第67話 侵入者
けたたましいサイレンの音が響く中で、俺は動かなきゃいけないことを悟った。それはもちろん早々に退学にはなりたくないものだからな。過去の俺はなぜあんな軽く信用を……
「ちょっと行ってくる」
「えっ?ユウはこれに関係あるの?」
「どうしたん……ですか?」
「遅刻してきた理由もコイツのせいだ。はぁ、やっぱり軽く信用した俺が間違えだったよ」
アルトとレムは疑問の声をあげた。やはり俺の性格上関係がないと動かないと思っているらしい。俺の事を理解してくれているようだが、なんとも複雑な気分である。
「僕もいくよ?」 「ワタシも……行きます」
彼女らはついてきてくれる意思を見せてくれたが、俺は断りの意を示す。彼女らまでこんな面倒臭いことに巻き込ませる訳にはいかない。
「先生に待っているようにいわれたろ。多分動いたら怒られるぞ。だから待ってろよ?」
「関係ないよ!」
「関係ない、です!」
しかし二人は即答で俺についてくる意識を見せてくれた。実はこいつら暇なだけじゃないのか?
「……どうなっても知らんぞ?守れる限りは守るが」
「よしっ!行こ!」
「決定、です!」
俺達は結局三人で行動することになった、がこれを許さない者がいた。怯えている生徒達である。
「おい! お前ら何してる! さっさと席にもどれ!!」
彼らは召喚士のせいで連帯責任になったらどうするかとでもいいたげな声で俺達を引き止めた。
が、俺達には全く気にすることは無かった。
「さて急ぐぞ」
俺達は魔力反応が起きている場所へ向けて走り出した。俺が行ったことのない場所なの転移は使えない。また、この後のことは全く考えていない。今やるべきことをするだけだ。
「ってこの廊下ってこんなに行き止まり多かったか?」
「これはシャッターだね。どうする? 壊す?」
「あると……それはだめ……」
恰好良く走り出した俺達だったが直ぐに問題が起こる。何処にいっても降ろされたシャッターばかりで別の部屋の入口がない。
アルトも力でゴリ押し出来る程の実力は勿論あるが、こんなところで使えば流石にシャッター破壊だけではすまなさそうだ。反省文で済むかどうか不明である。
「あっ、忘れてた。最初から使えばよかったな。《観察眼》」
俺は観察眼により正しいルートを検索する。
すると眼前にはシャッターを無視して奥に進んでいく矢印。このまま真っ直ぐでいいようだ。おそらくだが見えづらい扉があるのだろう。
気配探知と同様に素晴らしく使い勝手が良いスキルである。
俺はシャッターに近づくとペタペタと壁を触り動くところがないか調べてみると、奥に開きそうな扉が直ぐに見つかり奥へと開く。
「あっ、そんなところにあったんだ。壊さなくてよかったー……」
「破壊論やめようか」
「あると危ない」
俺達は白い目でアルトを見ていた。アルトはてへ☆といってウインク。この魔王あざとい。
そんなこともあったが、俺達は幾つものシャッターに隠された扉を次々と開けていく。魔力反応は相変わずの場所に留まっている。
だんだんと目的地へ近づいてきたころにシャッターがついに壊されているのを発見した。
「すごくすっぱり切れてます!」
「確実にシーナだな。暴挙に出過ぎだろ」
「派手にやったねー」
シャッターは見事に斜めに、そして綺麗に切断されていた。
風魔法で切ったのであろうか、シャッターの残骸の奥にシャッターの上半分が転がっていた。それほどまで急いでいたんだろうか?もしくはありすぎて面倒くさくなったとも考えられる。
「もういいか。考える時間が勿体無い。急ぐか」
俺達は綺麗な切り口のシャッターを飛び越えさらに奥へ向かう。走りっぱなしだが疲れは全然ないのだ。
シャッター多過ぎて最後の方は蹴り開けてしまっていたが壊れなきゃ結果オーライだろう。
再び走っているとシーナの臨戦態勢が気配探知に写る。敵対しているのは、あの軽い男。
「シーナが戦っているぽいな」
俺は扉を蹴り破りながらサイレンの響く校内をかける。数個だけ壊してしまったがこれは軽い男のせいにしてやろう。もともとあいつのせいだしな。
「だんだんと魔力反応が強くなってきた。人間にしては強そうだね」
「離れているのにビリビリ……します」
やっと近づいて来た感覚。周りに誰かいないかと気配探知のフィルタのレベルを下げ、十レベル以上全て反映と設定すると
「あー教師ほとんどやられてるな。致死並のダメージは与えていないらしいがほぼ全員が気絶だ」
「情けないです」
「あらら、もう少し頑張れなかったのかなー」
俺が結果を伝えると彼女たちは当たり前のように軽蔑し始めた。先生を敬うという気持ちは持ち合わせていないようである。俺も持っていないが。
さらに進んでいくと、地下への階段が見つかる。地下なんてあったか? ハッチのような物が空いているため基本閉まっているのだろう。
「はぁぁぁ……っ!!」
微かに声が聞こえる。シーナの声であろう。全力で戦っているのが分かる。が軽い男は全くのダメージを受けていない。やはり実力者のようだ。
「急ぐぞ」
俺達はスピードを上げ、地下へと向かって降りていった。
地下は相変わらず豪華な装飾がされていたが、部屋がホコリまみれで、すすけていた。恐らく昔は使われていたのであろう。
ゴウゴウ と風が唸る音が聞こえる。シーナは全力で戦っているようだ。
「シーナにはもう少し耐えて欲しいところだが」
俺がそう呟いたその瞬間にあることに気がつく。
気絶させられた教師がそこら中に倒れていることだ。傷はないが。
「転移させなきゃだめだよな?」
「後で助けよ? いまはシーナを!」
「確かにシーナ優先……です」
完全に見捨てられた教師達だが、俺は終わった後に彼らが気を取り戻すことを祈っていた。
暗闇だろうが暗黒だろうが、わずかに光があれば俺達が足を取られることはない。そのおかげで簡単にシーナの元へたどり着いた。扉を開ければ、ここも神殿の広間のような雰囲気の場所であり、明るかった。
「お嬢ちゃん。この宝石ちょっとかりるだけだからさぁ。貸してくれよ」
「返せっ……!私はその石の中にいる精霊と契約を交わした!返してもらわなくては……困るッ!!」
シーナは幾つもの風の刃を生み出し、軽い男へと狙いをつけ、放つ。
魔法は指示に従ったとおりに動き、命を刈り取らんとするが、全く当たらない。
軽い男は黒く光る宝石を握りしめながらひらひらと回避し、シーナは服にすら切り傷をつけられない。男は相変わらず余裕そうだ。
「精霊……ねぇ? この悪魔を使いこなせるなんてな。体を乗っ取られて終わりだと思うが、それにしてもお嬢ちゃん立派な精神力だねぇ」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇっ!!」
シーナは更に増えた風の刃を打ち込むがやはり当たらない。どんどん攻撃が単調になっていくのが分かった。冷静さを失っているようだ。このままじゃ不味いか?
「ああ! 思い出した! その魔法!お嬢ちゃんギルドから逃げたしたと思えばこんなところにいたのか!いま躍起になってギルドがこの魔法学園に交渉してると思ったらこんな理由が――」
「黙れぇぇぇぇえっ!!」
シーナは杖に風を纏わせ薙刀のように変化させる。闘技大会で俺が確認した黒い風は纏っていない。あの宝石が関係しているのか?
「はぁぁ、まったく大人のいうことはしっかり聞けよな?」
刹那、彼は風の薙刀を長方形の銃のようなもので受け流すと武具がが変形を遂げ、両刃の剣のような形になる。受け流されて体制を崩された間違いなくシーナは反撃を喰らうであろう。
「オレにも事情はあるんだ。許せよ!!」
俺はこれまで手を出せない状況であったが、流石にこれはまずいと思い、動く――がそれより速く動いた影が俺の隣を抜きさる。
「ああまた……あそこになんか……行きたくないっ……」
そんな言葉が聞こえた瞬間。ギャリィィィッ!と鍔迫り合いの音が甲高く響き渡る。
影は俺を抜きさり、シーナを大剣の一撃から守った。
「行かせないよ。まだ君のことよく分からないから」
「驚いたな。闘技大会では見ていたが俺の一撃をこんなやすやすと止めるとは」
凛とした声と、軽い男が剣を受け止められて驚く声。凛とした声の主は……
「アル……ト?」
我らが魔王様だ。
「さて……人間。覚悟はいいかな?」
「お前も人間だろうがお嬢さん!!」
激しい剣戟の火蓋が切って落とされた。
また俺は、何もできなかった。
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