第54話 闘技大会ギルド枠 vsSSランカー
俺はアルトの方に向かい手を振る。
観客はこれまでの俺の活躍を観て、流石にイカサマ行為と言いはる人間はかなり減っていた。いるにはいるんだけどな。
なのでこの場所は静まり返っている。視線が痛い。
担架で運ばれていく大きな男はやはり白目を向いて気絶していた。
次はテュエルの部屋にいるであろう勇者を確認してみることにする。
あのよくわからない奴は にこにこ としていた。それだけなのに虫唾が走る。俺は本能的に身の危険を感じたのだろう。
ステータスを覗きたいところだな。
俺は踵を返し、再び彼女らがいる場所へ戻ろうと考える。近くにいる観客から何ともいい難い視線を浴びることになるだろうがそれは仕方のないことだ。諦めよう。それに待合室にいたら色んな人に絡まれそうだし。
俺はそうして静まり返った会場を後にする
足取りはいつもより軽かった。
~~~~~
「ユウっ?! あれなに?! 魔力とは違うよね?!」
「ワタシも、そう感じました……!」
席に座る前に俺は質問攻めされる。
今更だがこれらの席の形は野球場のような形で並んでいる。全方向どこに座っても一応観れる配慮だろう。
俺は席につき、念話で、曖昧に質問に答える。
(あれは魔力と気功を合わせたもの、とでも言えばいいのか? 良くわからんが)
念話にした理由は周りに人がいるからだ。どんな方法でも対策はされたくはない一心である。
勿論念話のスキルはレムにも付与してある。彼女も空いているスキル枠が結構あった。
また念話はもちろん三人でもできる。携帯電話のようや便利なスキルだ。効果範囲は最大どれくらいなのかはわからない。
(きこう……ですか?)
(なにそれ? 気功なんて能力きいたことないよ?)
どうやらこの世界では気功の意識はないようだ。
強いイメージがなければこの体術のレベルが上がっても出来なかったであろう。体内に宿る気力を使った技だ。
昨日の訓練中出来ないかなー、とイメージしながら訓練していた時に体術のレベルが上がり、その途端自分の中にある 気 というものががしっかりと掴めた。やはり魔法も、スキルもイメージが重要なのであろう。
一通り説明し終えたら二人ははてなマークを頭に浮かべていた。発想がなかったのだから分からなくてもしょうがない。
「そうだアルト。次の試合っていつからだ?」
「えーっと、確かギルド枠の出場人数は合計十六人で、ユウの戦った試合が三試合目。」
「今から始まる戦いの勝者が……ゆうの相手……です」
ギルド枠の出場者は意外と少ない。王国に認められた公式ギルドしかこの枠に正式に参加できないらしいのでそれも原因であるのだろう。
「どれ、次の相手は……?」
テュエルの合図と共に戦い始めた両者を見る。
片方はSSランカーらしいのでそう簡単に決着はつきそうにない。そのランカーは双剣をつかっている女性である。胸も強調するかのような服装出会った。
戦い方といえば、手数を生かした戦法を使用しており、華麗に舞っていた。
明らかにリンクスより洗練されている動きであった。当然といえば当然だが。
もう片方の男ははSランカーであるらしい。
片手剣、盾を装備した男性なのだが、明らかに高ランカーに押されている。
始まってすぐの戦況はSSランカーが有利だったが、時々反撃を行い、ペースを崩そうとしていることからこの男の人も強いはずだ。
どちらが勝っても一筋縄では勝てなさそうだそうだ。
そんな目で観ている俺は最低ランクのFランカーである。
「おらぁぁあ!!」
ついに片手剣の人が反撃に出る。何処か青い光を纏っているようだ。
が、双剣の人も負けじと赤い光を纏う。恐らく強化系の魔法だろう。
俺も取得したがイマイチ使い方が分かっていないのが現状である。どちらかというと無意識で出る感覚に近い。
「もらった!!」
声をあげたのは双剣の人、片手剣を弾き飛ばしがら空きの胸部に向かい両刀で胸部を突き刺す。
バリバリとダメージが変換される音が耳に届き、次の瞬間には片手剣の人が倒れる。双剣の勝ちだな。
「リンより強いね……あの人」
「ギルド代表で来てるもんな。それぐらいの実力がないとな」
俺たちが試合を見ていると、不意にレムはアルトに話しかけた。
「あると、ワタシも……強くなりたい! そして二人を……守りたい」
レムは何か決心した様にアルトを真っ直ぐに見つめ、こう言った。
レムは俺達を守るため強くなる決心をした。なんていい子なんだ……
「だから、少しづつ色々……教えて?」
だが俺はここで考える。この子はやっと解放され、自由になったんだ。再び戦いの世界へ身を戻す必要もない。
「レム……」
アルトも俺の考えが伝わったようだ。少し困った表情を見せる。レムは覚悟を決めた表情で俺達をじっと見つめる。
「僕は、教えてあげてもいいかな……って思う。僕達の世界では強いことは正義だから」
魔族の中でのことだろう。人間の世界で過ごさせるとはいえ、自己防衛ができる程度の実力は彼女につけてあげたいし、やはりそうなれば。
「俺も、手伝うぞ?」
結局俺も別れる事から逃げてしまった。
やはり彼女を見捨ててはおけないのだろう。
「あると……ゆう……!! ありがとうっ!!」
とびっきりの笑顔で返してくれる。これだけで俺は充分だ。
アルトはプルプルと震えたあと、
「もぉぉっ! 可愛いんだからっ!」
とレムを抱きしめていた。なんとも微笑ましい光景である。観客からも俺への畏怖の視線からどこかのほほんとした視線に変わっていた。
するとアルト手をこちらに向ける。レムは彼女の上に手を重ねる。決意表明みたいなものだろうか?
俺はその上に手をのせると、淡い光が俺達を包みすぐに消える。
「はいっパーティ結成! レムも僕達の仲間だよ!」
パーティの追加はこのようにやるのだな。知らなかった――なんて思ってたとかいえない。ここで空気を読まないほど俺はアホではない。
「ありがとう……あるとっ……大好きです……」
再び彼女らは抱擁していた。
俺は二人が姉と妹のようにもみえた。仲良くて何より。
「さて試合は?」
俺はのほほんとした気持ちで会場へ目を向けると..
「あいつか」
身体の一気に熱が冷める。まるで急に温帯地域から南極へ落とされたようだ。
戦っているのはあの勇者だ。
「このぉっ! 化物がぁぁっ!!」
軽くあしらわているナイトのような風格の男は全力で走り、持っている片手剣を振りおろす――が、金属同士がぶつかるような音。ただ、勇者の装備は何も無い。
では金属音はどこからか。
指で止めていたのだ。刃のある片手剣を。
「人聞きがわるいなぁ……俺だってまだ全然本気だしてないよ?」
「あぁぁっ!!」
ナイトは上段の剣戟を繰り返すが、どれも当たらない。そして勇者は一歩も動いていない。
観客はそれを見て盛り上がる。
勇者からは全くの魔力反応を感じない。力の一割も出していないようだ。
「っと、そろそろいいかな。《衝撃》」
回避しながら指をナイトの甲冑に当て、魔法を唱える。
「がぁぁぁぁっ?!」
衝撃波の余韻がここまで伝わるほど威力があった。衝撃は無属性魔法の基本中の基本の魔法である。だが込めた魔力が桁違いであるようで、凄まじい音をたてながら上空へと舞い上がる。
「はい。終わり」
と呟いた同時に甲冑の男が落ちた。結果は...ご覧の通り勇者の圧勝である。
『勝利ぃぃぃぃっ!!三ツ星のサンガぁぁっ!!SSランカーを難なくあしらってしまったぁぁぁっ!!』
そ、それって世界で一人のやつだったよな。三ツ星って……まさかあいつにそんなに実力があるとは、ちょっと驚きだ。
こちらに向けて三つ指を立てる。同時に悪寒が走る。こいつ
「うそっ……三ツ星? いやでも……さっきのあの影響力も見ると」
アルトは深く俯く。顔色も先程まで桃色であった顔色青く、同時に体も震えている。
「大丈夫だアルト。あいつは倒す。だから、安心してくれ」
俺は優しくアルトを撫でる。彼女あいつが勇者だということを知らないが、昔から彼女は勇者と言う言葉にやたら過剰に反応することから、とても大きなトラウマがあることは確かだ。
多分彼女もあいつが勇者ということに気がつき始めているのだろう。
「ユウ……ぅ……」
「あると、ワタシもここにいるよ。だから安心……」
「レム……ぅっ」
先程とは逆にアルトがレムに抱きつく。それにしても、SSランカーをあそこまで圧倒するか。
俺らのギルマスと同じランクだが、その同等の相手でも指一本で圧倒してしまうのだ。末恐ろしいな。
俺は一撃だけでもあいつに当てる手段を探していた。今の俺は攻撃すら当たらないと本能が唸っている。どんな汚くてもいい。どんなに卑怯でもいい。
あいつに一撃を与える手段をそれを繰り返せばきっと……勝てる。
そう考えながら俺は誰もいない試合会場を見つめていた。
~~~~~
時は流れ、ついに次は俺の試合だ。
アルトは幾分落ち着いた。が俺はすこしドキドキしている。既にここで負けそうだからだ。負けたらあの勇者からとんでもない一言が 飛び交いそう なので俺は真面目にやるつもりだ。
「頑張ってね。ユウ」
「ゆうなら、出来ます……!」
俺は礼を述べながら席を立つ。
ここはまだ通過地点だ。負けるわけには行かない。
これに勝利した後は勇者だ。体力はできるかぎり温存したいところ。だが負けてしまったら本末転倒なので、ある程度力を出していこう。
俺は気合を入れ直し、会場へ突入する。
会場の眩しい光が俺を照らす。まだ十一の鐘を過ぎた頃だ。
「貴様が噂の召喚士か。どうぞお手柔らかに頼む」
俺は噂になっているようだ。思い当たる節がありすぎる。
「お前は単なる通過地点だ。適当に相手してやろう」
って、完全に俺の負けフラグじゃないか。挑発の内容ももう少しひねりたかったが、まぁもう過ぎたことだ。
「くくく……噂通りだな。身の程知らずなのか、単なる馬鹿なのか。まぁ、ゆっくりと相手してもらおう。」
「お前ごときにゆっくりする時間はない。俺は俺で忙しいんだ。」
売り言葉に買い言葉。いった本人が負けフラグというものに気づいていながら口が止まらない。これは直さなくては。
じわじわと別の場所で危機感を感じている俺であった。
「一応言っておこう、私はカシア。クラスは双剣士。ランクはSSだ」
「なら俺も紹介しておこう。ランクFの召喚士だ。負けたら……お前のランクがどれだけ落ちるんだろうな?」
Eランクから降格が発生する。条件は依頼の失敗数以外は完全に各ギルドの自己判断であるのでFランカーの俺かつ、召喚士に負けるということはギルドの信頼を相当落とすことになる。
そんなわけだが、悪いが勝たせてもらおう。
「くくく、それはないな。貴様に負けることなど万が一にもありはしない」
「その言葉。覚えてろよ?」
二人は同時に武器を取り出す。カシアは腰から二つの長めの短剣を取り出した。背中に一つ長剣を背負っているが飾かのだろうか?
対して俺は召喚魔法陣から刀を取り出す。
ピリピリとした雰囲気があたりに満ちる。
俺から目をそらさない。SSランカーとは伊達ではないな。
『開始ぃぃっ!!』
開始と同時に俺は風魔法により、足を払う。
今回も風魔法で頑張っていこうと思う。次の試合は使用できる魔法の種類なんてなんて気にせずやるが。
「なっ?!」
カシアは双剣を構えたまま、前傾姿勢で空中に浮く。空中でうつ伏せの様な形の体勢になっていることから相手はカウンターは不可。ここで仕留める。
「らぁっ!」
俺は全力で走るとカシアに肉薄し、刀を振るう
が手応えは無かった。
ヴォンと風を切る音が響く。
カシアは片手で地面に手をつき、その手を支えとして片手でハンドスプリング。
華麗に俺の刃を躱したのだ。よって彼女は空中にいる。意外と高い所に。
「はあああっ!!」
「ぐっ?!」
空中での彼女は双剣を構えたまま、俺に兜割りを試みている。俺はそうはさせまいと少しだけ左に走る。
見事空振りに終わった彼女は着地隙があるはずだ。
俺はそれを狩るため彼女に猛進する――が。
「ふっ!甘いわ!!」
着地して隙があるはずなのに彼女はそのまま回し蹴りを放った。こいつはかなり戦闘に慣れてやがるなっ
「くっ?!」
仕方なく俺は必要最低限の高さでジャンプして回避。したがこれが命取りになった。
「はぁぁぁっ!!《二閃》!!」
俺は空中にいて不安定、彼女はばっちり地上にいて二刀の刃を振るう。
「ちっ!!」
何とか一刀は受け流せたものの、もう一刀が俺に迫る。魔法纏はまだ見せるわけには行かない。空中歩行で飛べば勇者に対策を取られそうで危ない。なので俺が出した答えは――
「なっ?!」
魔法陣から新たな刀を取り出すこと。勿論逆の腕で刀を振るうことは出来るが、二刀流は無理だ。
刀を持っていない左腕で、何とか刀を掴みとり残り一閃をいなす。
重々しい金属音により、衝撃が二人の間で反芻しあい、鍔迫り合いになる。
しかしここで俺は一度離れることを選択した。
俺はいなした後しっかりと着地し、自由になっていた右手で最速で拳による突きを放つ。武芸を使ったあとの隙は僅かにはあるはずだ。
「がはっ?!」
ヒット。重い音と肉を殴る感覚が拳に感じられた。俺はここで距離を開けようとしたが、甘かった。
「っぁあっ!」
カシアは吹き飛ばされながら思いっきり短剣を投げてきた。対して俺は技を放った反動から解放されていない状態であるため、回避できず右肩に刺さってしまう。バリバリとダメージが変換でされる音が聞こえるがそれどころではない。
実際には刺さっていないものの、凄まじい痛みが俺の右肩を襲う。
「ぐぁぁぁっ……?!」
痛みが俺の思考を支配するがここで冷静さを失ってはまずいと思い、地面に落ちた短剣を場外へ蹴りとばしたあと、直ぐにバックステップで下がる。
殴られたカシアは少しだけ吹き飛んだ後に体勢を立て直し、両足でしっかりと着地する。
「はぁ……はぁ……なかなかやるな。あれで決まったとは思ったんだかな」
カシアが俺に向けて話しかけるがジクジクと痛む感覚で聞こえにくい。
先程の接戦は僅か五秒にも満たない時間だったが、俺はかなり大きいダメージを受けてしまった。
これがSSランカーか、正直言って普通に強くて困る。
ご高覧感謝です♪