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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第六章 遠征に縁あり
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第77話 遠征準備

 それから数日。俺達は遠征への向けての準備をしていた。

 遠征まで残り二日。流石に準備なして遠征に行くほど俺達は馬鹿ではない。

 なので今日と明日は学校の休日であることを利用し、サイバルの街に戻ってきている。


「あー……服って自由だよな?」

「うん!やっぱりいつもので行くの?」

「俺はそのつもりだ。レムはどうする?」

「ワタシは、いつもの服がいいです」


 俺がいういつもの服とは体をすっぽり覆うほど大きいローブタイプの服である。ファッションセンスのなさを隠す最強装備である。

 レムの制服を着ないときはいつも白いワンピースを着ていた。それはアルトに選んでもらったということもあり、非常にお気に入りのようだ。

 残念ながら防御力は皆無であるが、彼女の銀髪と合っていてとてつもなく可愛らしい。


「レム。あれは破けちゃうかもしれないぞ? それでも良いのか?」

「……違うのにするです」


 レムは渋々と防御力のある服、なおかつ可愛らしい服を求めアルトと共に、学園に入る前倒した亀の素材を持って鍛冶屋へ向かった。

 彼女もやっと俺たちに馴染んできた気がする。嬉しい限りだ。

 取り敢えず、女の子の服にイチャモンをつけるのは嫌われそうなので自分から別行動を名乗り出た。よってわ現在俺はフリーである。


「うーん……なにを用意すればいいんだか」


 取り敢えず資料に書いてある一通りの物は用意したが、それ以外の物も必要になるだろう。そもそも俺は安全圏から抜け出るつもりなので尚更だ。


「いらっしゃい兄ちゃん。どんな物をお探しで?」


 俺はメガネと変幻を使いしっかりと変装している…髪色瞳の色共にかなり濃い茶色だ。

 また騒がれたら堪らないしな。

 アルトに追加アイテム的なものは何か無いかと頼んだら、しっかりと持っており、貸してくれた。


 基本的な変幻魔法はおとといぐらいに作った。かけっぱなしで学園に入ってしまったら、別人と判断されており一悶着あった。やはり俺は学園では黒髪で生きていくしかないようだ。


 それと鼻メガネも売っているところを見かけたので、この世界に俺以外の転生者がいるなら、パーティ文化も伝えたのだと予測する。

 メガネだって元の世界の文化だ。元からあったかもしれないが、形状は完全に酷似しているのでやはり元の世界の住民が今も尚この世に居るのだろう。

 生きていたら少し話をしたいものだ。


「ん? 何かいいものがあったかい?」


 店のおじさんは俺が考えにふけっているのを見て心配したのか声をかける。ぼーっとしてちゃ冷やかしかと思われるから、塔に登るとして必要だと思われる物が無いか聞いてみよう。


「俺は塔に登ろうとしてるんだが、登るために必須だと思うアイテムはないか?」

「お!それならこれなんてどうだ?」


 そう言って道具屋さんのおじさんが奥の部屋から何かを取ってきてカウンターの上に置く。置かれたものは丈夫そうなロープだ。その先っぽには鉤爪のようなものが取り付けられている。


「兄ちゃんはおそらく冒険家ギルドの人だろ?ダンジョンではこの鉤爪つきロープは必須だね。それと……よっと。これだな。ポーションだ!」

「ポーションとは如何にもRPGゲームで出てきそうなアイテムだな」


 俺はこの時すかさず観察眼サーチアイを使う。初めて見るポーションなのだ。詳しく調べないわけが無い。

 ワクワクしながらこのガラス瓶の中に入っている青色のの液体に集中し、スキルを使って観察する。


 ―――――――――――――――――――――――――――


 名称 回復ポーション レア度 2


 補助効果 HP200回復 痛覚鎮静


 備考

 どこにでも売っている回復薬。量産型のため回復性能は低いが、飲んだりかけたりすれば外傷内傷問わずの痛みが引いていく。


 ―――――――――――――――――――――――――――



 回復魔法がある人間には必要なさそうなアイテムだ。一応飲めば痛みが引いていくらしいが、戦闘中にそんな余裕ができるものか……?


 それと最近実験したことだがら物質創造マテリアルクリエイトにより魔力回復薬系の系統である、最初に転生した場所に湧いていた魔界の水を創り上げ、飲んでみた。

 これは魔力回復効果があるので、永久に魔法を回せる無限ループを思いついたための行動であった。


 しかし、計画は失敗。


 飲料水と判断されたようで、意識せずに嘔吐してしまう始末であった。我慢しても、我慢出来ずに胃液ごと吐き出してきまうのだ。


 当然回復効果は発生しなかったのデラ回復薬を創るのは無理である。

 一応だが、応急手当として数本買っておこう。


「んじゃこのポーション五個と鉤爪つきロープをくれ。いくらだ?」

「おっ!毎度あり!ポーション5個で五千G、鉤爪つきロープは一万Gだ!」

「……そんなにするのか」


 ロープはまだあの値段でいいとして、たかだかHP200しか回復しないポーション一個千Gとはどういうことか。……まぁいいか。非常用だし、そこまで使わないだろう。


 俺はそう思い、少しだけ奮発することを決めた。これが終わったらどこか誰もいない場所で魔法を創りに行こう。丁度いいタイミングだしな。


 俺は人混みを抜け、小さな裏路地で転移魔法を使おうとしていたが、俺の気配探知に引っかかる者がいた。気配探知の及ぶ効果範囲ギリギリに反応したので、その対象の人物は少し遠いところにいる。

 しかも反応した人物は、俺の気配探知による警戒人物マーカーが付いている。知り合いだ。


「なんであいつがここにいるんだ? 本当にあいつの目的が掴めないな……」


 俺が言うあいつとは、学園襲撃の張本人。薄い茶髪で髪をよくセットした大人のイケメン。そいつを確認したが、先程から全く動かない。

 アイツは気配遮断のスキルは持っているが、捉えられることからそのスキルは使っていないらしい。


 当然話しかけに行くことなどしない。理由としては距離が空いていて遠い上に、アイツに絡まれると確実に面倒ごとに巻き込まれるからだ。学園の事件でよくわかった。

 アルトやレム達からは合流したいときに念話が飛んでくるだろう。

 なので俺はゆっくりと魔法を創らせて貰うことにする。


 動かない男を無視して近くの森へと転移魔法を発動した。彼はその場所に座っているのか、ずっと動かなかった。このまま何もしないでいて欲しいのが本心だ。


 ~~~~~~


「はぁぁ……なんでこんな事になっちまったかなぁ」


 俺はドリュード。イケてる冒険者であり、ランクは一つ星(シングルスター)である。

 俺はギルドの命令により、あの意味の分からない餓鬼の召喚士サマナーの見張りを承っている。

 だが……それもつい先程解除された。俺のランクと共にな。


 せっかく一つ星(シングルスター)まで上げたランクも今やSSだ。それもこれもあの餓鬼どものせいである。二つの任務の失敗報告をしたことにより、俺のランクは下がってしまった。それにしてもだ。


「あんな化物がいるなんて聞いてねぇよ……何もんだよあいつら……」


 俺は街の郊外である草むらがある場所で、仰向けになりながら魔法学園での出来事を思い出していた。

 魔法学園に来た理由は黒い宝石の奪還と黒髪の召喚士の視察。

 いつもの俺からしたらなんともない任務だ。


 だが、なぜ失敗したのか。

 それは恐らく下っ端が情報の伝達をミスったからだろう。

 黒い宝石の奪還の話は、学園に伝わってる筈なんだが、何故かそこのハッチが空いていなかった。

 これさえ普通に空いていれば 俺はこんなことにはならなかったのだ。

 むしろいつもより楽な任務だ。――そう思っていたときもあったんだよな。


 ハッチを無理やり壊した時から俺の計画は崩れ始めた。

 あのアルトとかいう娘と鍔迫り合いになったとき、彼女の魔力運用の無駄の無さといい、効率の良さといい、その一瞬だけで確実に彼女には勝てないということが分かった。


「あんなのが学園にいて何を学ぶって言うんだよ……あぁ意味わかんねぇ」


 視察対象である召喚士サマナー、ユウ ナミカゼもなかなかの実力の持ち主であり俺のプライドを捨てた人質作戦も文字通り一脚されてしまった。

 その時にギルドの上の連中も言っていたことがはっきりとわかった。あれは召喚士サマナーであって召喚士じゃない。と。


「いなければ……このままアイツを救えたのか?」


 首にかけられているロケットペンダントを開き中にある写真を見る。俺が生きていられるのは彼女が、笑ってくれるからだ。存在してくれているからだ。依存しているのは分かっている。だが、ギルドの連中はそれを見越して――


「……この気配はあいつらか」


 俺はロケットペンダントを閉じ、街に忌々しい二人の気配を感じ取った。俺は気配を察知するのが得意であり、それを利用するのが俺の戦い方である。

 この気配からすれば、片方は化物で、特徴的な剣を使っていた女、もう片方は銀髪の餓鬼だ。

 召喚士の気配は感じない。恐らく俺が察知できる外にいるのだろう。あの二人は何やら目的があるようでこの街に来た。これはチャンスだ。あの召喚士サマナーがいない今。誘拐することは可能だ。ギルドに差し出せば……アイツは今度こそ開放されるはずだ!!


「ちょうどいいところに来てくれたな……っ!どうやらまだ俺の運は尽きていないらしい!」


 俺は気配遮断を使い、娘二人を攫うことを決心した。今の心情は、俺の全ては彼女のために。という一心だった。


 ~~~~~~


「おかしいな……何回やっても出来ないんだが……」


 俺は今非常に困っていた。魔法創造スペルクリエイトにより拷問用の魔法、擽る魔法は創れたのに大規模の高火力魔法がどうしても創れない。一日の限界回数まで使っていないのにもかかわらずだ。

 星屑落し(メテオ)により、爆発は()()ので、爆発を引き起こす魔法は出来て当然なのだが……


「うーん……もしかしたら魔法創造スペルクリエイトにも創れる限界があるのか?……分からんな」


 ステータスを見ても空きとも何も書いていない。実際にはあるんだろうか?


「……ん、軽い男の気配が消えただと?」


 俺は気配探知により常にあの男を見張っていたのだが、突然マーカーごと無くなった。これは異常事態だ。あの男がなにか仕掛けてくるに違いない。


「アルトたちは……無事だよな?」


 アイツは恐らく彼女らに何らかの思いを抱いているのは間違いない。恋ではないことは確実だが。


「取り敢えず急ぐか」


 俺は転移魔法の発動までが長く感じつつもしっかりと彼女らの場所へイメージし、移動をする。あの店は一度行ったことがある場所でよかった。

 イメージが足りないと失敗することがあるのでしっかりしなくては。


 光に包まれ移動したその先は、彼女らが入っているだろう店の外だ。レムの服を買いに一度来たことがあるので余程の彼女らはここの店が気に入ったのであろう。

 彼女達の気配はしっかりと店の中から感じられる。


 周りを見渡していると、予想通り少し早足で向かってきた。あの軽い男が。


「……ああぁもう。なんでお前がいるかな? 気配は全く感じないんだが?」


 男は頭を抱えながら俺を睨みつける。俺は軽々と無視をした。ここに来て正解だったようだ。

 それと俺は気配遮断、気配探知はレベル上げも兼ねて常に使用している。今回はどちらも役に立ってくれた。ここからマーカー機能が出来てから俺にとって無くてはならない子になった。


「お前こそどうしたんだ? こんなところで。俺はあいつらを待ってるんだが。手を出すつもりならボコるぞ。 そもそもお前は今倒してもいいんだが?」

「お前と戦えば必ずアイツはここにくるだろうなぁクソッ……お前一人ならどうにかなりそうだが…」

「ほう、いってくれるな。やって見るか?一つ星(シングルスター)さんよ?」


 ここら辺を通っているお客さん達や冒険者達は完全に俺達の事は無視だ。ここの場所ではよくある事らしいので、無視してくれる方がありがたいが。


「この……っ!? それについてお前らに言いたいことがあるだがな!? お前ら餓鬼共のせいでランクが落ちたんだよ。なぁどうしてくれんだよ? 俺には救いたい人がいるんだ。なんで邪魔をするんだよ?!」


 俺の発言がしゃくにさわったのか、突然この男は声を荒らげた。通りの人々はチラッとこちらへ見ただけで素通りしていく。

 コイツに対する俺の気持ちと同じように。


「俺には関係ないな。お前こそなんで俺達の仲を壊そうとするんだ? 救いたい人がいるなら先にそっちを救ってやるのが先決だろう?」


 俺は至極当然とばかりに言い放ったが、その言動が逆に神経を逆なでしたようで、男は相当恨めしい表情を作り、武器を取り出そうとして殺意を込めてこちらを睨みつけたが……すぐに顔を俯けてごう言った。


「低ランカーであって、なおかつ餓鬼のお前らにはわからないだろうな。大人には……大人の事情があるんだよ……っ」


 男を半ば取り出していた武器であろう長方形の魔道具、つまり武器を服の中にしまい込み後ろを向く。

 殺意は既に消えた。

 寧ろ何処からか、悲しみと諦めが混ざったようなオーラが背中から発せられていた。


「なぁ、教えてくれ。大切な人を救うためにはどうしたらいいんだよ。お前ならどうするんだよ」


 その少しだけ震えた声の質問を聞いた途端、俺はコイツに対してなのに敵なのに、理解できない感情を抱いた。

 それは、同情心であった。


 何処か、いつかの俺に似ているような気がした。そのため、俺は答えられる範囲で淡々と答えたのだ。


「救いたければ、救えばいいじゃないか? それ以外のことは考えずにな」

「……お前……」


 半ば無意識で言ったことなのでついつい口走ってしまった。コイツは敵なのに……やはり俺は甘くなっている。

 付け加えるように俺は言葉を足した。


「先に行っておくが俺らは……無理だぞ? 無償で協力するほどお人好しではないんでな」


 男はこちらを驚いた表情で見つめている。一瞬の少しだけだがあいつの頬が緩んだような気がした。


「くっははは、俺がガキに慰められるなんてな……」

「だれがガキだ。そもそも俺は慰めてなんて――」

「俺の名前は――ドリュード。覚えておけよ?いつかお前に――っと化物が戻ってきやがった。じゃな。少年」


 あの軽い男、ドリュードは転移石を使って消えた。

 結局なんなんだあいつは。とくに慰めてなんていないはず……なのだがな。


 店の扉が開くとアルトたちが大量の紙袋をもって出てきた。確実に余計なものも混ざっているのであろう。


「おいおい、買いすぎじゃないのか? 遠征分だけじゃ無いだろ?」

「いーのいーの!女の子には色々と必要だもんねー?レム!」

「必要……です!!」

「そうか。んじゃ…帰るか」


 彼女達の幸せそうな表情で先程の微妙な気分がすぐに吹っ飛んでしまった俺であった。

 遠征まであと二日。目的とは違うが楽しみである。


ご高覧感謝です♪

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