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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第五章 学園
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第61話 魔法学園へ

 あれから一週間が経過した。学園編入まであと二日。気候は暖かく、上着を着ていれば汗をかきそうなくらいだ。俺達に至っては特に変わりようがない日々を過ごしている。今日もその一例だ。

 俺達は、戦っていた。


「くぅぅっ?! この甲羅硬たいっ!?」


 暗い洞窟の中、何閃もの閃光が走る。

 その光が飛び回るのは巨大な亀のような甲羅をもつ爬虫類のような魔物。

 光を放っていたのは、アルトで、高速移動しながら攻撃を与えていたのだが、その大きさは五メートル程の巨大な亀には目立ったダメージは与えられていなかった。


「グォァアアアッ!」


 魔物は怒りに満ちた声をあげる。しかし、周りに響き、ふきとばそうとしている大きな咆哮を放っている間は、隙がある。

 俺達に対しての余裕なのか。


「亀。足元がお留守だぞ?」


 俺は前回勇者と戦った時とは比べ物にならない程強くなった。

 身体を流れる魔力、そして気力の流れを濃く、そして無駄なく身体に循環させることが出来るようになった。

 体かはうっすらと青い光を纏っているが、魔法纏は使っていない。

 気功術がうまくなったおかげだろう。


 俺は手にした鋼色の刃を、塔かと見違えるくらい太い足に強く切りつける。

 が、そこまで深くは切りつけられなかった。刃はある程度めり込んでくれたんだが。


「ギガァァァっ?!」


 痛みに耐えかね亀もどきは関節であろう部分をまげ膝をつく。

 チャンスだ。


「らぁぁぁぁぁっ!!」


 アルトは飛翔し、高くて暗い天井から音と気合の声と共に亀へと向かって急降下を行う。

 闇と炎を拳に纏って。

 これはアルトが夢にまでみていた 闇属性の合成魔法である。

 魔法というものは長年使うとその特有の感覚が分かるらしい。

 彼女がいうに、身体の中で別の感覚が増えるとか。


 その掴んだ感覚と共に魔法を組み合わせる事で魔法の合成が完成する。

 その何かは俺は体感した事が無いので分からないが、どこか別の暖かさを感じるという。


 また、闇属性は他の属性とは絶対に混ざらないとされている。

 俺は魔法纏により無理やりくっつけることが出来たのだが、その効果もさほど無いので、十秒程で互いに拒否反応を起こし、両方の魔法纏は解けて、魔力が消えてしまう。

 しかし彼女は闇属性と他の魔法を合成させる事に成功させた。

 俺がちょこっとだけ魔法纏のときに無理やり合わせるイメージを伝えただけで。

 更に驚くべきなのは一度伝えただけで成功してしまった事だ。天才は何処にでもいるんだよな。


 彼女の拳が甲羅に当たると、空間が揺れる程の重い音が響く。衝撃波も尋常ではない。


 そして爆発するように甲羅が、内部でダイナマイトを爆裂させたよ穴割れ方で、割れた。


 飛び散る甲羅を無視しながらアルトはジャンプして俺の元へ戻ってくる。手をぷらぷらとしながら。

 

「いててて……かたいなぁ……レム! 後お願い!」


 アルトは叫ぶと、脇から俺並み、いや俺以上かもしれないスピードでレムは何かが物足りない亀に――いやもう爬虫類に肉薄する。


「《トライクロウ》っ!」 


 気合と同時にレムは俺が物質創造マテリアルクリエイトにより鍾乳石でつくった腕に取り付けてある鉤爪を振るう。俺が知っている武具の素材の中ではこれが一番硬いらしい。


 爬虫類の魔物が痛みで呻く声と共に、何処か小気味よい音が洞窟に響き渡る。

 レムの行った武芸は、高速で接近し、手に持った武具で三連続で切りつける技である。

 全て弱点であろうお腹に食らってしまった亀もどきは、耐えられるはずもなく。


「ぐぉぉ……」


 と、力の抜けた声を出し激しく地面を揺らしながら倒れる。やったか。


「……ふぅ」

「いやー、びっくりだったね。いてて」

「あると……大丈夫?」


 アルトは魔力で覆っているとはいえ、やはり刃でも切れないほど硬い物を殴ったことにより少しだけ手から出血していた。

 少しなのはおかしいんだがな。普通だったら手は砕けてしまう。


「ほら、貸してみろ」


 俺はアルトの片手を優しく取り、聖属性魔法を使う。

 彼女が魔族といっても、聖属性に弱いゾンビやそのような類ではないため、聖なる属性を掛けても大丈夫である。

 因みに最近の俺のポジションは回復薬(役)である。


「ありがとユウっ!」


「あいよ」


 アルトは照れている表情で自分の手を見つめている。元の白い肌へ戻ったので俺はかけるのを止めて素材を回収しに……おっとと。レムも回収しに向かってるが少し膝に怪我をしているようだ。


「まてまてレム。とりあえず座れ。回復してやるから」

「えっ……? ワタシは大丈夫……です」

「レムー遠慮してもいいことないからね? ほらほら!」


 俺はこの期間で回復役ポジションに安定してしまった。

 勇者にもう二度と負けないように、非常に鍛えてるつもりなのだが、仲間の二人のレベルや練度の上がる速度が異常であるため、どうにも目立てないのが現実なのだ。

 つらい。


「……ありがと、です!」


「っと。ほれ。終わりだ」


 緑色の血があたりに飛び散っているのにゆっくりしている光景はもう当たり前になってしまった。

 いつ敵が来てもいいように状態は万全に、な?


「いやーそれにしても硬かったね、これ」


 これとはアルトが砕いた亀の甲羅である。

 刃で斬れなかったのに素手で砕いた人が認めるのだ。

 それはかなり硬い領域に入るのだろう。


 これで何か武器や防具を作ってもらえるかもな。

 レムの装備とかアルトの装備とかをサイバルの鍛冶屋に頼んでみるとするか。

 因みにこの亀はユニークモンスターといって、討伐難度が非常に高い魔物である。

 なぜ分かるのかというと観察眼のスキルを使ったからであるためだ。しっかりと説明欄にユニークと書いてあった。


「さて、修行はここら辺までにしとくか。もうすぐあれが始まるしな。」


「そうだね! いよいよかぁ……こっちでは初めてだなぁ」


 こっちとは人間界の事だろう。てか、魔王様仕事サボりまくってるけど大丈夫なのだろうか。


「楽しみ……です。あるとと……ゆうと……一緒がいいっ」


 俺も出来ればみんなと一緒がいいところだな。

 友達が出来ないだろうという、不吉な予知されたらだれだって怖い気持ちもある。


「一応魔法学園にも編入するために検査があるらしいよー! 魔力がどれだけあるが図るらしいけど」


「ワタシ……ないです……」


 レムは残念そうな表情をしているが、無いわけではない。寧ろ獣人として異常なくらい量はあるのだ。

 彼女の魔力はおおよそ2000。毎日のように変幻を使用し、解除を繰り返して魔法と触れ合っていたから……なのだろうか?


「大丈夫だよ! 戦士クラスの一番取れば僕達と同じクラスだよ!そもそもクラス分けわね――」


 アルトの説明を掻い摘んで説明すると


 ・クラスにはギルドと同じようにランクがある。それはS A B C Dとあり、Sが最高のクラス。

 ・魔法クラスと戦士クラスは合同である。だからクラスの総人数はなかなか多いらしい。

 ・テストは魔法クラスは魔力量検査、戦士クラスは模擬戦を行う。年齢は小さな子から大きなお友達まで。年齢は二十歳までであれば、どのクラスでも入ることが出来る。

 元の世界で例えるならば、高校に小学生がいるような感覚だ。実力主義の世界では年齢は関係ないらしい。

 ・俺達は寮生活である


 と、このような感じだろう。アルトもレムも互いに本気を出さなくても余裕で試験は突破できるはずだ。


「制服とかは買ってあったよな?」


「うん!大丈夫!!」

「多分大丈夫……です」


 心配になってしまうのは何故だろうか? 父性本能?……ってそれはないか。

 そうして俺達は宿へと戻る。

 明後日なのにドキドキだ。


 宿に戻ったあとアルト達にブレザータイプの制服、ノートやペン、その他もろもろは召喚魔法陣から取り出して手渡した。

 彼女達が買ったお洒落な鞄に教材道具を入れている光景をみて、新入生のような感覚になったのは俺だけの秘密だ。


 俺はというものの鞄は必要ない。召喚士サマナーってこういうところがいいよな。アイテムボックスさまさまである。

 召喚士というクラス自体が戦闘には不向きらしいが、生活では大活躍だ。


 そういえば学校生活なんてもう何年ぶりだろうな。

 元の世界ではあんなに学校に行くのが怠くて億劫だったのに、俺はなぜこんなにもわくわくしているのだろうか。

 やはり魔法か?


 不意に俺は窓の向こうに見える月に向けてに、手をかざす。


「あんなに胡散臭い、って思ってた事も、……できるんだよな」


 かざした手から炎を出す。勿論ほんの少しだけだ。火事になるような火力は出さない。


「それにしても不思議だよな。……家族は今頃何してるんだろうか」


 元の世界のことを少しだけ思い出す。施設の皆は飲食を共にする家族で――だが、今思い出してどうするんだ? 俺にはアルト、レムがいる。寂しい何てことはない。……はずだ。

 さて、明日は情報を蓄えるためにもう一度図書館にいくか。


 そう思って隣の部屋から聞こえる騒ぎ声をできる限り無視しつつ、俺は目を瞑った。



 ~~~~~~


 二日後




「世話になったな。おばさん」

「お世話になりましたー!」

「ありがとうございました……です」


「いえいえ、お客様は珍しい人達だったからたのしかったわよ。またいらっしゃい!」


 宿長のおばさんや長かった宿に別れを告げ、俺達はギルドへと向かう。学園へ送ってくれる馬車はギルドの前で集合ということなので仕方ない。闘技大会で散々だったので、ギルド付近には顔を出したくはなかったのだが。


 目の前を歩く二人を背中から見つめる。

 アルトとレムのブレザー姿だが、漫画だったら鼻血を吹き出しているほど、可愛すぎて、そして似合っていた。


 二人に可愛いって思いっきり言ってしまったので気まずい雰囲気なのは内緒だ。

 俺もなぜ口が滑ってしまったのか過去の俺に問いただしたい。


「うわ、黒髪に黒目――っ!間違いない。あれは不幸を運ぶ召喚士だ!」

「なんでこんなところにぃっ?!」

「こっち見たわっ?! あああ」


 ギルド付近に着いても、こんな感じで周りは俺を恐れて、人は寄ってこない。

 集合場所である地点が見え始めてくると、現在のアルトとレムと同じような服装をしている女の子が涼しげに本を読みながら佇んでいた。


 こちらに気がつき、顔を俺達の方に上げると――


「げっ」


 俺は思わず声に出して言ってしまったので目の前にいる少女は目を細めて不快の意を示す。

 水色の髪に、緑の瞳。そして腰に差し込んだ杖。SSランカーの風魔法使い。

 俺の中では一番のトラウマガールだ。常に命を狙われているような錯覚を覚える。

 勇者よりコイツの方が怖いかもしれない。


「おはようございます。皆さん」


「お、おはよう」


 シーナである。アルトも気づいた時には少し驚いた顔をしたが、挨拶を返した。レムは彼女と初めて会うため、怖くなったのか俺の後ろに隠れる。


「その子は……?」


 シーナが聞いてきたので俺はこれまでのいきさつを教える。

 無理なく怪しまれない程度に。しかし、今の彼女には、初対面の時にあったような暗い雰囲気は感じ取れなかった。


「成程。そのような理由ですか」


「よ、よろしくおねがい……しますですシーナさん」


「はい 宜しくお願いします」


 シーナは無表情で答える。

 アルトともいつの間にか仲直りしたようだ。無表情で話すようすは変わらないが、雰囲気が別物だ。

 俺を仕留めようとした時は、これ以上の淡白な感じだったのだが――


 こいつ別人か?


「な、なんかシーナなんか変わった?前とは全然……」


 アルトも戸惑いの表情を浮かべる。


「貴方達のおかげど私は少しは変わりました。あの技を見ても何ら動じなかった貴方達なら仲良くできる……気がします。あれのおかげで、私は嫌われ続けてきました。ですが、気軽に話しかけようとしてくれた貴方達を見て、私も意識を変えようと思った次第です」


 あの技。恐らくは闘技大会でみせた、黒い風を纏った時のことだろう。

 彼女も彼女でワケアリな生活を送ってきたらしい。

 そんな彼女の黒歴史を掘り返すのは野暮であるため、気になるが聞かないでおくことにした。


「シーナ。あの技って誰から教わったの? 独学?」


 あの技とは闘技大会で見せた技である。対面した時に感じた暗いオーラは何処か寂しげだった。


「それは――っと馬車が来たようです。人もいるのでここでは話せません。あちらの学園で話しましょう。では」


 そう言ってシーナは踵を返し、馬車の元へ歩いていった。人には聞かれたくないことなのだろう。


「あの技……禁術の類な気がするんだよね」

「ワタシも見てたとき、感じました。あれは……危ない技です」


 どうやらあの魔法はただの魔法ではないらしい。が、この世界に慣れていない俺が考えていても仕方がない。

 面倒ごとを避けるため、俺たちもギルマスに見つかる前に移動しなくては。


「さぁ、学園へ出発だ」

「おー!」

「おー!」


 馬車に乗るのは初めてだ。車酔いとはしないだろうか?お尻が痛くなるって聞いたが本当だろうか?

 俺達ははやる気持ちを抑えながら馬車へ乗り込んだ。


 さてどんな事が待ち受けてるのかな?


 ~~~~~



「寝れない。そして体が痛い」


 俺は乗りはじめて五分でこの感想を抱いた。当然ながら車より遅い。歩いた方がいいんじゃないかこれ。


「ワタシも……馬車はキライです」

「僕も。はぁ……」


 レムは奴隷になりたての頃にこのように運ばれたため、トラウマとなっているのだろう。乗り込んでかはずっとアルトにくっつきっぱなしだ。

 そんな彼女は移動には空を飛んだりしているので、そっちの方が楽だからであろう。


 俺の今というと


「……はぁぁ」


 他の乗っている学生らしき人達、五人ぐらいの男女が、俺のことを乗り込んでからずっと、嫌悪の目線で見てきている。

 恐らく闘技大会の一件を見ていたためと予想できるが、これはため息の一つや二つをついたってこれは仕方ないだろう。

 挙句の果てには馬車の運転手にも嫌悪の目うけた。


「なぁアルト後何時間ぐらいで着――」

「おい。召喚士サマナー風情が我が学園に入れるだけでも感謝して欲しいところなのに、闘技大会でイカサマもなく、優秀な成績を収めたアルトちゃんに口を聞くな。今すぐその汚い口を閉じろ」


「…………」


 さっき話したのにとか言えない。目の前を見れば、すごい速度で、アルトの目がどんどん光を失っていました。なんでなのかは分からないが、彼女の怒りゲージが上昇中である。これはまずい


「返事。は?」


「…………」


 もう俺は徹底的に無視を貫く事にした。いきなり好感度がマイナスからスタートというのはここまで厳しいものなのか?


 取り敢えずアルトを抑えるために俺は念話で話す。


(あいつは無視しといて良いから。俺のことは気にすんな)

(う……うん。そ、そうだなんか面白い話ってない? 僕さつまらなくて)


 いつの間にかレムは寝ている。アルトと一緒にいると安心するのだろう。


(んじゃ、桃太郎って話を知ってるか?)

(なにそれなにそれ?!聞きたい聞きたい!!)


(んじゃ話すか。むかーしむかし……)


 そうして俺達は念話で楽しく話していた。昔話の効果は絶大でアルトも時折質問したり、笑ってくれた。

 俺は寝たふりをしているため表情は見えない。

 が、アルトが急に笑うため男がやたら反応していた。俺と違って人気だなこいつ……



 ガコガコと言う音をBGMに俺達は念話で話していると、ヒヒーンと馬の嘶きが聞こえる。それと同時に馬車の揺れも止まる。どうやら到着したようだ。


 俺は真っ先馬車から外に出ると王城のように大きな門。

 そして奥から聞こえる生徒達の元気な声。



「へぇぇ……なかなか立派だな」


ご高覧感謝です♪

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