第71話 二度目の呼び出し
学園という事で、授業が終われば昼休みがある。
昼休みといえば、ご飯である。
「ん? リンクスとミリュはこのクラスじゃないのか?」
授業が終わり、教科書類を魔法陣に投げ入れながら俺は信頼できる二人に話しかける。もうこのクラスでの信頼関係構築は無理そうだ。
「んー? あの二人は今日も休みなのかな?」
「悪い人……ですか?」
「そういえばレムは一度しか会ったことないんだよな。ほら、編入試験の時に美男美女がいただろ? 普通の人よりは、理解できるやつだと思うから心配しなくてもいい」
「思い出した、です」
レムは基本的に俺達と同族以外は過去のトラウマ印象が最悪であり、なかなか話しかけに行けない。超人見知りである。あれだけのことがあれは仕方ないと思うが。
アルトとしては来る者拒まず――まぁ勇者、竜人を除くが、去るもの追わずという考えなので、やはり生徒に人気がある。魔王のカリスマ性によるものだろうか。
シーナはあまり良く分からない。多分友達はいるであろう。俺は察してくれ。
現在の友好関係はこんな感じだろうか? 俺は彼女らがいなければぼっち飯を貫くしかない。いつも感謝しているが、より一層感謝である。
「ご飯って食堂に行かなきゃダメかな?」
「多分そうだろうな。席がなくなるから早めに出るとするか」
「ご飯……です!」
俺達は機械がたくさんあり、近未来な食堂で昼食を取ることを決め、席を立つと、突然教室の入口の扉がバタン! と勢い良く開く……もう俺関係ないよな?
「ユウ ナミカゼ、アルト、レム、いるか? 学園長がお呼びだ。食事は後にしろ」
そういって男子生徒は無表情で立ちすくむ。教室に居る生徒の視線は俺に集中する。どこか「ざまぁない」的な意味を含んでいる視線だ。いじめ。ダメ絶対。
転移魔法使って行くか。勿論魔法薬頭から被る気なんてゼロだ。レムが「ご飯、ご飯」と呟いているので取り敢えず物質創造によりサンドイッチを創り出し、二人に渡す。流石に俺もお腹がすいたので、二人もかなり空いていることだろう。特にレムは死にそうな表情をしている
レムは目を輝かせていたり、アルトは喜んでいた。
一応このサンドイッチはお金を払い買うものなので味は保証できるだろう。俺は食べられないが。
「はぁ面倒くさい」
俺はもきゅもきゅとサンドイッチを頬張る二人を連れながら男子生徒に一瞥をし、俺達は移動する。
誰も俺たちのことを見えなくなったであろう位置に移動し終えたら転移だ。繰り返し言うが魔法薬を被る気などさらさらない。
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「よう」
「どこから来た?装置が作動した音はしなかったんだが」
学園長は微妙な顔をし、空間にはもきゅもきゅと二人がサンドイッチを頬張る音で満たされている。
どこかシュールだ。
「んで、ご要件はなんだ?」
「まったく規格外な……どれだけ転移石をもっているのだ……まぁいい。今回は感謝といったところだ。学園の守りが揺るがないもの考えられ、いい広告になった」
そういって学園長は頭を下げた。やっと感謝してもらえたようだ。これはチャンスだ。
「なら、広告料といえばいいか? 俺達は欲しいものがあるんだが、いいよな?」
こういう時には強気に出るのが俺だ。今回、相手は俺に頭が上がらない。ある程度のことは俺が言う事を聞かせられる。さて……反応はどうかな?
「……生徒が広告料をとるのはいささかおかしいものではあると思うが……」
「なかなかのもんだろ?らさて、お返事はどうだ。学園長」
「その強気に免じてしたがってやろう。確かに広告料としては十分だ。何が欲しい? 金か? 酒か? 女か?」
こいつは何てことを言うんだ。俺はまだ未成年だぞ。こんなところで反撃されるとは思いもしなかった。勘違いを引き起こそうとでもしているがアルトたちはまさかそんな手には……
「まさかとは思うけどね? ユ、ウ?」
「…………」
ラスボスが絶対零度の冷たい目をしている。視線だけで俺が凍りつきそうだ。
ついでとばかりにレムも無表情でこちらを見ている。レムの無表情はどこまでも暗い。俺が信用できていないようだ。
「そんなわけ無いだろ。俺が欲しいのは情報だ」
「なんの情報だ? ただし教えてやるのは一つだけだ。これでも私が生徒に口を割るのだから凄いことなんだぞ?」
「“魔導書があるダンジョン”これについて知りたい」
「あっ」
アルトはそれを聞くと先程の冷たい目から嘘のように代わり、真面目な表情となった。
覚えているだろうか。ギルマスがギルド枠の出場条件として提示したのはこの条件だ。この条件により俺はギルド枠に出ることを決意したのだ。
もっともあんな勇者がいるなんて予想だにしていなかったがな
「お前はなぜそれを知っている? 全くどれだけ秘密裏に進めていると思っているのだ。まさか召喚士まで知ってるほど広まっているとは」
「勘違いするなよ? これは俺の独自のルートで手に入れた情報だ」
ギルマスには鬱憤が溜まっているが、まだ正確なダンジョンの位置等まだ教えてもらっていない。ギルマスの名を出し、漏らした責任問題として彼女から権限がなくなってしまえばギルド枠に出た意味がなくなってしまうので、ここは名前を出さないことにしておく。
「……そうか。どんなルートだかは分からないが国へ報告しておこう。あれが魔族の手に渡ったら大変な戦力を失うことに」
「戦力って、どういうこと?」
アルトが問う。魔族側としてやはり気になるところなのだろう。戦力やはり魔族との戦争についての事だろう。
俺が魔族側に付くようにアルトがどうしても協力してくれっていうなら、なんとかして死人を出さない魔法を作った方が良いのではないだろうか。
「気にするな。ただの独り言だ」
「んで、いいか? それについて教えてくれ」
「少し範囲が広すぎないか? もう少し狭めてくれ」
やはりこのまま聞くのは無理があったようだ。このまま進めば色々聞き出せそうだったんだが残念だ。
「んーなら、そのダンジョンの特徴を教えてくれ」
急に範囲をしぼめるのはやはり勿体無い。このように徐々に小さくしていくのが良いだろう。
「腹が減ったからもうそれでいい」
ここで空腹は俺の味方をしてくれたようだ。俺もかなり空いているが、学園長もまだ食事をとっていないらしい。
「ダンジョンの特徴か、魔物が階層によって違うのはどのダンジョンも同じということは知っているな。ダンジョンには階層があり、深く行くほど魔物が強くなって行くのはダンジョンの特徴だ。
「俺は魔法書があるダンジョンの説明を求めたんだが?」
「まぁ慌てるな。現在分かっていることを教えてやろう。ここは調査中なのだが、一番浅い一層でもレベル70が徘徊しているのだ。いま現在は十四層まで調査が進んでいるが、レベルが高すぎて勇者しか行けないらしいな。今わかっている魔物の最大レベルは200だな。それがわんさかいる。気候も極端に暑かったり寒かったりするらしい。まさに地獄だな。」
「レベル200か」
「200……?!」
「っ」
アルトとレムは激しく驚いた様子だ。200といえば魔王である彼女に近い。ということは実力的にも勇者しか行けないということだろう。
ダンジョンは基本的に来る者拒まずのシステムなので自由に入れるが命の保証はしない。
しかし余りにも次元が違うダンジョンは、無駄な死者を増やさないためにこのように隠しているのだろうな。
「どうしてそんなに高いんだ?」
「おそらくそこにある魔法書が溢れ出る魔力より魔物を変化させてると考えられ……っと口が回りすぎたな。年を取ってきたものだ」
どうやらこれ以上は無理か。まぁ来てよかったな。これから先はギルマスに聞くとしよう。
「これでいいか?」
「ああ。十分だ」
俺は席を立ち上がり二人も立ち上がる。
すると学園長はにやにやと笑いながら俺達に再び話しかける。
「これからも頼むぞ?」
「これからが無い事を祈るがな」
流石に転移魔法を使うわけには行かないので、改造されていたとはいえ一応転移の効果が含まれていた石を創り出し、床へ投げつける。アルトとレムをしっかりと掴むと激しい光が巻き起こる。
「くっ!」
「情報提供してくれて助かった。感謝する。」
「こいつ、どうしても薬を被らないつもりかっ」
俺は転移石を使ったことはないが強くイメージすることが大切なのだろう。俺がイメージしたのは学園の食堂。昼休みが終わる前に俺の食事も終わらせたいところだ。
光に包まれながら俺は食事で何を頼むのか頼んでいた。アルトは多分食べないだろうがレムは……あの色でも食べに行くだろう。目をつぶって食べてみようか。
~~~~~
「体育――だと?」
俺は目をつぶって食べたところ普通に美味しく食べられた。が問題は次の授業が体育という事だ。
「そーだよ?それじゃ着替えてくるね!」
「覗くの、だめです」
そういって食べ終わったあと、アルト達は更衣室であろう部屋に駆けていった。
問題点はそこだ。
「体操服なんて持ってきてないぞ?」
完全に俺の部屋である。ルームメイトもいないので持ってくるしかない。
ゴォォンと一回だけ鐘が鳴る。もう遅刻はしたく無いので急ぐか。
「転移。……階段を上がればいいのだがその時間もなさそうだ。もうこの魔法に頼りっぱなしだな」
俺は優しい光に包まれながら転移する。ふと気がつくと人がこちらに向かって歩いてくる。
隠せばよかった。
まぁいいや。転移石っていえばいいしな。
そんなことを考えながら俺は部屋へと急いだ。この人はどこか慌てているような気がしたが……気のせいか。
~~~~~~
「目のやりどころに困るな……」
俺がこのように言った原因は勿論二人の体操服姿だ。
俺にはそんな趣味はないと思ったがやはり美少女二人のいつもと違う姿に少し気になってしまうのは仕方が無いだろう。
体操服は藍色の短パンに、外に出した体操服という元の世界と変わらない。もしかしたら転生者が伝えたりしたのか?
「んっ……んーっ! 手は抜いたほうかいいんだよね?」
「あると……おおきい。なんか……ずるい」
アルトは背伸びをしながら二つの双峰を揺らす。そこまで巨大なわけじゃないがやはりレムより大きくて形が素晴らしく……ってダメだダメだ。何考えてるんだ俺。彼女達が一緒だからといって最近ご無沙汰だからとはいえ、欲望を出すんじゃない。
レムはアルトの胸部をじっと見ていたり自分のを見ていたりしていた。格差はそれぞれだ。俺は大きくても小さくても関係はない。
と自分に言い聞かせていた。煩悩ぇ……
「集合!!」
男子生徒が声を出すと、他の生徒が一斉に集まる。やはり異世界でもこんな感じか。
先生は女性の先生だ。とても筋肉が引き締まっている。腹筋も割れてそうだな。
「えー。戦士クラスと魔法クラス関係無しに今回は走り込みだ!ただし戦士クラスは魔法クラスの二倍走ってもらう!」
その言葉を聞いた途端生徒たちはざわつく。やはり走り込みは嫌なのだろう。
俺は元の世界では陸上部であったので体力には自信がある。この世界の平均体力を垣間見るチャンスだな。
「えー、組み手とかじゃないんだ」
アルトが組み手ではないことに不満を見せる。彼女が組み手をし始めたならアニメのようにばったばったと生徒たちは投げられ、飛ばされるだろう。
ちょっと見たいと思ったのは俺だけではないはず。
「準備運動は各々で始めろ! 全体的に終わり次第始める!」
それぞれが準備運動を開始する。
走る距離は俺は魔法クラスなので戦士クラスより半分少ない。専用の走るルートがそれぞれのクラスに用意されているのでレムとは別に走るようだ。
目立ちたくないからゆっくり走るか。どうせ夜中に個人的に戦闘訓練を行うのだ。無理して動く必要は無い。
俺は不意にアルトの方へ向くと、当然というか、色々な人に囲まれていた。レムもであった。アルトは困った表情をしながら受け答えしているがレムはトットッ とこちらに走ってくる。トラウマがあるから仕方ないだろう。
「まぁいつか慣れるさ、レム」
頭を撫でながらレムに落ち着くように言う。やはり急に人に囲まれたのだ。怖いであろう。
「ゆうと一緒に、走るです」
「いいのか? まぁ魔法クラスには同じ年のような女の子もいるし、バレはしないよな」
「うんっ……!」
その言葉をきくとレムは ぱぁっと 明るくなり、喜んでいるようだ。やろうとしていることはルール違反だがバレなければ問題ないだろう。
とそんなことを考えながら準備運動をしようとしていると
「あ、あのーナミカゼ君? だよね?」
生徒が俺に話しかけてきた。
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