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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第17話 新国家 コンタクト
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第17話_零の告白。サンダーの暗躍

「……よし。状態、落ち着いたわ。会話も問題なし。もう喋れるはずよ」

 レストランの奥座敷部屋。ボロボロになった零を治療した変異の神、巴=フラッグシップが口を開く。周りには親戚よりも遥かに多い神様仲間達59名が距離を取りつつも必死に覗き込む姿勢。其の緊張が巴の詞でプッツリ切れる。丁度巴が喋ると同時に零も自ら口を動かして「ああ、回復できた、喋れるな」と巴の発言を裏付ける。すると紫を始めとして大半の神様達は堰を切ったように零に群がり質問の嵐。一度に46を聞き分けるのが限界の零は思わず冷や汗を一筋流すが、話す内容は一つで善かった。即ち、自分の俗世での経緯を包み隠さず話せば善いと云う事に気付いたのである。そうなら実はこっちのものと、零は手を突き出して質問を遮ると「では、話そう」と何様神様のつもりで皆を静止し、語ろうとしたのだが――。

 

 その前に魚にアールで引っ叩かれた。

 

 完全に隙を突いた行動、云わば不意打ちだったので、誰もが皆又固まってしまった。其れは魚の弟子である、哉と祝も例外では無かった。師匠の突込み一閃を呆気に取られた顔して見るだけ。というか何故魚ともあろう神様が怒っているのかが、全員本気で分らなかった。すると空気を読んだ魚は先手をとって理由を話す。

「“トモダチ”に心配と迷惑かけた分4割、“トモダチ”から離れていた分5割、そして“トモダチ”に詫びも陳謝も入れずに何喰わぬ顔で話を主導しようとした分6割。計15割分のつっこみをさせてもらったわよ。どさくさに紛れて煙に巻こうとしてないで、先ずは少しでも反省しなさーい!」

 痛い一言良薬の如し。云われた零はハッとなり、床に両手を着いて頭を垂れ、「済まんこってした!」と彼なりの詫びを入れる。そしたら魚は「早く話してよ」と掌返した様に話を促す。其の切替振りには誰もついていけない。正に魚=ブラックナチュラルの独壇場。

 やっぱり魚は『最強』の一角だな――零はしみじみ思い直すとオホンと露払いの咳払いをして、やっと得々語り出した。

「オレにとって泉の歌が特別だったのはみんな知ってるだろう? あの清澄な歌声。心地いいメロディ。心躍るリズム。全てが“完成”されていた成功品の一曲は何時迄も色褪せない、永遠の娯楽だった。だから小さなレインに消えたって云われた時思ったよ。『嗚呼、とうとうこの日が来たか』ってな」

「何よ。じゃあ零は最初から泉の行き先に心当たりがあったってこと?」

「なんとなくだけどな。ただ祭、オマエの言う通り『もう会えない』ってことは其の場で分ったよ。だから最初は只呆然として……次いで沸き起ってきた気持ちは堪え性の無い小さなミコへの鬱憤だった。アイツの所為じゃ無いのは分ってた。でもアイツが問題を解いてアパートに来て泉に会った事が切欠なのもまた事実。だから八つ当りの矛先はアイツにしか向けられなかったのさ。本当、面倒くさい性格だよなオレ。で、“事実”に気付いていないオマエ達じゃ人手にもならないと思っていつもの単独行動よ。だから俗世に降りて八つ当り……つまりは嫌がらせの“手段”として考え得る限り最高のプロを雇ったのさ」

「プロだと……誰だ?」

 神様の中では(殺しの)『プロ』と云われる暗殺の神、極=セキュリティホールが零に問いを掛ける。零は極を一瞥すると、「オマエと同じ、殺し屋さ」と前置きしてから其の名を明かした。

 

 サンダー。

 

 其の名前を聞いた神様仲間達は又も固まり、60の顔を引き攣らせた。何故なら其の名を持つ人物は、俗世に於いて或る意味ミコより“危険”な男だったからだ。

「サンダー? 元気象一族で史上最悪の殺し屋を現役でやっているあの男と手を組んだの、零?」

 粋の神希=ニックネームが何時もの仮面を取去った裸の表情で嶮しい目と詞を投げかける。すると零は、引き攣った空気には場違いな明るさで「ああ」と返事し話を続ける。

「八つ当りから嫌がらせ、やるなら俗世もアパートも含め最悪最強の面子でやらなきゃと最初から思っていたぜ。此の中じゃ選べるのは事実を知るオレ一人だったし、少数精鋭の腹積りだったから俗世からリクルートする奴も出来れば一人が好ましかった。だからサンダーを選んだのさ。殺し屋ながら善も悪も行い、只々過大な騒動を起すにはアイツは打ってつけの人材だった。で、俗世に降りてサンダーと接触。金払って依頼し雇う形で手を結んだって訳よ。んで二人して何が小さなミコへの最も効果的な嫌がらせになるかって考えた。その結果辿り着いた結論はアイツを神様にすることだった」

「神様? 泥棒ミコさんは設計図も持っているから確かに神様とも云えそうなものだけど……」

「そうじゃないよ翠。零はミコを信仰の対象に祭り上げようとしたってこと。そうでしょ、零」

 違和感を表明した遊戯の神翠=ミュージックに寓話の神で魚の愛弟子哉=アリバイがフォローを入れる。軽い口調でとんでもない事を言ってのけた哉の発言に、周りは俄に騒ぎ出すが、振るより早く零は「ああ、哉の云う通り」と自分の企みが然う云う物であると認めたのである。其の回答を受けて騒ぎ出していた神様達は一斉にどよめく。此の俗世此の惑星に於いて、“信仰”は他ならぬ人々の手に因って完全に滅び去った産廃物だったからだ。人々が一度捨てた物を再利用しようなんて思い付き、此の神様仲間達には及びもつかない事だったのである。だからゲーム勝負が精一杯だったとも云える。

 周りの空気が変わる。零の作戦に感嘆し評価する方向へと。神様連中に興味を持たせた“ミコの神格化”、零は更に話す。

「小さなミコが『信じる』って詞を滅法嫌っているのは皆知っているだろう? そりゃ誰も何も信じない懐疑主義者は居るけどよ、アイツのは度を越してる。『毛嫌いしている』と云っても良い位だ。そんだけ嫌っている物を持ち出せば、きっと嫌がらせとしては十分だろうと閃いたのさ。其れは信仰を嫌がった小さなミコが自分から向かって来るように仕向けるための誘導罠にも発展すると確信した。で、オレとサンダーはミコに関する情報を調べ上げたあと、アイツが最後に滅ぼした国の跡地に計画的術式稼働都市を作って小さな信仰布教活動を初めコツコツ地道に水面下で小さなミコの凄さを語り、小さなミコに肖らないかと俗世の人々を誑かした。気付かれないようにコッソリとだ。そして信者を徐々に増やし、最後の国の跡地に住まわせ国家としての体を為す様体裁を整えた。新国家信仰国家の設立だな。勿論トップはサンダーの奴だ。提唱した『契約教』の教義や利得設定はアイツに一任していたからな。神様のオレが前に出る訳にもいかなかったしな。でも、愈新国家設立の宣言まであと2日ってとこの昨日、アイツおっそろしい事云いやがったんだよ。小さなミコがやってきて勝負になった場合“信じる力”で負かしたら、力の要素である新国家の民には用済みとして死んでもらうって……如何にも殺し屋が云いそうな事抜かしやがったんだ。オレは当然反対したさ。国民候補の数は既に30万人を越えてた。ソイツ等から力抜き取って借りといて其れを仇で返すのかってな。でもオレはアイツを見誤った……んだろうな、結局説得できずじまいに実力行使の戦闘になっちまったんだけど、先見ての通り、ボロ負けだよ。“善い電気”と“悪い電気”、更にオレとアイツで構築した“信じる力”を一方的に利用された事で神様の癖に惨敗だった。問題は解けないくせに勝つ事なら出来る奴は此の俗世にゴロゴロいるんだって、思い知ったよ。で、今此処にオレが居る理由。力を貸して欲しい。己の不始末をオマエ達に頼むのがお門違いだって事は分ってる。でも今のサンダー相手には神様61名の総力が必要なんだ。頼む、オレと一緒に新国家へ乗り込んでくれ。このままじゃ軽い気持ちで呼寄せた30万の民がアイツに殺されちまうんだ!」

 永い永い零の告白。其れは中々衝撃的で、図太い神経の持ち主である神様仲間達をも少なからず動揺させた。妙手ながらも此の俗世から“やっと”滅ぼした信仰という物を再び持ち上げたのは零の失敗汚点とさえ思えた。何しろ“信じる力”は零の云う様にミコが嫌い、そして彼女に匹敵する強力な力。が、古代から其れは『強力過ぎた』為に何度も此の俗世に生きる人間達を思い上らせ、調子に乗らせ、そして災いとなってきた曰く付きの代物でもあった。常に歴史を回してきた“信じる力”。その正体は神様の問題など解けようも無い無才で卑屈な一般市民達が自分達で生み出した『神様』にして『信仰対象』への思い込み。本物の神様からしたらとても容認できない代物。故に問題の神告宣下と並行して神様達は信仰に対して神罰を行使してきた歴史を持つ。それだけ神様達も嫌っていたし怖れていた。無限に強くなる“信じる力”の厄介さを、誰よりもミコよりも認識していたから。

 だからこそ零が其れを持ち出した事には少なからず反発するのが神様仲間達当然の反応だった。然し其の一方で“信じる力”を利用しようとした事、自分達では及びもつかなかったアイディアへの評価も少しはあった。そうで無ければとっくに零は神様連中から追放されて当然だからだ。でもそうはならないのが神様達の友情クオリティ、嫌った物滅んだ物を再利用してやろうという意気込みは、俗世の人間達が早くに失った覇気そのもの。そんな零が眩しくて、友情も消えはしないから、見捨てる事なんて出来ずにいる。

 故に神様達は全員一致団結して、零の求めに応じるのだ。

 そうと決まれば直ぐに作戦会議。皆テキパキと良く動く。

 零から提供される情報、紫が調べ上げる情報を吟味する。

 特に皆が腐心したのが、サンダーのいる神殿の内部構造。

 突入経路。陽動適地。皆の役割と時間割が決まっていく。

 然うして決まったプランを秘めて、神様達は去って行く。

 レストランを後にして、新たに現れんとす、新国家へと。

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