第63話 魔法学園 編入審査 戦士クラス編
いやだって亀裂が有ったらさ、壊れるものって思うよな?
「ユウ、怒られそうだね」
「賠償金とかは先に払わないって言ったしな。どうにかなるよきっと」
俺はこの件にといては特に大きな出来事は起きなかった、と考えることにした。適度な現実逃避は大事だよな。
「とりあえず置いといてだ。レムはどうなってるんだろうな」
「そ、そーだね……レムは無事に突破出来たかな?」
この部屋から出る際に首掛けタイプの仮の許可証を貰えばある程度自由に学校を歩き回ることが出来るので、取り敢えずこの部屋で許可証を貰うことが先決だ。
「じゃ動くか」
「終わっちゃったかもね。はやくいこっ!」
俺達は入ってきた入口へ向かい、教師らしき人に話しかける。
「えっと、許可証? をくれないか?」
「ええっと……はい。これですね。どうぞ」
至って冷静な表情で首掛けカードを俺達一枚ずつに渡してくる。これである程度は自由に見回れるばずだよな。
カードには 名前、性別、振り分けられるクラスなど、が書いてある。 俺達の仮証にはクラスランクはまだ書かれていない。
「ねぇねぇ、戦士クラスの模擬戦が見たいんだけど……どこでやってるかな?」
「えっと、係員を呼びますね。レニメルさーん!」
あれ、レニメルってどこかで聞いた気がするな。
気のせいだろうか。
「お呼びになりましたかぁ? せんせ……えっ」
「うわっ」
「……?」
アルトははてなマークを浮かべているが、俺はこいつを知っている。こいつは……高飛車なアイツだ。こう、弓使いで闘技大会にいた――
「なっ、なんで召喚士がここにいるんですの?!」
ビシッと俺に向けて人差し指を向けて俺がなぜここにいることを問う。俺も聞き返そうとしたが、無意味であることを悟り、わざと不機嫌そうな口調で語る
「そんなことはいいから模擬戦がやってる場所へ案内しろ。終わったらどうするんだ?」
「こんの、召喚士……! 礼儀というものを知らないようですねぇ!?」
「ねぇ、早くしてくれないかな?」
「貴女も礼儀を弁えていないようですねぇ? 私の家系をしらないとはどれだけ田舎からきた子猫ちゃんなんでしょう?!」
「レニメルさん! 早く案内しなさい!」
先生が大声をあげて怒る。俺達からも早くして欲しいところだ。終わったらどうしてくれるんだよ。まぁちょっとバカにしすぎた感はあるが。
「っ!! あぁもう。分かりましたわ!しっかりついてきなさい!!Sクラスの私が案内してあげるのだから感謝しなさい!!」
顔を真っ赤にしながらダニアはずんずんと歩いていく。一応最高位のSクラスなのか。
「いこ?早くしないと終わっちゃうよ!」
「そうだな」
俺達は早足でダニアについていった。
幾つかの扉をぬけ、許可証を見せると、闘技大会の会場のような場所が見える。
ドーム型で、まるで陸上の競技場にも思える。
「ここが客席ですわ。ではこれにて」
まさにお嬢様だな。可憐に去っていった。だが俺達の興味はそこではない。
「はぁぁぁっ!」
女子生徒は木刀をブンブンと振るうが戦っている男は、鎧を着込んでおり、持ち合わせた双剣で一つ一つ攻撃を逸らす。
「もっと精密に攻撃した方がいいよっ!」
女子編入生と戦っているのはリンクスだった。今日はよく知り合いに合う日だな。
最後まで見てしまったが、この試合はやはりリンクスの圧勝であった。訓練なので使っているものは二人とも木製である。
「はぁ、はぁ、ありがとうございましたっ!」
「うん。お疲れ様」
そういったあと笑顔を見せる。相変わらずのイケメンぶりだ。多分あの女子生徒もリンクスに落ちてしまっただろう。
「おーい!リンー!」
アルトが手を振るとリンクスは驚いた様な表情を浮かべ、その後に笑顔を作って手を振り返す。そりゃ驚くよな。
リンクスは視線を正面に戻し誰もいない正面に向けて話す。
「えっと、次! レムさーん!」
いまからレムが模擬戦を行うようだ。念話でエールでも贈ろうと思ったが、逆に緊張を感じさせるわけにはいかないのでじっくりと見ることにする。
「よろしく……お願いします……です」
レムは周りを見ながらトコトコと小さい歩幅でリンクスに向かっていく。
「レムー!頑張って!」
アルトは普通に声援を送った。レムは当然気がつき、彼女の表情は更にこわばった。
結局、もうバレてしまったので念話でエールを送ることにする。
(そう緊張しなくて大丈夫だ。適当にやっていいんだぞ?)
(はい……です!がんばる……!!)
俺は正直リンクスよりレムの方が実力が高いと思っている。経験はリンクスの方が上だが、レベルでは圧倒的にレムが有利だ。
「君!ユウとアルと知り合いか!」
「は、はいっ! でも……強くなったからあの時みたいに……負けません!」
「あの時?……まぁいいや!始めようか」
あの時とは竜人のライガーとの戦いだろう。彼女の心にも大きな傷を残したのだ。しっかりと仕留めればよかったな。竜人の件はアルトは多分忘れているだろう。
「よろしくお願いします!」
レムは木製の鉤爪を構える。鍾乳石の武具は先に預かっておいたので良かったといえる。
「そっちからで、大丈夫だよ?」
リンクスは余裕の表情を浮かべている。さて、その表情がどんな感じで変わるのか見ものだな。
「行きます……っ!」
砂埃を舞い上げ、レムは一瞬でリンクスに接近する。彼は目を見開き、その状況では速さに追いつけないと思い、全力でバックステップを行った。
突風を引き連れて、レムの攻撃が元々リンクスがいた場所で数回放たれる。
込められている力は高く、バッドでも振り抜いているかと感じるほど重々しい音が聞こえた。
「っと! あっぶないなほんと、ユウとアルの知り合いって怖い人しかいない……なっ!!」
リンクスも全力で接近する。それに応じてレムも爪を振るう。彼の双剣を鉤爪で流しつつ、逆の腕で彼を猛襲するが、彼も対応して流された剣の勢いを利用して逆の剣で爪を受け流す。
接近戦はレムの得意分野だが、それも彼は同じだ。彼はこれまでの経験を生かし、速くて追いつけないときには直感により回避しているところが多々見える。レムはまだまだ経験不足だ。フェイントが甘かった。対人経験が少ないからだろう。
レベル差はあるものの、今は完全に互角だ。レムが獣化を抑えているっていう理由もあるが。
そんなことを考えていたら、その時レムに大きな隙が出来た。足を払われたのである。俺が言えたことではないが、彼は年下でも手加減してはくれなかった。
「今だっ!《旋風脚》っ!!」
体勢を崩したレムに武芸により強化された蹴りが彼女に当たる……ように思われたが
「なっ!?」
完全に体勢を崩しているように思えたが、レムは空中歩行を使用し、転びかけのに超前傾姿勢のまま、前へ突き進むことにより何とか蹴りを躱し、逃げたした。
まだレベルは最大ではないので歩ける数は有限である、がこの状況を打破するのには一番の手段だった。
「隙ありっ!《デュアルクロウ》ッ!」
レムは地面に素早く着地すると武芸を発動し、リンクスに再び接近、攻撃を仕掛ける。
戦闘の状況の変化は一瞬である。
「しまっ……」
リンクスは最速で後ろを振り向きながら短剣を交差し、攻撃に備えたが少しだけ遅かった。
「ぐぅぅっ?!」
勢いに負け、少々程吹き飛んでしまったが、足をついて壁にぶつかることを阻止する。
攻撃に追いつけなくても防御を取れる戦闘センスは目を見張るモノがある。
彼のレベルが俺と同じだっ――いや、考えるのはやめておこう。
「そこまでっ!!」
一つの声が二人の戦闘を中断させる。その声の主は――
「ミリュリュー!」
ミリュであった。アルトは手を振って挨拶する。
彼女はボードのようなものに挟まれた紙に、羽ペンで何かを書き加えていた。おそらくだがレムの評価をしてくれたのだろう。
彼女はアルトに手を軽く振り返したあと、評価を言い渡す。
「レム!クラスランクS!」
「やったぁぁっ!僕と同じクラスだよー!」
「よかった……」
「おめでとう!レム!」
レムはクラスランクを無事Sに出来たようだ。よかった良かった。――ん?アルト今なんて言った?
「……お前クラスランク決まってたのか?」
「そうだけど、あれ? ユウはあんなことがあったから伝わってない?」
伝わってないもなにも俺は自分から出ていってしまったんだが……あれ?これって試験離脱ってことか?そうなれば常識的に考えるとクラスランクは――
「……後ででも教師に聞けばいいだろう。まずはレムを祝ってあげるか」
「そ、そうだよね!取り敢えず出口で待ってようかな!」
俺達は最初にレムへ直接労いの言葉をかけるため出口で待つことにした。
しばらく待つレムが笑顔でこちらに小走りで向かってきた。やはり彼女のクラスランクSは俺からしても喜ばしいことだな。
「おめでとうレム。アルトと同じクラスだ」
「レムも強くなったねー……」
アルトはレムを撫でながら褒めている。俺の教育指針は褒めて伸ばすなので悪いこととは全く感じない。寧ろもっとオーバーでもいいくらいだ。
「ありがとう、あると、ゆうっ!! ……そういえば。ゆうのクラスランクは何ですか?」
痛いところつく。正直言って自分も分かってないとか言うのはなんかカッコ悪いような気がして口を濁す。
「あー、えーっとだな……「ここにいましたか!!」……高飛車さんか」
タイミングが良いのか悪いのか。息を切らしながら俺の元へ来たのは、ダニアがこちらに向かってきた。
「なんだ? 今から何が食べに行こうかなと」
たった今立てた予定を昔から立てているように話すが、ダニアは止まらない。しかも彼女が慌てているようすからとても嫌な予感がする。この慌て方はそうだ。ギルドの時、俺の実力が完全に把握されて、無理やり闘技大会に――
「学園長がお呼びですってよ!!」
「こういうのだよなぁ……」
俺は深くため息をついた。アルトの目線はまたか。とでも言いたげに冷めていた。
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