円蓋を絶界気球へと変え、その球体の中に“信じる力”のエネルギーを無尽蔵に貯め込んでいく。雷電防護境界が星のように輝く。そして奴はそのまま落下して来る隕石に向かって突撃し、衝突し、止めたのだ。それを見て一番驚いたのは、他ならぬ術者であるメテオだった。

「バカな! 雷電戦技を無効化するためにヒヒイロカネの特徴を『絶縁金属』に変えたんだぞ。“信じる力”でブーストしたとしても電気戦術は通じないはず!」

 感情余って叫び声を出してしまうメテオ。彼の選択は間違っていない。では間違っているのは何か? 答えはサンダーに対する認識。

 つまりサンダーの採った主砲手段を誤認していたというのが正しい。そのことに気付かせてくれたのはなんと、ボルケーノの足止めを突破した神様達の一団だった。姿を現すやメテオ達気象一族に「あいや待ってよ!」と見得切った女神様がこちらを向いて解説を始めた。

「メテオの戦略間違いに非ずよ。ただただ敵もさる者なわけ。まだまだな私らの仇敵サンダー、善いも悪いも一纏めに使う電気を其の身に使い、電磁相転移を起して身体を頑丈にしたってことよ! 落下中の隕石を止めたのは“信じる力”の加算された筋力、それだけね。全く厄介な奴よ奴等よ、敵のサンダーも、まだまだな私らを足止めしてみせたあなたたち気象一族もね! 然し此処からが舞台の本番、主役の神様此処に参上! さあ、華麗に優雅に決めるわよ。まずは漬物石にはでか過ぎる隕石の処理ね、焰!」

「はいよー華。私の準備は万全だよ。そんじゃ行くよ、“引装壊発”!」

 遠い天辺見えない場所からウィンドとカーレントが聴いたことあるノリの良い声が響く。

 その直後、メテオの落とそうとしてサンダーに受け止められてしまったヒヒイロカネ鉱石の隕石は木っ端微塵に砕け散った。隕石の上辺に「着地」していたあの傍迷惑な女神様、ガデニアの夜では確か瓦礫を纏ってコスモスと闘っていたという……焰とか言った女神様が、拳一つで宇宙最高級の金属ヒヒイロカネの大鉱石を無尽蔵の破片に砕いたのだ。そしてやっぱりあの日と変わらず、砕いた破片を引寄せてその身に纏って瓦礫の巨神兵と変貌したのであった。今回は「材料」に使った隕石が大きかったので、あの上空に頭部がありながら脚部は湖の底に着くという巨体ぶりである。メビウス・ラウンズの時よりも10倍以上は大きいだろう。まさに圧巻と言うべき神業だった。

 しかし敵役であるサンダーは隕石を奪い取られて巨神兵が現れてもさほど動じた様子を見せなかった。空中から壊れた神殿の壁の上に着地し、巨神兵の方を見据えて呟く。

「ふん……引装壊発か。我輩達の崇めるミコ様と花一族のコスモスに破られた業で我輩に挑むとは……後から出てきた神様だからか、少々おつむが足りなく見えるぜ」

 オブラートに包むこともせず、単刀直入に挑発的な台詞を浴びせかけるサンダーに対し、神様達は怒り心頭瞬時にぷんすか怒り顔を見せるが、すぐに元の表情に戻って次はなんだか不敵に笑う。

「神様は死なない。負けることは在るけどな。そして神様だって変われる。もう昔の神様じゃない。もう俺達はお前の知ってる俺達じゃないぜサンダーさんよ。大体此の俺士=インフィニティループ達留守番組の実力なんて知らないだろう? 何故なら今日が俺達の暴れ記念日だからなあ!」

 士=インフィニティループと名乗った男神がサンダーに向かってそう宣言すると、そうだそうだと神様達が同意の唱和。10名余りにしてはやたらと大きい声――そのときウィンドはハッと気が付き、気配の穴場に視線をずらすと――いた。

 ボロボロになったボルケーノを抱えた、神様連中の残り全員が深奥の間に駆けつけていたのだ。そしてその中の中心、メビウス・ラウンズで最後ウィンドとカーレントを気絶させた2名の少女女神を横に控えさせている女神様――後ろ髪を束ねて持ち上げ、紙袋に入れているめっちゃ特徴的なその女神様は、唱和し終わると視線をこちらに向け、やたらとフレンドリーな眼差しでアイコンタクトを送ってくると、こちら気象一族の面々の返事や許可より先に、集団率いて気象一族の元へと合流してきたのであった。

「お久しぶりねウィンドちゃん、カーレントちゃん。はじめましてね、スノウちゃん、サイクロンちゃん、トルネードくん。わたしの名前は魚=ブラックナチュラル。通称旅の神なんて呼ばれている者よ。よろしくね」

「た、旅の神! あなたが、ですか……?」

 トルネードが俄には信じられないと言った体の反応を示す。それはあの時レインに呼ばれずに留守番していた少年ならもっともの反応であり対応。魚と名乗った女神様もそれを分かっているようで、嫌な顔ひとつせず詞を受け止め返事をしてくれるのであった。

「ええ。わたしが旅の神です。とは言っても別にご利益はありません。わたしの通称が旅なのは単にわたしが旅好きだからって理由なのですよ。さて、わたしの話はここまで。単刀直入に要請するね。このサンダーとの闘い、わたしたち神様陣営と気象一族で手を組みましょう。既にメテオくんの隕石をわたしたち陣営の焰ちゃんが引装壊発で使っているでしょう? 成り行きとでも結果論とでもどう言っても善いからね、既に協力関係は構築されていると思うの。大事なことだからもう一度言うね。“信じる力”相手にいがみ合っていても負けて全滅するだけだから手を組みましょ。ね?」

 善意の塊みたいな詞の羅列のはずなのに、どこか腑に落ちないものを思い起こさせる魚の提案。その要旨は所謂共闘の提案。ボルケーノの犠牲でもって「先」を取った気象一族の面々としては正直すんなり受け入れ難いものがある。しかしその手の「拘り・意固地さ」が今の状況を決して好転させないことも十分にも十二分にも理解していた。今やサンダーは“信じる力”を身に纏いメテオの巨大隕石を腕の力だけで受け止めてしまう怪物である。勝つためには他に選択肢がないことも痛感していた。なぜなら気象一族の戦力は、既に半減していたからだ。なら申し出を受ける他ない。問いかけられた気象一族の男と女、少年少女達は皆一斉に魚に向かって頷いた。「いいでしょう。その提案、受けます」の詞と一緒に。

 それを受け止めた魚さん、両手を合わせて飛び跳ねるほど喜んでくれた。状況におよそ似合わないそのはしゃぎぶりに両隣にいる2名の少女女神達や後ろにぞろぞろ群れている残りの神様連中も「魚さん、はしゃぎすぎっス」と冷めたコメントを弾幕連打。それでも魚さんは止まらない。首のネックレスに着けているキーホルダーふたつを手に取り着脱させるとそれらを術で元に戻す。左右魚さんの両手に現れたのは羽根ペン改め羽根の部分が巨大化し刀となった武器としての羽根ペンに、逆の手手の甲外側の手首下腕部分に革紐と謎の力で盾のように接続された本だった。くるくると軽快に回転する本は魚さんのテンションに連動しているのか、魚さん自身も軽やかなステップで一歩前へとサンダーへとその間合いを詰める。そして魚さんの武装が終わるや否や他の神様達も各々の武装神器をあれやこれやと身に着け手に持ち身に纏い、魚の後に続いたのだ。

 その様子を見ていたウィンド達気象一族の残存メンバーも無言で仲間達の顔を見やりこくりと頷く。そしてメテオと魚達神様達がいる最前線にウィンド、カーレント、スノウ、サイクロン、トルネードが横一列に整列する。それは、皆でサンダーに挑むという、この上なく分かりやすい意思表示だ。

 敵であるサンダーは崩れた神殿の壁の上に立ったまま動かない。これを逃すほどウィンド達も魚さん達もアホじゃない。全員最大出力での同時攻撃に打って出た。

「サイクロン、トルネード、風属性三人、合体攻撃よ!」「了解。ウィンドお姉様」「手出ししてもいいんですね? ウィンドさん」「スノウ、わたしが水を属性回帰させて海から来た分操るからそれを媒介に凍結させなさい」「カーレント姉さん……わっかりましたぁ!」

 気象一族は風系のウィンド、サイクロン、トルネードと水系のカーレントとスノウと言った具合に二組に別れて攻撃・拘束の準備にかかる。一人残されたメテオは、神様である魚から直々の申し出を受けて、焰が纏った隕石の属性調節係を務めることになった。

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