58話 サマナーディテスト
ここは魔界にほど近く、魔平原とも言われている場所だ。名前の通り、この場所は人間が近づくことが不可能と言われているくらい危険な場所である。
魔界にも近いという事なので、強い魔物も多い。
更にこの場所は昼でも薄暗いので、魔界へ魔物を討伐しに向かう屈強な戦士がごく稀に通るぐらいだ。
その平原の最奥部にひっそりとお城が建っていた。建っている事を感じさせない程ひっそりとしたものだが、まるで王城であるように大きいものであった。
外には魔物避けの結界が貼ってあり、中には人がいることが分かる。
その城の中に一人の女が大きな枕を抱きながら深々と玉座に座り込み、苛立っていた。
「あの豚の報告はまだか? もうあれから何日たったと思ってる……?」
女とは思えない言葉使いだが、彼女のなめらかな黒髪は地面につく程まで長いのに、それは地面に触らない。髪を魔力で浮かせているのためである。
壁に掛けられている松明が彼女の顔を照らすと、誰が見てもうつくしい、と口を揃えていうであろうほど整っている顔は苛立ちの表情を浮かべ、紫色の瞳も鋭くなっていた。
彼女の苛立ちにより、辺りは爆発しそうな雰囲気がたち込めていて、周りに居た仮面を被っている兵士は冷や汗を抑えきれない。
この城はもともと廃城で彼女が引き取ったのだが、それを感じさせないほど、この場所は、掃除されている。
「姫、所望の物をお持ちしました」
何もない空間から突如光が集まり、男が現れる。しかし兵士達は驚くことは無く、動立ちすくんでいた。
現れたのは黒いタキシードに身を包み、真白な髪をしている二十代ぐらいの男。
何処から見ても隙はなく、戦闘において凄まじい強者であることは誰の目にも明らかだった。
「おそいぞ? レオ」
「申し訳ありません、姫。少し探すのに手間取ってしまいました」
レオと呼ばれた男は懐から拳大の水晶を取り出す。その水晶にはいまは何も写ってはいない。ただの透き通っていてツルツルの水晶だ。
「始めろ」
水晶が明るく光ると、その中にうっすらと映像が移る。映し出された映像には夕が映っていた。
これはただの記憶媒体である。しかしその映像には彼女の予想を大いに崩す出来事が起こる。
「ふむ、どうやらしっかりと指示通りに人質を取り獲物は一人で来たようだな。最近失敗続きで人員を変更してやろうかと思ったがゴミでも使えるときはあるみたいだ。これならしっかりと捕獲できるだろうな?」
「姫、ここから先が見所ですよ」
失敗とは、召喚士狩りが目的とは違い捕獲ではなく殺してしまうことである。
いくらでも変えはいると思っているので、彼女らはそこまで気に病むことはない。ただ捕獲ではないと彼女たちが暇だったのだ。
この捕獲の目的は、いたぶるための玩具の回収。
レオは人を痛ぶるのが趣味だが、それは姫と呼ばれる女も同じである。
特に姫と呼ばれる人物。彼女は生粋のサディストであった。
水晶の中の夕は手の平から白い雷を放つ。驚いた様子を見せることもなく、突撃を行った者たちはこの世界消えていった。
「……は?」
彼女は思わず素っ頓狂な声をあげる。雷の魔法がこの世界の住人ひ使えるはずがない。
しかもこの世界の人間が魔道具を使わずに、雷を使えるという事態は始めて認識したため、非常に驚く。
「ね? 面白いでしょう?」
くくくと乾いた笑い声を上げながらレオは側で激しく驚いている自らの主を見る。とても面白い反応だ。やはりに手下を忍ばせてよかったといえる。
「……どういうことだ? ……召喚士の癖に魔法を使うとはな。しかも雷とは」
「おやおや? 姫だって召喚士なのでしょう? なんたって幾多の犠牲を払い、私を召喚したのですから……ね?」
レオの言っていることは間違えていない。サンガと協力して沢山の生贄を捧げ、最強ともいえる彼を呼び出したのだ。だから、彼女は最弱から最強へと成り上がったのだ。もう昔のように嫌な視線を浴びながら生活しなくていいのだ。
「お前の目的には……こいつは邪魔だな」
「ええ。とっても邪魔なんですよ。そもそも召喚士なんて姫以外は存在意義は有りませんからね」
黒いタキシードを身にまとったレオの赤い目が怪しく光る。目的は主である姫以外の召喚士の全滅。彼女はそんなことになんの意味があるのか。いつもどうでもいいと思って聞いていなかったが、彼女はなにかを思い出したように急に口を開いた。
「おいレオ。お前の目的は召喚士の全滅なのはわかる。だが全滅する理由はなんだ?」
その質問をすると、レオは待ってましたとばかりに口元を三日月の形を作ると喜々として話始める。
「おっと……やっと質問してくれましたね? 私けっこう待ってましたんですよ?」
「話せ」
「くくく……御意にございます。実にいい視線です。姫の拷問のお陰で私は新たな自分に目覚めてしまいましてね……おっとついつい口が滑ってしまいました。では、話しましょう」
彼女はゴミを見るような目でレオを見ているとレオはぞくりと体を震わせた。その後直ぐに首を振るとゆっくりと話し出した。
「私の目的とは、召喚士の全滅。その理由は私が真の精霊王となるためですよ。ただこれだけです。くくく……」
「真の精霊王?」
「おっと、説明するのでご褒美はまた後でお願いしますね? この私、獅子座のレオが召喚士が召喚できるなかで最強の聖霊というのはご存知ですよね?」
「ああ」
「まず、召喚にもランクがありまして下から、魔物、幻獣、精霊、聖霊とランクがあります。私達、聖霊は最も少なく、全部で十二体、いえ、双子座を含めるなら十三でしたね。それだけしかいません。勿論増えることはありません。子孫を作るなんて弱者がすることですから。もっとも実際に機能はありますが」
「そんなことはどうでもいい。話を戻せ」
再び冷たく、冷酷な視線が向けられるとレオは再び笑顔になり、喜々として語り始める。レオは確実に仕上げられていた。
「ごほん……それでですね。なぜ最強種でありながらも最強である私が王に成れないのかというと、単純に他の聖霊がこの世界にいるからです。最後の一人になったその時、私は聖霊王となり、無敵の力の加護を得るでしょう。勿論姫も、ですからね? 主である姫も力を得られるでしょう」
「ほう……私も恩恵を貰えるのか。興味深い」
兵士達はそれぞれの思いをはせながら、彼らの会話を聞いている。召喚士狩りに意味があったとは思わなかったのだ。なにせ雇い主の趣味が趣味だからだ。
「それに聖霊は非常に莫大な魔力を持っていますが、主がいない状態で現世に顕現されているだけで魔力はどんどん減っていきます。ただ、契約されているとなれば話は別です」
「だから何だというのだ?」
「ですから、私達みたいに聖霊との契約者が現れるかもしれないということです。聖霊達は全員聖霊王を目指しているので、どちらか殺すまで戦いになるでしょう。非常に面倒くさいことになります。もっとも、戦えるのは契約者がいる場合のみですが」
「……なるほどな。だから契約される前に、召喚士の若い芽を摘み取っておこう、ということか。だからあんなに面倒くさい魔道具を……」
「流石は姫。察しが良くて助かります」
召喚士が激しく嫌われている理由はここにある。
彼女達は聖霊の力によって作られた不可視の塔の頂上に、ある魔法を永続的に発動させる魔道具を設置した。
その魔道具の名前はサマナーディテスト。名前のとおり極端に召喚士が嫌われる道具だ。彼女はその魔道具に魔力を登録したため、世間から嫌われることはない。
効果は相手が召喚士と認識したときからだ。嫌われる召喚士に好意を持っていなければ効果が発動されないものの、世界の人間に認められるということはほぼ無理なので、大きな効果があるだろう。
効果範囲は人間界全域、残念ながら獣人がいる場所や、エルフの村には届かなかったが、それでも凄まじく広い。
「聖霊王になったら、お前はどうする?」
彼女は笑顔でレオに話しかける。今はもしもの話だが、実現できる可能性はほぼ100%だ。こっちには勇者サンガがいる。これだけ揃っていて失敗しない方がおかしいだろう。
「まず……あの勇者君を消してしまいましょう。好意を持っているのは分かりますが、私からしても少々不快ですしね」
「くはははっ……利用するだけして捨てるとは!」
「くくく……なかなかいい案でしょう? 皆さん? このことは内密に、お願いしますね?」
レオは兵士達に話しかけた。もしもバラしたら、死よりも辛い日々が待っているだろう。兵士達は背中に汗をかきながら頷いた。
「だが目的のためにはこいつは警戒しなくてはな。まさにイレギュラーと言ったところだ。手下を使って見張らせろ。この不思議な雷を使いこなす……ナミカゼ ユウ にな」
水晶の中にはレオの手下が放ったクロスボウが金歯の頭に突き刺さっているシーンが映し出されている。勿論彼にはなんの思いも抱いていないのでどこで死のうが彼女らには関係がないのだ。
「御意にございます……マイマスター」
光と共にレオは消えていった。彼女はレオが出てくるる前とは違い、先程のイライラしていた気分はどこかに吹っ飛んでいったようだ。
「さて……甘いものを持ってきてもらおうか?我が下僕たちよ」
「「「イエス!マイ!ロード!」」」
男女問わず甘いものを求め部屋から出ていった。
この人に指示する能力もレオが来てから手に入れたものだ。
「……たっぷり踊って楽しませてくれよ。勇者。くはははっ!」
暗い城に甲高い笑い声が響き渡った。
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「それでね!あいつが……」
「御主人様に酷いこといったんですよ?! 許せません!」
「サンガ……大丈夫だよね? ぼく……心配」
俺はユウが転移した一時間後、ここの場所へ来た。
見るとギルド職員にベットを壊されていた事を怒られていた。けっこう長い時間正座で叱られていたようで足が痺れていたらしい。
「あはは……気にしないでいいよ? 俺は毒に耐性あるからね。あの程度じゃ死なないよ!」
まさか毒に耐性がある俺が毒を受けるとは思わなかったけどね。彼への興味は深まるばかりだ。それと俺は精神ダメージがあろうとも消失させる程の魔力でうったんだけど、この世からは消えなかった。なかなか硬かったなぁ。
「それにしてもあの女許せません……」
「ねぇお兄ちゃん。僕達と、あの胸に無駄に脂肪がある女……どっちがいい?」
「サンガ……どっちがいい?」
あの良く分からない娘は何を吹き込んだんだろうか。彼女達のちっちゃいところも含めて俺は好きなんだけどなぁとりあえず慰めてあげよう。
「はぅ!」「ふぁ」「サンガ?」
三人を同時に抱きしめながら俺は彼女達を慰める。ちっちゃくたって関係ないんだって教えてあげないとね。
「あはは。大丈夫だよ? 大事なのは胸じゃなくて心だからね? あの女の人は胸が大きくても心がちっいゃいからね。みんなの勝ちだよ」
そう俺が言い放つと、三人は喜びの表情で俺から離れた。個人的にも小さい方がいいのは内緒だよ?
「お兄ちゃん……優しい」
「御主人様……」
「サンガぁ……」
「さぁ! 帰ろうか! お姫様の所にね!」
「「「はーい!!」」」
俺は彼女らが全員元気になったのを見ると少しトイレへ行くと伝え、医療室から抜ける。目指す先はテュエル姫の父親と会いにいく。もっとも、一方的に言葉をぶつけるだけだけどね。俺は転移石を割り、王宮で衰弱した国王の元へ向かう。
召喚士の彼女と一緒にいることを許可してくれた人だ。少しでも恩返しがしたい。
光が収まると、おじさんが噎せる声が聞こえる。俺は暇さえあれば回復魔法を掛けてるんだけどなかなかなおらないんだよなぁ。聖属性のレベルは最大まで上げたのに。
「おお、きてくれたか……ゴホッゴホッ!」
「いえいえ、いつものことですからお気になさらず」
俺は噎せる国王に向け、効果があるであろう回復魔法を発動し続ける。優勝の挨拶をしに来ただけなので挨拶をしたら小さい彼女らと一緒に帰路に着く予定だ。
「そういえば……サンガよ。こんな噂を知ってるか?ゴホッゴホッ……朝と夜が混ざる時間に選ばれし者がこの石碑に向かうとき、塔への道は開かれん……という噂だ」
「あははっそれって最近になってでてきた噂ですよね。噂だから信じてないけどね」
「実はそれは…本当かもしれないのだ。選ばれし者とは……それは間違いなく天ノ剣を持つ事が出来るお前だけだ。」
「あはは……まぁたしかに俺しか持てないらしいけど……全然軽いですよ、あれ。」
天ノ剣は他の人には重過ぎて持てないらしいけど俺には玩具のように軽く扱える。これが選ばれしものってことかな?
「だから塔を……調べてきて欲しい。あそこには、何かがあるような気が……ゴホッゴホッ!」
国王から頼まれたんだ。断る気はゼロ。むしろ役に立たちたいから好都合だ。
「了解しました! 任せてね!」
「頼んだぞ……サンガとも話せたし少し眠ることにしようかの」
「んじゃ俺は帰るよ。お大事にね。国王様!」
俺は再び転移石を割って彼女たちの元へ戻った。
彼女たちを長い時間待たせてしまったので少しだけ叱られてしまった。今度からはもうちょっと早く済ませようにしよう。
俺はもう一度転移石を使って城に戻ろうとしたとき、一本の矢が地面に突き刺さった。
「びっくりしたなぁ……」
「お兄ちゃん大丈夫?」
「御主人様!矢についた紙に何か書いてありま……ってこれ姫様ですね」
彼女は外に出たくないらしく、いつもこうやって俺にお使いを頼んでくることがある。矢っていうところが怖いが、それも姫の可愛いところ…だよな?
「えっと……赤竜が西の地で出現? 素材が欲しいから倒して……てまた討伐か人使い荒いなぁ。あはは」
「私達だけで行ってくる?」
こんな小さい子が俺のことを心配して、二つ星
級の魔物を俺抜きで倒そうとしている。俺が守らなくてだれがこの子達を守るっていうんだ。俺が守らなくては。
「いや。俺だけがいくよ。皆はまってて?」
「「「嫌だよ(だ)(です)!」」」
彼女たちの決心は揺らがないので仕方なく連れていくのはいつもの事だ。このいつもを大切にしたいな。それを壊すなら……召喚士でも魔王でも……無理矢理にでも止める!
サマナーが嫌われる理由はこんな感じです
追記2016/05/12
前話と後話を入れ替えました。
ご高覧感謝です♪