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川淵の向こうへと  作者: リュウ・鮫島
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1-3

「あーあ、頼まれた買い物済ませてたら、すっかり遅くなっちゃった。

お母さん怒ってるだろうなー。今晩のおかずも入ってるのに」

一人家路を急いでいると、あたりはすっかり琥珀色に染まった。


「こうして歩いていると自分だけの世界にいるみたい…夕焼けが

あんなに奇麗…なーんて言ってる場合じゃなかった。急がなくっちゃ!

…?あ、あれ?」

見ると自宅前で一人の男が倒れている。

周りにまだ誰もいないところを見るとたった今、倒れたのかも

知れない…


「あの…大丈夫…ですか?」

 おそるおそる近づき声を掛けると、その男は苦しそうに腹部を手で

押さえたまま顔を上げる。

 黒髪ではあるが、その彫りの深さは明らかに外人特有の面持ち

だった。

(大変! 誰かに刺されたのね。人を呼ばなきゃ…そ、そうだ、警察に

電話っ!!)

 家に入ろうとする優香を、男はスカートの裾を掴んで阻止した。

「え? 何? えーと…アーユーオールライト?」

 優香は主要五科目の中でも苦手な英語の単語を必死に並べて会話を

試みた。

「ハ、ハラヘッタ」

「へっ?は、腹減った?日本語…なの?」


 意外な展開に動揺しつつも、先程買ってきたばかりのスーパーの袋の

中から八枚切りの食パンと、1リットルの牛乳を差し出して様子を

見た。

 男はまるで最後の力を振り絞るかのように生命の糧を受け取ると、

食べるということにのみ、その情熱の全てをかけた。

(あーあ、私の明日の朝食がみるみるうちに減っていく…お母さんに

何て言い訳しようかしら…)


 男は最後の一滴、最後の一欠片までも残さずに胃袋に収め終わると、

ゆっくり立ち上がって礼を言った。

「助カッタヨ。アリガトウ…ココ、ユーノ家デスカ?」

「ええ、そうよ」

「ソウデスカ。今度会ッタラ必ズオ礼シマス」

 男はたどたどしい日本語で、そう言うとくるりと背を向け夕闇迫る

町中へと消えた。


「何だったのかしら、あの外人…」

 優香は家に入ろうとした時、さっきまでいた男の場所に光るものを

見つけた。

「何だろう、これ」

それは見たこともない文字が彫られた、10センチ程の長さの真鍮の

『鍵』だった。


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