第74話 学園代表
俺が話を終えたあと、彼女たちは元の部屋へ戻っていった。アルトの精神的損傷を少しでも誤魔かせればいいと祈るばかりだ。
人間界に来てからというもののイベント続きだ。ゆっくりできた日の方が少ないかもしれないな。
(それにしても、魔族と人間の関係性はどうなっているんだ?)
まず第一として魔王のアルト様だ。自らの職業を放っておいてこちらの世界に来ているのだが、それで魔王が務まるのだろうか。
彼女は「必要な時だけでればいいんだよー」といってたが、その必要な時は今なのではないだろうか。
人間との戦争が起こりえない現段階で、彼女はここにいて良いのだろうか。
「……送ってあげようにも場所が分からんな」
俺の転移魔法は一度行ったことのある場所に限り移動できる。レベルが最大になった今は移動範囲に限界は見えない。
アルトの転移魔法と違う点を上げるならば、魔力消費、発動まで時間、それと移動範囲により消費魔力が変わることだな。
彼女に連れられてこちらの世界に来たときは、魔王のでさえ息が上がっていたことから、魔界は相当遠いことが分かる。
しかし俺の転移魔法では、最初に隔離されていた魔界の洞窟内に移動した時も、ただ近くの学園の寮に転移した時も消費魔力は変わらなかった。
これも魔法創造の凄さとも言えるだろうな。
話題がずれたが、とにかく一度彼女を魔王の仕事へと戻した方がいいのではないだろうか――といっても、ついさっきあんなことがあったばかりだしな。
「……とりあえず明日聞くか」
今日の出来事を振り返りながらベッドへ体を倒し、目を瞑る。
――そういえば個人的な修行がまだたったな。
最近では打倒勇者を掲げ、毎日のように夜中に転移魔法を使って最初に転送された魔界の洞窟まで向かい、そこで戦闘や魔法の訓練を行っているのだ。
魔力を使い切って、しばらく動いてから寝ることにしよう。
明日こそ何もないといいが。
~~~~~~
それから三日後、やっと特に事故もなく無事に過ごせた。
この三日間は先生たちが何やらピリピリしていた事以外には何事も無い、俺が求めていた日々だった。
あまりにも久々な生活であったため、この事故のない生活を維持したいと思ってしまい、俺はアルトに魔族関連の話題は出さなかった。
もちろんこの三日間も訓練を欠かさず続けた。魔力を使い切ることは当然、素振りを魔法纏を使った状態で負荷をかけたり、引力倍加を使ってその状態で筋トレをしたりもした。効果があることは徐々に上がってくステータスが教えてくれる
そして四日目の今日、眠い目を擦りながら食事をとっていると、いつもより生徒達がざわついているのが分かった。
「――だってよ!!」
「あいつらやっと終わったのか! 帰ってくるのか!」
「無事でよかったなぁ」
生徒達はどこか喜んでいる雰囲気だ。恐らく誰かがこの学園に帰ってきたのだろう。何をしていたのかが不明だが。
「もぐもぐ、誰か帰ってきたらしいね……」
「もぐもぐ、もぐもぐ」
レムの食べる量はカレーの色が緑だろうが、ご飯が青だろうが変わらない。相変わらずの食べっぷりである。
俺は色に影響され、食べる量は少なめだ。普通の食事は売店でどうぞってことだろうな。
「それにしてもまだ帰ってきていないのにこの騒ぎっぷりか。帰ってくるやつは相当な人気者か。何だか俺とは対称な気がする」
そう言って辺りを見回すと、誰かが近づいてくることに気がついた。その人物は俺たちが座っている付近で足を止め、声をかけた。
「おはよっ、席一緒でもいいかな?」
「おはよー!どうぞ御自由に!」
「おはよう……ございます」
女の子と言われても納得できそうな顔立ち、ラクナが食堂に来た。
彼は空いている残り一つの席に座ると、気味の悪い色をしたカレーのような液体がご飯にかかっている料理を机の上に置いた。とても食欲が削がれる。
「ユウ君たちは聞いたかな? 今日の昼過ぎにリンクスとミリュたちが帰ってくるって! 勿論パーティを組んでた人たちも全員無事で!」
「やっぱり今日ざわついてると思ったらそういうことか」
「ねぇねぇ! どんなことをしにリンたちは出かけてたの?」
「えーっとね、ほかの学園との交流っていえばいいのかな? ちょっと遠いけど北国のコードルランって国にいってたんだよ!」
「……寒そうです」
北国というだけあり寒いのだろう。寒いのはご遠慮願いたいな。暑いほうも嫌だが。
「それでねそれでね!リンクスはその学校の闘技大会でで見事優勝して! ミリュも魔法芸術でこちらも優勝だってさ! はぁ……すごいなぁ それにパーティメンバーの――」
うっとりした表情で語りながら上を向くラクナ。やはり彼らは学園代表ということでしっかりと貢献しているようだ。
リンクスの戦闘センスは目を見張るものであり、なおかつミリュの二つの魔法を混ぜるという技も素晴らしいものであるため、やはり周りの視線は釘付けであろう。
なおかつ美男美女というオプションまでついている。俺のような平均の人との差が何故ここまであるのか小一時間程度女神サマに問いただしたい気分だ。
「昼過ぎだよね? 僕たちがいることにリンクスたちはどんな反応してくれるかなぁ」
期待を胸に俺たちは食器を返却し、外へ向かうと鳥のような生き物がこちらへ向かい飛んできた。その鳥が掴んでいるのは筒状の紙で、それを俺の目の前に落とすと、鳥は空へ向かって羽ばたいていき、消えてしまった。それはまるで伝書鳩である。その言葉が一番ぴったり似合う。
落ちゆく紙筒を掴むと、アルトたちは何かと思いこちらに寄ってくる。
「んーとなになに――って、ああ、メアリーって誰だと思ったらサイバルのギルマスか」
「あの人僕は苦手かなぁ……」
「ワタシはよく分かりません……」
「読むぞ? ごほん【ユウ ナミカゼ殿。此度は青年枠、及びギルド枠への参加。誠に感謝する。私が出した条件だが、教える準備が整った。また、それに関して少し面白そうな情報が手に入ったので早めにサイバルのギルドへ来てくれ。次に、今回は無理やり参加させてすまなかった。まさか勇者と刃を交えるほどの実力を持っているとは思わなった。お詫びとは別に酒でもご馳走しよう。もちろん傍にいるであろう娘たちともな。ではこれにて。 メアリー】と、こんな感じだ」
「条件ってあれだよね?」
あれとは 魔導書のあるダンジョンのことである。一応このギルマスはしっかりと約束を覚えていたようで詫びも入れられたので今回だけは許してやろうと思う。お酒目的じゃない。学校にも入れたしな。
「そうだろうな。だが行くとなれば長期休暇のときだな。難易度といい俺たちでも一日じゃ確実に攻略は出来そうにない。もしかしたら行けるかもだが」
「ワタシもそう思います。なにせ……すごく強い魔物がいますし……」
「……実を言うとね、グリモワールもガルドラボークもそれぞれ僕の半分近い魔力を込めたし、特殊な筆で描いたから付近の魔物と環境がおかしいのは多分僕のせいなんだ。吐息みたいに放たれる魔力で環境が変わっちゃうの。だから、どちらかの本はそのダンジョンにあると思う」
「……ん? ならいまのもつ魔力は?」
半分と半分。合わせれば全部になるだろう。そうなれば彼女の魔力はもうないはずだが。
「魔道書に込めちゃうとその分は魔力は回復しないんだ。だからいまある魔力は、日常生活に差し支えがないくらいしか残ってないよ」
「……となると、本来の魔力量は?」
「ふふふっ、五倍近くあるかも。僕の身体能力もかなーりさがっちゃったけどね!」
「……あるとこわい、です」
どうやら莫大な魔力の影響をうけて、魔物たちは進化を遂げたようだ。
闘技大会のアルトの実力は五分の一程度と考えると、非常に悲しくなってきた。
微妙な表情をしながらも俺たちは教室へ向かって歩いていった。
~~~~~~
「えーこの時により竜人様は空からの遣いともされています」
「とくに凄いことしてないよな。こいつら」
「あの人たち、嫌いです」
「すぅ……すぅ」
現在の授業の内容は歴史である。それも世界史ならぬ異世界史だ。授業始ま前から楽しみにしていた。
今回は竜人の歴史である。レムは竜人に酷いくらいにやられたので顔色がよくない。
優しく声を掛けて慰めていたが、トラウマはやはり簡単に拭えるものではないであろう。そしてシーナは恐らく休養中だ。教室というかこの場所にはいない。
アルトはいつも通り寝ている。
「その後、竜人様は我々ひ弱な人間たちに知識を与え、力を貸してくださったのでした。詳しくは教科書の絵図をみてください。この絵は竜人様が我ら人間の代表、勇者様と共に魔族への反撃をすることころです。一番前にいるのが、初代勇者様と仲間たち。その中には竜人様の小さな女の子もそばにいますがこれは竜人様の中でもずば抜けて強い子と伝えられています」
古典で見るかのようなあまり冴えない絵だが、これを見る限り、勇者の仲間とも思われる七人のうち五人は小さな女の子なのである。
これではっきり分かったな。勇者は、ロリコンだ。それも代々的に。こんな情報いらない。
「そこで勇者様は竜人様と協力し、空から凄まじい魔力を使った魔法で一気に魔族を追い詰めます。魔族は堪らず後退していきましたが、ここで勇者様は魔王の首を取るため地上へ降り、そして勇者様は魔王との決闘をしていたのですが、忌まわしき魔族は手下をつかって決闘を妨害し、勇者様と竜人様は苦しくも撤退しました」
それを聞いて生徒達がざわざわし始める。魔族への嫌な思いが溢れかえっているようだ。これが真実とは限らないものなのだが……教育の場なのだから皆真実と思い込むだろう。仕方ないことだよな。
ゴォンと鐘が鳴る。授業はこれで終わりだろう。
「っとここで終わりです。いまから北の国から帰ってきた彼らのお迎え会がありますのでみなさんは速やかに会場へ移動してくださいね!」
それを聞いて生徒たちがわいわいし始める。やはり人気者なのだろう。知らない名前も聞こえたが多分彼らのパーティの一員だろう。その人たちもやはり人気があった。
「――はぁぁリンクス君」
「――だよな!ミリュちゃんかわいいよなぁ……」
その中でもやたら人気があるのはこの二人。皆からかなりべた褒めされていた。
やはり格好いい、可愛いの定義はどの世界でも揺るがないようだ。
「んぁ……おはろーユウ……れむ……どうしたの?」
「あると、授業おわったよ?」
「今からリンクスたちをお祝いする会だとさ」
「いこ? あると?」
ねむそうな目を擦りながらアルトは立ち上がる。
それと当たり前のように彼女は寝ているが、普通はいけない事だ。関心意欲態度が一になります。
彼女は既に魔王の座についていることから、ここよりも頭の良い学校を卒業したのだろう。
寝ていても授業内容はもう既に頭に入っているので聞く必要はないということだ。
「っとと、生徒たちについていかないと場所が分からなくなるぞ。」
「ふぁぁ……うん、いこー……」
「あると、そんなに……眠いの?」
レムの心配を受けながら俺たちは生徒たちについていく。
ただ、生徒タチについていけば会場の場所へつくのは確実だ。友達と遊ぶときにその場所が分からないが、知ってるように見せかける事に似ている。
リンクスたちの活躍がどれほどのものか期待しながらら会場へ到着すると――
「ほんとに、ここは学校なのか?」
「おおきいです……」
「おー!」
それは校舎の一部とは思えないほどの巨大な建築物。教会のような場所だが、正面には竜人を示すであろう刻印が刻まれている。
建物が一つだけしか無かったとしても、なんの違和感もなく教会として成り立つであろう。
土足のまま入っていくと、その講堂のような場所は、中身も非常に大規模で立派な作りであった。
奥にはやはり高く床が作られている部分がありそこで表彰などをされるのであろう。
俺達は生徒達が座って良いのでろう長椅子に腰をかけて、少しだけ会話する。
「中の作りもすごい……です」
「これに国民の税がとられてるってなるとちょっと納得がいかないな。もう少し小規模にした方がいいだろこれ」
「あれ? ユウってそういう知識もあったの?」
「アルト。それ馬鹿にしてるよな?」
「静粛に!!」
その声が聞こえると生徒達は気持ちのいいぐらいオトを出さなくなる。シーンと静まり返った教会に教頭であろうおじさんが声を張り上げる。
「これより! 北の国より帰還した生徒達の表彰を行う!! 強き生徒よ! 前へ!!」
挨拶を終えた途端、リンクスであろう人が大きなトロフィーを持って左前方の扉から出てきた。
階段を上がっている男の姿は……とても格好よかった。
そう思った人が殆どだろう。だが俺もアルトもリンクスのイメージは鎧、短剣二刀のイメージで定着している。
制服姿の彼を見たときは
「コレジャナイ」
「……誰あの子」
と思わず白い目で見てしまった。
ご高覧感謝です♪