第80話 遠征ライフその2
俺達はアルトにダンジョンの最下層と思われる場所まで落とされた。ダンジョンの最下層の地面、壁など魔法では破壊できないくらい硬いようで、ヒビすら入っていなかった。
となると一応この力で押し通る方法は正攻法の一つではあるのだろう。天井を見上げれば逆再生されているかのように破壊された天井が再生される光景が目に入ってきた。
ダンジョンが修復するスピードは凄まじく早いのでそれを狙って押し通るのはごく少数だとおもうが。
「何かと思えば……やっぱりお前らかよ……どんな魔法の使い方したらそうなるんだよ?!」
「逆に聞きたいんだが、なんでお前はここにいるんだよ」
質問に質問で返すなと最近語ったような気がするが気にすることではないだろう。そもそもこいつは一つ星であり、初心者向けであるこの場所へ来るような必要はないはずだ。
至って冷静に俺はこいつを観察していると、隣から凄まじい殺気が発せられた。
「なんで……またお前がいる?!」
殺気の主はシーナだ。殺気立つ彼女を置いてアルトはなにやら彼をじっと見ている。恐らく俺と同じく観察しているのだろう。レムはアルトの後ろに隠れ、背中から顔を出していているものの、表情は完全に敵に向ける顔つきである。
「いや……その水色の髪の少女、説明しても……いいですよね?」
彼は完全に敵意がないことを伝え、手を上へと伸ばしていた。最後の方に敬語になっていたことから少しだけ怖いようだ。
が、その程度で彼女の殺意は抑えられそうになく、彼女は和解とは程遠い様な捉え方をしてしまった。
「両手を上げてても私からあれを奪えると? 随分余裕ですね。しかし私は前回とは違う。今は魔力も充分な上に皆がいる。貴方があれを奪うことは不可能です」
「いやあの……」
「しかも私が持っていると踏んだようですが、あれはいつも学園の中にあって更に守は固くなっています。なので私はいま持っていません。大人しくここから去りなさい」
「あの……俺はそんなつもりできたわけじゃないんだが用があるのはこいつで……」
シーナは留まらず言葉を紡いでゆく。ドリュードはかなり下手に出ていて反論の余地もない。俺に何やら用があるらしいが彼女はそれを許さない。
アルトは目を瞑り うんうん と何故か首を縦に振っている。シーナは余り喋らないイメージがあったが、ここまで話したところは見たことがないので流石に驚きを隠せない。アルトがなにかシーナに吹き込んだのだろうか?
「……俺そんな目的で来たわけじゃないんだが、そろそろ信じてくれないか?少女よ」
「まだ口を動かしますか。そのような余裕があるなら足を動かしてさっさとギルドに戻りなさい。私はギルドランクなんて捨てる覚悟でここにいるのです。貴方とは決意が違うのですよ」
彼女のそんな決意は初耳であった。ギルドは人数が多いため降格も頻繁にある。降格の条件として、三十日以上任務を受けない、というものがあるのでこのままギルドで依頼を受けなければシーナのランクは下がるだろう。俺は一番最低のランクなので降格も何もないが。
「今まで積み上げてきたものを崩してまでそこに居座るか……ある意味羨ましいな」
「そういう訳です。さぁ早く私たちの前から消えてください」
「いやそういう訳には行かなくてだな……」
「いい加減しつこいよ? シーナも消えてって言っているんだからさ、殺されたくなかったら消えてね?」
「しつこい……です」
アルトが何処かのモブの手下みたいなセリフを言い放つ。この言葉はだいたいこのあと瞬殺される人間が言い放つのだが、彼女からしたら逆に返り討ちしてカレを瞬殺しそうだ。レムに限ってはもう視線で人を殺せそうな目をしている。
「ちょっとちょっと?! 流石におじさんショックだよ?! おい少年あれをこいつらに見せろ!!」
「あれってなんだよ。お前に貰ったものは学園からの信頼しかない。別に欲しかったわけじゃないが」
「少年んん!?それは結構大きいものだけどそれじゃないよ!? ほら俺の手紙!」
彼は相当焦っているようだ。暇なときは反応は見ているだけで楽しいが、今はそこまで暇ではない。なにせ遠征中なのだ。手紙は何やらあった様な気がするが気のせいだ。可愛い鳥しか覚えていない。
「知らん。俺達は旗を取りに行くからこれにてお別れだ。じゃあな」
「もう二度と会わないことを祈るね!」
「永遠の別れ……です」
「末永く眠っていてください。さよなら」
俺が旗まで歩き出すと、彼女らも付いてきた。何やらシーナは物凄くスッキリした表情でダンジョンの奥にあるであろう旗を取りに向かった。アルトもとても満足げにシーナとレムに笑顔を送っている。彼女らの足取りは落ちてきた直後より軽かった。
「まてまてまて! おじさん流石に泣くよ?!」
しかし全力で走ってきた彼に回り込まれてしまった。それを認識した途端彼女らの目が嫌悪のジト目に変わる。俺だったら耐えられなさそうだ。それぐらいに冷たい目線であった。
「不審者でしょうかこの人」
「僕この人怪しいから四肢を全部切り落として憲兵に突き出そうと思うんだけどどうかな?」
「あると……頭いい!」
「邪魔だ、どけ。そもそも俺はお前に手紙なんて貰っていない。そんな友好的な関係でもない」
「お前らどんだけおじさん嫌ってるの?! いや確かに嫌われることはしたけど!?」
自分で分かっているのに相変わらず馴れ馴れしい態度は変わらない。変わらない相手を前にして俺が出る手段は一つだ。
「お前…………魔界って知ってるよな?」
「そ、そりゃ知ってるが……それがなんだよ?」
「俺が連れていってやるよ。マイナス枠しかない場所へな。赤字にならないことを祈ってるぞ?」
「へっ?」
俺は素っ頓狂な声を出したドリュードを差し置いて転移魔法を発動させた。送り先は魔界の中である。生きていたら褒めてやろうかな? 自分からお迎えに行く目的などはないが。
転移石の最大距離は分からないが、恐らくこちらに直接帰って来ることは出来ないだろう。アルトの転移魔法だってギリギリなのだから。
それにアイツは彼女らを傷つけたのだ。直接痛めつけないだけまだましであろう。光に包まれて消えていく彼の姿は非常に哀れであった。
「よし、旗を取りに行くか」
「おー!」
「おー!」
「さっきの魔法は……?」
彼を魔界に送り付けたのに咎めるものは一人もいなかった。まぁ死んだら死んだで仕方ない。……大分俺も人でなしになってきたような気がする。
俺達は何事も無かったように奥へ進む。転移について、途中シーナに魔法の説明をしていたら驚きつつも、首を立てに振りながら目をキラキラさせていた。
しばらく歩くと、この場所は洞窟であるにも関わらず、僅かながら光が差し込んでいた。あそこの光が差し込んでいる天井を突き破れば簡単に旗までたどり着けるんじゃないかって思ったのは内緒である。
「えっと……これの中から一本とっていけば良いんだよね?」
「そ、そうだな」
「なんか……攻略した実感が湧きません……」
「やはり、教育の一環ということなのでしょう」
俺達は目の前の光景に困惑していた。なぜならその光景は……驚くほど派手だからだ。
まず目に飛び込んできたのは広場のような入口に立てられている木で出来たRPGでよく見る木の看板に でかでか と「攻略おめでとう!!」と書かれていることだ。奥に目を移すと、イルミネーションで彩られている電光掲示板のようなものに「君達は8433番目の攻略者だ!」と書かれていた。
現代化が進みすぎていて、もはやファンタジー性よりリアリティ性の方が強かった。唯一のファンタジーといえるところは天井から漏れる日差しぐらいである。
「ダンジョンって全部こんな感じなのか……?」
「ユウ、こんなのダンジョンじゃないよ」
「これじゃ……ないです」
「仕方ありませんよ。ここは教育の場所ですから」
シーナは華やかな装飾がされている籠の中から五十cmほどの旗を手に取る。俺たちも習って旗を取ると、パンパカパーン!とどこからか分からないがBGMが鳴った。電光掲示板の数字が四つ増えた。旗を抜いた数だけ数字が増えるのだろう。
旗を抜くと数字が増えたことから、この攻略人数は正しくないかもしれない。そんなことを思い、旗を持っている手とは逆の手で、もう一本掴み、箱から抜き出す、と再びパンパカパーン!と短いBGMが何処からともなく鳴った。これは人数詐欺である。微妙な気分ながら俺は左手に持っている旗を元に戻した
何処かアルトたちの目が生暖かいのは……気のせいだ。
「さて……これからが本番なのですよね? アルト」
アルトはコクりと頷く。どうやら俺の目的を説明してくれたようだ。なら話は早いな。
「まずはあの石碑をみつけなくちゃ、ね。あっそうだユウ、シーナに念話をあげなきゃね!」
「確かに連絡手段としては重要だよな。レムも持ってるしな」
「念話……?なんのことでしょうか?」
とりあえず能力創造を相手に使うためにはステータスの確認が必要だ。なのでシーナにステータスを見ることを許可してもらわなければ。
「シーナ。ステータス見ていいか?魔法を使うのにはそれが必要なんだが……」
「?!……ユウナミ。それは私に対しての侮辱をするつもりですか?」
その俺が言葉を発したとき、シーナの対応があからさまにおかしくなった。やっぱりダメなのか……?
「駄目なら構わないんだが……」
「ユウ……ストレート過ぎだよ?普通みんな勘違いしちゃうからね?」
「ワタシも勘違いしていました……でも……想像している事には成らないので……大丈夫だと思います」
「レム……信じていいんですよね?」
「うん…!」
女子の会話に全くついていけない。ステータスを見ることがそこまで大ごとだとは思えないんだが。身長体重は分からないしな。やろうとすれば出来るかもしれないが、シーナにやった場合は殺されそうだ。
「ユウナミ。貴方を信じます」
「そ、そこまで大事ではないと思うんだか……じゃやるぞ?」
俺は遠慮なく観察眼を使い彼女を見る。うっすらと視界の端にウィンドウが浮かんでくると、その中身はこのようなことになっていた。
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ステータス
名前 シーナ=レミファス レベル92 クラス 風魔導師
年齢 16
性別 女
HP(体力) 3400
MP (魔力)4500
ATK(攻撃力) 1700
DEF (守備力)1800
DEX(器用さ) 4800
AGI(敏捷性)3400
INT(知力)5400
LUK(運)―10
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所持魔法
風属性魔法 レベル7
無属性魔法 レベル5
闇属性魔法 レベル0 (発動条件達成時のレベルは3)
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所持スキル
風属性の魔法の才能
体術 レベル3
危険予知 レベル2
疾駆 レベル4
精神操作無効
基礎器用さ上昇 レベル3
悪魔憑 レベル2
空き
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と、このようになっていた。空きは一つしか無かったが、なにより気になるのは悪魔憑というスキル。他人のスキルなので詳細は見ることはできるが、危ない匂いを漂わさている。彼女はあの石の中を精霊と勘違いしているが、教えた方が良いのだろうか。
「……どうですか?これでいいんですよね?」
シーナは若干頬を赤く染め恥ずかしげにしている。とりあえず体重等は見ていないので怒られることはないだろう。
「ああ。もう十分だ。んじゃそのままにしててくれ」
「な……なにをっ?」
俺は彼女の両肩を掴むと能力創造により、念話を与える。彼女は肩を掴まれかなり驚いたようだが、スキルが付与されると更に別の意味で驚いた。
「なっ……?! これは?!」
「内緒で頼むぞ?」
「二人とも終わったよね?離れないの?」
付与したときのレムと同じようにスキルが増えたことに驚くシーナを見ていたら、アルトが非常に冷たい声で俺達になぜ離れないのかを聞いてくる。何処か視線は冷たい。
俺は何事も無かったように離れると威圧が解けたように空気が軽くなった。威圧されるようなことやった覚えはないんだがな。そもそもこれアルトが提案なんじゃ……
「あると。石碑の位置は……思い出した?」
「うーんその付近まで行かないと思い出せなさそうなんだよねー……」
「一旦ユウナミの魔法で麓まで戻ってみてはいかがですか?」
「麓から探すのが一番か……?いや、範囲が広過ぎるな」
レムが塔への唯一の手掛かり、石碑の場所を昔は知っていたアルトに問う。だけどいくらアルト先輩とはいえ、流石にそこまで細かいことは覚えていないようだ。
仕方ない。困った時の魔法創造……って原因は不明だけど創れなかったな。この重要なときに魔法想像が役に立たないとなると自力で探すしかないか?
「あの……先生に……聞いてみませんか?」
「そっか!困ったときは他人に聞くのが一番だよね」
ここにいる誰もが困っていたその時、レムの一言で解決への糸口が見えた。他人に聞く事が禁止な訳じゃないがなにか目をつけられそうで、嫌だったのだ。
ただ単に見たい。ということを伝えれば怪しまれないはずだ。多分。知らなかったらもう一度ダンジョンに潜って次の作戦を考えればいいだけだ。最悪、自分の足で探すようなことになりかねないが。
「とりあえず行くか」
俺は転移魔法を発動し、崩落した元の場所へと戻る。流石にダンジョンの外に出たら転移魔法が先生の目につくため危険だ。
崩落が治ってなかったらそのまま落ちそうだが、ダンジョンの再生力は凄まじく早かったのできっと治っているのだろう。
旗はすべて俺の魔法陣の中へ投げ入れてもらった。帰投する気はないからな。
俺達は期待を胸に先生の元へと向かった。
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「知らん。そもそも私は怪談なんて興味無いんだ」
「……そうですか」
即答だった。石碑の……って言った時点で、分からない、の一点張りだ。怪談の話はしていないのに怪談という言葉が出てきた。コイツ本当は知ってるんじゃないか?
「それよりお前ら、無事だったか?先程お前らが入っていった後に凄まじい揺れが起こってな。まさかとは思うが、事故が起こったかもしれないと思って心配していだぞ」
今この場所にはテントがいくつも建っている。
その中で生徒が寝泊まりできるようにしてくれたようだ。日は傾き、今は午後の四の鐘がなる頃といったところか。
「まぁゆっくり休め。あと九日はあるんだ。のんびり攻略していけばいい」
そういって持っていた茶色い一升瓶をグビグビと飲む。先生という立場なのにお酒を飲んでいて大丈夫なのか?
「えっと、ありがとうございました!」
アルトの挨拶で会話が終了する。俺達は近くにあったに広いビニールシート(のようなもの)に座り込み、これからのことを話始める。ちなみに生徒は全員ダンジョン攻略に向かっていて周りには誰もいない。
「うーん……先生も知らないかぁ」
「手掛かりがない……です」
「そもそもこの辺に本当に塔なんかあるのでしょうか?」
シーナがごもっともな事を言う。石碑があるといわれる辺りはほぼ全て樹海であり、塔を立てるとしても余りにも立地が悪い。この樹海はかなり広い為、ヒントが無ければ二十km以上離れている塔など見つかるわけが無いが、これはどこにあるのか分からない石碑より高い塔を探す方が簡単なんじゃないか?
俺達は各々に考えていたときにアルトがあることを思い出した。それは
「ねぇユウ。あの不審者が手紙とか言ってたけどなんか心当たりないかな?」
「そういえば……そうだな」
完全に魔界へ送ったことも、手紙を貰ったことも忘れていた。俺は魔法陣から羊皮紙をとりだし、中身を読んでみる。
「なんて……書いてありましたか?」
「……はぁ……最初から読めばよかったよ」
大きく溜息を吐く。どうせなら絶対読め、と言って欲しかったものだ。もっともその時の俺が読んでいたかどうかは不明だが。
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よぉーす少年!!実はだな、お前が遠征に行くことを耳にしてな。お前がいくあの山についていい情報を教えてやる。これで貸一つな?いつか返せよ?
まずあの山にはダンジョンがある。それもかなり安全な子供向けダンジョンだ。もちろんそれだけがあの山の魅力ではないんだぞ。あの山には……塔への入口に向かうための魔法陣がある。ただ、その魔法陣は選ばれし者じゃないと反応しないらしいがな!
その魔法陣の場所があるのは……石碑の隠し階段を降りた場所にあるんだよ。これは一つ星以上の人しか知らない情報だぞ?ありがたく受け取っておけよ!
それとだが、俺も案内してやるから初心者ダンジョンの最深部で待ってるぜ!
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「はぁぁ……あいつ場所知ってたのかよ」
転移させてしまったことを激しく後悔した俺であった。
100万pvを突破しましたっ!!
挫けそうになった時もありますが頑張ってこれたのは見てくださる皆様のおかげです!
これからもどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
高覧感謝です♪