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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第17話 新国家 コンタクト
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第17話_作戦開始!

 赤い太陽と白い月が地平線の向こうに沈み、代わりに星々が黒い空を光で照らし始め出す頃、気象一族の作戦が開始されようとしていた。

 湖畔荘のベランダに陣取り各々思い思いに準備運動を始めていた気象一族の選抜メンバー達はウォーミングアップを終えるとさらに乗り出し、全員がベランダの手すりの上に飛び乗り足を置き立ち上がる。ベランダ、手すりの上に大人と子供と老人が12人、横一列に並び正面に神殿を見据える。人工の湖で周囲角約300度を覆う水は、レインのいない気象一族派遣使節にとっては明確に障害でしかなかったが、それだけに中にいるサンダーを戸惑わせると確信していた。湖の水は使わず、堂々と上から空から侵入する。それが気象一族の立てた計画である。

 しばらくただただ立ち尽くし、神殿に向かうための心の準備を整えた気象一族のメンバー達、遂に行動を起こしにかかる。

「ウィンド、やれ!」

「了解しました! 『開風発破』、連打連射連発よ!」

 ウィンドが活き活きと三頂老の命令に応え開風発破と自らの技の名を叫び、手を翳して勢いよく横に振りきる。すると神殿周囲の湖面が次から次へと爆発し、水が残る神殿門前の大地や神殿そのものに飛沫となって飛び込んでくる。れっきとした『襲撃』だ。

 

「警備長、敵襲です!」「湖の霊水を穢すつもりのようです!」「爆発が止まりません!」

「犯人の姿は?」その爆破近辺、神殿外周で報告を受けた警備長は間髪容れずに狩るべき原因の在り処を問い質す。

 しかし、部下達も警備長自身も含めて視認できるのは止まらない湖での爆発だけで、下手人犯人らしき姿は何処彼処にも見当たらない。その事実に警備長は苛立つが、諜報員から受け取っていた要注意人物達の仕業であることは看破していた。そのリストは73人分と数こそ多いものの、特徴的な上、なにより全員コンタクトの国民ではない部外者である。先達者に授けてもらった“区別する力”でその気配を漠然ではあるが感じ取っていた。

 と、突然その余所者気配が自分達の警護している神殿外周を通り越して神殿内部に現れたことに警備長と警備員達は気付く。どういう手かは知らないが突破された――警備長の決断は早かった。身を翻して神殿を指差し、「総員突入! 不審者を確保せよ!」と号令を発し、警備員達はその通りに神殿の中へと駆け出したのであった。

 

「善し……侵入成功也。皆、出て来ていいぞ」

 其の詞と同時に神殿内部に現れたのは今の今まで“トンネル”に隠れていた神様達、其の“トンネル”の造り主こと学=エヴォリューションだった。神殿内部の廊下から飛び出すように現れる学と翔のツアーガイドコンビに続き、“トンネル”の中で待機していた神様連中59名が61名の刺客と成る可く、次から次へと神殿の回廊に現れる。程なくして全員が廊下へと出現し、役目を終えた“トンネル”は学の手で消えて無くなった。

 余にも簡単過ぎる侵入成功振りに、『軍師様』の愛称で呼ばれることもある爆発の神哲=ヘヴィワークがこんな詞を洩らす始末。

「某の爆発で神殿外周に注意を惹き付けておき、その隙に“トンネル”の出口を神殿内部に設定し悠々と神殿内部に侵入する。全く俗世の人間と言う者は、簡単な思考回路だから騙し易い」

「同感」と哲の発言に賛同する神様達がちらりほらりと現れる。一方で哲の詞に同調しない者達も居る。撤収の神刀=クロックを中心とした女神様団体だ。

 そう、哲の詞に同感していたのは、男神ばかりだったのである。

「そんなに甘く見ない方がいいんじゃない? 敵は“信じる力”を使ったとは云え零をも負かす相手よ。無為無策とは程遠いはず、此処で油断させといて此の先に仕掛けた罠にドボン――なんてことにならないようにしてよ?」

 冷ややかに水をさし、注意を喚起する刀の詞。其れは調子に乗っていた男神様連中の心と頭を見事に冷ます。先まで息巻いていた男神連中はすっかり刀の詞に染まって、大胆且つ慎重派へと変質したのである。此の変わり様こそ、“神がかっている”の体現だろう。

 其の変質は、自分の手柄を堂々と誇示していた哲と云えど例外では無い。彼は神様仲間達の誰よりも早く瞬時に気配察知の行動に出て、次の作戦進行に関して重要な情報を齎した。

「神殿正門から雑兵共がこっちに向かっているぞ。数は凡そ80か。どうする、迎え撃つか?」

「その必要も無いでしょうよ。私が廊下を“変異”させてあげるわ」

 哲の情報に対応したのは変異の神こと巴=フラッグシップ。サササッと進み出て廊下の壁に手を当てると、「変異突発!」と神業を起動する呪文を唱える。すると神殿内部の回廊が突然構造変異を起こし、廊下の形状が組み替えられたのである。すると神様達の感知している警備員80の内、68を足止めする事に成功したのを神様仲間達全員が感じ取った。

「流石だね。変異の神の通称は伊達じゃないか」

 数日前まで此処にいた側の零が友たる巴に素直な賛辞を贈る。得意がる巴と親友の萌を後に哲が再び口を開く。

「残る12は元々別方向から遣って来る別働隊だ。巴の“変異”で足止め出来ていない事実からして此方が精鋭なのは間違いない。此の侭だと何れ進んだ先で出くわすが……ん?」

 流れる様に話していた哲の口が止まった。其の理由は単純明快にして残る神様仲間達全員が共有して分かる事――12の存在が放つ気配が消えたのだ。「どうやらくたばったようだな」という改訂された哲の詞に皆が一度は同意する。これで障害は取除かれた。道の神である翔が纏めの文句を言放つ。

「巴のお陰で障害物オールクリアだ。零、前に出ろ。お前が先頭切って案内しろよ」

「分かっているよ。こっちだ!」

 哲と翔からバトンを渡された零が61名神様連中の一番前に踊り出て、複雑な神殿回廊を駆け出し進む。仲間の神様達が其れに続く。神様連中61名、今進む道を遮る者無く、絶好調の滑り出しを魅せていた……。

 

(『疾風舞装・透過迷彩』から『誤認存在』に迷彩移行。まじない、正常稼働中。さあみんな、もう大丈夫。ステルス化は完璧。一気にサンダーのところまで行きましょう!)

 ウィンドの十八番『開風発破』で爆発を起こした気象一族は、警備員達が混乱している1分の間に、ウィンドに続けて風による迷彩、『疾風舞装・透過迷彩』を施させ、各々が司る気象現象に因んだ羽根を展開し、透明人間の要領で意気揚々と空を飛び、湖を抜けて空から神殿の中へと侵入を成功させた。そこまではよかったのだが、バルコニーから廊下へ駆けた瞬間、同じように神殿内部に入ってきた警備員達の気配を二方向から129人分も感じ取ったのだ。しかも警備員達はサンダーから与えられた力を使ったらしく、廊下の構造を作り替えられてしまう有様。サンダーの気配は深奥の間から動いていないが、61の気配がそこに向かって動いているのを感じた。先を越されたら厄介だ――その認識で全員が一致団結した気象一族は、気象一族の技や秘術とはまた違う『まじない』のひとつ、7級から1級まであるまじないの3級に分類されるステルス化のまじない――『誤認存在』を一人一人が各々使い、自らの身体を「周囲に同化し認識されぬ存在」へと作りかえていく。程なくして気象一族の面々は、他人からは一切感知できない「存在」へと変身したのであった。声も環境音に化けてしまうので、会話も思話通信でしか手段がない。

 そうして最初のウィンドの台詞に繋がるわけである。無論誰も反対はしない。全員がウィンドの掛け声に応じる。もっともウィンドがリーダー……と言うわけでもない。指揮する者は別にいる。三頂老の一人、音頭取りのスモッグじいさんが再度号令をかけ、みんなはそれに応じる。

(よし。頃合い見計らい、いい状態へとなってるよん。老いも若きも儂等に続けい!)

(えいえい、おー)

 掛け声受けて意気揚々、気象一族の派遣使節団は組み替えられた道順を気にすることもなく、消えた身体と気配を駆使して自由に自在に回廊を走り回る。自由奔放疾風怒濤、好き勝手に人様の神殿の中を蹂躙していく気象一族使節団。目指すサンダーの気配のする場所までかなり近付いたところで、走りながらも一同の顔つきが真剣味を帯びたものに変わる。結局先を越し損ねた61の警備員達とこの先の十字路で鉢合わせる演算結果が使節団全員の脳味噌に共通認識として叩き込まれた。移動速度を考慮しても、こちらが止まってやり過ごさない限り十時ポイントでの邂逅は必須と出会い算が言っている。しかしそこは『誤認存在』のまじないで姿を隠している気象一族、構わず全速で進み続けた。悩む事などなにもない、なぜなら自分達の姿は『誤認』されるから。このまじないを看過するのはそれこそサンダーやレイン、そして神様連中でもない限り無理絶対。だからこのまま気付かれぬままそいつらの顔だけ見て先を行こうと――そう考えていた気象一族の皆さんだったのだが……。

 考えが甘かったと、自惚れていたのだと思い知らされた。

 だってまじないが解けて、相手に見られてしまったから。

 そうでなくともこの一言、「あれ? ウィンド達じゃん」

 見えているのか千里眼、泥棒の神こと扉からのこの一言。

 見知った顔からの詞に、まじないが自然に解けてしまう。

 それどころかその空気は、残る面子のまじないも解かす。

 露になった気象一族の姿。それを見やるは群れた神様達。

 なんでここにいるんだと、お互い訊きたい気まずい空気。

 でも互いにすぐ理解する。理由は多分自分達と同じだと。

 それが分かっているから、ピタリと停まって牽制しあう。

 先に行くのはこっちだと、主張と対抗心が交錯する現場。

 あまりに重い空間と時間。このままぐるぐる堂々巡りか。

 

 ――と、姿を現した気象一族使節団に神様陣営の硬直状態がず〜っと続くかと思われたのだが、そうは問屋が卸さなかった。お互い「警備員」と誤認していた両陣営は、自分達に近付いてくる気配を感じ取ったことが状況打破の切っ掛けとなった。そう、今度こそ本物の「警備員達」がこっちに向かってきていたのである。ただでさえ予想だにしなかった厄介者達に出会ってお互い迷惑しているのに、これ以上事情も知らない第三者群に現れられたら完全に足止めを食らってしまう。それだけは避けなければならないこと。

 気象一族にとっても。

 神様連中にとっても。

 だから警備員達の気配を感じ取ったことをスイッチに、両陣営は再び動き出したのだ。

 そしてその再起動戦で先手を取ったのは、神様達ではなく、気象一族の方だった。ダンディな中年の美丈夫。ヒストリークラス・ローカルスケール契約型端末のボルケーノが仲間達を先へと押し出した後背中を向け、「行け! ここはオレ様が足止めしとく!」と言い放ち、右手左手両手を廊下に着けて「噴火招来!」と叫ぶ。

 すると神様陣営やそのはるか後方警備員達の行く手を遮るかのごとく、廊下の床が溶け、溶岩が噴火した時のように飛び出してきたのだ。この噴火能力こそ、ボルケーノの真骨頂であった。マグマを呼び出し自在に吹き出し動かすことのできる、封印型端末と比べても遜色ない危険度の自然災厄を操る男、それがボルケーノなのであった。

 ボルケーノに押し出された気象一族のメンバー達はその漢気に押される形で「任せた!」と後事を託す詞をかけて、サンダーの気配がある深奥の間へと走り出す。それを見ていた神様連中に警備員達は、すぐさま後を追おうとするが、ボルケーノは呼び寄せた溶岩を使って多数の巨大人形を造り出す。ボルケーノの得意技、溶岩芸術のひとつ『溶固傀儡・第四師団』だ。生み出された多数の傀儡達は意外なほど機敏に動き、神様達及び警備員達を通さないための壁となる。この行動に先を越された神様達はかなり御立腹のようで、61名が各自武装や道具を取り出して、全面戦争の構えすら感じさせる闘気を身体に漲らせていた。だがそこもボルケーノの計算内。彼は初めから神様全員を相手に勝つつもりなど更々ない。これは足止めであり、戦略目的としては「時間稼ぎ」こそ正解正答。たとえ自分が負けようと殺されようと、気象一族使節団の目的さえ果たせればよい――ボルケーノ一流の覚悟と漢気であった。覚悟を決めた目で神様達を見据えるボルケーノ。すると眼差しを向けられた神様達が不敵にニヤリと笑う。視線の応酬が終わると両軍戦闘体勢に入り程なくして闘いが始まった。気象一族と神様陣営、サンダーへの挑戦権を賭けた戦闘の火蓋が切って落とされたのだ。

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