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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第六章 遠征に縁あり
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第99話 魔王の目覚め

 これは僕の夢であり、過去の出来事。忌々しいあの勇者と竜人が、僕から大切なものを根こそぎ奪っていったあの日のこと。


 僕がいる城の周りは完全に竜と化けた竜人の火炎で、建物、そして大地を問わず燃えていて、付近は戦場と化している。その戦場ではおとーさんの部下が僕たちを守ろうと必死で戦っていてくれていた。しかし、なかなか防戦一方で、勝てる見込みが見いだせない。


「勇者……っ」


 高い位置にある城の窓を覗き込み、僕のおねーちゃんであるソプラノが歯を食いしばり、部下たちがなぎ倒されていくその光景を見て、打ち震えているのがはっきりと分かった。当然そのころの僕たちはまだまだ経験が浅い小さな身体だ。


「――」


 この先の未来を知っているのに、体が思うように動かない。口は思ったことと違うことを言い放っている。例えるなら、まさに夢の中。

 火の粉が舞い散る目の前の光景に引き込まれそうなその時、後ろから優しくて暖かい腕が僕たちを包む。ああ、おかーさんだ。


「大丈夫よ。二人とも。私たち魔族は戦闘特化の種族なんですから。心配しないでいいの。なによりお父さんはこの世で一番強いんだから。なにも心配することはないわ」

「そう、でも! 私、皆を助けにいきたいよ……っ!」


 この頃のおねーちゃんは人一倍正義感が強かったっけ。彼女は僕より二歳だけ年上。それに、戦いに関しては凄まじく上手で、教わったことの飲み込みが非常に早い。

 彼女は産まれてほんの十数年しか経っていないのにも関わらず、能力を認められて、魔族の高い位についている。それがソプラノと呼ばれた僕のおねーちゃんだったんだ。

 ――僕はあんまり戦闘は得意じゃなかったから、勉強の方が好きだったかな。


「ふふっ……」


 震える僕たちを溶かすように、おかーさんは柔らかい笑みを浮かべていた。まるで、こんなものは悪い夢ですぐに覚めるだろうと暗示するかのように。

 それに、魔族の幹部でさえ手を焼いている今では、僕たちが行ったって無駄死にするだけ。おねーちゃんも逸る気持ちを抑えかねて、ついつい好戦的な言葉を出してしまっていた。


「他のみんなが戦うなら私も行くッ!!」

「そんなこと必要ないわ。あんなやつら、おとーさんが直ぐに倒してくれるんだからね」

「でも……魔族の皆が……」


 おとーさんは本来の自分の力を引き出すために瞑想中だったんだ。だから皆は文字通り命を掛けて、おとーさんの力の解放を終えるまでの時間稼ぎをしてくれている。


 ――ああ。皆が倒れているのに、戦っているのに、そんな時に僕たちは全く役に立たなかったっけ。

 ――覚えてる。悔しかった。胸がずっと締め付けられてるみたいだった。


「大丈夫よ。皆は凄く強いんだから。勇者なんて人間がちょっと強いぐらいなんだからね」


 車椅子に乗りながらも、おかーさんは優しく励ましてくれたけど、僕たちの不安は収まらなかった。なにより、勇者っていう魔族の天敵が来たことなんて初めてだったんだ。


 ――不安な時間がゆっくりと流れていく最中、遂に状況に変化が起こる。


 コンコンと、部屋の入口の扉が叩かれると、まだ若かった頃のジャイと呼ばれる魔族が、凄く戦慄した表情のまま、おかーさんに耳打ちをした。


 彼女は一瞬だけ僕たちですら見たことない顔つきをした後、すぐに表情を戻して、再び優しく話しかけてくれた。


「ちょっとおかーさん用事があるから出てくるね」

「えっ……どーして?」

「っ!? やだよ……っ!」


 唯一の心の支えが無くなってしまうと思ったから、全力でおかーさんがここから居なくなることを止めようとしたんだけど――やっぱり聞いてくれなかった。お姉ちゃんも多分同じことを考えてたと思う。


「大丈夫よ、すぐ戻ってくるからね」


 そういっておかーさんは車椅子を動かしながら部屋を出ていった。いま頼れるのは、僕より強いお姉ちゃんのみ。

 ――そういえば、僕はお姉ちゃんにずっと抱きつきっぱなしだったっけ。今思えば、当時ですら敵なしの彼女でさえ震えてたので、やっぱり怖かったのかもしれないと思う。


 暗い空間の中、ひたすらおかーさんの帰りを待っていたら、ついに扉が開く。だけど来たのはおかーさんじゃなくて――


「ジャイ!?」

「お……っ、お逃げ……くださいっ、アルト、様っ、ソプラノ、様ぁ……」


 その時僕たちは、彼の怪我を見てしまった。四肢は血で赤く染まり、顔には無数の火傷の跡がある。絶え絶えの息で何とかこちらへ逃げ込んだのか、部屋に入ったその瞬間に背中で扉を勢いよく閉めて、ゼイゼイと息を吐きながら()()()()()


「ジャ、イ? ねぇ、なにその怪我」

「今、すぐに、お逃げくださ……ぁ」

「――え」


 絶対の防壁だと思われたその扉から生えだしてきたのは真っ白な剣。魔力からして魔族のものではないが、寄りかかっていた彼は当然……貫かれている。

 見たこともないような、真っ白い剣に、僕の頭も白く染められてしまう。思考も、体も、動かない。


「その扉、鉄製でもないんだから簡単に通るよ? 安全なわけないでしょ。馬鹿じゃない?」


 ――一瞬じゃ、理解出来なかった。白い剣で貫かれてしまったジャイは、次の瞬間に僕の視界から外れた。

 多分その時、侵入者は魔法を使ったんだと思うた。彼はまるで横向きの竜巻のような衝撃波に、扉越しに当てられて、部屋の隅へと吹き飛ばされていく。


 元々扉があった場所を見れば、ある人物がにこやかな笑顔を浮かべながら立っていた。

 白い法衣に白い剣もち、そしてなによりも、危機感を募らせたのが、彼の放つ絶対的なオーラである。


「――勇者様、ここにも魔族が」

「まさかこんなところにも隠れてたなんてね。魔族の癖に随分こそこそしてるんだなぁ」


 ――勇者とその一行だ。

 とてつもない殺気を身に受け、震えが止まらなくなる。お姉ちゃんでさえ絶望的な顔を浮かべていたこの状況は、勇者が相当な実力者であることが体で伝わる。


「さて魔族は、人間を、脅かす、敵、だからね。さっさと始末しないとねぇ」


 一言一言区切りながらも笑顔を浮かべつつ、一歩、また一歩と彼らはこちらへ近づいてくる。そのようすはまさに小さな二人を誘拐しようとする不審者であった。


「このぉっ!!」


 おねーちゃんは僕を突き飛ばし、ありったけの魔力を注いで両手から大量の闇属性の球体魔法を一気に放つ。

 一個でも部屋を壊してしまうようなそれは、協力な破壊力がある。


「あははっ、子供にしてはやるじゃん」


 ――しかし、彼女の全力の攻撃でさえ彼は全く気にしたようすもなく、勇者が腕を目の前で振るった瞬間、すぐさま暗黒の玉は消滅し、攻撃は無力化されてしまった。


「あはは、無駄だね。君みたいな小さな子は好きだけど、魔族だからね。殺しておかなきゃ――ね?」

「あ、ああ、あぁっ!!」


 勇者がその言葉を放った途端、彼の隣にいる小さなの女の子が動き出した。

 魔法を放ち続けているおねーちゃんに、当時の僕よりも小さい女の子が凄まじいスピードで接近して、その彼女の手に触れると、おねーちゃんは気を失ったかのように、膝下から倒れていく。


「お、ねぇ……ちゃん?」

「さて、次は君かな?」


 目の前で大きな手が差し出され、子供の頃の僕にだんだんと近づいてくる。何度も思い返される光景に僕は頭が真っ黒になっていき、視界も真っ黒に染まっていく。


「触れないで……さわら……ないでぇぇっ……」

「あは、はははははははははッ!!」



 完全に頭が黒く染まっていき、存在が消えていくような感覚が身を包むその中で――



 声が、聞こえた。でも、なんの声か分かんなかったし、はっきりとは聞こえなかった。



 しかし、これがトリガーになったのか、意識が戻ってくるような感覚がある。

 目の前をしっかりと見る。勇者の手が、僕に触れる寸前である。しかし、この世界は止まったように動かなかった。世界が止まっていたのだ。


 ――やられちゃったな。僕は自分に対して笑った。


「あは、はは、はっ……そっかそっか、幻覚魔法かぁ。うん、完全にやられたよ」


 ピシリと音が響けば、空間と勇者の体に亀裂が入る。まさかこの僕、()魔王がこんな幻術よりもちゃちな魔法、幻覚魔法に掛けられちゃうなんてね。


 ふわふわとしていた意識は一つにまとまり、はっきりとしたものになる。あの聖霊レオは僕が魔族と知っていて、この魔法を使ったんだね。

 魔族は精神攻撃にも強い。僕も当然対策してたはずだけど――あの聖霊にこっぴどくやられた時に、対策の魔法が解けたのかもしれない。


 だから僕は、この辛い過去の記憶の世界に閉じ込められていたんだね。


 すべてを理解した途端、亀裂はさらに大きくなる。この空間は硝子にヒビが入ったかのようにバキバキと割れて、その先には優しい光が漏れる。

 僕は鬱憤を拳にこめ、勇者の映像に向けて振りかぶる


「あいにく僕には、昔とは違って……信頼できる人がいるんだよッ!!」


 勇者の像を思いっきり殴りつけた途端、手応えはなかったものの、見えるもの全てが割れるような音を立てて崩れ去っていく。


 ――はぁ……情けないなぁ。


 白い光が優しく僕を包む。先程のような存在を消そうとする暗い闇とは真逆の雰囲気だ。


 ――あれ? 僕っていま何処に居るんだっけ?


「っ……ぅぅ……ん……?」


 目を開けるとそこは一度学園のイベントである遠征の際に、仮眠をとったテントの中であった。

 という事は、レムたちがここまで連れてきてくれたのかな。


 目を開く。あたりはもう真っ暗だけど、夜目が利く僕からしたら関係ない。

 当然、周りには誰もいない。


「はぁぁ……やっぱり幻覚魔法かぁ……僕って最近弛んでるかも……」


 額から落ちる濡れタオルを放置して起き上がり、手を強く握り締めたり、開いたりする。

 体の調子は絶好調とは行かないけど体力も魔力も戦える程度には回復していたし、なによりみんなの気配が手に取るように分かる。


「やっと僕にも……気配探知のスキルがついたんだね。やっと……」


 僕が気配探知のスキルを獲得するために、努力し始めたのはユウと出会ってからずっとだった。


 スキルは長年経験した努力の身を結び、天からの贈物ものようにいつの間にか身に付いているもの。

 気配探知の経験はユウと会うまで不必要だと思ってたけど、あればすごく便利。

 みんなの位置が分かるというのがとても大きなメリットがある。


「ユウは感じられない……けどきっと生きてる……よね」


 彼の無事を信じながら、敷かれている布団から抜け出す。同時に突然空腹感もやってきた。


「あっ、まだ食べ物あったよね」


 闇属性魔法である《影袋シャドーポケット》を発動させた。僕の影の中へ入れたものは何時でも黒い霧から出現させることが出来る魔法だ。

 黒い霧が目立つからあんまりやりたくはないけどね。取り出したのは非常食としてとっておいたサンドイッチ。


「はむ……はむ……とりあえず、レムとシーナのところへ行こっか」


 僕はこそこそと抜け出して、レムたちの元へ転移し始めることを決める。


「二人とも、僕のいないところでユウを助ける抜け駆けしようとしたって、そうはいかないよ。あの人間を助けるのは――()()なんだから」


 なんだか、気分が燃えている気がする。気配探知があるおかげでみんなの場所が手に取るように理解できるので、ベースキャンプから少し離れたところで彼女たちに向かって転移魔法を発動した。



ご高覧感謝です♪



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