第51話 闘技大会ギルド枠 前夜
「おいてめぇら」
「うちの子になにしてるのかな?」
俺達は凄まじい威圧感を迸りながらじりじりと近づいていく。
今回のチンピラは威圧というものが分かったようで顔がどんどん青くなっていく。
だが俺達はそれを気にするほど優しくない。
「覚悟は、いいな?」
「「あっ……あああっ……」」
ハゲ二人組は俺らの憤りに全力で怯える。
蹴りとばすか、殴り飛ばしてやろうか迷うな。
「やめてあげなよ」
アルトではない。そのハスキーな声が響いた途端、凄まじい悪寒が走る。
まるで連続殺人犯が俺の背中にリボルバーを突きつけられている錯覚を覚えた。
「くっ!?」
「っ?!」
俺達は反射的に刀を魔法陣から取り出し、首元を狙って振るう。
身体を未強化とはいえ全力で振るったが、風を斬る音のみが大きく響いた。
当たらない、だと?
「へぇぇ。凄いね。普通話しかけた途端気絶するもんだと思ってたんだけど、反撃までしてくるなんてなぁちょっとびっくり」
声がしたのはレムがいる場所。
彼女の方を急いで振り向けば、ただ、撫でられていた。
しかし彼女の顔は青く、身体は硬直している。
こいつ、何者だ? 只者ではない気がする。
「レムから離れて」
アルトは刀を下段に構え風を引き起こさんばかりに重く威圧する。
彼は髪は短髪で焦げ茶色、男だか女だかわからないほど中性的な顔立ち。キラキラとしたこいつの蒼い両目は微動だにしない。
「あー、ごめんね。この子が大切なんだよね」
「当たり前だろ。さっさと離れろ」
「そんな口を聞いていいのかな? 召喚士君?」
俺の事は分かっているようだな。
このどこか余裕のある顔はアルトと同じ雰囲気だ。
ただ、今回ばかりは相手も桁違いに強いことが、彼から放たれるオーラにより理解出来た。相手も相手で俺より実力は上かもしれない。
少々面倒くさくなりそうだ。
「いいから。離れてね?僕が、攻撃する前に」
「あはは、君は全力を出さないと殺せなさそうだねぇ!」
場の空気がさらに重くなる。レムは硬直して動かない。いや……動けないのか?
「……早くどいてくれないか?やる時は俺らは全力で、やるぞ?」
俺も魔力を身体に循環させる。こいつは手を抜いたら即俺が死ぬであろう。
魔力を身体に循環させた瞬間、目の前の性別不明が急にうずくまる。
「ふふ……ふは……あははははははははっ!!」
と笑い出すと急に空を仰ぐ。ここで攻撃したいがこちらをしっかりと見ている。隙が何処にもない。
こんなに無防備なのに何処に攻撃を放っても返されそうだ。
「何がおもしろいのさ。こっちは何も面白くないんだけど」
アルトが殺気を含んだ言葉を言い放つが、こいつには効果がなさそうだ。
「あはは、いいね……!実にいい……! 俺でも君たち二人にはダメージは負いそうだ!!だけど……一人なら、ね?」
凄まじい魔力の奔流が周りで暴れ回り突風が巻き起こる。俺は動けないレムが吹き飛ばされることを恐れ、相手のようすを見ながらレムの元へ移動する。
「ははは!やっぱりね!!《ジャッジメント》」
「?! ユウ?! よけてッ?!」
性別不明は直ぐに俺に腕を向けた。上からありえないくらいの魔力反応。
その途端極太のレーザーが真っ直ぐに降ってきた。
――がなにかをしてくることは予測済みだ。
俺はレムを優しく抱きしめると、障壁、そして、魔法纏・土を瞬時に纏う。上から降り注ぐ魔法は早すぎて避けられる気がしない。
「ユウぅぅッっ!?」
レーザーが地面にぶつかると同時に辺りがさらに激しい光に包まれ、大きく爆発がおこり、大地が揺れる。
「つぎは――君かな?」
「っておいおい、勝手に殺してもらっては困るな」
「へぇぇ」
俺はレムをだっこしながら砂埃から歩いて出ていく。
というものの正直危なかった。障壁もあったのに土の魔法纏が無理やり引っペがされた事からコイツの攻撃はもう受け止めることは危険だ。
「ぁぁ、ゆうっ……っ」
レムがきゅっと俺の服を掴む。俺もちょっとだけ怖かったのは内緒だ。
「そっちだって隙があるよ?」
いつの間にかアルトが性別不明に肉薄し、刀を上段に構えてあり、後は振り下ろすだけだ。
が、性別不明は相変わらず余裕な表情だ。なにかしてくるか?
「っ障壁っ!!」
俺は急いでアルトに向けて障壁を纏わせたその瞬間。
「マリエル」
と、性別不明は何かの名前を呼ぶ。顔はヘラヘラしていて表情に焦りは見えない。
「はい。――様」
その刹那にアルトの刃は性別不明の後ろから凄まじいスピードで接近してきた何かに弾かれた。
「なっ?!」
影は二刀流のようで、アルトの刀を弾いた剣とは逆の剣でアルトに猛襲する。
甲高い音を立てて割れたのは、俺の障壁だ。
「っ?!」
攻撃が当たらなかったことをしっかりと実感したであろう影はバックステップで性別不明の元へ戻る。
アルトは追撃せず、俺の元へ戻る。
「う、危なかった。ユウがいなかったらまずかったかも……」
「なんか怪しかったからな。取り敢えず気にするな。」
俺はレムに状態解除をかけながら返事をする。
彼女はガタガタと震えている。
怯えなどには効果がないようだな。
「申し訳ございません、もう少し早く来るべきでした」
フードを被って良く分からないが恐らくアルトと同時ぐらいの身長だろう。障壁を軽々と破ったことから攻撃力は並大抵以上である。
「タイミングはバッチリだったけど、召喚士君。なかなか君は判断能力がすば抜けてるね。僕の表情から読み取るとは!」
「そりゃどーも」
俺は軽々と返したが、正直今の状況はかなり不利だ。こっちにはレムを人質に取られる可能性だってある。障壁は残り三回。
焦らず素早く頭を回転させよう。
「あははっ、召喚士君!」
突然に俺を呼ぶ。不意打ちを狙ってるつもりか?
こいつならやりかねないな。さっきだって完全に狙ってたし、油断は絶対にいけない。
「なんだ?」
「君は、ギルド戦にでるよね?」
なんでその事を知っている?とか話を広げない。なんとかこの状況から抜け出なくては。
「ああ。そうだな。だがこいつは出ないぞ」
念のためアルトが出ないことを伝える。経験上こいつからは戦闘狂の匂いがする。
「やっぱりか!! 俺はギルド本部代表で出ることになっててね。それと君は来てないようだから伝えるけど俺が大人枠の優勝者だよ。驚いたかな?」
「ということはお前は俺以上の年齢か」
中性的で、身長も俺より低いため、全くそのようには見えないが、こいつの実力の限界も見えない。これが相手なら、賞金は諦めた方がいいかもしれない。
「召喚士君。明日から闘技大会ギルド枠が始まるよ? 途中手を抜いたら君の大切な人が……どうなるだろうね?」
「お前は、何者なんだ?」
こいつなら本当に発言したことを実現するための実力は充分にある。俺一人では多分勝てないだろう。だから、気になる。
侍らせているこの灰色のフードローブの女も相当な実力を持っていることからロクなやつではないことは確かだ。
「あはは!! やる気になったね!! 俺の正体は――まぁ、明日嫌でもしることになるだろうね!!」
「ユウに何かしたら、僕がお前を殺す」
「そんなことはさせません」
アルトは殺気を放ちながら話し、ローブの女も負けじと言いかえす。
レムは震えている。彼女にこんなことにした礼はしっかりと払ってもらおうか。
「あはは!!気合い十分だね!!なら俺達は失礼するよ。因みに開始時刻は午後からだ。期待してるよ。んじゃマリエル。っとそうだ。王国の姫様の使者が言ってたけど、君の魔法学園の入学は許可されたらしいね。手紙も届いているんじゃないかな? じゃいくよ。マリエル。」
「はい。《ワープホール》」
ローブが魔法を発動すると空間に亀裂が走り、穴があく。どうやら俺達は見逃すようだ。
「あはは!!召喚士君の実力。明日じっくりと見せてもらうよ。
そういうと亀裂の入った空間はグオン、と音を立てて閉まる。
空気が一気に軽くなり、どこか周りが明るく見える。ハゲ二人はとっくに気絶していた。
「レムっ?! 大丈夫? 怖かったね……」
「うぁぁ、あると……こわかったよ……」
レムはアルトに抱きつき泣き始める。
流石にあれは気絶してもおかしくないぐらいの威圧感だ。一般なら確実に気絶するのにこの子はしなかった。やはり強い子だ。
テュエルに頼んだ魔法学園の編入権はなんとか保持してくれたようだ。あんな姫様だが、できる方なので安心だ。
「ユウ、あいつ誰なんだろ。やっぱりどこかで会ったような――」
「分からないが只者ではないことは確かだ。この世にあんなやつがいるなんてな」
「なら、あいつはどうする?」
アルトは変身の姿での茶色の両目は何かを期待しているようにじっと見ている。
「ああ。ここまでやってくれたんだ。勿論、潰してやるよ」
俺は殺気を全開にしながら性別不明が消えた空間に向けて言い放った。
勝てない相手だろうが、レベル差が100あろうが、負ける気はない。
レムをここまで怯えさせてくれたのだ。許すつもりはゼロである。
俺達は再びレムを挟んで手をつないで宿へ向けて足を進める。二人が寝たら、何度も修行した場所へ向かうつもりだ。あの技を完成させるために。
50話目こえました!
ここまでモチベが下がらずに更新できたのは見てくださる皆様のおかげです!
これからもどうぞ宜しくお願いいたします!
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