第56話 闘技大会 ギルド枠 勇者の実力
「っ!!」
勇者の息を飲む音が微かに聞こえる。少しは驚いてくれたか?
ゴウゴウと俺から発せられる風に少しは怯んで欲しかったものだが、相手は笑顔を崩さない。
「あはは!!いいね、いいよ……!変わった形の剣を持ってるからまさかとは思ったけど、魔法クラスにもかかわらず、普通に戦闘していくつもりだね?」
「ふッ!!」
質問を無視しつつ、気合と共に俺は駆けていき、左へ、右へ、とフェイントをかけつつ詰め寄る
「おぉ……慣れてる慣れてる」
相変わらずこの勇者は余裕だな。まずはその表情から引っペがしてやるっつうの!
「はあぁぁっ!!」
俺は最初から全力で刃を振るい、致命傷を与えんとを思いっきり刀を振るうが
「おっとと。これは俺でも当たると痛そうだね」
勇者はスイスイとよけていく。残像ができるほどのスピードであった。
やはりアルトよりコイツは強いかもしれない、という疑問が沸き上がり、余計な考えであると頭を降って考えを追い出す。
カウンターを警戒しながら全力で刃を振るっていくが、当たらない。
ひたすらコイツは後ろに下がりながら、俺の攻撃を楽しみながら、踊るように回避していく。
端っこに行ったと思ったら次は横へ、縦へ動く。まるで遊んでいるようだ。
「《風巻き》っ!!」
ひたすら回避している勇者の足元に向かって小さな旋風を起こす。範囲が小さいが俺がこの魔法に込められる最大の魔力をつぎ込んでいるので威力は申し分無いはず。
「へぇ、面白いねこういう使い方もあるのか」
――がしかし、俺に語りかけるぐらい余裕で、魔法すら回避していく。最初に放ったときに魔法はヒットしたのだが、少しぐらつく程度だった。回避には問題がないようで少々腹が立つ――!?
「じゃそろそろ、こっちも行こうかな?」
凄まじい殺気が俺を多い被さんと降り注ぐ。
下手すれば意識がこれだけで飛んでいたかもしれない。
悪寒と共に本能が 今すぐここから離れろ! という警笛を聞いたような気がするので素直に全力で下がる。
それと同時に 俺の込めた魔力なんて蟻の様に見えるくらいとてつもない魔力が込められたの極太の光が降ってきた。
極太の光の柱が地面にぶつかると激しい爆音をたて、次に凄まじい風圧が俺を襲う。
「ぐぅっ!?」
衝撃波が身体を通過し、吹き飛びそうになるが、地面に踏ん張りなんとか耐える。
光の柱はおおよそ二秒間ずっと降り続けていた。
「うんいい判断だね。俺の魔力の気配は消したつもりなんだけどなぁ」
風圧が過ぎ、砂煙が晴れても、表情を微塵も崩していない無傷の勇者がいる。先ほど光のレーザーが降り注いだ場所を見れば、どこまでも深い穴があいていた。
魔法一発でこれかよ。規格外すぎるっての……だが、焦る必要はない。ゆっくりあいつを分析するべきだ。
「さて次はこの俺の素手で、いくよ?」
勇者はなにかの構えを取るとゆらりと動いて消えっ?!
「ぐぁっ?!」
俺は直感的に身を左へ躱し……ったかったが、相手の動きがあまりにも早すぎて身体が追いつかず、勇者の掌底の衝撃が俺の身体を貫く。
実際には貫かれていないが、ダメージ変換がなければ即死だったであろ程なインパクトであった。
俺は理解できないまま、アルトに殴られた時より数倍近いスピードで吹っ飛び、場外まで吹っ飛ぶ……はずだったのにそれ以上の速度で勇者は俺の後ろへ回り込み――
「そら!!」
「ぐぁぁっ?!」
凄まじい爆音が辺りに木霊する。俺は踏みつけられて、無理やりに吹っ飛ばされた場所で押し付けられる。
違う方向の慣性も乗っていたことにより衝撃も倍増である。会場には俺とは比にならないくらい大きいクレーターができる。この場所はもう会場とは呼べないだろう。
「少しは実力差を理解してもらえたかな?」
余裕な声で俺を踏みつけながら得意げに話す。
が、俺もここまで未だに冷静に判断出来るのだ。まだ一応戦える。
「こん、な……もんか? まだまだ、俺は戦えるぞ?」
俺の魔法纏はまだ解けていない。なので俺は倒れたままだが全身から風の刃を放つ。イメージはハリネズミだ。
勿論切れ味は申し分無い。
「おっとと。まだまだ余裕そうだね」
足と彼の姿が消えたと思ったら端っこ瞬間に移動していた。よって俺の全身から放った風の刃は当たらなかったが踏みつけから逃れた。
「ああ、だがこの程度の実力で三ツ星が取れるのか?」
「へぇぇ、いうねぇ」
少しだけ怒気が含まれていた。これにより状況が傾くといいがな。
正直、俺は先程のスピードには追いつけていない。
だが俺は焦らず、相手の行動をできる限り単調に近づけたいのが本心だ。
「んじゃ少しだけ力を出してみようかな?」
その瞬間。全身が凍りついたように動かなくなり――この世界で初めて“恐れ”を抱いた。
世界最強、勇者から放たれる殺気、覇王の前に立っているような気圧等の色々なものが混ざって、目の前にいるだけでもう逃げたくなる気持ちがこみ上げてきた。
脚が震えてきたので俺は魔法纏の風をさらに強めるが震えが止まらない。
「くっ……お、まえっ……!?」
「あはは!! 流石の君でも怖いのかな??」
「そんなこと、ねぇよ」
「あははは!!まだ話せるなんて君は精神も相当強いようだねぇ。詳しく事ならご褒美に楽におわらせてあげるよ!」
更に圧力が高まる。失神しそうだか、暗闇の中にいる俺のに二つの声が手を伸ばす。
(ユウ!! いつもの自分に!!)
(ゆうっ落ち着く……です)
二人の声だ。声が聞こえると同時に思考がはっきりとしてくる。留まっていた身体の血も一気に流れ始める。
なにをやってるんだ? 俺は。
あいつを潰すためにここまで来たんだろ?
怯えてビクビクしてて目的の事ができるかよ……!
(アルト、レム、ありがとな。目的を思い出すことができた)
俺は二人に念話で礼を述べると二人から再び応援の声が届く。ああ、仲間っていいな。
「あははははっ!覚悟はいいかな?!」
狂ったような表情で聖なるオーラが激しく吹き荒れる。
だが、俺に恐怖の感情はない。二人のおかげだ。
「そっちこそな!!《魔法纏》《闇》《毒》!!」
俺は解除されていた魔法纏を再び纏う。
相手は余裕を持っている。油断をしている。攻撃を当てるの、この機会しかないっ!!
「あははは!浄化されな!!《ディバインレイ》!!」
「はぁぁぁっ!!」
俺は両手のひらを広げ、全魔力を込める。
黒と白のオーラがぶつかり、はっきりと黒と白が混ざらず、分かれる。
俺は両手のひらから極太の黒いレーザー、
勇者は片手の平からこちらも極太の白いレーザーが放たれる。
白と黒の高密度の魔力が込められているレーザーがぶつかり、衝撃波により辺りを破壊していく。
しかし直ぐに均衡は壊れる。
「あははは!!消えちゃえっ!!」
「っ!」
だんだんと黒のレーザーが押されていく。もし負けたとしてもあれを当てれなければ!
「終わりだね!! はぁっ!!」
黒のレーザーが白に完全に飲み込まれた。
勇者の表情は完全に勝利を確信している。
今なら当てられるっ!!
「喰らいなっ!!《闇毒玉》っ!!」
この技は昨日完成させた魔法。当たれば確実に毒を与えることが出来る。効果時間は最高で一時間。毒に耐性がなければ状態異常は通るはず!!消費魔力は8000。当たれば確実に毒にできるが、とてつもなく消費魔力が多いので全力の戦闘では一度しか使えないであろう。
「なぁっ?!」
初めて勇者が驚いた表情をつくる。
そうだ、その表情が見たかったんだよ!!
「あたれぇぇえっ!!」
俺は凄まじい音と光に飲まれる間際叫び、そのまま眩しい光に包まれ、意識を手放した。
せいぜい苦しみやがれ勇者っ――
~~~~~~~
「まさか、あんな手段を使うなんて……」
「まったくお主は戦士……いや魔法クラスか……どちらにせよ……」
二つの聞いたことがある声が響く。そしてどちらも呆れた声を出していた。
「俺はまた死んだのか?」
戦闘をしてたのに白い空間に再びつれこまれたものだからついついこんなことを口走ってしまう。
それを聞いた謎の声は再び呆れたように俺に話しかけてくる。
「また、とはありえませんよ。命は一度きりです。二回目なんてありませんよ」
「お主は一度死んだとでもいうのか? なはは!」
実はそれであってるんだがな。 どこかの女神様がむぅーと唸ってるような気がした。
「んで、なんで俺はまたここにいるんだ?」
「警告の為に呼び寄せました。貴方達が勇者の仲間に激しく恨まれています。それと残念ながら勇者はきっかり三分で毒を克服しました。あのお方は何度も毒にかかったことがあるのでしょう。勇者は貴方を恨んでいませんのでご安心を。寧ろ見直しているようです」
毒を三分程度で克服するとは少しは苦しめられた筈だ。レムと、アルトのやり返しにしてはやはり少ない気がするが
……それと、なぜ俺は見直されたんだろうか。戦法は決して良いものでは無かった筈なのだが。
「それとお主。あの魔法のおかげで更に忌み者とされている。まぁ要約すればさらに嫌われたってことじゃな」
俺には関係ない――じゃないな。これから向かうのって
「気づいたようですね。そうです。魔法学園の生活でも必ず影響があるでしょう。貴方のことだからどうせ行くのでしょう?」
「まぁ、召喚士の時点で嫌われるのは確実じゃ。気にするでない」
なんかそれはそれで悲しいな。いじめに合わなといいが。元の世界ではいくらか友達がいたのでちょっと辛そうだ。
頑張ろう。
いきなり学校で浮くだろう と予測されて微妙な気分の俺であった。
「……ん?お前らって未来予知できるのか?」
俺はついつい聞く。こいつらの言った通り俺は確かに俺は負けた。だが俺と顔を合わせて会ったこともない。話したこともないのになぜそんな予知が出来たのか。
「え、えーとそれはですね……」
「そ、それはじゃな、まーいろいろあるんじゃ。気にするでない」
二人は口を濁しながら話す。てか今なら聞けるな。こいつらの正体を。前回は聞き忘れたが、意識がはっきりしている今は聞ける。
「てかお前らは誰なんだ?何の為に俺をこんなところに呼んだんだ?」
「わー。わー」
「気にするでない」
片方は棒読み。片方は質問を許さない威圧感があった。
「てか片方。なんでお前の口調はのじゃ――」
「さて、そろそろ時間ですね。」
「そうじゃな!!また会おう!さらばじゃ!」
「おいお前らっ……ぐ、眠気が……」
いつかこいつらもいつか負かしてやる……
そう思いながら俺は再び意識を失った。
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「――のせいで――で――な――の――っ!!」
声が途切れ途切れ聞こえる。しかし声に聞き覚えはない。
「だから! ユウはなんも悪くない!!」
アルトの声だ。誰かと口論してるのか?
俺は柔らかいベット……ああ、運ばれたのか。
とりあえず身体をおこし、目をあける。
「ゆう……起きた?」
「ユウっ!! 身体大丈夫?!」
目をあけた途端レムが声をかけ、アルトもいた。
ああ。死んでなかったようだ。
「あんたねぇ?! 私たちのサンガに何してくれてるわけ?!」
「ほんとですよ!?いまミンチにしてあげましょうか!?」
「あの、俺も悪いことはいけないことだと思う」
……誰だこいつら。目の前にはレムと同じような歳の子供がぷんスコと怒っている光景が目に飛び込んできた。
ご高覧感謝です♪