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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第六章 遠征に縁あり
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第83話 ちいさな精霊

 生徒たちがバーベキューをして楽しんでいる頃、俺は少々離れたところでくつろいでいた。ただ今、五右衛門風呂でごゆるりとしております。

 モクモクと白い湯気が上っているが、あちらもバーベキューで白い煙が上っているため、こちらに気がつくことはないだろう。


「ふぅぅぅ……我ながらいい出来だな」


 火の調整に最初は手間取ったものの、いまや丁度良い温度で留めている。これは魔力制御の練習にもなりそうだ。


 ぼーっとしていると、突然地面が揺れ出し、本当の意味で木々が動き始めた。根っこを足のように使って、フルフルと震わせている。

 ごくごく普通にホラーな現象であるが、俺は既にこいつらの正体は知っているので何ら驚く理由はない。


「ウォォォォ……」

「魔物だけどお前らは襲ってこないよな。理由はあるのか?」


 言葉が伝わるとは思っていないが少し聞きたくなった。今ままでに出会った魔物はほぼ全て、俺に敵意を持って近づいてきた。

 しかし、この魔物達からはそのような感情は伝わってこない。まさかこいつら元々は人間だったんじゃ……ってそれはないか。


 木々が揺れる音とは違う場所で、草を掻き分けるような音が耳に届く。そこそこサイズは大きい。気配探知にはにも映らないが敵意はないことは確かだ。


「おい! 何ゆっくりしてんだ……よ?」

「気配遮断使ったのか」


 不思議な表情を浮かべるドリュード。俺からしたら草むらから飛び出してきた彼の方が不思議でしょうがない。

 何のためにこいつはここに来たのだろうか。予定では明日のつもりだったんだが。話が通じてなかったのか?


「なんだそれ? ……風呂か?」

「ご名答。ちなみに俺が上がった後は直ぐに自然に還すから、この風呂には入らせないからな」

「いやそれはどうでもいんだが……お前にお知らせがってだな。さっき明日教える石碑の周りを下見しに行ったんだが……そこに書いてあった魔法陣は起動していなかったな」


 こいつは適当な性格にも関わらず、準備してから行動するタイプのようだ。人を外見で判断するのは六割ぐらいに収めておこう。


「起動させるのに何か道具でも必要なのか?」

「いや……わからん……てかさっさと風呂出ろよ」

「いや、お前が居なくならなきゃ出れないんだが」


 いつまでこいつは俺のゆっくりとする時間を妨害するんだろうか。そうジロジロと裸体を見られたくないものだ。

 彼が見ていなくても視線を感じるのは完全に自意識過剰かもしれないが。


「思春期だなー少年」

「煩い。さっさとどっかいけって」

「はいはい、それと、忘れるなよ? 朝と夜が混ざるときだからな? 起こしにいくことなんてしないぞ。その時間の前にダンジョンの最深部までこいよ。少年」


 そう言い放ってドリュードは再び茂みの中へ消えていった。……その情報を完全にその情報を忘れていたとかいえない。彼なら尚更だ。少しだけ感謝である。


「はぁ、出るか」


 俺はそそくさと五右衛門風呂から出ることを決意した。当然タオルの用意は物質創造マテリアルクリエイトで補えるので何も心配することはない。


 〜〜〜〜〜~


 さっぱりした俺はみんなが騒いでいるであろう場所へと戻ろうとした途中、暗い空間にほのかに浮かぶ小さな光が集まって浮いている光景を確認した。


 拳大の大きさの光だ。蛍……にしては大きすぎるか。


「なんだろうなこれ……?」


 ゆっくりと手を伸ばし、黄色い光にふれようとしたその瞬間。


「触るな黒髪の召喚士! お前も私を捕まえる気でしょ!」


 と、謎の声をかけられた。恐らく声からしてかなり子供。辺りに目を配るが誰もいない。気配探知すら引っかからない。

 光に向けて一度下げた手をもう一度伸ばすと


「やめろーっ!」

「……は?」


 背後から俺の正面にかけて、同じく拳大の青い光がなかなかのスピードで飛んできた。その光は俺の目の前で止まると、プルプルと震え出す。


「ええーい!」


 青い光が声と同時に放ったのは水魔法。小さな水球が目の前に現れ、その魔法は戸惑う異なる俺の顔面へ。

 突然の事だったが、全く俺は慌てていないため冷静に対処することが出来た。

 なのでバシッと――


「ぷぎゃ?!」


 腕を振り、魔法ごと思いっきり叩き落とした。手応えはあったが、ハエを直接叩いたような小さな感覚であった。

 獣道にふわふわと落ちていく青い光はどこか幻想的だったので、じーっと見ていると、次は黄色の光が青い光の元へとふよふよ落下しながら這いよっていぐ。


「あ、ああ……アォ……どうして……」

「かはっ……俺なんて置いていっていい……こいつは俺が止めるから……早く逃げて……キィ……」

「嫌だよ……っ……そんなの嫌だよ!」

「はやく……逃げろ……!」


 なんだか俺が悪者みたいに思えてきた。勘違いしないで欲しいが先に手を出したのはあっちである。

 そもそも俺にはなんでこいつらの悪役に立たされなくてはいけないのか。

 俺は首を振って無言で立ち上がり、何も言わずに去ることにする。

 全く持って何が何だかさっぱりである。


「ちょっと待ってよ。アォをこんなことにして、タダで帰すとおもってるわけ?」


 背中を向けると急に黄色い光の塊が怒気を含んだ声で背中越しに話す。そもそも先制攻撃されたのは俺なんだが。


「……何なのお前ら」

「私達は精霊なの! 貴方の命令のせいでわたし達のお姉ちゃん達は……!」


 当然のように正体を明かした黄色い光。一応 精霊 と呼ばれる存在らしい。あんまり知らないが、この光の塊は生き物であるようだ。

 叩き落とした青い光を見る。彼は地に伏せたまま全く動かない。

 叩いたので少しぐらい彼の纏う光が弱くなるかと思ったが、まるで光量が収まる気配はない。

 むしろ俺に向かって魔法を放つ準備をしているようで、感じ取れる魔力が強くなっている。


「はぁ? 俺が何したっていうんだ? 命令する人材も人望も俺にはないんだが……」


 自分で言い放って少し悲しくなったのは内緒である。しかし、こいつらの言い分を纏めても、黒髪の召喚士が誰かに命令をして、こいつらの姉をどうにかしたらしい。

 まるで分からないことだらけである。


「うるさいうるさーい!! アォ!今だよ!」

「スキありぃぃっ!!」


 青い光は掛け声に合わせてすぐさま俺に向かって飛び出すと、彼の身体と同じ位の大きさ水の玉を放つ。


 残念ながら魔力の高まりは感じていたので、首を左に傾け軽々と回避した。するとこの黄色と青の光の塊は


「僕の最速の魔法がよけられた……?!」

「そんな……」


 ズーン と効果音が聞こえるくらい落ち込む光はへなへなと地面に落ちていった。

 もう俺はここから去っていいんだろうか。

 ……いや、この変な奴らなら塔へのヒントを知っているんじゃないか?


「おいお前ら、ちょっと質問があるんだがいいか?」

「ああ……私達はもう……」

「くそっ……ここまでか……」


 完全に聞いていないようだ。もう一度耳元で喋ってやろうか


「質問があるんだが! いいですかね!」

「みみきーん?!」

「うわっ?!」


 やっと聞こえたようだ。年寄りかこいつら。

 俺はいくつか質問をするため、大声で語りかける。


「お前たちは、そのお姉ちゃんを、どうされたんだ!?」

「うるさいうるさいー!」

「そんなおっきく言わなくても聞こえるよ!!」

「……んで知ってるのか?」


 すると黄色と青い光はなにやらぼそぼそと話しだし、相談を始める。なにやら焦りの声質であった。


「ねぇ、アォ。この人髪つやつやしてないし、長くないよ?」

「ほんとだ、ぼさぼさだし、長くない。もしかして……召喚士違い?」

「いやでも……私に触れようとしたし……」

「普通に見たこともない光が浮かんでいたら触りたくなるだろ」


 それが普通なのかどうだかは不明だが、このようすだと召喚士違いらしい。黒髪ってことはもしかしたら……転生者か?


「ならない!」

「ならないよ!」

「そ、そうか。とりあえず質問に答えてくれるか?」

「……私達は追い出されたの」

「僕たちが塔の魔力管理をしてたのに、急にここからでてけって……」


 なにやら塔の内部でも何かがあったようだ。

 精霊の魔力管理、というものが良く分からないが取り敢えず言葉から察するに塔の運営には必要なものなのだろう。


 塔について知っている最高の案内人が目の前に現れたと考えていいのだろう。


「お姉ちゃんたちはすごく怖い表情をしてた。きっと何かがあるって思ってね、許可するまで入るなって言われたんだけど、こっそり入ったの。……そしたら、黒い髪色の召喚士と白い髪の強そうな男の人が、お姉ちゃんたちになにか話してて、覗きのもうとしたら無理矢理転移させられて――私達はお姉ちゃん達に塔の外に送られちゃったんだ」

「あの黒い召喚士は絶対にお姉ちゃん達になにかした! 僕たちはわかるんだよ!」


 二つの光が必死に俺に語りかける。お姉ちゃん達っていうのは、夢で聞こえたあいつらか?


「それにしても、なんで黒い髪色の奴が召喚士って分かったんだ? ぱっと見でクラスがわかる能力でもあるのか?」

「えっ、何言ってるの?」

「召喚士しか僕達と会話できないよ? お姉ちゃんたちは凄いからほかの人とも話せるけど……」


 というと……予想通りこいつらは精霊なのか。ただの喋る光の塊かと思っていたよ。こいつらに思っていたことを心からそのまま言ったら怒られそうだが。


「とにかく! 黒髪のお兄ちゃんにもお姉ちゃんを助けて欲しいんだ!」

「私達も協力するからさ……お願い!」


 先ほど攻撃した相手に頼むとは相当切羽詰ってるな。


 しかし、これは俺からしてもありがたい誘いである。もともと塔へ向かう予定であったし、そのお姉ちゃん二人にも用があるからな。

 ドリュード。お前の出番はなさそうだ。


「俺でいいなら手伝うぞ。ただ、他にも連れて行きたい奴が居るんだが、いいか?」


 アルトとレムは断ってもついてくるだろう。シーナは分からないが、こういうものは先に聞いておいた方が良いよな?


「ホントはね、あそこは召喚士以外は入っちゃ駄目なんだけど……いまは非常事態だから多分大丈夫!」

「お兄ちゃんなら信じられるから! 僕たちを痛くしなかったし!」

「痛くしたよな? 完全に叩き落とした気がするんだが?」


 なにやら信じてくれたようである。話が早くて助かるな。しかし、この捉え方を変えれば、それぐらい危険な状態にあるということだろう。


「まぁ……よろしくお願いしよう。連れてってくれ」

「よかったぁ……約束だよ!時間になったら起こしに行くね!」

「ありがとう! 絶対お姉ちゃん達を、助けてね!」


 そうい放つと、光はすうっと夜空へと飛んでいき、見えなくなった。

 色々流されてしまったが、取り敢えず寝過ごすという可能性がなくなったのは嬉しい。


 さて次こそ戻ろう。







「ゆうー……どこいってたのさぁぁ……」

「……アルトお前酒飲んだな?」


 アルトは俺を見るふらふらと近づき寄りかかる。

 かなりドキドキしてしまったが、アルコールの匂いがしたため、お酒を飲んだとすぐさま理解出来た。

 年齢は確実に俺より上だが、外見は完全に同年代である。酒を飲むことを止めなかったのか……?


「おらぁぁ、もっとのめやぁぁ……」

「せんせぇ、のみすぎは……ダメです……」

「りんくすぅ……もうねよーよ……?」

「ミリュ、こういうのは攻略した日に飲むものなんだが……」

「うふふ、ミリュさんもまだまだ若いですわね」


 俺は唖然としてしまった。半分以上の生徒が完全に酔いつぶれている。一応ハーミルのような小さい子はお酒を飲んでいないらしいが、俺たちぐらいの年の人達はほぼ全員飲んでいた。この世界では良いのであろうか。


「リンクス、踏み外すなよ」

「いや……俺とミリュはそんな関係じゃ……」


 アルトは完全に酔っているので取り敢えず状態解除ディスペルを掛ける。リンクスはお酒に強いようだ。

 魔法をかけたその瞬間、アルトのトロンとした目が徐々に開いていく。酔いにも効果があるようだな。


「えっと……ユウ……酔いを解く魔法薬なら知ってるけど、魔法なんて聞いたことないんだけど……」

「そういうもんだ。それと、塔への道しるべが見つかった。ついてきてくれるなら早めに寝とけよ?」

「え、ほんと?! うん分かった!」


 そういってやっと離れてくれる。俺のドキドキが聞こえてしまったのかもしれない。

 シーナとレムは……寝ているようだ。出発するときに起こすのも悪いが、一応声をかけておくか。勝手に行くのもかわいそうだしな。


「さて……俺も仮眠をとっておくか。勝手に居なくなってダンジョンに入っているのだと思われるだけだから多分いない時のことを考えなくても大丈夫だろう……多分」



 一応仮眠だ。恐らく精霊が起こしてくれるので寝過ごすことはないだろう。おやすみなさい。


ご高覧感謝です♪

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