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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第六章 遠征に縁あり
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第78話 遠征前日

 遠征前日。俺達は放課後の学園の一室にいる。

 集まった目的は翌日にまで迫った遠征の会議である。会議の内容として安全第一を推していた。

 安全なダンジョン攻略っていうのも、人から借りたゲームを嗜んできた俺にはどこか違和感がある。


「えー次に。生徒会長から挨拶があります」


 爽やか系男子である生徒会長は椅子を引くと、凛々しく挨拶を始めた。イケメンがやると何でも似合うな。正直腹立つ。羨ましいです。


「えーと。今回はこの遠征にご参加頂きましてとてもありがたく思います。俺達も参加するつもりだったんですが、所用があって共に行けなくなってしまいました。非常に残念ですが、今回はこちらの学園から攻略の成功を祈らせていただきます」


 こいつはあれだ。実際は行きたくないのに、行きたかったなぁとかいうやつだ。なおさら腹が立つ。行きたいなら所用を蹴っても行けばいいじゃないか。


 人員不足なら生徒会だってなおさら参加の義務はあるはずだが?


「今回向かうダンジョンは森の中らしいので、虫の魔物などにお気をつけてください。ではこれで俺の挨拶とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました」


 流石は生徒会長。締めもよくできたものである。人数は少ないものの拍手が起こるので俺もそれに乗じて拍手をする。当然先程のような微妙な怒りは顔にも行動にも出さない。

 生徒会長は少し恥ずかしそうにしていたが、次の瞬間に俺の敵意は最大まで高まる。


「うぉぉ! ウィンかっこいー!」


 ウィンとは生徒会長の名前だろう。ピンクのぼさぼさ髪の生徒は席から立ち上がると、辺りの目を気にせず抱きついた。……こいつは自慢なのか? 彼氏だって自慢したいのか?


「ははは……恥ずかしいからやめろって……」

「むっふふ……あったかい……」


 周りにピンクの雰囲気が充満する。先生たちは二人を軽く席に促した程度で、注意することはない。そしてこの先生は顔が緩んでいる。

 駄目だこいつら。完全に雰囲気に飲まれてる。隣を見るとアルトは爆睡。だがレムは何処かのほほんとした雰囲気になっていて羨ましげに見ている。正常なのは俺だけかよ。


 生徒会長が元の席に座ると同時にピンク髪も元の席に座る。彼らをじぃいと睨みつけていると、優しいことに笑顔で返してきた。

 はたしてこの年上イケメンは俺に喧嘩を売っているのだろうか。

 少しイライラしていたらやっと先生が動き出した。


「ごほん、では会議を再開します。資料に書いてある通り、ダンジョンの最奥にある旗を持ちかえれれば見事遠征は成功です。旗を一本でも持って帰ってくることができれば全員に転移石のプレゼントをしたいと思います!」

「今回は太っ腹ですね。まぁ一度たりとも成功したことはありませんが……俺達は頑張りますよ!」


 実家が有名なレイダー君がやる気を見せると生徒達はそれに乗じて盛り上がった。

 転移石は相当貴重らしいが、俺は遠慮なくバンバン使ってるイメージを持たれてるとのこと。俺のは魔法なんだけどな。


「では……これにて会議を終了します。皆さん明日に備えてくださいね。」

「起立! 礼!」


 誰に対して礼をしたのか分からないが取り敢えず会議は終了である。アルトは無意識のうちに起立して礼をしたあと、すぐに座り込み眠ろうとしているので起こす。凄まじいまでの眠りに対する執念だ。


「あると……おきて?」


 レムが軽くアルトを揺すると彼女は大きな欠伸をした後にレムに朝の挨拶をする。既に夕方だが。


 魔族だから夜行性という俺の偏見はまさか本当なのだろうか。

 純粋に寝たいから寝ているだけかもしれないけど。


「おはよー……」


 これだけ軽く揺らして起きるときもあれば、どれだけ激しく揺らしても起きない時もある。非常に不思議である。


「こらアル。ほぼ寝てたでしょ?」

「ふぁぁ……みりゅりゅおはよー……」

「アル……もう夕方だぞ?」


 リンクスとその仲間たちが続々と集まってくる。レムはぎゅっと俺の袖を掴んで後ろに隠れる。やはりまだ恐怖があるようだ。なんとかしてあげたいところだが。


「そこの銀髪の子……えっと、レムさん、でしたよね?」


 リンクスの後ろからたれ目で優しそうな緑髪の子ハーミルが出てきた。レムと同じぐらいの年である。これなら話せるか?


「ほらレム行ってこい。俺はすぐそばにいるからな」


 俺はレムを前に出し軽く背中を押す。彼女は激しく動揺していたが、前に出ればハーミルが手を差し伸べてくれた。


「こんにちわ。ボクはハーミル。一応同じSクラスだよ。よろしくね」

「……はい、よろしく……お願い……します」


 レムは握手に答えた。自ら相手に接触出来るようになったのでかなり成長したといえる。嬉しい限りだ。

 と思ったら手が離れた瞬間直ぐにこちらへ戻ってきて、背中に隠れる。レムにしては相当頑張ったのだろう。優しく撫でて、無言で褒めておいた。


「ハーミル、君だよな? 俺がいなくてもレムと仲良くしてやってくれるとありがたい」

「はい! こちらこそです!」


 なかなかいい少年のようでひと安心だ。いつかレムも大人になるのだから人には慣れておかなくてはな。

 ……そんなこと言う俺ももうすぐか。あっという間だな。


「ユウさん? しっかりと話は聞いていらしたので? どこか別の場所を睨みつけていたようですが?」


 どこか高圧的なこの声はダニアだ。もうそろそろ高飛車さんっていうのは可哀想なので、もうやめてあげても良いか。元の世界ではこういうのに全く触れなかったが、幾分慣れた気もする。


「ああ。ほぼ全部聞いてたぞ。俺が睨みつけてるのは……あいつらだよ」

「……ははーん、さては会長に嫉妬していらっしゃるんですの?」

「なっ……ユウが嫉妬だと?!ははっ!! 似合わないなっ!!」

「嘘っ! あのユウが嫉妬してるの?! あははっ、ほんとに似合わないわね!」

「えっ、何に嫉妬してるの……ユウ?」

「あのってどの俺だよ」


 ダニアが純情な俺の心を弄ると、リンクス、ミリュ、アルトがそれぞれの反応を俺にぶつけてくる。三人は大笑いだが、アルトは全く笑っていない。これは弁明しないとダメだろう。


「勘違いするなよ。俺は公共の場であいつらみたいにイチャイチャしてるのが気に入らないだけだ。なので何に対しても嫉妬はしていない」


 俺がそういうと更にラブラブなリンクスミリュの二人は盛り上がる。付き合えよ早く。

 アルトは何か考え込んだ表情だが、レムは俺の背中越しにハーミルと話している。

 俺の嫌味に気がついたのか生徒会長が机越しに話しかけてきた。会長の膝にピンク髪が座りながら。


「ん?……なんか問題あるか?ナミカゼ?」

「みーとウィンの関係が羨ましいの?」

「いろいろ言いたいが一言で済ませる。余所でやれ」


 俺が頭を抱えながら二人に向けて言い放つとボサボサ髪の女子は一瞬だけ驚いた顔を作り、すぐに戻った。

 って何に驚く必要があるんだ?


「へぇぇ……これ効かないんだ、珍しいなぁた」

「おっと? やっぱり嫉妬か?」

「もういい。帰らせてもらう。やはり俺には耐えられない」


 ピンクのオーラから逃げるように俺は立ち上がる。ピンク髪が怪しい笑みを浮かべているが、もともとコイツは存在自体が怪しいので放置だ。

 それにしてもなぜ俺の周りはここまでカップルと男女が多いのだろうか。それともこの世界の奴らは皆こんな感じなんだろうか?

 どちらにせよそういう出会いがない俺には辛くて耐えられない。さっさと逃げるが吉だ。

 そう思い、俺はこの部屋を出る前にこの言葉を言い放った。


「明日は、俺が一番最初に(塔を)攻略してやるよ。あれは渡さんぞ?」


 いろいろ勘違いを含めるように言ったのはわざとである。捉え方によれば、ダンジョンを攻略して旗を取るというように捉えることをもできる。俺が言うあれとはあの声の主だ。


「ははっ、ユウやる気満々じゃねぇか!!」

「へぇぇ、ユウがやる気なんて珍しいわね」

「レム、勝負だよ!負けないからね!」

「…………」

「俺だってやるときはやってやるさ!」

「ふん!私達より入る順番が後にならないと祈るのですわね!」


 Sクラスの面々が見事に全員勘違いしてくれている。

 紺の髪色のラスフィは黙っているが、恐らく勘違いをしてくれていることだろう。


 一方こちらのメンバーは


「負けません……!」

「僕達実は攻略目的なんかじゃない――いやいやいや! 負けないよ!」

「ええ。負けません。やっと体が回復したんです。私は皆に恩返ししなくてはいけません」


 アルトは思いっきり攻略目的なんかじゃないと言ってしまったが、他の人には恐らく聞こえていなかったのだろう。彼らは全然反応していない。俺も含めて合計四人……ってあれ? 一人多くないか?


「シーナ?!」

「シーナ……さん?!」

「久しぶりです。アルト。レム。そしてユウナミ」


 気配を全く感じなかったぞ……いつの間にコイツは俺の隣にいるんだよ。

 こいつが敵であったら俺は死んでいたかもしれないと冷や汗を感じた。

 声を聞くまで存在をつかめなかったとは。


「私も遠征へ向かいます。怪我は全て完治です。先生の許可も頂きました。こんな事もあろうかと遠征の準備をしていて正解でした」


 どこまでも用意周到な彼女である。彼女は編入ではなく、元からいたので相当前から用意していたのだろう。恐ろしい子である。


「おうおう。やる気十分な生徒たちで俺は嬉しいよ」

「みーもみーも!!」


 こいつらだけは許さない。この一瞬で実際に星屑落とし(メテオ)により爆撃してやろうかと半分本気で考えたが、やったらやったで大変な事になるのでしっかりと抑えた。

 俺はこんなことのために毎日修行して努力しているわけではないしな。


「ユウ。俺は今度こそお前を超えるからな!」


 リンクスが俺にビシッと効果音が聞こえるぐらい凄まじい勢いで俺に人差し指を向ける。

 元の世界だったら集中線が指に集中しているだろう。


「……俺は確実に負けないぞ?(そもそも同じダンジョンに行くとは言っていないんだが)」

「望むところだ!!」


 何やら勝手に熱くなっているリンクスを置いて俺は出ていく。それと同時にアルトとレムは一礼して出ていった。シーナは一緒についてきた。


「ユウ……心の声聞こえたんだけどさ、リンが勝手に熱くなってる人に思えてしょうがないよ……」

「おっと。バレたか。まぁ分かってると思うが俺は安全なダンジョンなんて行かないぞ? 少しは中のようすを見ると思うが、それっきりだ」

「ユウなら、そういうと思ってました……!」


 レムも俺が真面目に行くとは思ってないらしい。これは喜ぶべきところなのだろうか?


「僕はユウについていくよ! あんなところ興味ないし!」

「そもそも俺は目的違うぞ?それでもいいのか?」

「良いよ?ユウの夢の話も気になるし……多分それは特殊ユニークの魔法の一種だと思うしね!」


 流石は 全魔法を知るもの である。こんなところでも知識があるのは驚きだ。俺は完全に無意識に手を出してしまい、アルトを撫でる。


「ありがとな。アルト。」

「えへへ……」


 しまった。またやってしまった。レムはまだ子供だからいいものの、完全にアルトは同年代である。

 かなり恥ずかしい。無意識ということは完全に癖になっているな。困ったものだ。挑発グセよりこっちの方が悪いかもしれない。


 すると次は 私の出番 とばかりに頭を差し出してくる。むしろ頭突きである。


「ユウナミ。私も恩返しする」

「お、おう。ありがとな。だが正確にはアルトが助けたんだが。」


 シーナもこんな大きさだが一応同じぐらいの年である。って心の声が聞こえたらまた弁慶になぎ払いを喰らいそうだ。


「シーナ? 助けたのは僕なんだけど?」

「アルト。貴方には凄く感謝している。ありがとう」

「えっ……ああうん!」


 ぺこりと頭を下げられたので、アルトも困った表情を浮かべる。

 シーナは完全にアルトに対して対策を作ってきている。なんでこんなに可能性を予測できるのだろうか。俺もそんなスキルが欲しいところだ。


 俺達はそのまま寮へと足を運ぶ途中、売店に寄った。明日のためにお菓子等を買いたかったが残念ながらこの世界では保存が効くお菓子は非常に少なかった。あったとしてもカンパンのようなものでお菓子とはいい難い。


 この世界で鍛冶屋、兼料理人にでもなってみようかなどと真面目に考えた俺であった。


 俺達は明日のために早めに寮で食事を取ることにした。今日はラクナも一緒に食べた。

 よく考えれば俺以外女性と、男女比率が偏ってきたため、パンを餌にラクナを釣ってきた。意外と楽に連れたので今度からこちらへ呼び出してやろうと思う。


 ご飯を食べ終え、ほかの人達が寝静まったであろうその夜。俺は早めに寝ることに決めていた。

 いつもは転移して誰もいないところで魔力を使い切ってから寝るのだが、明日は俺からしたら遠足だ。体調はバッチリにしておきたい。


 そろそろ寝ようかなと思っていた頃。窓からコツコツ、という音が聞こえた。その向こうにいたのは、鳥だった。鳥が窓をつついていた。足には何かを結んでいる。


「伝書鳩か?」

 

 そう思い、俺は窓を開けると俺の肩の上に止まった。

 めっちゃいい子……だと?

 飼いたくなる気持ちを抑えつつ、足についている紙をほどき、中身を読む。

 読んでいるあいだに鳩もどきは闇夜へと飛んでいってしまった。飼いたかったので少し残念である。


 手紙の内容は


『よぉーす少年!! 実は』


 俺はここを見ただけで一人の人物が思い浮かんだ。なので俺は見なかった事にして、手紙を魔法陣の中へ投げ捨てた。もうあいつと関わると確実に面倒ごとになる。明日は遠征だ。見なくていいだろう。


「よし。何もなかった。あの鳥は可愛かったが足には何もついていなかった。あの鳥は伝書鳩で、きっとどこかで紙を落としたのだろう」


 俺はそう呟きベットへと潜り込んだ。


50万pv突破しましたっ!!

ご高覧感謝です♪

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