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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第五章 学園
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第69話 黒い宝石

 こんなことを考えてる場合じゃない。シーナは口から血が垂れていることもあり、見てわかるとおり重傷だ。


「っと、あいつになにがあったんだよ」


 俺は気を失ったであろうシーナの元へ駆け寄り、気絶している場所から安全な場所へ移すことを決める。いくら何でも戦場のど真ん中だ。危険極まりない。

 近くでアルトは軽い男は激しい剣戟の繰り広げ合いを見せているが、明らかに彼女の表情には余裕があるおそらく彼女に任せておけば大丈夫だろう。


 シーナを持ち上げ、レムの場所へ戻る。


「回復役の意地の見せ所だ」


 レムのいる場所にまで戻るとシーナを優しく地面に横たわらせ、聖属性の魔法である《治癒ヒール》をシーナへ唱え続ける。

 吐血した際の応急処置は患者を横にならせ保温、だっけか?よく分からんが、とりあえず横にしておこう。


 この世界では魔法による応急処置があるおかげでかなり生存率が上がっていると思う。もっとも魔法があるおかげで怪我も頻繁にあるとは思うのだが。


「ゆう……ワタシ……何かできませんか?」


 レムが心配そうな表情でシーナを覗き込む。友達がこのような状態になっているのだ。至って普通の反応である。


「んじゃ……尻尾でコイツの体を包んでやってくれないか?保温が必要なんだ」

「尻尾……ですか?!」


 俺はいたって普通の流れで言ったが、レムは急に顔を赤らめた。そして恥ずかしそうな声でぼそぼそとなにかを呟く。


「いや。出来ないなら勿論いいんだぞ?」

「ゆう、後で毛ずくろいして……くれますか?」

「え……ああ。勿論だ」

「なら……やります、です」


 レムは変幻をとくと、七つの尻尾でシーナを包む。残りの二本尻尾は待機していた。そのようすをじっと見つめていると、ふとあることに気がつく。

 レムの尻尾がモフモフしたことがないな。と。


 もふもふしたいが今はそんな考えてちゃダメだ。


 首を振り考えを追い出し、魔法に集中する。昔の俺だったら魔法の集中が途切れて中断されていたかもしれないが、いまはこのような考えを浮かべていても魔法は継続している。一応成長はしているようだ。


「あると……!」


 レムはアルトが戦っている方向をみて感嘆の声を漏らす。今の状況は――


「さってと、その宝石。素直にかえしてもらいたいなぁ。人間さん?」


 アルトの振り抜く刃が二重に見えるほどの異常なスピードで軽い男に襲いかかるが、彼も負けじと追いつき、なんとか受け流す

 。

 この男もアルトの攻撃に追いついていることから、実力は相当なものだろう。魔法纏を使った俺並みぐらいか。


「ぐぁっ……と。重いしっ! 速いしっ! 全く!なんでガキしかいないこの場所にっ! こんなのがいるんだよ!!」


 彼は流石に軽い発言ができる余裕は無さそうだ。

 寧ろ悪態をついている。シーナが見たら何か言いそうだな。

 そして、彼は恐らく身体強化の魔法を使っているが、対してアルトの状態は未強化である。

 改めて思うが、魔王ってハンパないな。

 彼女のレベルはもう最大で、上がることはないのに経験を全て有用に生かしており、さらに実力を上げている。


「らぁぁっ!!」


 彼女は刀を思いっきり横なぎ払うと、彼はなんとか受けきったものの、あまりの威力にズザザっと後ろに押し戻される。

 焦燥感に駆られているような表情を浮かべているが、対してアルトは余裕の顔つきである。


「こんなものなのかな?」

「くっは、何もんだお前――いや、お前たちと言うべきかっ」


 冷や汗を浮かべてこちらを見る。

 なにか助けを求めている表情だ。……いや敵に求めるなよ。


 どこか可哀想に思えて俺は腕を振った。特に意味はない。


「こいつら――」


 男は視線を正面に戻すとコツり、コツり、とアルトが足音を立てて接近していくため、彼は距離を置こうと詰められた分だけ後ろに下がる。


 異常なスペックを持ったアルトが彼に近づくことは、彼からしたら相当なホラーだろう。そんなどうでもいい事を考え、治癒をかけつづけていたら再び男は話し出す。


「はぁ……はぁ……これでもおじさん一つ星(シングルスター)なのよ? それを圧倒するってどういう経験したのさ」

「……今から死ぬ人間には関係ないよ」

「おおっと、こわいなっ!」


 アルトから背中を向けて、俺達に向かって走ってくる。人質でも取るつもりだろうか? 俺が許すわけないだろう。


「ぐぅっっ?!」


 レムに向かって人影が霞む凄まじい速度で走りつつ手を伸ばす――が俺は回復を中断して、立ち上がり、人影に向かい最速で蹴りを放つ。

 その衝撃で宝石はキィンと甲高い音をたてて地面に落ちる。心配だったが、どうやら割れてはいないようだ。


 男はうめき声をあげ、ギャリギャリ音をたてつつ地面を滑りながら俺を恨めしそうな目で見上げる。


「俺は回復役だが戦えないとは言ってないぞ? それとレムに手をだそうとしたんだ。覚悟はいいな?」

「いいよね?」


 回復はかなりしたので少しだけ離れていても影響はないだろう。シーナは先程と比べれば、どのかゆったりとした表情だ。


「お前ら化けもんかよっ!!」


 アルトと俺はゆっくり、ゆっくりと近づいていく。彼からしたら二度と忘れられない一日になるだろうが知ったことではない。


「これは――逃げた方がいいよな?」

「逃げるなよ? 痛めつけられないだろ?」

「シーナならまだしも……いや良くないけどレムに手をだそうとしたんだもんね? 覚悟の一つや二つは出来てるよね?」


 乾いた笑いを浮かべながら男は何かを内ポケットから取り出す。青く光る石だ。


「戦術的撤退!!」

「っ!!」


 男がそう呟くと同時にアルトは駆け出した。俺にはなんのことだか分からない。


 男は石を地面に叩きつけると、その瞬間に辺りに激しく眩しい光が広がり、俺は手で顔を覆いつつ目を細め、アルトは足を止める。


「ふははは!! さらばだ餓鬼んちょども!!」


 そう言って彼は光と同時に消えていった。あれが転移石の類なのだろうか?


「あああっもう――逃げられた!!!」

「……のか」


 どうやら予想は正しく、やはり転移石の類のものらしい。そもそも転移石は普通あんな光を発しないので、あれは特殊なアイテムなのだろう。


「シーナは?」

「ほぼ全治だ。保健室があるなら連れていくべきだろうな」


 レムの方を見る。シーナをじっと見て尻尾にくるんでいる。これで騒ぎは終了になればいいがな。

 するとタイミングを測ったように上からどたどたと足音が聞こえる。結構人数は多そうだ。


「レム、変幻をしろ。そろそろ人が来るぞ。」

「うん!! 分かった! 約束忘れないで……です」


 やはり恥ずかしそうにしているレムの気持ちがわからない。獣人特有の感情なのだろうか。


 外ではサイレンは未だに鳴り続いているが、ここにはサイレンのセキュリティは導入されていないようである。よってうるさい音は聞こえない。


 それとレムは人間として学生に登録している。

 これ以上の面倒ごとはゴメンだ。

 俺的には獣人のまま登録するのをおすすめしたのだがレムは断固として譲らなかった。それにはやはり彼女なりのこだわりがあるのだろう。


「シーナのさっきの変身。やっぱりあの悪魔憑バフォメットコートだったんだね」

「ばふぉめっと? それは?」


 アルトは眠っているシーナに向けて話しかける。

 獣化、変幻、バフォメットコート……知っているだけでもこんなに外見を変化させるものがあるとはな。まだまだ異世界は怖い。


 もう何度目だか分からない感想を抱きつつもアルトに説明を問う。

 しかし、彼女は困ったような表情を浮かべていた。


「なんでシーナが持ってるのかはわからないけど、あの黒い宝石は魔界の物で、中に入っているのは精霊じゃなくて悪魔。気配から探って悪魔ハルファス。戦いをこよなく愛する悪魔だよ」


 知らない単語が意外とでてきたが、この世界全員が心にハルファスを隠し持っているような気がしてきた。人間って怖いよな。


「それと、悪魔憑はね。その中にはいっている悪魔を体に宿すの。あの宝石には契約者に力を与えるんだけど、だいたいは精神が悪魔に蝕まれて、制御不能になるかあまりの力に体が追いつけないかのどっちかなんだけど……シーナは後者だったみたいだね」


 アルトはシーナが吐き出した血の後を見る。体が力においつかない、そのため吐血したのであろう。


「とりあえず掃除しとくか」


 俺は水魔法と風魔法と火魔法を巧みに使いこなし、掃除を開始した。掃除する理由はこの吐血のあともなにか騒ぎになりそうだからだ。

 シーナの体はゆったりと安定した寝息を立てているのでおそらく、大丈夫なはずだ。俺は回復魔法を信じる。

 あっと塩水でうがいさせるのも応急処置だよな。 これは吐血した時に使える豆知識である。

 こんな知識を二度と使用しないことを祈りたい。


 ちなみに魔法の使い方は水魔法で血を洗い流し、巻き上げ、火魔法と風魔法により熱風を作り出し乾かす。

 血痕は俺でもどうにもならない。ホラー感が上がったと考えればうん。大丈夫だ。違和感ゼロ。


 巻き上げた血は水と一緒にしていたがどうにもならないので神殿の端のほうで飛び散らし、それを物質創造マテリアルクリエイトにより埋める。床の模様などがかなりの違和感があるが端っこなので大丈夫だろう。


 そして先程から近づいてくる、どたどたとした足音がついに扉を開けた。


「あいつは?!」

「会長。慌てすぎです。我々は生徒会です。遅れました、申し訳ございませんでした」

「先生達は我々が保護しました。貴方達はこんなところでなにをしているんですか?」

「やっほー!元気ー?」


 は?こいつら何を行ってるんだ?俺達なんて掃除すら終えたんだぞ?

 俺はついついイラッときて、とくに最後のやつに向けて言い返した。


「は? 遅れましたじゃねぇよ。どこでウロウロしてたんだよお前ら」

「ねぇ? 僕達がいなかったらどうなってたのかな?」


 アルトも同じ理由で苛立ちを見せる。レムは俺の後にかくれて少々怯えているが、生徒会の面々は気にする様子もなく話を進めた。


「犯人には逃げられたのか、くそっ」

「会長。落ち着いてください。今は怪我人の運搬が先です」

「元気なさげー? もっとあげていこーよ!!」

「っ!!はやくこの子を保健室に運びましょう!回復が施されているようなので命に別状はないと思われますが!」


 こいつら。人の話すら聞かないのかよ


変更点 魔化→悪魔憑に


ご高覧感謝です♪

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