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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第六章 遠征に縁あり
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第86話 迷宮

 どんどん来る。もう俺一人だけで三十匹の魔物達を倒しているが、未だに波は収まらず、押し寄せてくる。


「おらおらっ! はぁ……多過ぎやしないか?」


 ドリュードは長方形で銃のような形の魔道具を使い、たまにその武具を変形させて、大剣の形へと変わった武具で近くによった敵を切りつけていく。まさに無双状態であった。


 また、発射される弾丸は、魔物に貫通はしないものの、確実に魔物の進む足を止めていてくれている。

 その拳銃のような魔道具が凄く欲しいが、その内部構造が分からないので物質創造マテリアルクリエイトでは創れないのだ。機会があれば分解させてもらおう。彼は確実に拒否すると思うが。


「多すぎる」

「ユウ、もう魔法で殲滅しちゃっていいのかな? 僕もう面倒臭くなってきたよ」


 俺は天雷の魔法により、後方で魔法を唱えようとする魔物の徹底的に攻撃し、消滅させている。魔物でも魔法を使う種類もあるようだが、今のところ雷に耐性がある魔物はいない。

 アルトは刀を振り抜いて剣圧を飛ばす、月閃と呼ばれた武芸により、こちらで処分しきれない魔物を俺達に近づけさせることなく消滅させていってくれている。


 このことから、ドリュードは近距離、俺は遠距離、アルト中距離とバランスが取れているのだ。

 しかしアルトは面倒くさいと遂に本音を表した。


「そろそろ……俺も面倒臭くなってきたな。元はといえばあいつがこんな作戦をたてるからこんな面倒くさいことに……」


 このバランスの取れた作戦はドリュードの提案である。長年の経験と言いいながら、当の本人彼は魔物の大群に突っ込んでいったため、反論は出来なかった。


「もうあの人無視して魔法使っていいかな? そもそも僕さ、知らない人間に指図されるの嫌いなんだよね」

「……もう魔法に当たっても、あいつが勝手に行った自己責任でいいか」


 彼の作戦は確かに安全だが、魔力消費、体力消費の面から考えてコスパが悪すぎる。これはダンジョンなので、これから先も戦闘があることは確実。無駄に魔力を消費するわけには行かないな。

 安全第一? 二の次だ。さっき安全第一なんて言った気がするが撤回撤回。


「流石ユウっ! 分かってるね! じゃいくよ?」


 アルトは遂に魔力を開放し、その途端に空気の重みが増す。彼女とは闘技大会で全力で戦いあったつもりだったのだが、もしかしたらその時でさえ本気を出していなかったのかもしれない。

 少なくとも、あの時より一回り強くなっていると感じた。もし再び戦うことになったとしたらば、もう勝てないだろう。



「いくよ……黒砲ブラックカノン!」


 彼女は刀を霧に包みマジックのようにどこかへ消した後、腕をドリュードが魔物たちに対して無双している場所に向けて、魔法を放った。


 ドゥッ! という周りの音を飲み込むような音がした途端、彼女の装備している黒い指ぬき手袋から放たれたのは漆黒で極太の光線。

 俺が闘技大会で勇者に毒を与える時に打ち出したそれとは、威力、込められている魔力が圧倒的に違っていた。

 魔法は武芸と同じく、名前を声に出すとイメージが強くなり威力も上がるというが、これはそんな理由で強くなっているのではなく、純粋に彼女の魔法の方が上という事だろう。


 じっと観察していたら俺との次元の違いに悲しくなってきた。


「おまえらっ?! せめて声ぐらい掛けろよっ?!」


 ドリュードは全力でこちらへジャンプし何とか向かい来るレーザーを躱し、アルトの後ろへ戻ってくる。

 彼は既のところで回避したが、魔物達は一瞬にして飲み込まれ、塵も残らなかった。


「ちっ……当たらなかったか」

「少年。その舌打ちはおじさんでも傷つくぞ?」


 おじさんとこいつは自分の事を言っているが、ぱっと見なら二十五程度の年齢にみえる。そこまでおじさんではない。

 改めて彼を見る。外見は程よくセットしてある茶髪で、大人びた顔つき。そして俺よりも長身。彼の性格を知らなければ、女子ならば誰でも堕ちてしまいそうな容貌である。この世界の男子と女子は美男美女しかいないのか。


 それはさておき、アルトの放った黒いレーザーはみるみるうちに魔物を飲み込み、蒸発させていく。俺もあれをくらったら蒸発するだろうと思うくらい凄まじい威力であった。

 さらに彼女は片手のひらをゆっくりと左右に動かして黒いレーザーを操作し、魔物を一匹残すことなく消滅させていく。あっという間の作業である。やはり最初からこうした方が良かったな。


「無駄に俺の魔力を消費したことは否めないな」

「ふー、スッキリ!」

「ば、化けもんかよ……」


 ドリュードの言い分も、少しは分かるような気がした俺であった。また、魔物達が来る前に戦っていた般若の仮面の人たちは気絶していた。被害は特に無いようだ。運がいいのか悪いのか……。


 壊れた迷宮の壁が高速で修復されているのを眺めていると、少し離れたところから緩やかな揺れと同時に衝撃音が耳に届く。どうやらあちらはまだ戦闘中のようだ。


「レムとシーナが戦ってるな。早めに助けに行きたいところだが……」


 一度壁を眺め、近道できないかとある手段を思いつく。

 それを直ぐにでも行おうと気功術を発動し、先程アルトが登場する際に壊れた修正済みの壁を殴りつけるが――


「――ぐうぅぅぅ?!」


 ヒビすら入らない。あまりの硬さに手が砕けたかもしれないと思ったが、一応無事だ。凄まじく固く、右手に凄まじい激痛が走ったため、プラプラと手を振って、涙目になった。

 聖属性の回復魔法を発動しながら俺はこの壁が急に固くなった原因を考えた。もしかして俺の筋力がなさ過ぎるとかか?


 そんなことに思いを馳せていると、コンコンとアルトが迷路の壁を叩きつつ、彼女なりの考えを話す。


「うーん……これは僕でも魔法を使いながら殴らないと破れないかも」

「アルト、お前俺よりATK低かったよな? もう信じられないんだが」

「ふふふ……あたっくがなんだか知らないけど、ステータスが全てとは限らないんだよ?」


 彼女の言う通りステータスはあくまで基礎能力であり、魔力を身体に循環させたりして身体能力を上げれば、すれば数値は変わる。

 そこまで大きく重要視しない方がいいという事だが、どうにもあの破壊力は納得ができない。完全にアルトは素手の方が強いイメージがついてしまった。


「……お前ら本当に仲いいな。よくこんなダンジョンのど真ん中でよくのほほんとできるな。尊敬だわ」

「っと、レム達のところへ向かわないとな。それとドリュード、俺たちから離れるなよ」

「おっと? ついに仲間と認めてくれたの――」

「勘違いしないでね? ユウは魔法の被験者を逃さないため、それとまたトラブルを持ってこられると困るから、近くにいろってことだからね? まだ君を仲間だと認めたわけじゃないじゃないからね?」

「……はい。ホント申し訳ないです」


 アルトが早口で、俺の心をそのまま読んだの如く、正確に気持ちを伝えてくれた。取り敢えず念話でアルトにナイスと伝えた後、俺たちは仲間に手助けをするため行き止まりから迷路へと再び挑戦することになった。


 しかし、数分歩いても出口は見つからない。遂に俺は面倒くさくなってしまい、転移石を使って彼女たちの場所へ行こうとしたのだが――転移石はパキッと割れただけで、中に込められた魔法が発動しない。ズルは禁止であるようだ。誠に遺憾である。



「行き止まりか」


 一つ目の行き止まりにたどり着いたのはスタートしてからおおよそ五分後であった。また、歩いている途中にはサイバル付近ではなかなか見ない魔物が沢山出てきてくれた。黒くて強そうなゴブリンが出てきたり、真っ黒で、人間ほどの大きさのカラスが攻撃してきたり。


 ――しかし、実力は見かけによらず、試しに攻撃したところ、身体を魔力で強化していない状態のままの蹴りで一撃で吹き飛んでいった。魔物レベルは55前後であったが。

 アルトに限っては威圧で、立ち塞がる魔物を昏倒させるという、魔王の貫禄が漂う倒し方を行ったため、その方法が有効だと分かると、俺の魔物吹き飛ばし役の役割は無くなってしまった。


 かなり順調に進んでいると思っていたが、行き止まりに引っかかってしまい、足を止めた。

 ここからこの迷宮の真の恐ろしさが目の当たりになる。


「なんか……イライラしきてきたんだか」

「……僕も」

「あぁー……ムカつく!!」


 先程から道が合っているのかどうだか分からないが、進んでいくたび、一歩一歩と歩みを進めるたび、なにやらイライラが積もっていくのだ。行き止まりに出た場合には発狂してしまうんじゃないか、と感じてしまうくらいにこの迷路に対してイライラするのだ。それも自分の意志とは関係なく。そのうち俺も突撃チンパンジーになりそうである。


「うるさいよ。こっちだって感じてるから。黙ってね?」

「お前な、さっきから大人に向かってなんだよ。その態度はよ?」

「へぇ? 君こそ人間の癖してその態度何さ。少しぐらい敬語使えないの?」

「お間だって人間だろうが。いつも気になってるがお前の一人称ってなんで僕なんだよ?!」

「落ち着けお前ら」

「お前もなんでそんな落ち着いてんだよ! 少しも考えずに歩くからこうなるんだろうが!」

「っ! ユウに文句をっ――!」

「いい加減落ち着けよ二人とも」


 二人がかなり険悪な雰囲気になって、少々困って周りを見渡している時に、天井の壁の模様にどこか惹かれていることに気がついた。これってもしかして……


「オレは追いついてるっつうの。それに、召喚士サマナーさんよ。お前についていったらいつもいつも……」

「いい加減にしてね? ユウをバカにする人間は本気で殺すよ?」

「上等だ」


 ドリュードは俺たちからバックステップで離れて魔道具を取り出す。目は血走っており、怒りで我を忘れている気もする。

 この迷宮の模様もどこか奥へと誘導していているような――


 周りに意識を向ければ、ある声が、同じ調子で、何度も、ずうっと脳内に微かに聞こえていることに気がついた。


「غضب غضب غضب」

「なんだ、この声は?」


 この声は、気がつけば迷宮に入った頃から聞こえていたのだ。どうも意識の外に追いやっていたため気にしていなかったが、この迷宮の壁に掘られている文字といい、何か関係があるかもしれない。永遠と流れてくる音声に、頭がぼんやりとしてきている。これって、現実世界でも感じたことがあったような――


「ユウどいて、アイツは殺すから」


 非常に冷たい声でアルトは俺に言い放つ。彼女は怒ると冷徹な声音になることから、やはり俺の考えたとおりこの迷宮の仕組みはアルトにもドリュードにも影響があると考えた方がいいな。


 繰り返す音声、何度も同じことを聞かせられている、頭がぼーっとする、身体が引っ張られているかのように足が進みそうで――あ、あったな、これ。あの場所だから経験出来た、この感覚。完全に思い出した。


「掛かってこないならこちらからいくぞ」


 ドリュードは完全に怒り狂っている。何に対してだかは彼自身が一番分からないのであろう。

 もう一度迷宮の模様を見る。ここに誘導されるのを知っていたかのように、入った当初とは違う沢山の模様が掘られている。


 聞こえくる音声も、入った頃にはここまで大きく声は聞こえなかった。これは……やられたな。


「アルトちょっといいか?」

「……何? 僕はあいつを一刻も早く黙らせたいんだけど」

「落ち着けよ《状態解除ディスペル》」


 俺はアルトの頭へ触れると、ある魔法を発動する。柔らかい薄い青と緑の光がぼんやりと満ちる。

 撫でるために頭に触ったのではなく、彼女のイライラ状態を解除するためだ。


 おそらくこのイライラの原因は、“誘導催眠”によるものだろう。

 知らず知らずのうちに、俺たちは模様による視覚的催眠。音声による誘導催眠にかかっていたようだ。


 このことに俺が気がつけた理由は、俺がこの世界に来る前に生活していたあの施設に、催眠術を勉強していた家族がいたためだ。もっとも、彼女は俺がまだ小学生の時に何処かへ引き取られたけどな。


 あいつとの仲は良かった。あのままずっと一緒で生活していれば、カップルになれたのではないのかって思うくらい、仲が良かった。


 魔法を掛けながら、ふと、思い出す。




 その場所は、夕焼けが眩しい団地の公園。その地域に住んでいた訳では無いが、小さかった俺たちのグループが縄張りとしていた場所であった。


 古ぼけたジャングルジムに、錆び付いたブランコ。遊具は全くと言って良いほど手入れがされておらず、その場は取り潰される寸前であったため、雑草も生い茂っていた。


 そんな場所で、二人で一緒に蔵の滑り台の上で座り込み、沈みゆく太陽に照らされて、キラキラ輝く彼女の笑顔をみながら談話をしていたことを、未だに覚えている。


『ゆうくんっ! わたしね! さいみんじゅつ? っていうのを勉強してるの!』

『さいみん、じゅつ? それ、危なくないの?』

『ちゃんとお勉強してるから大丈夫だよ! そうだ! ホントはダメって言われてるけど、ユウくん、掛けてあげるね?』

『ええー……ましろちゃん、俺いらない』


 名前をましろ、と俺は読んでいた。名字も漢字も覚えていないが、とても端正な顔つきで、将来はモデルですら及ばない完璧に整った顔つきになる事は確実であろう美しさを秘めていた。

 流石にあの場所は異世界ではなく、元の世界であるため、俺と同じ黒髪で、クリクリとした目が印象深い。


『もー、そんな事言わないでよ! ねぇっ、こっちみて!』

『えー……』


 俺はいやいやであったが、互いに向き合い、彼女はポッケから五円玉に紐が括り付けられたお手製催眠器具を取り出す。夕焼けに照らされていたせいか、彼女の顔は真っ赤で、せっかく取り出した器具を落としてしまっていたりと、ドジっ子な面もあった。


『يهمني لك مولعا جدا منكم 』

『え……?』


 彼女は、世間でも神童といわれるほど、何をやらせても完璧な人間であった。喧嘩しても彼女の方が強かった記憶がある。しかも、ローカルテレビにも取り上げられるほど、凄まじい学力を持ち合わせているのであった。


 そんな彼女が催眠術をかける際に話す言葉は、まるで聞いたことのない言語であった。彼女は様々な世界に興味があるとは聞いていたが、恐らく大人になった俺ですら分からない言語を彼女はこの頃から知っていたのだろう。


 彼女はしばらく同じフレーズを唱えつつ、五円玉を俺の目の前で揺らす。その言葉を聞く度に俺はだんだんと、脳がゆっくりと蕩けていくような感覚に満たされ、意識は夕焼けの向こうへと飛んでいく。


『えーっと、えーっと仕上げに……あれ? なんだっけ……』

『なんか、眠い――』

『あぁっ!? ちょっと待ってちょっと待って今思い出す――そうだ! 思い出したよゆうくん!!』


 この時既に俺は八割方寝ていたと思うが、黒く塗りつぶされる意識の中、彼女は揺らしながら、顔を赤らめながら魔法のような詠唱を唱え続ける。


『أريد أن أكون معك إلى الأبد』

『ごめん、ましろちゃん、俺……』


 そのまま、俺は眠りについてしまった。近かった事もあり、彼女に既のところで真正面から倒れかかった気もする。その時の彼女の顔は夕焼けではない紅さだったのは俺のせいでしかないだろう。


 その後、気がつけば施設の中。ましろちゃんは、部屋の隅で泣いていた。俺が眠ってしまったから催眠術は失敗したのだと思っていたのだろう。俺を心配してくれていて、変なことしてごめんと何度も謝ってくれた。


その時俺は、むしろ人を気絶させることが出来る催眠術に興味をもったのだ。そのため、彼女から催眠術を教わろうとさまざまなレクチャーを受けた。彼女は幸せそうだったが、実際のところ、センスの差としか言いようがないが、俺は単語だけ覚えていたものの、催眠術が実際に成功した事はまるでなかった。


 そんな生活が続くこと数ヶ月、彼女は新しい家族を見つけて施設から去っていった。俺はタイミングが悪いことに、風邪を引いてしまい、彼女にサヨナラすら言えなかった。俺はこの日ほど後悔した日は無かった。なにせ、次会えたのは――棺桶の中でだったからな。事故死、だったらしい。



「……えっ? あれっ? ……えっ?」


 っと、考え込んしまったようだ。魔法の効果はどうやらてきめんであったようで、アルトがいつもの柔らかく、優しい声に戻る。やはり俺の予想通りだな。俺自身にも一応 状態解除ディスペルを掛けておこう。やはり冷静に対処してよかったな俺。


 催眠術は出来なくとも、いまは魔法ができる。だいぶおかしな世界に来たもんだ。


「よっ、お帰り」

「あれ……? えっと……どういうこと?」

「いくぞ!」



 ドリュードは凄まじい力で地面を蹴り、かなり速いスピードで接近してくる。少しだけアルトから離れておくと、彼は機敏に俺の動きに合わせて動く。俺が狙いのようだ。

 どちらかといえば好都合だが、さっきは俺に向けての怒りじゃなかったよな。

 目の前にまで接近されると、彼は魔道具の剣を振りかぶる。――が、俺の経験はそんな真っ直ぐな攻撃に当たるほど甘いものではない。何度も回避した真っ直ぐな攻撃だ。


「よっ……と」

「?!」


 俺はしゃがんで剣の一撃を回避しつつも、隙だらけの彼の脚部に足払いを放つ。不意の出来事に彼も付いていけず、そのまま魔道具を手から離し、転ぶ。彼も冷静なら対処は出来たのかもしれないな。


「ほらお前も落ち着けよ。状態解除ディスペル

「くそっ……てめぇ何をしやがっ――あれ?」


 同じく柔らかなな光が彼を包む。魔法は等しく彼にも作用した。魔法がかかると焦点がぶれているような目は通常の目へと戻ってくる。


「お帰り。これも貸しな? 保護者さん」

「ちょっと僕もイライラしすぎてたみたい、少し反省」

「なっ……これはどうなって……ってなんだこの声?」

「気がついたか。そう。ここの場所は俺達が偶然来たわけではなく、必然的に誘導された場所だ」

「……えっ?!」

「――嘘だろ?! 」


 二人が驚いた声を上げる。この世界では催眠術は無いのか? むしろその上を行く魔法もありそうだが……とりあえずはましろちゃんに感謝だな。あの世で彼女も見てくれているといいと願うばかりである。

 彼女とは最高の友達であった事は間違いないが、彼氏彼女の関係には……彼女が生きていても、なれなかっただろうな。なにより人間的性能差が違いすぎて――


「ユウ? どうしたの?」

「なんかお前もぼーっとしてないか?」

「あ。悪いな。少し考えてた」


 話を戻すとしよう。過去は過去だ。彼女はもう死んだ。帰ってこない。


「俺達は音声と、視覚による催眠をかけられたんだよ。音声による催眠はここのかすかに聞こえる声から。視覚による催眠はこの迷路の模様だ」

「そんなことがあったのは全く気がつかなかったな、魔法の類……なのか?」

「全然気がつかなかったよ……確かにこの声なんか気持ち悪いし」


 ドリュードはかなり申し訳なさそうな顔をしている。その顔だけで俺はご飯が食べられそうだな。

 そんなことを考えてたら彼が覚悟を決めたように口を開いた。


「アルト……だよな? すまなかった。大人として情けないことを……」

「僕もちょっと情けなかったかな……」


 どうやら和解できたようである。平和に済んだようで何よりだ。しかし、ドリュードの口はまだ止まらなかった。


「実はな、これが終わったら折り入って「らぁ~らぁ~らぁ~らぁ〜」……は?」

「…………」

「…………」


 俺たちは突如聞こえてきた歌の、余りにも合わない音程の酷さに絶句してしまった。何かしらの歌だとは思うが、その曲は聞いたことがない俺でさえ、音程を外しているということがわかった。

 アルトもドリュードも思わず白い目になる。


「おや? こんなところで偶然ですね。ただ今戻りました。ユウナミ、アルト」

「あれ……? ゆうとあると……いるの?」


 シーナはレムの目を塞ぎつつ、歌を歌ってここまで来た。それも酷いくらい音程を外した歌を。


 偶然じゃなくて必然的にここまで誘導されたたんだ……とドヤ顔で言い放ちたい気持ちは、彼女の歌にかき消されて無くなってしまった。


 また、俺は今日をもって、彼女に歌を絶対に歌わせてはいけないことを学んだのだ。

追記2016/08/22 ・夕の過去話を追加しました


ご高覧感謝です♪

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