第15話_とるにたらない気付き
転移ゲートの消えた宇宙船の中で、モエルとプルンは暫くの間直立不動で立ち尽くしていたが、やがて時間が二人の身体を解したようで、二人はいつもの口調に戻って今まで肌身で感じていた一部始終についての感想を話し合い出したのだ。
「やっと終わったでしゅ。わたちたちの道草も、とんでもない御客の相手するのも。永かったようで短かったでしゅねプルン。今まで釣った奴等は役立たずでしたけど、39人目にしてようやくアタリが釣れたのでしゅ」
「そうなのよモエル。これでミー達はまたこの宇宙を駆け巡ることができる。レースに復帰することができるんよ。さあ! 亡霊宇宙船ミスト号、出発なのよ!」
プルンが自分達の宇宙船の名前と発進をコールすると、音声認証でもされたのか実際にミスト号と呼ばれた宇宙船は永きに渡る眠りから目を覚まし、実にエンジンユニットを3万4104年ぶりに稼働させてそのままシームレスに惑星を離れて進み出した。同時にモエルとプルンはレース復帰の旨を大会本部のある惑星めがけて打電する。すぐに受理され返事が届く。これで正式にレース復帰である。
「よーし、艦橋へ行くでしゅプルン!」
「合点! 一目散に急行だぜモエル!」
動き出した船の中、乗組員の二人はエネルギータンクから駆け出して、操縦桿のある艦橋へと走る。その途中たまたま留まっていた、『塔』を建てた惑星が視界に入ってきた時、モエルがハッと気付いてプルンに耳打ちする。
「そういえば今別れたあの帽子の女の子の名前、聞いてなかったでしゅね」と。
その詞を聞いたプルンは一瞬上の空を見つめた後、遠い目のまま頷いた。
「そうだった。今まで釣った38人の名前は訊きもしなかったからいつもの癖で終わっちゃった訳なのよ。惜しいことしたのよ。でも、時は戻らない。後悔は戻れない過去に抱く感情だから後悔なのよ。後ろ向いていても仕方無いのよ。ミー達には自分達の未来がある――でしょ? もういいじゃないそんなこと。さあ! 四足走行のわたしに乗るのよモエル!」
「よっしゃー!」
自分達の期待に応えてくれた女の子への関心を長寿の知恵で粉砕し、ココロの向きを前に向けて加速するモエルとプルン。プルンの提案に当然と乗って宇宙精霊の巨体の背に文字通り『乗る』モエル。大きさの違う相棒と並走する必要のなくなったプルンは再度加速し、艦橋へとひた走る。
その顔は二者三面ともに、充実した面構えであった――。