第14話_死体が語る、歴史の真相
セフポリスバウンド地区を流れるウィルター川にかかる橋の下の死角、クルサード警視と神様達はそこに居た。ミコとナミコはパトカーの密集する橋の横を通り抜け、階段をテンポよく下りて河原へと降り立つと橋の影にいる皆の元へと石畳の中歩を進める。すると気配でも感じ取ったのか神様連中にクルサード警視がこっちを向いて静かに頷く。それは「ここが現場だ」という暗黙のサイン。ナミコがミコの前に進み出て、先陣切って集団に切り込んでいくと、仮にも神様連中が横に退き、ナミコとミコに道を譲る。神様達と鑑識警官達の壁を抜けると、ごろんと横たわった成人男性の死体を調べるクルサード警視と極の姿がナミコとミコの視界に入った。
ミコは足を止めると無言で両手に持っていた読みかけの新聞と飲みかけのホットドリンクをナミコに手渡し手を自由にする。そうしてどうして遂にミコが、ナミコより一歩前へ出てクルサード警視と極に声をかけた。
「連絡にあった死体ってこの子? パッと見た感じは寝ている浮浪者と大差ないわね。濡れてもいないし。溺死ってわけでもないのか……それで極に鑑識を?」
「ああ。なんてったって“暗殺の神”の通り名を持つ方だからな。本人も冤罪の恨み晴らさでおくべきかって乗り気だったのでね。ウチの鑑識よりも腕は上だろう」
「でしょうね――で、どうなの鑑識さん。目立った外傷はないようだけど」
クルサード警視の答えに素で応じたミコは、こともあろうに神様である極を『鑑識さん』呼ばわりし死因を尋ねる。ナミコは場が険悪になるのではと危惧したが、暗殺の神こと極=セキュリティホール、結構冗談が通じる方らしい。ミコの嫌味じみた冗談に気を悪くした様子は特に見せず、それどころか結構ノリノリで鑑識さんを演じている疑惑が、ミコとの受け応えで感じ取れた。
「そうだな……露出している肌にはどこも怪しいところはない。口から血を吐いているだけで死に直結するような外傷は確認できなかった。だが……」
「だが?」
ミコが影帽子のがま口チャックから黒い手を2本、それぞれ自前の携帯電話と未来電話を持たせ自分の携帯電話を弄くりだしながら繋ぐと、極は死体の左胸に手を当てて答えた。
「心臓部をスキャンしたところ体内に細い金属針が何本も刺さっている。よくよく見てみると解るんだが、左胸の服にも幾つも布を破った針の跡がある。間違いないだろう。死因はこの金属針による心臓破壊。おそらくは毒物付きだ」
「なるほど。そういうこと――」携帯電話でなにやらぽちぽち検索していたミコが携帯電話の操作をやめて元々持っていた黒い手にそれを戻すと、驚愕の詞を口にした――。
「殺人でなければ変死・事故・寿命で片付けられたかもしれないけど……決め撃ちね。ビル=エグジストはお飾りだわ」
「――は?」
硬直する一同。誰もがミコの詞に固まり、呆け、そして詞の意味を疑った。
だが脳が詞を解釈するに従って、皆信じ難いといった体で慌てだす。特に治安草案が聖典扱いのセーフティ・ガードに属するクルサード警視と警官達の狼狽えぶりは尋常を越えていた。ミコが次を喋るのを急いで遮り、口を挟む。
「ちょっ、ちょっと待てミコ。エグジスト卿がお飾りってどういうことだ!」
難詰にも近い口調で問い質すクルサード警視。するとミコは黒い手2本を横に出したままナミコに近く寄るように手招きする。自身も戸惑っているナミコが傍へ駆け寄るとミコはナミコが持っていた新聞を奪い取り、バサバサバサッと紙面を捲ってあるところをこれ見よがしに魅せつける。そのページを見せられたクルサード警視の顔が強張る。なぜならそのページにまるまる一面費やされ書かれている記事は、「歴史的法案可決! 治安草案ゴーストライター説にトドメ! エグジスト卿の名誉永久保護法案が議会で可決!」と題した特集ページだったからだ。そう、絶対安全都市セフポリスの歴史に唯一存在し消えることのなかった黒い噂――それはセフポリスの偉人ビル=エグジストが遺したといわれる街の聖典治安草案が、実は別の誰かによって書かれていたのではないかという疑惑。今までその疑惑は決して消えることなかったが、疑惑を立証するだけの証拠が出ることもなく、とうとうセフポリスの法律でビル=エグジストの名誉とこの問題への不可侵が決定されようとしていた。
それをこのタイミングで否定して、彼はお飾り、ゴーストライター説で決まりとミコは言ったのだ。しかもさっきので終わりではなく、続きを、次を言い放つ。
「ありとあらゆる新聞で特集が組まれてるじゃない。セフポリス設立以来常に付きまとっていた治安草案ゴーストライター説やカルト研究者たちにとうとう終わりのときが来たって」
「それとこの殺人がどう結びつく? 今回は君の頭の中が黒く見えるぞ」
「しっかりと役目を果たさないからでしょ! この死体を見ればね――」
「落ち着いてください、ミコさん!」
言い争いの様を見かねたナミコはホットドリンクを手に持ったまま、ミコに飛びつき器用に腕組みでミコを自分側――落ち着いて居る人間側に引き寄せた。それは目論見通り一定ではあるが効果があったようで、ミコはナミコの顔を目を丸くして覗き込む。虚を衝かれた風のミコの無防備な顔をナミコは初めて見たが、お互い感傷に浸るつもりはなかった。ミコはナミコに「ゴメン、急いじゃったわね」とミコらしくもない台詞とともにナミコに支えられ立ち上がる。目を閉じ、「ふぃ〜」と深呼吸するミコ。ナミコが腕組みを解いた後、自分の手黒い手全4本を大きく伸ばしてリラックスすると、ミコは再び語り出した。
「まずはこの殺しの犯人からいきましょうか。暗殺道具に毒針を使う殺し屋をわたしは知ってる。本名不明通称“タワー”。一本でも十分殺せるのに過剰に針を刺して臓器を物理的にも破壊するのはあいつの殺しの特徴よ。依頼人は勿論シク=ニーロ」
「確かか?」
「間違いないわ。なぜなら殺すだけじゃなく、身の回りのものまで奪われているからよ。わたしみたいに殺しもする連中の情報ではタワーは快楽殺人癖持ちの殺し屋。基本的に殺しさえできればいいってだけで身ぐるみ剥がすなんてことはしない。でも今回は依頼したシク=ニーロが金を積んででも頼んだからやったんでしょ。だから死体さんをその場で特定できるようなものをタワーは持ち去って行ったってわけ。つまりヒントはほとんどない」
「そんな……」
「では本題、この死体さんからわかることは何か。わたしがあの結論に至ったきっかけはどんな職業かって切り口。まず服装。スーツ姿だけど背広は剥がされシャツ姿。背広に職場を特定する要素があったから持って行かれたとも考えられるけど脱がせられなかったズボンを見ると色が茶褐色系の上等なスーツであったことがわかる。標準化された制服でないのなら肉体労働の類ではないわ。つまりデスクワークでしょうね」
「なるほど」
「両手の指先。爪と肉の間および指の腹にインクが染み付いている。文明レベルが都市レベルのセフポリスで染み込むまでインクを使うとなると万年筆で文書の全てを書いても追いつかない。死体さんはインクが主流の文明レベルに関する仕事をしていたってこと」
「偶々じゃないのか? 万年筆がカートリッジ式でインクを不手際ながら交換した時に殺されたとか」
「いいや、それはないわ。アームカバーをしているからね」
「アームカバー? なんでわかるの、ミコおねーちゃん?」
「両手首にゴムで締め付けた跡がある。腕時計もせずにスーツの両腕を汚れから守る必要があったからアームカバーを日常的に使っていた。これはゴム跡前後の血管の太さと色の違いで気付けるところ。死体さんは白衣は着ないけどそれなりに手先を使い、インクやら汚れやらから袖を保護する必要がある職だったってこと。そして――」
「そして?」
「死んだとき瞼が閉じたから犯人のタワーも見逃したんでしょうけど瞼の下には――」
ミコは今一度ナミコから離れて極も退けて直接死体に触り両目の瞼を開け、がま口チャックから出した3本目の黒い手の先についている二本の指でちょんと触れる。皆に振り返って掌と指を上へ向けて見せると、ナミコがそこに透き通ったレンズを確認する。
「それは……コンタクトレンズ?」
「そう。しかもこれは紫外線と赤外線をカットするタイプ。まだ若く眼球に異常も見られないのにそこを気にするのは職場での知識が一般生活にも及んだから。照明に気を使うところとなると、紫外線と赤外線が天敵の博物館か美術館。携帯電話で調べてみたら治安草案の原本を保管展示しているアップステア地区クリスタル・ミュージアムの学芸員ヘンリー=オーが本日無断欠勤ならびに昨日家にも帰っていないらしいわ。五日後にはセフポリスのお偉いさんたちがミュージアム内に集まって治安草案原本の前で法律施行のセレモニーを開催する。ではなぜ五日も前に殺し屋に依頼してまで死体さんを殺す必要があったのか。推察、死体さんは既に治安草案がビル=エグジスト作の遺産でないこと可決された法律が間違っていることに気付いたから殺された。つまり、治安草案はゴーストライターの著作物ってこと!」
「名推理だわ」
「褒めすぎよ」
「拍手するか」
「遠慮するわ」
らしくもない、長丁場のしゃべくり名推理を魅せてくれたミコに対して警官神様問わず聞いていた全員から拍手喝采雨あられ。レインの名も持つミコにお似合いの賛辞が絶えることなく発生中。ナミコも最初こそ賛同したが、あまりに長く続くので段々興が醒めてきた。それどころが鬱陶しくさえ感じてくる。第三者でこう感じるなら、第一人者当人のミコの気持ちは如何なるや――ナミコはミコより早く、延々と拍手を続ける機械のような連中に「喝!」と怒鳴って黙らせ、今後の方針を話し合う司会の役目を買って出た。
「……ったく、仮にもセーフティ・ガードのエリート警官と神様が拍手バカになってどうします! ミコさんの推理に異を唱える人なんて、この中にいるわけないんですから、穴を埋めにかかりますよ」
「穴? ナミコちゃん、それなんのこと?」
「察し悪いよ湊くん。ヘンリーくんが殺された理由。即ち、彼が知ってしまった秘密――治安草案ゴーストライター説を証明する証拠を探すってことだよ。わたしはミコちゃんと……有能助手のナミコちゃんに付くから。哉ちゃん祝ちゃんも勿論同伴です」
「あっ! 魚ズルい!」「謀ったナアアアッ!」
ナミコの示したこれからの方向性に純朴な湊が躊躇うことなく疑問を挟んだが、神様一ミコと上手くやっていけるであろう魚が素早く反応しナミコの詞を補足説明する。ちゃっかり自分はミコに付き添うと先手まで取って。
だが、この行動はミコの意思を聞かずに行った、言わばナミコの“独断”である。助手とはいえ勝手をしたのも事実。はたしてミコが許してくれるかどうか――後悔先に立たずだが、今ナミコが一番気にしていることでもあった。カッコつけておきながら指は震えだし、肌は痙攣しだす。ミコが黙っているだけなのに、神経を擦り減らされる感覚まで催す。
そこまでナミコを待たせて、ようやくミコは唇を震わせ声を発した。まさに一日千秋である。
「そうね……ナミコちゃんの言う通り、死体さん――ヘンリーが何を知ってしまったのかは極めて重要。これを探るのが次にやることなすことすべきこと。さて……」
ここでミコは自分自身の右手人差し指と中指の2本を立てて項目化した仕事を説明し始めた。
「確認すべきことはふたつ。ひとつは治安草案原本を確認してできれば忠実な資料を確保すること。もうひとつは死体さんことヘンリー=オーの身辺調査。きっと真実へのヒントが遺っているはずよ。というわけで、わたしはナミコちゃん連れてヘンリー家行くから。他に連れて行くのは魚さん始め5人が限度。他の人たちは治安草案の方、重要任務、頼みます。原本のコピー、おまかせするから撮ってきてね……さて、こっちの面子は」
「ミコさんとわたし、あと5人ですね。既に魚様が哉様祝様を連れてくと仰ってますから……」
ナミコが頭数を数えだしたその瞬間、まだ決まっていない神様達がミコに背を向けて円陣を組み、「いっしょはだーれだ? ジャン、ケン、ポン!」と残り2枠を巡ってじゃんけんで争いだしたのである。流石神様、みっともない。
ともあれ57人勝負の大激闘を勝ち抜き、優勝と準優勝を勝ち取ったのは――。
道の神、翔=スリースピード。
栄光の神、華=フィニッシャ。
この2名であった。敗者たる神々は地べたに手を着き、目を下に向けて己の運のなさを嘆いている者然り。運がなかったとあっけらかんと済ませる者然り。元々ミコとは別行動――治安草案原本を見たかったしと、本音か嘘かそれとも心変わりか、そんな言い訳暗示をする者居たりと、多様な反応を見せていた。
その項垂れた神様達に勝者の詞が掛けられる。口を開いたのは華だった。
「心配霧散と消えるが宜し。まだまだな私達には通神術という神の御業があるではないか。情報交換多分にしましょう、神様の前では人間なんて丸裸も同然ってね!」
「テンション高けーな華。優勝したからか? でもまあ言ってることは判りにくいが間違ってない。通神術を使って大いに情報共有しようぜ。きっとそれは、ミコの奴が期待してることでもあるんだからよ」
言い出したが詞が難解で理解されない華より、後追いでも主旨をまとめた翔の詞の方が項垂れていた神様連中の心に響いたようで、翔が喋り終わると同時に、負けた別行動組は立ち上がり、気合いを入れて崩れた精神を組み直す。「そうよ。物理距離なんて関係ない。心の距離こそ大切ね」というある女神様の発破が、皆に伝染し行動本能を刺激し始めていた。
そんな様子を最初から別格のミコ、魚、哉、祝は生冷たい視線でじーっと傍観。やがて頃合いを見計らって、ミコがナミコと華、翔に「ほら行くわよ。自適の時間だし」と出発の時間が来たことを促してくる。ナミコは助手の務めから奮起し、右手左手に華と翔を引っ張ってミコの元へ合流した。ミコはクルサード警視達に死体さんの処理とタクシー代わりにパトカーを引き続き借りる旨を伝え、快く了承されると、新しく発足したチームを率いてその場を去った。
何も遠慮することなく。
何ひとつ残すことなく。
チームを厳選したとは言っても、ミコのチームは7名もいる。タクシーが6人乗りできると言ってもそもそもひとつは運転手枠なので乗れるのは5名、分割別離は必須だった。勿論ナミコはミコの隣。ミコと別れるのは、神様だと最初から決まっている。また一騒動あるかとナミコは感じたが、その心配は無用に終わる。有無を言わさずミコに付いていくと表明した魚、哉、祝の3名が別のパトカーでいいと先の先を制し発言したからだ。
と、いうわけでミコとナミコが乗ったパトカーにはじゃんけん大会の勝者2名、華と翔が座ることに、タクシーよろしく後部座席をボックス席に変えた大型パトカーに乗り込んだ。進行方向最後部座席にミコとナミコ、反対方向前方座席に翔と華が腰を下ろし、魚達師弟チームのパトカーの後を追い、出発した。先じゃないのはミコが「急いでない」からだ。
その動き出した車の中で、ミコは自身の携帯電話を持たせた黒い手を影帽子の口の中にしまっていたが、未来電話を持たせていた黒い手だけはチャック開けっ放しのリスクも無視して出しっ放し。ぶらぶらと上下させ手持ち無沙汰に遊んでいる様はまるでシク=ニーロからの着信を待っているかのようにさえ見えた。無理もない。シク=ニーロからの電話は番号非表示でかかってくるので、こちらからかけることはできないのだ。
そんな暇そうにしているミコがボソッと口を開いたのだ。
「パターンが違うってことは、あいつの環境も今までと違うってことだわ。やっぱ時間遡行の準備が整ったのかも。もしくは……」
「もしくは? なんです、ミコさん」
「気まぐれが発動したかしらってトコロ。同族嫌悪の認識ではわたしに似てシク=ニーロは気まぐれで自分勝手で移り気な性格してるのよ。このタイプの人間は極めて気移りしやすいから、もう関心も持ってないかもしれない。投げっぱされたらお手上げよねー」
「そんな弱気薄弱心情でどう闘うのよミコ。あなた、敵をあいつをシク=ニーロを、悪さできない身体にするんじゃなかったの?」
「華様、そんなこだわりはデメリットしか呼ばないわ。必要なのは環境に応じて柔軟に対応できる姿勢よ。凝り固まっていたら、絶対付け狙われるからね。大体極論で言うなら、わたし、自分の推理も信じちゃいないわ」
「は? 本当かよ」
会話劇の中でまたも飛び出したミコの常識外概念。翔が合いの手を入れると、ミコは「やれやれ」とぼやき、一旦下を向いて溜息ついてから顔を戻し話しだす。
「自分で推察した推理でもね。わたしはこれっぽっちも信じてない。信じることより大切なことがこの世にはよっつあるわ。受け止められるか。許せるか。好きになれるかそして飽きられるか――このよっつが完全に揃わない限りは、わたしの前で信じるなんて言わないで。気安い詞にも敵意が湧くわ」
最後の詞を過激な表現で締めくくったミコの話を聞いて、パトカーの体感温度がゾッと下がった気がした。ナミコも表面上は冷静を心掛けているけど、心臓は鼓動を早め、必要もないのに血流を、思考を急かす。その結果が導きだす真実はひとつ、ミコもまた簡単にシク=ニーロと同類になってしまうかもしれないという危機感であった。実際ミコはレインになる前から殺しを体験している身分である。いつ転んでもおかしくない。
では止める方法はあるのか?――ある。助手のナミコをはじめとした味方がいればミコが殺すと言っても前述のタワーを相手にするような正当殺人しかしないだろう。ナミコには短い助手生活ながらその点だけは理解していた。ミコはシク=ニーロの行いを遊びと喩えたことも憶えている。ナミコはミコが人を道具のように利用し殺すことはないと思っていた。それこそ「信じていた」という詞を使いたかったが、思い込みは危険だとも理解していた。気象一族と他勢力とが起こした数々の闘いや国殺しのスコアゲームなどはナミコが生まれていた時に実際にあったこと。そしてミコはレインとしてその最前線にいた人物である。その血肉には闘いや暴れたがる本能本心が混じっていると言っても過言ではなかろう。そんなミコを慕い、あまつでさえ付き従う理由。それはミコが併せ持った善性とそれを補助するという先にも述べた助手としての使命感。理由なんてそれだけで十分だろう。
だからナミコはミコの顔色を眺める。ほんの少しだけミコの方を向いて、ミコの顔を視界に入れる。そうすることで下がった体感温度が火照るように熱く暖かくなってくるのだ。
するとその視線に気付いたミコが「なにかしら」と柔く淡い表情をこちらに向けてくる。この儚さにも似た柔さ淡さにナミコは心揺り動かされ、どうしようもなく惹かれてしまう。でもそれを口に出すことは決してせず、ただ「助手ですから」と特許状文句を謳うのであった。