表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七罪の召喚士  作者: 空想人間
第四章 闘技大会
49/300

第49話 それぞれの想い

 ……流石にこれは食べ過ぎなんじゃないか?


 彼女の胃袋に最初パンが放り込まれてから、今は五個目に入っている。

 なにも食べてない状況とはいえ、こんなにいきなり食べたらお腹を壊すであろうに。


 というわけで俺はこれが最後と言うと、彼女は口をもごもごと動かしながらも頷いた。視線は合わしてくれなかったが。

 アルトはうつ伏せでニコニコしながら狐の子を眺めていた。


 余談だが、パンのサイズはよく見るコッペパンのサイズにしてある。これを五個も食べるというのだから驚きだ。


 狐の子彼女は最後の一欠片を口に放り込み、飲み込むと、ふう、と一息をついた。どうやら安心出来たみたいだな。

 どの世界も美味しい料理に安心し、精神が安定するのは同じであるようだ。


「美味しかった?」


 アルトは相変わらずニコニコしながら狐の子に質問すると、彼女は声を震わせ、目線を逸らしながら答える。


「わ……私のような、卑しい、立場に……お恵みを頂き、ありがとう、ございます……っ!」

「え、あ、うん……」


 その言葉を聞いて俺達はついつい絶句してしまう。

 この怯えや、口調を取り除く事は出来ないだろうか?


「うーん、どうすればいいのもかな」


 俺が考えているとアルトが助け舟を出してくれた。


「とりあえずさ、キミの名前教えてくれるかな?」

「そ、そうだな。色々聞きたいが名前も知りたいところだ。」


 名前を知らなくては呼ぶときに色々不便であろう。

 すると彼女は驚いた表情をし、再び震えた声でボソボソと話す。


「あの、奴隷に名前は不要……かと……」


 そんなことを言ってしまうので俺は再び困った表情を作ってしまう。すると狐の子は俺の表情の変化を敏感に感じ取り、


「あ、ああっ……申し訳ございま、せんっ……とんだ、無礼を……っ!」


 彼女は床に頭をつけて、土下座の構えを取る。

 いやいやいや、なんでそうなるんだよ。


 取り敢えず彼女を無理やり起こし、ソファーへ座らせる。起こした時に身体に触れた時には相当こわばっていたので、殴られると思ったのだろう。

 悪いことしちゃった感が否めない。


 だけどこの言葉を言うまで俺は止まれない。

 簡潔に伝え、意味を正確に理解してもらうために


「……あのな」


「は、はいっ!」


「相当辛い目にあってきたのは分かるが、もうあの貴族は俺が殺したんだ。もうあいつと同じように受け答えする必要はないぞ?」


 すると彼女は涙を溜めている目をこちらに向け、不思議そうな表情をする。


「……えっ?」


「だからな、もう。もう普通に生活していいんだ。奴隷の立場は今を持って終わりだ。もう普通に生きていいんだよ」


 その言葉を言ったと同時に彼女のボロボロの首輪が外れる。


 本で読んだが、首輪は奴隷の証であり、所有の証である。そして奴隷の首輪は魔法が付与された道具、この世界ではそれを魔道具と呼んでいるが、それは所有者が奴隷という立場を解放してあげれば、直ぐに外れる物だ。


 所有者は貴族であったが、殺した俺に移り変わっていたらしい。


「……えっ……首輪……が……っ!?」


「そーだよ!もう自由!上の立場なんてない!」


 アルトが手を広げながら言い放つ。

 彼女は未だに困惑している。


「ない、ないない?!……あの首輪が、ないっ……?!」


「ほら,キミはもう自由だよ。僕の愛だって感じ取ることはできるよね?」


 アルトはゆっくりと、そして優しく狐の子を抱きしめる。


「……ほんと、に……自由……?」


 アルト撫でながら答える。


「そうだよー……もう表情を気にしなくてもいいんだよー……」


「ぁっ……うぁぁっ…………うぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 狐の子が彼女の中で泣きはじめる。これで彼女もようやく自由だ。

 俺の心の枷がひとつ無くなったような気がした。

 俺はゆっくりと、静かに部屋を出ていく。


 宿屋の料金の彼女分を払わないといけないからな。こんなに感動的なシーンなのに金払えとか言われたらたまったもんじゃない。


 泣き声が聞こえる扉を背中に俺は部屋を後にした。今日は寝れないかもしれないな。


 部屋的な意味で。



 ~~~~


 俺は結局おばさんの好意により、ロビーのソファーで寝かせてもらった。狐の彼女の宿泊費諸々のお代は勿論払っている。


 目が覚めた時には周りに何人か人がいて、新聞のようなものを読んでいたり、街を見ながら飲み物を飲んでいたり、何とも静かな朝であった。

 俺は座りながら寝ていたので首が痛くなっていた。次からは横になって寝よう。次がないことを祈るばかりだが。


 ゴーンゴーンと鐘が聞こえる。計五回。

 そういえばシーナと出会った日もこの時間帯だよな。あまりにも印象的な出会い方だったからよく覚えている。


 アルト、狐の子を気配探知で見てみても。全く動きを感じ取れない。どちらも眠っているのだろう。勿論俺の部屋でだ。こればかりは仕方ない。


 お腹がすいたので再びギルドへ行き、何か食べることにしよう。それとギルマスはしばらくはギルドへ戻ってこないらしい。闘技の一般枠から引き抜きでもするのだろうか。


 彼女に出会わない事を祈りながら俺は立ちあがり背伸びをする。

 筋肉痛があることと、首が痛いこと以外はいつもどおりだ。


 さて、なにかギルドへ食べに行こう。



 ~~~~


「っと、凄い奇遇ですね」


「もう確信犯だろ、シーナさんよ……」


 宿から出た途端にエンカウントした。どちらかというと宿の前にある石の長椅子に座っていた。扉を開けた途端に射抜かんばかりの視線を浴びた。ずっとスタンバってたか。隠れんぼじゃないんだからよ……。


「これから何処へ行く予定ですか?」


「前あった時と同じ目的だ。また俺の命を狙ってるのか?」


 俺は当り障りのないように答える。内容は障りあるが。


「いえ、私はもうその依頼を失敗しました。指名依頼を失敗した身なので、私は本部ギルドからこちらのギルドへ移動させられました」


 指名依頼を失敗すると転勤とかこの世界厳しいな。まぁ俺はそこまでランク上げるつもりはないし、これからも面倒ごとに巻き込まれないためにランクは上げなくてもいいのかもしれない。


「そりゃ災難だな」


「ええ災難です。貴方のお蔭で。闘技でも貴方に負けますし」


 強調しながらシーナは言い放つが、俺の知ったことではない。

 彼女はご愁傷様とだけ伝えた。そして俺は彼女の脇を通り過ぎようとするが


 袖を掴まれ止められる。


「っと……なんだよ?」


「ここに来た目的は貴方に質問するためです。率直に言います。貴方、魔法学校に行くそうですね」


「イカサマだろうが、突破したからな。まぁ審議の程はわからないが、そうだとしたらなんだ?」


 何処から聞いた?とか話を広げることはしない。ただでさえこいつの言っていることは出任せで、俺の命を狙っている場合もある。油断は禁物だ。

 まぁこれだけ格好つけて悪い子お断りだったらすごく恥ずかしいかま。


「私も入ります。そして、同クラスになるでしょう」


 彼女は淡々と、そしてどこか含みのあるこの雰囲気から、何か危険なことを言うことは俺の経験上確実だ。言葉を遮り、俺は全力ダッシュする、が。


「うがっ?!」


 結界が貼ってあり、鐘が響いたような重い音を発生させつつ、頭をぶつける。

 当然そのままフラフラになる。


 視界がぐにゃりぐにゃりと曲がり、混ざる。彼女はため息をついて、何かを言ったのは分かるが声が聞こえない。


 視界が次はポツポツと暗くなっていく。

 ああ、これ経験したことがないが脳しんとうなのかもしれない。


「――――」


 何を言っているのか分からない。が転移魔法ぐらいはできるはずだ。


 俺は転移魔法を発動し、一番馴染んだ部屋に戻る。


 ああ、くらくらする。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「すぅ……すぅ……」

「ふふふ、ゆっくり寝てるなぁ……」


 僕は彼女を見て子供が出来たような気分になっていた。子供が出来たらこんなかんじなのかなぁ。


 魔王という立場にいるものだから、お見合いとか色々あったけど僕の心が揺らぐことはなかった。


 僕だって何年たっても女の子だ。守るだけじゃなくて守ってもらいたい。だから、僕より強い人がよかったんだ。

 でもそれは、高望みだなって何回も笑われた。僕を無理やり襲おうとした輩もいた。


 強ければそれはそれでよかったんだけど、やっぱり弱かった。だから僕は守ってくれる実力を持っている人が良かったんだ。


 そしてユウは僕を超えた。


 切られた瞬間は痺れる感覚と、頭がぼーっとする感覚。痛くなかった。むしろ何処か心地よかった。不思議な感覚。マゾではないんだけどね。


「これが、恋なのかな……?」


「……恋、です。きっと…………」


「……起きてた?」


「えと、今起きました……です」


 完全に聞かれてたみたい。恥ずかしくて顔を布団に埋める。


「ある、と、さん」


「さんつけなくっていいって、もう」


 僕たちはユウが出ていってから色々なことを話した。

 彼女の身の上話が殆どだったけど、身近な話から、恋の話まで全部。眠りにつけたのはほんの一時間前くらいかもしれないかな。

 恋とか、こんなことを考えてる原因も、この子のおかげなんだけどね。


「ワタシは、……ゆう? がパンをくれたとき、そして、あるとがワタシを抱きしめてくれたとき、あったかくて、もっと一緒にいたい気持ちでいっぱいになりました……です。これも、恋だと思いますっ! だから……」


「……ユウのことも好きなの?」


 僕の事は置いておいてユウが好きってことに素早く反応したことに驚きだった。僕は先程とは違う何か陰湿な感情が芽生えてることに気がつく。


「多分、すき。でも、……あるとの方が、すき、です」


 そういってこの子は自分から僕を抱きしめてくれた。この時に先程の陰湿な感情は既になくなっていた。


「……ごめんね。すこし勘違いしてたみたい。」


 そう言って僕も抱きしめ返す。ユウとは違う愛しさ、これも、恋?いや……愛……なのかな?


 しばらく二人で浸っていると近くから眩しい光。


 ……ユウの転移魔法?


「ああ……ベッド……俺はもうダメだ。あとは任せる……」


 そしてユウはベッドに――ダイブするの?!


 ドスンとベットに遠慮なく倒れる。ベットが半分空いていたところに倒れたので、僕達が潰されるということは無かった。


「ゆゆゆ、ユウ?!」

「怖い……です」


 恐る恐るユウを見ると


「すぅ、すう……」


 寝ていた。


 色々な感情が混ざって、ドキドキして、僕たちは二度寝をすることはできなかった。


 ユウのバカ。


ご高覧感謝です♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ