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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第六章 遠征に縁あり
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第88話 試練その2

 出遅れている。その言葉が今の俺に一番似合うだろう。今の状況は彼女らの無双である。俺は俺で対処はしているが完全に彼女たちが暴れ回っていて非常に地味だ。

 まずアルトを見てみよう。


「らぁぁぁっ!!」


 目を輝かせながら伝説級の刀を振り回す。ただの一振りでゴブリンのような魔物や、オークのような怪物の身体はズレて、次々と地面に落ちる。

 彼女の動きはまさに閃光そのものであった。甲羅を持つ硬そうな魔物でさえ、柔らかい部分を一瞬で見抜き、やはり一撃で仕留める。その殺戮の素早さは異常なもので、凄まじい速度で魔物の数が減っていく。身体強化の魔法の凄さと、彼女のスペックの高さを実感できるものであった。


『ガァァァッ!』

「おっと、甘い――よっ!」


 魔物たちも考えたのか、大量に押し攻める戦法に出たが、その程度は彼女を止められない。大きくバックステップしつつ押し寄せる魔物たちから少し離れると、刀を持っていない手を開き、魔物たちがいる方向へ向け、魔法を放った。


「ちょっと皆がいるから範囲は小さめに……《闇針(デモンニードル)》っ!」


 空中で魔法を放った彼女は手のひらの先に魔法陣を作り出し、黒い魔力で作られた極太の針を放つ魔法を幾つも放った。それは、俺が彼女と初めて会った時に使用した、大量の尖った鍾乳石を放つ魔法に似ている。

 魔力が霧散しないように粘土のように固めてあり、物質のような硬さを誇っている一撃は、いともたやすく魔物たちの体を貫いた。

 圧倒的な殺戮を見て、俺はもう彼女一人だけで何もかも十分ではないのだろうか、としみじみ感じていた。


 俺は彼女たちのように突っ込んでいないので敵に囲まれることはないが、あいにく魔物の発生が収まっていない事もあってか、俺も魔物に攻撃されることがある。

 ――が、その魔物達は決まってレベルが低い魔物なので蹴り飛ばしたり、投げ飛ばしたりと、未だに彼女たちに比べて地味な事になっている。まさに解説役だな。


 視線を移し、レムを見てみよう。少し離れた所にいるが彼女も外見に似合わず、魔物たちを屠りながら無双している。100レベル近い魔物もいるのだが、それぐらいで彼女が止まる様子はなかった。


「…………」


 アルトが動の動きに対して、レムは至って静かな戦い方をしている。カウンターが主な戦い方になっているのだ。

 前後二体同時に攻撃を仕掛けてきたならば彼女はすぐさま反応し、九つの尻尾で応戦する。尾っぽは威力も目を見張るものがあり、彼女の身長よりはるかに大きな敵が相手でも、簡単に吹っ飛ばしていく。

 まるで尻尾一本一本が意識を持っているような動きだが、尻尾のバリケードを超えてくるものも中にはいた。――が、そんな輩にはレムの腕に装備している篭手の本質を見ることになる。


「……っ!」


 彼女は腕を下に向けて勢いよく振るうと、刀が生え出すようなジャキン、という音が鳴る。

 その音は彼女の新たな装備にある、形状変化が可能な武具から発せられていた。

 彼女の装備した武具には二つのモードがあり、一つは拳まで覆う篭手モード。その場合は打撃に特化している。

 先程の駆動音はモードを変更した音で、その状態では彼女の得意とする鉤爪を篭手に作られている穴からから出現させるモードである。

 また鉤爪の素材は俺の鍾乳石ではなく、学園に来る前に戦闘を行った、魔界の亀もどきの素材から作られているので、硬さも鋭さも十分である。


「はぁっ!」


 静から動へ。レムの動きは蜂よりも素早く、霞む速さを持ちながら動く。突然の速さに対応できない魔物たちは驚くまもなく、その瞬いた一瞬で体を数回切り裂かれて消滅してしまう。

 通常の魔物であったなら血液が飛び散るが、この魔物はどうやら血液という概念が存在しないようで、ただ倒れると消えていくのみであった。よって、彼女が血濡れになることはない。

 銀色の殺戮風と成ったレムは魔物を数匹切り倒すと、突然高くジャンプを行い、それと同時に両拳に白い光を纏う。達人級の武芸を覚えたのだろうか。


「《乱閃》っ!」


 思いっきり空中で体を反らして勢いをつけ、その後左右両方の爪を振り下ろす。

 振り下ろされた両爪から放たれたのは、凄まじい衝撃波の嵐。尚且つその衝撃波には切断が可能という事を魔物がその身を持って教えてくれた。

 衝撃波は着弾したその対象の周りで暴れ回り、巻き込まれた魔物は切り裂かれていく。威力は衰えているのだろうがオーバーキルには変わりない。


「ふぅ……っ!」


 レムは着地すると大きく息を吸って、吐いて構え直す。まだまだ敵は出現するとの考えらしいがなんとも頼もしすぎる。

 少し見ないあいだに凄まじく成長していたの事に感動しながら、これまたすこし離れたシーナを見る。


「フフフ……」


 何故か笑顔であった。それも何処か悪役が浮かべるような雰囲気を持つ笑みだ。魔物たちはこれまで通り彼女に突撃していたが、未だ誰一人として彼女へ触れられた魔物は居なかった。


 彼女の戦法はこちらへ近づけさせず、遠距離で一撃必殺という、戦士クラスが泣いて叫びそうなものである。

 蛇のような魔物が彼女へ近づこうと高速で接近するが、その動力であった体は何の前兆もなく胴体が消失する。


 さらに驚くべきことに、その平行線上にいた魔物達も同時にだ。


 突然の数十体の仲間の消失。しかも彼女は杖を横に振っただけであり、彼らは接近すら出来ない。

 だが、魔物達の行動は前進。全速力でシーナへ突撃するが結果は等しく、消失。


「ふむ。この程度のリーチなら私でも操作は可能ですね」


 彼女の杖の先から迸っているのは風魔法の不可視の刃であろうか。

 それはムチのような形状をしており、なおかつ相当長く伸びるらしく、リーチは十メートルはあろうかというもの。凄まじく長い刃を振り回されるのだから、接近戦しか出来ない魔物からしたらたまったものじゃない。完全に遠距離で戦われるので攻撃すら届かないのだ。


 100レベルを超えた魔物は一撃では消えないものの、攻撃するまでには貫かれ、掴まれ、振り回される。遠隔攻撃を極めたらこのようなことになるのだろうか。


「さて、前回みたいにならないよう油断せずいきましょうか」


 シーナは油断しないことを言葉に残し、笑顔からいつもの淡白な無表情へと戻る。どうやらシーナも成長したようだな。俺が言えたことではないが。


 最後にドリュード。彼も彼なりの戦い方で着実に数を減らしている。

 今の魔道具の形状は銃の形をとっており、その銃口から放たれる弾丸は的確に魔物の頭、心臓を打ち抜いていた。FPSゲームならば確実にチートといわれるであろうと思うほど正確っぷり。

 俺達は彼をよく小馬鹿にしているが、一応彼だって元一つ星(シングルスター)、その実力はなかなかのものであった。

 しばらくの間その銃だけで近づけさせない立ち回りをしていたのだが、ついに銃モードだけでは仕留めきれない魔物が数体現れる。


「ふっ……! その程度でオレはびびらねぇよ!!」


 彼は撃ち込むのを一旦中止し、魔道具を別のモードへと切り替える。大剣へと変わったその武具はアルトの伝説級武器レジェンダリーウェポンと鍔迫り合いが可能なぐらい固く、鋭い性能のいいものだ。

 いくら銃が効かなくても、彼はさらに強い武器を持っているのだ。


「ふははは!ちょっと暴れてやろうかね!オレを催眠にハメた不満をぶつけてやるよ!」


 完全に悪役モブの台詞を放ちながら、彼は最初に地面に剣を突き刺し、衝撃波のようなものを魔物たちへ流しこみ、それにより魔物たちの足を止め、体制を崩す。


 この衝撃波の使い方は以前ギルドマスターがやっていた気絶させる技のそれに扱い方に似ている。一応あの技は武芸だったのであろう。

 震えを対処できなかった魔物たちは当然足を止めたり、すこし倒れかけたりしている。その隙を彼が見逃すことはなく、鳶色の光を剣に纏いながらすぐさま大軍に接近すると


「おらぁぁぁっ!!」


 気合一閃。彼が剣を振れば魔物たちが嘘のように元いた場所からドーム状に吹っ飛んでいく。そしてまだ鳶色の光は剣に纏われていることから効果はまだ続いている。


「もういっちょ!!」


 彼はひとっ飛びすると、別の大軍に向けて空中から魔物の大群に向けてそのまま地面に振り下ろす。凄まじいまでの衝撃波が辺りを蹂躙し、魔物達はなす術もなく吹っ飛んでいく。130レベルの魔物が居ようがお構いなしだ。パワープレイヤーと言う言葉がしっくりくるだろう。


「ふぃー……久しぶりにこんなに暴れたな」


 ドリュードはすこし額を拭うと、再び走り出す。皆の無双は魔物が全滅するまで終わらないだろう。途中で苦戦しているようすもない。


 俺は相変わらず、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの繰り返しである。ドリュードが派手なことをしているのでかなり存在感は薄い。俺も一気に行きたいところだが、彼女らの活躍が凄まじいので魔物はかなり少なくなっている。

 そこまで目立ちたい訳じゃないので、適当にやればいいだろう。


 そして遂に魔物たちは残り五匹となり、残党は部屋の中心で何やら腕を組んで格好良く佇んでいる。何やら俺強い といいたげな雰囲気でこちらを覗いていた。

 ほかの魔物に比べてみると、レベルは少々上であり、どれも140。一筋縄では行かなそうだ。


「ケケケ……ッ!!」


 観察眼サーチアイによればこいつらは下級悪魔 (クローン)とある。確かにその魔物には角もあれば、アルトのような黒い翼もある。だが問題は下級と書かれているのにレベルが高いことだ。


 これはどういうことかと小一時間問いただしかったところだが、身長140ぐらいの悪魔はそれぞれ散り、一人につき一体ずつ彼女達に向かって攻撃を仕掛けようとしてきた。俺には向かってこない。強い奴から潰そうとするのは当然のことだろう。

 しかしクローンと呼ばれているだけあり、凄いのはレベルだけであり接近するスピードは対したことがなく、その結果


「邪魔!」

「おそい……です」

「この程度ですか?」

「ふははっ!」


 アルトは向かってくる悪魔に向かって頭を掴み、叩きつける。レムはすれ違いざまに三回連続で爪を振るい、シーナは触れる前に風の刃を悪魔に巻き付けズタズタに、ドリュードは居合切り、と簡単に対処され、最後に残った悪魔は


「キ……キィィィッ!!」


 こいつらには確実に力が届かないと思い、焦りながら考えて、俺には勝てると思いったのであろうか微笑をかべつつ俺に飛びかかってくる。完全に真っ直ぐな上にスピードもそんなに早くない。

 目立たない奴と思っているのだろうか。


「はぁ、周りが異常すぎるんだよな《魔物喰い(モンスターイーター)》」

「ギャ?!」


 完全に油断した悪魔はスピードに乗ったまま俺を攻撃しようとしたので、それを逆に利用し、魔法を発動した。

 この魔法は目の前にブラックホールのような黒い渦を作り出す闇魔法であり、その中に突撃すると魔物は死ぬまでオレに魔力を吸われ続けるという素晴らしい魔法だ。


 スピードに乗った状態は恐らく簡単には止まれないので、この悪魔は俺が開いた闇の魔法にに自ら突っ込んでいった。これぞ正しくスタッフが美味しくいただきましたってやつだな。立ち回りが番組スタッフだったので仕方ない。因みに回復した魔力は50である。これでもかなり多いほうだ。


「ふぅ。終わりか?」


 魔物は発生しないので終わりだと思うがいつ敵が来てもいいように警戒はしておこう。

 皆はそれぞれ話したいことがあるようで自然と真ん中へ集まる。


「あるとの魔法もしーなの魔法も……つよいですっ!」

「アルトの闇魔法は目を見張るものがありますね。どのような訓練をしたのですか?」

「シーナもあれだけ魔法を維持するなんてすごいと思うよ!レムだってあの武芸が――」


 完全にガールズトークが始まってしまった。俺やドリュードが混ざるのは無理そうである。

 とりあえず会話相手がいないと寂しいので彼に話しかけた。


「よう、なかなか面白い戦い方だったな」

「そうか? それと少年は結局全力でやらなかったな。これでもしっかり見てるんだぞ?」

「……そういう趣味か。悪いが俺はそんな趣味は」

「違うからな!?」


 何だかんだ言っているが俺は男の会話相手がいて良かったと思っている。軽く女の子と話せるとはいえ、やはり同性と話すのはいささか楽である。精神的な面でも。


 広い空間にそれぞれの声が響いているなか、ついにこの空間に変化が起こる。パリン! と大きな音を立てて、螺旋階段の目の前にあった結界が割れたのだ。


「おっとと、やっと割れたみたいだね」

「もうすぐ……頂上です……よね?」

「どんな景色なのでしょうかね。ちょっと楽しみです」

「お前ら、まだ第一の試練――ッ!?」

「っ!?」


 ドリュードが緊張感の無さにツッコミを入れようとした途端、この場所にいる全員がそこにいる大きな存在を感じ取った。

 それは元魔王の彼女には遠くおよばないものの、勇者に負けじとも劣らず、凄まじく強い者のオーラといったところか。

 とにかく常人ではないことは確かだ。


「ユウ……上にはちょっと危なそうなのがいるね……」

「これはなかなかやばそうだが……行くのか?」

「皆はここで待っててくれ。一応これは召喚士サマナーの試練……なんだろうな。多分」


 多分という理由は余りにも難易度の上がり具合が激しいからだ。例えるなら、ゴブリンを倒す試練から、急に難易度Sクラスの難題に豹変するぐらいだ。

 いくら何でもこの変化はおかしいはず。


「僕は行くよ。ユウについてくって決めたから」

「ワタシも……です」

「私もまだ、貴方達に頂いたものを返していません。そのために私はついていきます」

「気持ちは嬉しい。でもな、ここから先は身の安全は保証できなさそうだ。俺の手が及ばないことも考えられる。無理してついてこなくても――」


 俺は彼女たちの身の安全を考えて上に行くことを諦めて貰おうとしていだが、ドリュードが俺に肩を回すと


「おいおい少年、あいつらがそれぐらいで止まると思うか? 付き合い短い俺がわかるんだから少年が一番わかっているはずだがな?」


 そういわれたので改めて彼女達を見る。彼女達は存在感に負けず全く揺るぐことのない覚悟が伝わった。そこまで俺って信用されている、と取っていいんだろうか?だとしたら……答えてやらなきゃいけないな。


「……出来る限り守る。が、もし俺の手がととがない場合はすぐさま転移石を使って元のベースキャンプまで逃げてくれ。約束だ」


 転移石を創り出しそれぞれに渡す。俺からしたら、この試練より皆の身の安全の方が大事だ。


「うん……!分かった!」

「分かり……ました!」

「了解しました。逃げる手段をくれるだけありがたいです」

「俺はいらんが……一応貰っておこうか。ありがとな少年」

「じゃ……行くか。危険なときにはいつでも逃げてくれよ」


 俺はもしも、全く力が届かない相手だろうとも皆が逃げきれるまで命懸けで時間稼ぎするつもりだ。そんなことにならないといいと心から願うがな。


 俺達は決心を新たに螺旋階段を登る。登れば登る事に存在感は強くなり、大きくなる。そして階段の終わりが見え登りきったかと思うと――


「………」


 再びの広い空間に出てしまった。また何か試練があるようだが、魔法陣の中に踏み出しても何ら反応はない。が、存在感の主は直ぐそこということはもう一般人でもわかるだろう。薄い空気もそれぐらい重い。


 パタンと本を閉じる音。目の前にいるのは、白髪の二十代の男。凄まじく強者であることは確かだ。

 彼が話し出すとここにいる全員が息を呑む。


「やれやれ……あれだけの魔力をもっているとは予想外でしたが、まさかあなたが来るとはね。ユウ ナミカゼ様?」

「俺には俺の用事があるんでな。この先の階段は登っていいよな?」


 もちろん知り合いではないが、この白髪の男の後ろにはさらに螺旋階段が見える。次こそ頂上のはずだが……この男は


「それはなりませんね。そんなことをしたら姫に鞭を打たれてしまいますね。もっともそれでもいいのですが……ククク」

「……」


 こいつはドMのようだ。その界隈は全くの専門外のため口出しするのはやめておこう。

 そうなるとやはりコイツが立ちふさがるようだ。結界は貼っていないことから一応無視することは出来ると思うのだが、コイツがそれを許すとは思えない。一気に叩くべきか?


「さて、貴方の実力、見せていただきますよ?ユウナミカゼ様とその仲間の皆様」


 いきなり全力で戦わないときつそうだ。だが、ここで負ける気はないのでな。できる限り早く終わらせてもらおうか。


ご高覧感謝です♪

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