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ミコの影帽子 夢心背話(ゆめうらせばなし)  作者: 心環一乃(ここのわ むの)
第15話 宇宙エネルギー その名はCOSMO素粒子
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第15話_未知なる日時計塔の奇譚

「見えたわ! 霧大陸近海に12はあるって言われる『日時計塔』。その高さ、宇宙まで届くとの噂があるほど……ほら急ぎなさいオルバート! あんた高度下がってるわよ!」

「カァァ……」

 ミコの要求に対し空飛ぶタクシーのアルバイトでミコを運んでやっているオルバートは息も絶え絶えに辛うじて羽搏いている状態。無理もない。出立地点のセフポリスから霧大陸近海にある日時計塔まで、双子大陸から霧の大陸まで惑星をおよそ半周する距離、ミコはオルバートを一度も休ませずに海の上を飛ばし続けていたのだ。

 なんという無茶。

 なんという無謀。

 常識を超えた……いやむしろ欠いた行為に一般人なら唖然とするだろうが、ミコはそんなことおかまいなし。先払いしたバイト代――エナジーたっぷりの美味なエサを与え食べさせた対価として最初から最期までしっかり働かせるつもり。オルバートが疲れているのは実はエサを与えたときに調子こいて曲芸飛行なんかしたからだ。その事実を知っている。だからミコは遠慮しないのだ。ミコは意地悪だけど、そこまで性根は腐ってない女の子である。

 そしてとうとうオルバートが勤めを果たす時が訪れた。ミコが着地点――塔の入口から横四方の空中に時計の針のように延びた駐機ポイントを確認したのである。距離は目測で斜め下に1キロメートル弱。もう運んでもらう必要は無くなった。

 ミコは自分の右手で肩を掴んでいるオルバートの足をくすぐる。くすぐりに弱いオルバート、可愛い鳴き声を上げてそれまで必死懸命に放さず掴んでいたミコの両肩を思わず衝動的に放してしまう。これが一風変わった霊鳥タクシーの降車手段。ミコの身体は宙に投げ出され、オルバートは巣に戻るべく転移術を発動させていた。

「Eee Yahooooo!」

 空中に放り出されたミコは自分にかかる重力と相談ながら体勢を整え、背中おしりを下方向に向け、自分の左手で影帽子を飛ばされないよう鍔を掴んで目深く被り、右手は転移術で消えゆくオルバートに向けて元気良く振った。「ありがとーっ!」の詞とともに。オルバートはそれに「ケーン!」と一声良く通る声で鳴いて答え、転移完了し姿を消した。

 その様子を確認した、絶賛空中落下中のミコ=R=フローレセンスはくるくるしゅっと体勢を変えて、おしりと折り畳んだ両足靴底足の裏を着地ポイントに向けて真っ当に足から帽子へと落下を続ける。このまま落ちれば外れて落ちることもなく、駐機ポイントに当たることは人生三周目の経験則と目測で確認済み、だからミコは帽子が飛ばないように注意を払うだけでよかった。そして、無事ポイントの端っこに着地着席したのだが……。

 

「うっそおぉぉぉぉぉ!」

「いやあぁぁぁぁぁん!」

 

 着地した途端、着地ポイントがまるで木の枝を下に曲げるかの如く、ミコの体重に押されて入口からの通路ごとぐにゃりと大きく落ち込んだと同時に、日時計塔の中から得体の知れない女の子2名の悲鳴が聞こえた。誰かいるの?――ミコはここに自分より先んじて居る気配もない者たちの声にびっくりするが、程なくもっとびっくりすることになる。

 なぜなら――その声を発した女の子の内ひとり……いや一匹は、巨大すぎる双頭の犬型魔物だったからだ。そしてもうひとりはそれに比べると余りにも小さい(それでもミコ並みのサイズはあったけど)背中に透明な羽の生えた妖精さん、みたいな女の子だった。その2名が悲鳴を上げて日時計塔の天井を突き破り、仲良く天空へと消えていく。驚かない方がおかしい。

 サイズの違いを初めとして、あまりにも印象イメージインパクトの強すぎるお星様になった女性2名。しかし、目撃した感傷に浸る間もなく、予想外の事態がミコを襲う。ぐにゃりと反りに反って曲がっている、ミコが着地した駐機ポイントと塔の入口を繋ぐ通路がバキッと骨折しやがったのだ。そう、折れたのである。

「嘘……いや〜ん」

 奇しくもさっき目撃した奇妙な二人組と同じ悲鳴を上げたミコはロングのスカートを股下だけ抑えつつ、影帽子のがま口チャックを展開し、海に墜ちないためにと飛行用の黒い羽根と服を汚さぬようにと上から降ってくる瓦礫を破壊し弾くための黒い腕24本を用意してすぐさま身に降り掛かる火の粉ならぬ石の粉を黒い手の手数でもって振り払う。見ずとも勘で向かってくる破片の数もスピードもわかるので、ミコは視線を着地……もとい着水寸前の浮遊ポイントとなる海面に向けていた。その行動には無駄がなく、全てにおいて模範となる解答行動だった……のだが!

 シュルル、ピン!

「ぐえっ! なに?」

 黒い羽根で停止する寸前、ミコの身体は背中から引っ張られて突如停止した。それだけにとどまらず、ミコが羽根を使っているわけでもないのにミコの身体は急上昇を始めたのである。

「えっ! なに? なんなのよ〜って、あびりりりりりりっ!」

 疑問を口に出して整理しようとした矢先、ミコは不意打ちに電流を浴び、なぜか感電してしまった。さすがのミコも不意打ちを食らってしまうと稀に落ちる。そしてこのときは、見事に『稀』がビンゴした瞬間だった。ミコは気を失い、意識も途切れて寝てしまう。

 そしてその身体は、海へは落ちず、背中に引っかかったフックと糸で、なぜか空を昇るのであった。

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