第11話_3本目
3本目
・ミコ コスト残数19→56 手札2枚 ボツボックスのカード7枚アイコン数20
ロストホールのカード10枚(メイク7,コマ3) ストックプールのカード0枚
・翠 コスト残数27→49 手札6枚 ボツボックスのカード1枚アイコン数4
ロストホールのカード8枚(メイク6,コマ2) ストックプールのカード5枚
3本目の始まりを審判が告げた。先ずはドロータイム。翠は相変わらずドローと見せかけたサーチ抜き出し。一方ミコは呑気なもの。其れも致し方のない事か。何故なら2本目で使ったメイクカード『ソフィアちゃん大暴走!』の効果によりドロータイムで引く山札の枚数が3枚に激増しているからだ。焦る必要もないのだろう。全周開いたがま口チャックから飛び出している黒い手を3本、順に並べて1枚1枚また1枚と引いていく。
ドロータイム終了。翠の手札は7枚になる一方、ミコは3枚もドローしたの手札が5枚に激増していた。扉を筆頭に手札を盗視透視している応援団――“影の隠密”達からの報告によれば引いたカードは3枚ともメイクカード。此のまま行けばコマカードは揃わずにペナルティ措置となるだろうが、ミコの事だ。イカサマしてでも其れは回避するだろう。
なので翠は今回からミコの後手に回る事を止め、自分を優位に加速させるカードを率先して使いにきた。何よりも先に出しておかねばならぬカードも在る。翠は希の「メイクタイム!」の掛け声が上がると同時に其のカードを放り投げた!
「コスト9メイクカード、『プレッシャシック』を使わせてもらうわ。このカードを使って以降、泥棒ミコさんはメイクカードを使う為のコストを倍にするか或はコスト通常の代償に山札から2枚ロストホールに捨てるヘヴィな条件に変わるわよ」
「むっ! コスト激増カードを使ってきたわね……地味に痛いわぁ。やるわね。翠様」
ミコが翠の先手に唸る。だが翠は其れに満足する素振りも見せず、続け様にメイクカードを使ってきた。2本目でミコが使った『白紙化してなかったことに』に匹敵する、切札的カードを!
「もいっちょ行くわよ! コスト15メイクカード、『マニュスクリプト・ターミナルアクセス』発動! コストには5文字の設計図3個からなる15の恒星の光しか使えない上、これで消費した15のコストは効果発動中5本経っても帰ってこない半永久封印だけど、此のカードを使う事により、此の本からミューは手札だけでなく山札からもコマカードを選んでマニュスクリプトに出すことができる。然もカード記載のアイコン数に関係なく、ショウタイムで消費するコストは1枚につき1個のみ! さらに発動した此の本にストックプールに送るコマカードの維持コストも半分(切り捨て)になるわ。どうよ! 此の神懸かったコスト調整ぶり。褒めてもいいのだよ。ああ、ほれほれ」
「神懸かったって今神様じゃん翠様。笑えないので褒めませーん。さて、今度はこっちの番。まずは手札を充実させまーす。まずはドローするメイクカード……と。え〜っとどの手に……ってこれだこれだ。はい、コスト1を倍にして『引く手数多の売れっ子作家』使用! ロストホールにあるコマカードの数だけドローできるわ。わたしのロストホールには現在メイクカードが7枚コマカードは3枚あるから、3枚引かせてもらいます」
使ったメイクカードを持っていた黒い手がロストホールにカードを投げて、同時に手持ち無沙汰にしていた沢山の黒い手から3本が山札の上から1枚ずつカードを捲った。翠は此処でもミコのイカサマの証拠を掴めなかったと“影の隠密”こと神様応援団から思話通信による報告を受けて、却って闘志が燃え上がった。ミラーマッチももうできなくなった今、勝負を分けるのはどちらが因り先に自分の戦略――勝ちパターンを展開できた方の勝ち。ミコは必ずドローと見せかけサーチをしてくるはずと翠は読んでいたし、2本目のコンボ成立を目の当たりにした神様応援団も略同じ認識だった。だが流石はミコ=R=フローレセンス。此処に至っても尻尾を掴ませないとは――自分も同類だからこそ、翠は熱いものを感じていた。
そんな熱い気持ちとは矛盾するようでもあるが、翠は一方で冷静に警戒もしていた。自分があれだけやったのである。ミコの方も何を引いたか分らなくても何かしらやってくることは分る。用心してミコのメイクカード使用に備える。
そして案の定、ミコは強力無比なメイクカードを使ってきた。然も2枚も。
「コスト7を倍にメイクカード『締切に追われる恐怖』とコスト5を倍にメイクカード『さよなら卒業キャラのみなさん』を発動! 『締切に追われる恐怖』でこの本ショウタイム中ディスポーサルで、翠様の出したコマカードのFP値は起の位置でFP−15。承の位置でFP−20。転の位置でFP−35。結の位置ではFP−50とされるわ。さらに『さよなら卒業キャラのみなさん』の効果によりこの本翠様がショウタイム中の勝負で負けてボツボックスに、引き分けか勝ってストックプールに、その他の効果でロストホールにマニュスクリプトに置いたコマカードを送るとき、手札か山札からもう1枚、同じアイコン数のコマカードを道連れに同じところに送ってもらいまーす。どうよこの嫌らしさ。嫌ってもいいですよ。ああ、ほれほれ」
「最初からミューはキミのこと嫌いだから!」自分の口ぶり真似されてムカッときた翠様。ミコが自分に返した様に、皮肉を込めてやり返す。
然し流石はミコ一流。メイクカードの高コスト化をものともせず、更なる追い討ちをかけてきた。特に『締切に追われる恐怖』でこの本でのFP対決がミコに大きく有利になっている。手札は5枚、然も全部コマカードのため今此処では状況を打開することもできない。ならばディスポーサルでの回放効果ね――翠は『マニュスクリプト・ターミナルアクセス』の効果に基づき山札から2枚、元々持っていた手札から2枚を起承転結に配置する。対するミコも起承転結、手札から4枚マニュスクリプトにコマカードを配置する。3回目のショウタイム、準備は整った。
コマカードが起承転結に配置され、翠とミコの目が互いを見据えたのを審判役の天と希が確認する。2名は拳を突き上げ叫ぶ!
「準備はいいか?」「さあ、ショウタイムよ!」
「オオオオオオオオオオオオオッ!」神様応援団が審判役のコールに滾る中、翠とミコは起のカードから順に回転させてカードを“魅せた”
翠は上、上、下、上の順に。
ミコは右、上、左、下の順に。
会場からはどよめきの声が上がる。1・2本目共にミラーマッチだったので、戦術を切り替えた翠とミコによる本格的な全面衝突に心躍らせているのだ。特に皆が注目したのが『マニュスクリプト・ターミナルアクセス』の効果で翠が高コストアイコン数多めのコマカードを遠慮なく使っている点に或る。何しろ全てコスト1なのだから。安上がりにも程がある。まあ、此の時点で翠はミコが使った『トジコメイロ』によるストックプール維持用のコストを12も払わされているのだが。其れでも今後マニュスクリプトに出すコマカードのコストが1になるのは心強い。其れを踏まえてコマカードを山札手札から織り交ぜて展開した翠。元々翠の手札は5枚全てコマカードだったが、ミラーマッチ戦術を二度も続けたのでミコに手の内バレていると悟ったが故の処置である。
対してミコも今度は翠と回転を合わせる事など無く、遠慮無く自分の戦略戦術を疲労しようと云う気満々の回転の組み合わせ。ミコが使ったメイクカード、『締切に追われる恐怖』の所為でこの本翠の出したコマカードはかなりのFPマイナスを喰らうので、覚悟と度胸が試されるのだ。
そして始まる勝負の時。今度は希が先にディスポーサルの処理に当る。
「行くわよ! まずは第1戦。翠、ミコ共に起のカード。翠は起結コスト2『オロオロヒロイン若葉』の上回転。FP90。回放効果は『このカードの後に配置されたカードの数×10を後続に配置したカードのFP値に加算』。此のカードは起の位置、後続は承転結の3枚! 因って翠が承転結には位置したカードには一律FP+30が適用される。勿論ミコが使った『締切に追われる恐怖』のFPマイナス効果も適用されるわ。『オロオロヒロイン若葉』では90−15=75。次はミコが起に置いたカード、起コスト1『驚き叫ぶよステラさん』の右回転。FP40。回放効果は『この本のカウント数(何本目かの数字)×15をFPに加算。さらに勝負に勝った場合、後続のカードを回転方向引き継ぐ条件のもと該当位置のアイコンを持つロストホールのコマカードと好きなだけ交換してもよい』……ね。FPはこの本3本目だから15×3=45を加算してFP85になるわ。ディスポーサル! この勝負ミコの勝ち。翠の『オロオロヒロイン若葉』はボツボックス行き。更にミコの使ったメイクカード『さよなら卒業キャラのみなさん』の効果が発動し翠は手札か山札から同アイコン数のコマカードをもう1枚ボツボックスに送らなくてはならないわ。翠、選んで頂戴」
「そうね……手札は減らしたくないから山札から承結コスト2『ネタキャラ要員康祐君』をボツボックスに送るわ。これでミューのボツボックスアイコン数は8か……やるじゃん、泥棒ミコさん」
「褒めてもいいのよ。どんとこーい」
苦虫を萬匹ギリギリと歯ですり潰したかの様な口調の翠の憎まれ口に、先ず一勝を取ったミコは余裕じみた楽し気な声で応える。然う上手くは運ばせねー――翠は内心逆襲してやるとの想いを焦がすのだった。勿論ミコの詞は無視。
そうこうする内に続けて発せられる希の声。ミコの方の効果処理を促す声だ。
「で? ミコは承以降に置いたカードをロストホールのカードと入れ替えるのかしら?」
「ええ。承の位置に置いた『悪乗りしちゃうぜゆみ先輩』をロストホールの『主役はわたしよ友梨乃姫』に。転に置いた『花奈ちゃんのツッコミ』を『母親に見えない凉夏さん』と入れ替えるわ。結はこのまま。それでよろしく」
ミコが効果処理を終えると、希に代わって天が次のステップ到来を告げる。
「では第2戦を始めるよ。ミコは引き続き起に置いた『驚き叫ぶよステラさん』でFPは85ね。対して翠は承に置いた起承転結コスト1『10代社会人みなみちゃん』の上回転。FPは0だけど、回放効果が『手札の枚数分コストを追加で払うことでこのカードのFPは最終補正後の相手FPと同値を取り、両方ともストックプール行きになる』と条件付きFP補正系効果があるわ。今翠の手札は3枚。翠、コストを払うか否か?」
「払うわ。コスト3を消費して効果発動よ!」
「ディスポーサル! 翠のカードの効果発動により、FPは同値85となり、引き分け! 両者、コマカードをストックプールへ! 更に翠は『さよなら卒業キャラのみなさん』効果で手札か山札から1枚、ストックプール行きに同伴させる事。翠、どのカード?」
「アイコン数の同じやつよね……起承転結コスト4か。半分になるとは云え痛いわー。でもまあ仕方ないわね。手札から起承転結アイコン持ちの『悪乗りしちゃうぜゆみ先輩』ストックプールに送るわ」
「第2戦、終了!」
「これで翠が抱えるストックプールのカードは7枚。維持コストは毎本20になりました。かなりピンチですね。占いで一月ずっと不幸と占われる位ピンチです。イカサマしなさい。翠、イカサマして勝つのです!」
神様応援団の一角、翠や㬢と同じプレイヤー班の黒一点、戦が同性の男神連中の中で翠の置かれた状況を冷静に分析していた。偶々近くに居て其の分析を聞いた茂が、ポップコーン口に含みながらの声で「ホラホラ私の予言通りじゃないか」と勝負に出る前諌言した自分達男神仲間を軽んじた翠を非難する様なコメントを発するが、直ぐに周囲の男神達からボディブローを全方位から集中放火され黙らされた。でも殆ど効いてない。翠に「メタボデラックス」と表現される肉の厚さは伊達じゃないのだ。だけど茂も周りの制裁がどんな意味を持っているのかは分っているので大人しく黙る。茂とて場の空気は読める。文句を云った事も有ったけど、今は全力で翠に加担する時。だから「只の軽口だよ。ま、不適切な頃合いだったかも」と軽く詫びる事でその場はあっさり収まった。審判役の片割れ、希のコールも届いたからだ。
「互いに一勝一敗ね。次行くわよ、第3戦! 翠は転のカード承転結コスト1『ドSだけど人気者。姉御・高天原御咲』の下回転。FP80。回放効果は『このカードはメイクカードの効果を受けない。さらに勝負に勝った場合山札から1枚メイクカードを選んで手札に加えてよい』ね。一方ミコは承のカード、起承コスト2『主役はわたしよ友梨乃姫』の上回転。FP50。回放効果は『相手の手札の枚数分ドローし、ドローした枚数×20をFP値に加算』よ。今翠の手札は2枚。よってミコ、2枚ドローして」
「あいあいさー♪」
希の指示にミコは嬉々として答え、空の黒い手2本を使って上から2枚ドローする。翠は仲間達からの思話通信でまたしてもイカサマの証拠を掴めなかった旨の報告を受けるが、もう気にもしてないので、(大丈夫よ。でも監視は続けてね)と神様応援団と審判役の神様仲間達全員に通達する。其の意を受けた希は其れを合図とディスポーサルの続きを再開する。
「FP計算いくわよ。ミコは回放効果でFPが2×20加算されて50+40=90。翠は素でFP80。然も回放効果でメイクカードの効果を受けないのでミコが使った『締切に追われる恐怖』のFP−35は無効! その一方で起のカード『オロオロヒロイン若葉』の効果によるFP+30は有効。因ってFPは80+30=110。ディスポーサル! この勝負翠の勝ち! ミコはコマカードをボツボックスへ送って。更に此処で翠の回放効果が条件を満たしたわ。山札から1枚好きなメイクカードを手札に加えられる。各々方、処理をして」
「了解」「はーい」翠はしてやったりと久しぶりのドヤ顔で、ミコは急いでないの生き様を体現するかの様な能天気な返事をして、それぞれ後始末の処置をした。
翠はコストリカバリ用にメイクカードを山札から手札に加え、コマカードしかなかった手札に保険をかける。片やミコは勝負に負けたコマカード『主役はわたしよ友梨乃姫』をボツボックスに送った。1本目に翠が使った『ボツ原稿の怪談』による水増し分も合わせ、ミコのボツボックスアイコン数は23。じわじわと追い込んできたのだが、翠の方がピンチである。何せプラニスフィアの残りコストがもう2しかないのだ。この本は何とか切り抜けたが、もしもミコがコスト割増系等の効果を持つカードを使っていたら終っていた。その点に於いてはミコのイカサマミスを翠は笑う。2本目に自分が油断してピンチとなった様に、今度は此処で止めを刺しきれなかったミコが窮地に陥ってもらう番だ。
そして双方処理を終えた事を確認した審判役の天が次の勝負の始まりを告げる。
「どんどん行くよ、第4戦! お互い承の位置のカードね。翠は変わらず『ドSだけど人気者。姉御・高天原御咲』のカード。FP80に加え起に置いたコマカード効果で+30。80+30=110。さてミコの方は承の位置コマカード初披露。起承転コスト3、『母親に見えない凉夏さん』の左回転。FP90。回放効果は『自分と相手の手札の枚数が同じとき、相手はこのカードのアイコン数分手札からコマカードをロストホールに送る。足りない場合は山札からも送る』だよ。何と現在翠とミコの手札枚数は3枚で揃ってるので効果発動。翠は手札から優先してコマカードを3枚まで捨てて……てか有るの、翠?」
「『主役は私よ友梨乃姫』と『母親に見えない凉夏さん』の2枚しかないわ。だから山札から……これね、結コスト1『トリックスター半蔵君』を選んで3枚、ロストホールに送るわよ。でも勝負には勝ったわよ。天! ディスポーサル!」
「ほいきた! いくわよディスポーサル! FPは翠110に対しミコ90! この勝負翠の勝ち。ミコのカードはボツボックスへ。更に翠は『ドSだけど人気者。姉御・高天原御咲』の効果が勝負に勝ったので発動! 好きなメイクカードを山札から1枚持ってきなさい。戦後処理開始!」
天の合図とともにミコのコマカードはボツボックスへ送られ、反対に翠は山札から好きにメイクカードをサーチして1枚持ってきた。今度はドロー系のカードだ。勝負に勝ったとは云え、今は山札からもコマカードを展開できるとは云え、流石に手札にコマカードがないのはマズい。なのでドロー系カード。鉄板のチョイスだ。これで手札はメイクカード2枚になった。そして相手の泥棒ミコはボツボックスが又1枚肥やされ、ボツボックスのアイコン数は27。残り12にまで追い込んだ。この本さえ生き延びれば次の4本目で勝負は決まるだろう。
だが、目の前の問題から目を背けるわけにはいかない。未だ3本目のショウタイムとディスポーサルは終ってないのだ。其れを知らしめるかの様に希の声がホールに響く。
「最早未知の領域ね……第5戦、start! 翠は三度正直に勝ち続ける承のカード『ドSだけど人気者。姉御・高天原御咲』の下回転。FP80。メイクカードの効果は回放効果で受け付けず、味方のFP30加算によりFP80+30=110! そしてミコの最後の砦、結の位置に置いたカードは2本目で獅子奮迅の働きを魅せた脅威のコマカード。転結コスト2『特技ありすぎミス・メロディアーレ』の下回転! FPは0! そして注目の回放効果は『ロストホールにあるコマカードの総アイコン数×10をFP値に加算。そしてFP差35以上で勝った場合、相手はロストホールのコマカード全てをボツボックスに送り、さらにロストホールにあるメイクカードの枚数分ボツボックスのアイコン数を水増しする』とか云うトンデモ効果でございますね。そしてミコのロストホールには起承転結勢揃い、アイコン数MAX4のコマカードが『花奈ちゃんのツッコミ』、『10代社会人みなみちゃん』、『悪乗りしちゃうぜゆみ先輩』と3枚在るわ。因ってFP加算は12×10=120。FP合計は0+120=120! ディスポーサル! FP110対120。此の勝負ミコの勝ち。トンデモ効果の発動は条件を満たしてないので無し。更に『ドSだけど人気者。姉御・高天原御咲』の回放効果はメイクカードの効果を受け付けないので『さよなら卒業キャラのみなさん』によるもう1枚のコマカードをボツボックスに道連れにする効果も無効となります! あー長かった! 第5戦、此れにてfinish!」
長台詞の台本をリテイク無しの一発録りで声当てしたかの様な希の審判が終わり、皆がした事は緊張の糸を解すべく息を呑み、呼吸をすることだった。其れ程までに場は張りつめ、皆固唾を飲んで此の勝負の行方を見守っていたのだ。翠とミコ、互いに譲らぬ攻防の中、中盤翠の『高天原御咲』が猛威を奮い出し、ミコを最後の配置結のカード迄追い詰めたが、其れを迎え撃ち返り討ちにしたミコの『ミス・メロディアーレ』の無双振り。未だゲームは4本目なのに、コマカードに有る4つの回放効果中3つまでを披露し、そして尽く結果を出している。翠もその強力さは知っていただけに、2本目のショウタイムで自分の『ミス・メロディアーレ』をストックプールに封印されたのは痛かった。1、2本目ではコマカードの効果によるカードの強制排除が目立った為にディスポーサルも展開がスピーディだったが、ミラーマッチでなくなり、ガチで勝負した結果がコレだよ! 予想外の長期戦にもつれ込んだショウタイムに複雑怪奇となった各ディスポーサル。其れが翠やミコだけでなく、審判役の希と天、更には神様応援団をも結構疲弊させていた。此の点審判役が2名なのは素晴らしいと云う他無い。何せ3本目の勝負は後一つ決着を残しているのだから。そして到頭その時が来た。天が3本目最後の勝負を仕切る。
「長かった3本目のショウタイムも此のディスポーサルで最後だよ。行くよ!」
「オオオオオオッ!」
神様応援団の空元気元無茶元気な絶叫と共に、天も疲れた様子を隠さず、半ば自棄気味にディスポーサルを開始した。
「最後。決着。第6戦。翠のコマカードは結の位置に置いた結コスト1『物語の女王・ヴィクトリア』の上回転! FP70。回放効果は『このショウタイム上回転で魅せた自分のカードの枚数×10をFP値に加算。さらに上回転の枚数が4枚未満の時、相手は山札の上から上回転させた枚数分カードをロストホールに送る』だよ。山札を捨てる効果は無条件型だから今発動。ミコ、山札の上から3枚捨てなさい」
「了解。さあわたしのおてて、いってらっしゃい」
天の宣告に応じミコは大量に余っている空の黒い手を3本山札へ向かわせ、1本ずつ上から引かせる。ロストホールは互いのプレイヤーが視る事が出来るエリアなのでこの効果でロストホール行きになるカードは盗視透視するまでもなく、翠も確認できる。翠としては3枚中何とか2枚、最低でも1枚はコマカードを期待したいところなのだが……。
ミコの黒い手が先ず山札からカードを捲った。此方に表面を魅せてくる。
「1枚目。起承転結コスト4『ジト目が特徴本条さん』を捨てるわ」
(コマカードキター)翠は先ずは最低ラインを突破した事に安堵。続けて2枚目。
「2枚目はメイクカードね。コスト3『路線変更』を捨てまーす」
(外したか)翠は心中舌打ちを打つ。愈勝負の3本目。ミコの黒い手が山札を取った。
「3枚目。あーコマカードかあ。承転結コスト3『甘えん坊なくみちゃん』ね」
(願いが叶った!)翠は喜びを隠しきれず、周りの目も気にせずガッツポーズを決めた。後もう少し。4本目で勝負を決められる可能性が一気に高まった。略思惑通りの結果に顔はドヤ顔から緩くなり綻ぶ。然しFP勝負は終っていなかった。其れが予想外に痛い事になる事、すっかり忘れていた翠です。
「FP計算! 翠は回放効果により上回転3回分×10=30と起のカードの効果分30、合計60をプラスする。が! ミコが使ったメイクカード『締切に追われる恐怖』により結の位置のFP−50! 因って翠のFPは70+30+30−50=80! そしてミコは前の勝負に引き続き結のカード『特技ありすぎミス・メロディアーレ』の下回転でFP120! ディスポーサル! FP対決80対120でミコの勝ち! メイクカード『さよなら卒業キャラのみなさん』の効果で翠はアイコン数1のカードを手札には無い筈だから山札から捨てて! 更にFP差が35を越えたので『特技ありすぎミス・メロディアーレ』の下回転回放効果の条件が満たされたよ! 翠はロストホールに在る全てのコマカードをボツボックスに送る事! 更にボツボックスのアイコン数は翠のロストホールにあるメイクカードの枚数分水増しです! お互い処理を!」
「だあああああああっ! やられたあ!」翠は手札を持った手にも拘らず感情の侭に頭を抱えて絶叫した。ミコは勝ち残った『ミス・メロディアーレ』のカードをコスト2消費してストックプールに送るだけ。一方最後の勝負に負けた翠は負けた『ヴィクトリア』とアイコン数が同じ1であるカードとして承コスト1『フェードアウトした惠森父』を山札から抜き取ってボツボックスに送った。此れでボツボックスのアイコン数は13なのだが、『ミス・メロディアーレ』の無双効果が発動してしまったが為にロストホールに在るコマカード全てがボツボックス行きになった。枚数は5枚。アイコン数の合計は実に9。更にロストホールに在るメイクカードの枚数――8枚分アイコン数は水増しされ17ものアイコン数がボツボックスに追加された。合計30。ミコのアイコン数は27なので、到頭ボツボックスのアイコン数もミコに逆転されてしまった。矢張り此の3本目、戦略を整える目的に加えてミコの攻勢に対し防御を採った事が失敗だったかと、翠はゲームの内容を思い返して顔を顰める。最早自信たっぷりのドヤ顔なんて何処へやらって話である。
だが其れも仕様がない事だった。何せ3本目翠が残り使えたコストは僅か2にまで減らされていたのだから。手札の事を考慮しても、止むなしと云った処だろう。
なので正直に翠はロストホールの処理を終え、完了の旨を伝える。其れを受けて審判役の希と天が宇宙に木霊させるかの如く叫んだ。
「3本目、此れにて終了です!」