第76話 遠征へ行こう
悠々と制服姿の男の子は、数人を引き連れて壇上へ上がっていく。もちろん彼のことは知っているが、彼は見たこともない制服姿であったので。
「……コレジャナイ」
「誰あの子」
と通常のイメージとは全く違った彼の見たこともない姿に俺達は死んだような目になってしまった。
男の子、つまりリンクスは、鎧や双剣を持つイメージが強く、一般的な生徒と見ていなかったため、声を漏らしてしまうほどの違和感が起きるとは思わなかった。
また、レムの入試試験の際にも鎧を着ていたため、彼女も頭の上にハテナマークを浮かべている。
後に続いて二人目に出てきたのは、異世界でしか見ないであろうほど、ツヤのある金髪ロング、ちょこんとアンテナが立っている女の子。
間違えようもなくミリュである。
彼女の制服姿を見て、会場にいる男子がデレっとした雰囲気を醸し出すが、拡声器により大きくなった教頭の咳払いでそれは霧散した。
俺は隣に美少女二人がいるので特になんとも思わなかったが、男子からしたら憧れの象徴だろう。
次に出てきたのは俺達より年下であろう男の子。髪色は薄い緑で、すこしだけ手入れをしていないような髪型。瞳は明るいグリーン。少したれ目な事もあり、優しそうな雰囲気をより強く感じられる。
彼はレムと同じ位の年齢なのであろうが、学園代表として出ていることもあり、実力が確かなことであるのは間違いない。
続いて登っていくのは、俺達より年上であろう紺色でショートヘアの女の子。
目付きも雰囲気もキリリとしていて人を寄せ付けなさそうなようすであった。
彼女が生徒会長であっても良いと感じられるくらいのオーラは持ち合わせており、現生徒会長と政権交代しても良さそうな気がする。
最後に悠々と出てきたのは、綺麗な青ブロンドの髪、紺色の生徒には及ばないが、凛々しい瞳をした、高飛車生徒ことダニアだ。
そういえば学園に入る前に「同じクラスですわ!」と言われた気がするが、見かけなかったな。
全く気にしていなかったが、彼女も学園代表として頑張っていたようだ。
「ふふんっ」
そんな彼女がこちらを見てドヤ顔を浮かべた気がするが――気のせいだな。うん。
生徒は元の世界の高校とは比べ物にならないくらい人は沢山いるし、俺だけ黒髪だとはいえ、周りの生徒の髪色は赤青黄色緑と色とりどりなので目立つことは無いだろう。
元の世界だったなら風紀がどうというレベルではない。
彼女で最後かと思ったら、少し遅れてバタバタと慌てたようすで出てきた生徒がいた。
俺と同じぐらいの年齢であろう男の子だった。
髪は緑色の生徒よりボサボサだが、あれは天然パーマに近い。
藍色の髪色をしているので、黒髪が基本である俺からしたら違和感はなかなかのものだが。
背丈も俺と同じぐらいだろう。この世界には本当に黒髪をしている人がいない。学園で一人すら見かけていない。
唯一変幻をしないアルトが黒髪に近い色をしているくらいだ。
そんなことを考えていると――
「……わっ?!」
天パ少年が ゴロン! と、何もないところで転ぶ。
……どうにもあのドジ女神を思い出すな。
今頃何してるんだろうか。また何かの事をしでかして、俺の身に危ないことでもおこりそうで怖いところだ。
彼が転んだため講堂の中で笑いが起こるが、教頭の一喝で再び静まり返る。
天パは顔を赤らめながら壇上へ上がっていく。
以上六名で北の国まで行ってきたらしい。全員がなかなかの実力を持っているようだな。
若干だが、ほかの生徒とはオーラが違うような気がした。転んだ天パも含めて。
一人一人名前を呼ばれて表彰、一言挨拶をする。
リンクスとその仲間たちは慣れたようすで言葉を並べ、挨拶を簡単に終える。因みにだが薄い緑髪の小さな男の子の名前はハーミル、紺の髪色の厳しそうな人の名前はラスフィというらしい。
ハーミルの時は女子生徒からの黄色い声援が大きく、ラスフィの時は逆に男子生徒の盛りあがりが大きかった。
もっとも最初のリンクス、未リュのスピーチの時の盛り上がりがずば抜けて凄まじいものだったが。
人気者は辛いな。
ダニアのスピーチでは、彼女が際立って胸が大きいこともあり、男子一同がある一点に視点を集中、いつの間にか終わっていたという事態が発生していた。
その時にはアルトもレムも既に眠りについていたため、助かったといえば助かったのかもしれない。
そしてついに、どじっこ藍色天パ男子生徒によるスピーチが始まる。
「ええええあっ、とと……こ……きょんにちわ!! おお……俺はレイダー・エルシオンです。……編入生の皆様は……はじめまして!!」
激しく緊張しているようだ。この噛み具合も女神とそっくりである。性別もなにもかも違うが。
生徒達は突然の事態に大きく笑い声をあげる。レムとアルトは笑い声で意識が戻ったのか、見上げた途端に非常に細い目に変わっていた。
その後、カミカミなスピーチは続き笑い声の絶えない挨拶となった。厳粛な雰囲気はどこへ行ったのか。
因みに余談だがエルシオン家はかなり有名な貴族らしく教頭が必死になって沈めていた。
当の本人は最後は笑顔だったので気にはしていないだろう。もしくはこれがいつもの事であるのかもしれない。
全員の挨拶が終わる次は学園長式辞だ。学園長はどうしても外せない用事により居ないらしいので、教頭が挨拶していた。
途中説教が混ざっていたため非常に長い挨拶であった。レムはここでもうつらうつらしていた程であったが、アルトは爆睡である。ノルマクリアです。
長い式辞が終わると、やっとのこと閉会の言葉があり、解散である。
どこの世界も長いのだな。
そんなことを悟った俺であった。
「ふぁぁ……」
「あいつらに挨拶しなくていいのか?」
壇上から降りてきた今回の英雄たちは、沢山の生徒に囲まれていた。
アルトなら会いにいくために猪突猛進するのかと思ったが非常に眠そうだ。レムはまだ二三割方意識が戻っていないのだろう。立っているだけでも危うい。
「んー、あとででいいや」
「なら後ででいいか。先にご飯を食べにいくか?」
「……いく。はやく……いくです」
つい先程まで寝ていたというのに目をぱっちり開けたレムが俺の袖を掴む。相変わらずの食への執念がすごいな。
俺達はご飯を食べに食堂まで向かうことにした。
向かう先は決まっている。青カレー、緑ライスなど逆飯テロメニューが豊富な無料の食堂である。
~~~~~~
「アルト様はまだ来ないのか?!」
「魔法便の用意はまだできないのか?!」
「申し訳ございません!長距離を移動できる魔物が全て利用中のため捕まりません!!」
我々魔族は非常に焦っていた。焦っている主な原因として、先代魔王の復活。それにより我々魔族はどちらを今の全魔族の王、魔王とするか非常に困っていた。
「ねぇー……まだかしら? いい加減私でイイじゃない?あんな仕事をサボるし、こんな訳わかんない人間なんかと一緒にいる……妹よりさ?」
アルト様が座る玉座にふんぞり返っているのは、アルトの姉であり、先代魔王であるお方だ。
先代魔王はとても好戦家であり、戦闘が大好きなお方だ。そのおかげで先代が統治していた頃は戦闘が絶えない街であった。それと強さこそ全て、という格言を作ったのもこのアルト様の姉君である、先代魔王である。
公務の優先度は姉妹揃って最底辺にある。
ただ、このお方がお亡くなりになった後、彼女の妹様であるアルト様が即位すると、著しく戦闘の回数は減っていった。
これには多数の戦闘魔族から凄まじい批判を浴びだが、アルト様はそれに対応して“魔王奪取権”というものを作った。
これは、欲求不満である魔族と魔王が決まった期日に実際に戦い、挑戦者が勝てばその挑戦者が魔王の座を譲るという、かなり極端な制度である。
当然サタンニア家の血筋は抗えず、何人が相手でも彼女の勝利は揺るがなかった。これにより、戦闘好きな魔族の不満を解消していた。
しかし、ここで現れたのが亡くなったはずの先代魔王である。
魔王であるアルト様は、魔族の精鋭の軍人十人を片手で蹴散らすほど強い。
だがここ数百年の間、彼女は不定期に魔界へ戻るばかりか、その滞在は一日にも満たず、魔王奪取権の試合を開催すらしていない。
魔族の民の不満は高まるばかりだが、彼女の右腕であるフォルテ様が魔王奪取権の代理を取り、挑戦したい者の相手をしていて、何とか治安の悪化を抑えていた。
ここで追い討ちをかけるように悪い情報が舞い込んでくる。
それは魔族の王である妹君が、虫ケラとも等しい人間と一緒にいることが多々魔族の間で噂になっていたのだ。
魔族は他種族の中でも特に人間の事を非常に嫌悪している。世界のだれもが知っている周知の事だ。
人間は我らの土地を踏み荒らし、多数の血を振りまいた忌まわしき存在だ。
そんな最中、魔王の彼女が人間との交流を持っていることが噂になっている。
これは国民の代表である魔王への不信感を激しくあおった。
「こんなんあるんだからさぁ? もう私でいいよね? 魔王の座」
ひらひらと降っている手に挟まれているのは、変幻を使ったアルト様と、人間。そしてもう一人の獣人がその隣にいる光景。
これを民へばらまけば確実に彼女の信頼は地に落ちるだろう。
しかし、彼女はそれをしない。
彼女の話では、最初にアルト様と対面し、捕縛した時に全国民の前で目の前で晒し者にするというのだ。
そして、今の魔界を比較すれば、先代を支持する割合が圧倒的に多い。九割といったところではないだろうか。
アルト様のやり方も嫌いではなかった人もいるといえばいる。
むしろ、その方が良いという国民もいるが、極少数派であり、このままでは確実に彼女は魔王を辞めざるをえない。
「ああアルト様……早くもどってきてください……」
~~~~~~
ご飯を食べたあと俺達は再び授業を受けていた。といっても、ほぼ授業じゃないけどな。自習ですらない。
「リンクス・バトラーです。今回の戦績では……」
ほぼ彼らの武勇伝である。先生が言えといったのだから仕方ないのかもしれないが、アルトは相変わらずお休みタイムである。ノルマ達成。
レムは真面目に聞いているようだが、俺は魔力と気功をバレないように、なおかつ混ぜる練習をしているので少ししか耳に入ってこない。
とりあえず気になる事以外は基本スルーである。国名やらは一応頭に入れているが。
「そんなわけで。今回の遠征にも参加したいと思いますので、良かったら一緒に行きましょう! では、ありがとうございました」
彼はやはり話すことに慣れている。俺はずっと魔力で遊んでいたから時間の感覚はあやふやだが、およそ十分間程度話していただろう。
こんなに隙間なく話すことは、余程の会話テクニックがないと難しい。
聞き流しただけだが、今回彼らがスピーチを行った理由は、遠征メンバーを募るためであった。
遠征は人数制限がなく、自由参加であるうえ、授業は当然のこと公欠。
今気がついたが、これはリンクスさん、学園長に唆されたのでは?
次に発表するのがミリュ。ああ、これって全員やるパターンだ。
彼女の発表は魔法芸術という、魔法をどれだけ美しく見せるか。というものだった。
選択の幅が広い彼女向けの発表だったと思う。二属性魔導師として存分に力を振るえた、と言う話であった。また遠征に対する推しも忘れない。
紺の髪色の女の子ラスフィと、薄い緑の髪の色ハーミルは共にダンジョン攻略競争というものをやっていたらしい。その名の通り、安全に配慮して作られた人口ダンジョンをどれだけ素早く最奥部へたどり着けるかというもの。
ダンジョンなのに配慮していいんだろうか、と思ったのは内緒である。
そしてダニアは、遠距離魔法、狙撃部門で見事ベストスリーに入った。
決勝では、これまで完璧に的に当てていたのだが、最後の最後で突然風が強くなり、惜しくも外してしまったらしい。天候を敵につけてしまったようだ。どんまい と心で送っておいた。
全員が話し終わり、先生が纏めに入っている途中でゴォンと鐘が鳴る。なんとも計算され尽くした発表会だ。それと、ラスフィとハーミルは俺達より一つ下のAクラスである。
そんなこんなで授業は終わった。貴重な授業を潰してまでこの会を開いた理由は、間違いなく遠征への人員補給だろう。
リンクスが話していたが、毎年のこと遠征への参加人数は相当少ないらしい。
なので活躍をあげた皆が行くという広告をかかげ、人員を補給しようという魂胆だ。
体力的精神的にも辛いということもあり、遠征に積極的に参加する者は少ないらしい。
「アルト、レム、行くか?」
俺はとりあえず彼女達に聞いてみる。もし彼女達が行かなくても俺は行くつもりだ。
「あれ? ユウ行かないの? 僕はあれの手がかりあるかもしれないから行こうって思うんだけど……」
「ワタシは行ってみたい……です」
どうやら彼女たちは俺の意思に関係なく遠征に向かうつもりなようだ。少し安心した俺であった。
「俺は遠征先じゃなくてその近くに用事があって行くつもりだ」
「えっ、ならユウも行くんだね!?」
「そ、そうだな問題あるか?」
「いや全然だよ!! むしろいい方向に進んでる!!」
「えと、ゆうはどこに向かうん……ですか?」
アルトはなにかに興奮しているが、レムは少しだけ喜んだ表情を見せながら俺に問いかけてくる。
遠征に行くのに目的とは違うところに行くのだ。それは不思議だろう。
「それがだな、良く分からないんだ。正確な位置も分からないが……分かっていることは高い塔の上ってことだな」
「……んと? あそこらへんは行ったことあるけどぜーんぶ森だよ? 見どころといえば遠征の目的地のダンジョンしかないかな」
「……まじで?」
「まじで」
俺の遠征に行く目的は遠征によりダンジョンを攻略することではなく、夢で聞いた声に対して直接顔を見て文句をいうことだ。
そいつらには負けを認めさせる魔法は創ってそれを使う。
その魔法は捉え方によれば拷問だろうが俺はやるつもりだ。
「なんのことか分からないけど……取り敢えずとずーっと大きな森だから塔なんて見えないと思うけどなぁ」
「ワタシも昔行ったことがありますが、見かけません……でした」
「目撃情報はゼロ、か」
やはり夢のお告げの通り、見えないのだろうか?
だが高い塔なのに見えないっていうのもおかしいよな。
「まぁ無かったら仕方ないさ。その時はふつうにダンジョンを攻略してやろう」
「頑張り……ます!」
俺は完全に別目的で遠征への出るつもりだ。遠征への説明は今日もある。取り敢えずその説明を聞くことにしよう。
~~~~~~
元の世界でいう放課後。俺達はリンクスとミリュとその仲間たちに付いていき、遠征に参加することを言った。彼らはオーバーリアクションと言えるほど喜んでいた。
例えるなら世界的な大会が自国で行われると決まったような感じだ。それぐらい喜んでいた。
「えーそれでは、今回の遠征について説明を始めます」
遠征への参加人数はなんと、北国へいったメンバー+俺達目的が違う組俺、アルト、レムとかなり少ない。って、俺達以外誰も参加しなかったのかよ。
遠征ってもっと学校を上げて行くぐらい派手なものだと思っていたら、これだけの人数で少し寂しく感じる俺であった。
目的地であるダンジョンは、ハーミルとラスフィが攻略していたダンジョンとは違い、魔物も出現する天然の魔窟である。
遠征地ということもあり、最低限度の安全は考慮されているが、怪我の一つや二つを負う覚悟は必要である。
そもそもダンジョンに人工と天然があることに驚きを隠せない。
「まずは、だよな」
手渡された分厚い本を開く。
手元にあるこの本はまずダンジョンとはなんぞや。という人向けに作られている。
俺達がその場所を攻略することは初めてだと思われているので、まずそれから予習しろとのことだろう。
この世界におけるダンジョンとは、簡単いえば秘境である。その最奥部にはまだ見ぬお宝が沢山隠されているらしい。よくあるキャッチフレーズ感が否めない。
それには種類があり、自然に作られる天然のダンジョン、魔法によって故意に作られた人口のダンジョンの分別がある。
基本的に天然の方が、土地のエネルギーを受けて魔物が強くなるために攻略難易度は上だが、ダンジョンの奥底にある宝の魔力が強力な場合、その魔力の影響を受けて人の手によってつくられたダンジョンの難易度は跳ね上がるらしい。
また、この遠征地であるこのダンジョンは攻略済みで、魔物の種類や、行動、その他もろもろはとてつもなく詳しく本に記載されている。観光地扱いだ。
なので、しっかりと資料通りに行動すれば怪我人をださず攻略が可能だろう。
「それで……今回の遠征の期間はおおよそ七日間。その期間内にダンジョンの最深部にある旗をとって、戻れたらすぐに学園へ帰投する。早く帰れるかどうかは諸君の腕次第だ。あちらについたら、タンジョン攻略の指針についても基本的にすべて自由だ。遠征まで残り一週間。おのおの準備に励め。なにか質問はあるか?」
攻略済みのダンジョンには旗が立てられていて、それを持ち帰れば攻略と見なされるらしい。
行動が自由ということは探し放題だな。旗ではなく塔を。
そんな悪巧みをしていた俺であった。
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