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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第六章 遠征に縁あり
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第84話 塔の中へ

 ふわふわとする感覚。夢の世界、死んだ直後と同じような気分だ。

 この後の事には何か起こるのがいつもの事だが今回は何事も無くふわふわとゆっくりしたいとこ――


「?!」


 バシン!と突然頬に重めの衝撃波と痛み。ふわふわとした感覚は一気に霧散し、背中から地面に叩きつけられるような感覚。寝ている時に体がビクッとなるあれである。

 あまりにも突然の事態に驚き、目をつぶりつつも体を起こそうとすると――逆の頬に再び衝撃波が襲いかかってきた


「ぶべらっ?!」

「おーきーろー!」


 テントにはほかの生徒もいる。なんとか声を抑えたつもりだが、漏れたかもしれない。

 ちなみにこの場所はテントと伝えられているものの、そこそこ広く、八畳ほどある。異世界スペックだろう。


「……もっとましな起こし方をしてくれよ」

「キィ! やっと起きたぞ! 魔法使うまでもなかった!」

「なーんだ。せっかく眩しいの使おうとしてたのに……」


 青い光と黄色い光がふわふわと俺の周りを飛んでいる。召喚士サマナーでなければ見えないらしいが、彼らはかなり発光しているので、第三者に彼らの光が見えそうで少しだけ心配だ。


「さぁ! お兄ちゃん! 早く準備しないと行けなくなっちゃうよ!」

「早く!」


 時間制限が厳しいようで、精霊たちは慌てている声で催促する。支持に従い、そそくさと準備することにした。


 テントから出る。外は未だに暗いものの、月夜よりははるかに明るい。日の出が近いのだろう。そう言われれば、たしかに“朝と夜が混ざるとき”だな。


 先生は女子テントの前でグーグーいびきをたてながら寝ていた。番人のつもりだろうか。確かに向こうは楽園かもしれないが――女子テントにずかずか入るほど俺に根性はないので、眠っている先生にアルトやレムを起こしに行ってもらうように頼む。


「先生。起きてくれ」

「ぁー……ぁ、ぁ? どうしたナミカゼ。こんな時間に女子テントに行こうとはずいぶん見上げたものだな」


 先生は一升瓶を三本ほど飲み干したのにも関わらず、声をかけた瞬間にパッチリと目を開く。なおかつ視線には鋭さがあり、最初から俺が来ることを分かっていたかのようだ。


「あいつらとこの時間にダンジョンに行こうと予定してたんだ。時間がないんですよ。早く起こしてくれませんか?」

「……私の女の直感ではこいつは女子テントに入りに私を退かそうとしてるとしか感じないんだがな」

「そういうのはないです」

「時間がないのー!」

「早くー!」


 先生はやれやれといったようすでテントに入っていく。

 ここで分かったが、やはりこの光っている精霊は召喚士サマナーではなければ姿は見えず、声も聞こえないらしい。ちょっと安心だ。


 しばらく待つと、彼女達が眠そうな目を擦りながら出てきてくれた。フラフラだったが、俺の我が儘についてきてくれるのだ。感謝しなくてはな。


「ありがとな。こんな朝早くから一緒に来てくれて」

「当然です。これぐらいの事なんともありません」

「ふぁぁ……おはよー」

「空が……綺麗です」


 レムは外の空気を吸って少しはスッキリしたようで空を見上げている。サイバルは都会とは言い難いが、空を見る機会がなかったので、なかなか見ない光景だ。広くて幻想的な空に引き込まれそうである。


「早く行くのー!」

「間に合わなくなるよ!」


 精霊たちは急ぐように言う。確かに少しは急いだ方がいいよな。ここまで早起きしたのだ。無駄にするのは惜しい。


 真面目にダンジョン攻略をすると見せかけるため、俺たちはダンジョンに入る。その時にアルトもやっと目が覚めたようで、元気ハツラツになった。

 ダンジョンは攻略する必要が無いので、入った後直ぐに転移石を物質創造マテリアルクリエイトで創り出し、精霊に渡す。

 精霊に使い方を教え、石碑の元まで飛んで欲しいと、念話で伝えた。念話にした理由は独り言と思われたくないためである。


 また、相手が念話のスキルを持っていなくても、通話は出来ないだけで、一方的に声を伝えるこも可能だ。神の声などと言い張って遊ぶことも出来るだろう。


 転移石を精霊に手渡した際には、精霊が見えないこともあり、彼女達は石が浮いているようにしか見えないと驚きの声をあげた。


「て、転移石が……浮いてます……」

「なるほど。そこには精霊さんがいるんですね」

「ついにユウにも精霊が?」

「いや……こいつらは道案内してくれるだけだ」


 青と黄色の精霊は転移石を使うのが初めてらしく、緊張しているようすだった。そんな精霊の背中を押すべく一言声を掛けた。


「その場所をイメージして魔力を流して割ればいい。案内を頼むぞ」


 精霊たちに話しかけると元気良く精霊は返事を返し 転移石を地面に叩きつけて割る。辺りに光が満ちるなか、気配探知により元々教えてくれる予定だったドリュードを探す……が彼は気配遮断を使っているようで全く探知できない。

 案内を頼んだのも悪いが、先に石碑の所に行くことを許してくれ。こっちの方が効率がいいのだ。


「行くよー!」


 青い精霊の元気な掛け声とともに俺たちは光に包まれる。ダンジョンには魔物も、人の気配もなかったので見られているということは無いだろう。杞憂だと思うが。





 光が収まると、目の間に五メートルはあるであろう大きな石碑が佇んでいた。その他にもこの場所は様々な石碑が乱雑にいくつも立っており、お墓といわれても差支えがない場所であった。


 大きな石碑を中心とした囲まれた作りになっており、誰かが灯したのか、沢山の松明が周りを照らしている。

 足元を見れば、床には複雑そうな魔法陣が沢山重ねて書かれていた。いきなりこんなものが現れたらそりゃあ驚く。


「……やっぱり僕でもよめないや」


 中心の大きな石碑に書いてある内容は読めない。博学のアルトでさえである。

 女神の試練を終えた時に一通りの言語はできると思っていたが、どうやら古い文字は読めないようだ。残念。


「お、大きいです……」

「私でもこれは……読めませんね」


 レムは驚き、アルトははしゃぎ、シーナは冷静に石碑を調べている。

 精霊たちが何かをブツブツと唱えると石碑が少しだけ青みを帯び、次の瞬間にゴゴゴ……と、地面が揺れる。

 すると、石碑が揺れと共に奥へとズレていき、目の前には隠された階段が現れた。

 どうやらドリュードの手紙に書いてあった通り、隠し階段があったようだ。


 先程精霊たちがブツブツと唱えたあれが、この隠し通路開く合言葉のようなものだろう。

 これはドリュードでも知らなかっただろう。


「お兄ちゃん、こっち!」

「急いで!」

「えっとだな、興味があるのは分かるが後ででいいか? 塔へ入れる時間がなくなりそうだ。まずはここを降りようか」


 取り敢えず彼女達の目を石碑から離させて、階段を降りていく。道中は全く光が届かないようで、真っ暗であった。

 暗視が可能とはいえ、少々危なかったため、魔法陣からいつかの光石を取り出す。

 仄かな緑色の光が辺りを照らすと同時に、今歩いているこの場所は広い通路であることがわかった。


 まるで、古の遺跡の通路を歩いているかの如く、たくさんの壁画が彫られていた。しかし、これらは掠れていたり、落書きされていたりしていたため、全く内容が理解できなかった。


「こんなところがあったんだ、僕……しらなかったよ」

「とても興味がありますね。そもそもここは何のために造られたのかも」

「お腹……空きました」


 アルトとシーナは興味を絶やさず目を配らせていたが

 レムはお腹が空いたようである。そういえば朝ごはんを食べていなかったな。

 パンを物質創造マテリアルクリエイトで創り出し、彼女たちに与える。この魔法が便利過ぎて無くなったら生きていけなそうだ。

 精霊にもあげようとしたが、雰囲気がそのようなのほほんとした雰囲気ではなく、真面目そのものだったのでとりあえず黙ってついていくことにした。


「あっ」

「ん? どうしたの?」


 ある事がはっと脳裏をかすめる。ちょうど良いタイミングであったので、こんなことをアルトに聞いてみた。


(なぁ、アルト。グリモワールってなんの本なんだ?)


 ここで彼女の姉の事は出さない。いずれ話すつもりだが、今から本格的にダンジョン攻略へと向かうのだ。

 気分を下げることはしたくない。念話にした理由はシーナとレムに無駄な説明を求められそうだからだ。何も分からない俺に回答を求められそうだしな。


(え?……えっとね、書いてたのは、基本的に降霊術、呪術、悪魔を召喚することについてかな)


 わお、かなり危なそうな本のようだ。魔界でアルトの姉が持つあの本は、オーラからしてよろしくない雰囲気を放っていたのでやばいとは感じていたが、本当に危なそうな本だ。

 なぜそんな本を書いたのかと、聞きたかったが我慢して次の質問に移る。


(降霊術……ってことは死人を蘇らせることは可能なのか?)


 この質問の意味は、彼女の姉の真相に迫るものであると俺は感じている。その質問に彼女はふわっとした雰囲気を消して、真面目に語ってくれた。


(……ユウだから教えるけど、そんなことしちゃ絶対ダメだよ? 降霊術ではその人の魂は戻らないし、体を悪魔を入れるためだけの器にする魔法なんだ。その人を生き返すのは絶対に不可能なんだよ?)


 そうなると……死んだと思われているアルト姉も悪魔に憑かれている可能性あるということか。あくまで可能性の話だが。


(それにね、呪術も他者に相当悪影響を与えるものなんだ。魔法が解けても、効果は残るし……。ああ、それとね、魔王になったと同時にこのグリモワールに書いてある魔法は、一気に叩き込まれて全て使えるようになったんだ。僕がグリモワールに書いたすべては元々全部、魔王専用の魔法だよ。でもね。万能すぎるその力が怖くてさ、いつか僕の身を滅ぼすんじゃないかって思ってね、本に魔力を宿して魔法はグリモワールと共に封印したんだ)

(……そっか。アルトの判断は間違ってないと思うぞ。むしろそれで良かったと思うぞ)


 彼女がグリモワールを作った理由がこれではっきりしたな。あまりにも恐ろしい魔法を捨てたいがために本に魔力を込め、封じたということか。だが、なぜそれをいま一度手に入れたいと思っているんだ?


(だが、アルトは本をもう一度取り戻したいんだろ?)

(うん、ちょっとおばあちゃんが怖い予言をしたからさ……)

(あー……なんか昔話でもしようか?)


 アルトの雰囲気がだんだんと落ち込んでいくのを感じ取り、俺はなんとか明るくしようと持ち上げる。


(……ならもう一回、ウラシマタロウ? ききたいな!)

(いいぞ、んじゃだなむかーしむかし)


 彼女は意外と童話が好きなので、これにより雰囲気を紛らわせたなら良いな、と思う俺であった。





 五分ぐらいの間、かすれた壁画を眺めながら歩いているとついに開けた場所に出た。意外と明るく、奥もはっきりとみえる。その開けた場所では青い光を帯びた魔法陣が存在し、どこか幻想的だ。


「ついた! ここ!」

「やっとついた! さぁお兄ちゃん達は急いであの魔法陣の上に……」

「誰かいるな」

「えっ?」


 青く輝く魔法陣の付近に、黒い影がなにやら うつらうつら しているようだ。黄色い精霊は驚きの声を上げ、ここにいる時点で怪しいやつは確定だ。できる限り寝ていたままでいて欲しいが――


「げっ……あの人は」

「……こいつはタイミングがいいのか悪いのかわからないな」


 げっ と嫌悪の声をあげたのはシーナである。やはり気配がなくても感じ取れるものがあるのだろう。彼女からしたら要らないと思うが。

 微妙な視線を送っていたら、彼の首がガクン と落ち、それと同時に彼の意識が復活する。そして、眠そうな視線であたりを見回すと、俺たちに気がつく。


「……て、なんでお前らこの場所知ってるの?!」


 いつものイントネーションでドリュードはツッコミを入れる。なんかこのフレーズもなれたな。


「えっと……この人も送るの? キィ」

「多分大丈夫だとおもうよ!アォ!」

「なら話は早いよね!さぁお兄ちゃん! 時間がないよ! みんなを魔法陣の上に上がらせて!」


 青い光が判断を決めると同時に魔法陣は点滅し始める。これってやっぱり時間がないってことなのか? チカチカと発光していくと同時に、青い光も徐々に弱くなっているようだ。


「ユウ! 取り敢えずあの人はほっといて魔法陣の上にいこ!」

「あの人より……いまはこっちの方が重要です……!」

「ここで逃しては早起きした意味が無くなります。さぁ早く」


 アルトに右腕、シーナに左腕を引っ張られつつ魔法陣の上へと足を進める。ドリュードは今の状況が理解できないらしく、目をパチクリさせていた。


「おいおい、魔法陣が起動してるってことは……やっぱりあいつが選ばれたのか?!」


 精霊たちは既に魔法陣の外だ。どうやら送ってくれるだけでついてきてくれることはないらしい。

 彼らはお姉ちゃんと呼ばれる存在から、本当は来ちゃダメ、といわれているらしいので、来れないのは仕方ないのかもしれないが……送るのはありなのだろうか?

 ……ダメだよな?


 そんなことを考えているとドリュードは急に立ち上がり、俺たちがいる魔法陣へと突進してきた。その瞬間。


「保護者様をおいてくんじゃねぇぇ!!」

「お姉ちゃん達を助けて !!」

「絶対だよ! 約束だよ!」


 ドリュードが魔法陣へ一歩踏み込んだ途端、一際激しく光が俺たちを包む。完全に精霊の方が大人である。――ってお前も来るのかよ。


 アルトの転移魔法とは違う激しさの光があたりを包むと、一気に浮遊感が訪れ、しばらく待つと消える。まるでエレベーターみたいだったな。


 ふわふわしている途中は完全にドリュードは叫び声を上げていたが、飛ぶのが初めてだからだろう。怖いのは一応わかる。

 一方で女性陣はなぜかとても楽しそうだったのをここに追記しておく。




 浮遊感が収まり、景色がはっきりしてくる。青空と太陽が眩しい。ここは、どこだろう。


 目の前に見えるのは城門のように両開きな大きな扉。


 そして整備されていた地面は二十メートル程しかなく、その先は青い空である。道が続いていない。という事は……空中に放り出されたか?


「!? ここ空の上ですっ!!」

「あ、ホントだ! 下に雲があるよ!! ……でも、この魔法陣はもうしばらく使えなさそうだね」


 魔法陣は光を失い、魔力も感じられない。本当の意味で放り出されたかこれ。


「先端がみえないくらい高いな。この塔」

「ちょっと待って?こんなに登らなきゃダメなの?」

「……高すぎ……です」

「相当高い塔ですね。これではいつてっぺんに着くか分かりませんね」

「おいおい……これをお前らは上るってゆうのか?!」


 門よりもさらに上見上げれば、凄まじく高い塔が目に映る。あまりの高さに俺たちは全員がげっそりとした表情を浮かべた。


 ……さて、目的のために俺が取るべき手段はただ一つ。あいつらを負かす、ということだ。高いとはいえ、こんなところで止まっている場合ではない


「さて、行くぞ」


 俺は気合を持ち、十分に扉を押した。すると鉄のような扉は重い音をたてながら空いていく。これから先に何があるのか期待を胸に開いたつもりだったが、いきなり期待は裏切られる。


「?! お前ら! どこからきやがった?!」


 ……なんで人の声がするのか。



ご高覧感謝です♪

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