第48話 救出、その後
「……」
じーっとこちらを見ている。まるで何が起こっても動じない石像のような表情だ。その暗い瞳はこの世の全ての苦痛を味わったかのようなを目をしていた。
「取り敢えず解放するぞ?」
俺は彼女を拘束している魔法具を取り出した刀で拘束していた魔道具を二振りで破壊する。
金属が落ちる音と共に彼女の腕、足が拘束から解放されて、だらんと垂れ下がる。
彼女を改めて見ても、目を背けたくなるような生々しい傷が多数刻まれていた。あの貴族は相当虐待をしていたのだろう。腕、手には大きな傷跡や、殴られて青くなっているところが多々ある。
しかし彼女は何も変わらなかった。態度も、表情も。よほど辛い事続きで、もう生きる希望もなくなっていたのだろう。全てを諦めている佇まいだ
「……」
彼女は動かない。目は虚ろで何処を見ているのかも分からない。
しかし唐突に変化がおとずれる。
ふっと、前傾姿勢になり、俺に向かって彼女は倒れ始めたのだ。
「おっと……」
俺は彼女を支え、優しく抱きしめ頭を撫でる。
「辛かったな……辛かったな」
俺は聖魔法の回復魔法を発動しながら彼女を撫でながら俺は優しく心に寄り添う。
あの時、俺が一番求めていたこと。それは、理解をしてくれる存在。慰めてくれる存在。
その存在がいるだけでどれだけ世界が変わったことか。
しばらく優しい声をかけ続けながら撫でていると彼女が俺の腕の中で急にふるふると震える。
「ぁあ……あああっ……うわぁあああああ……」
そして大きな声で泣き出した。俺は泣いている彼女に向けて再び優しく声をかけた。
「よく我慢したよ……ここまでいっぱいよく頑張ったよ……」
俺も過去の事を思い出して泣きそうになるが、ここで泣いたらなにかが壊れそうな気がしてぐっとこらえる。
再び泣いている彼女をあやしていると念話が飛んできた。
(ユウ?あと三分でカルマートが切れるよ!奴隷の子取り戻せた?)
(ああ。おかげさまでな。この屋敷は証拠隠滅のためにここにいる全員を消すつもりだが――どうも警備員の様子が怪しい。ほとんど全員が気配探知とは別の生物に変わってるんだが……)
階段を降りて接近していることも既に探知済みだ。完全に先程とは違う敵意がある。先までは敵意というはっきりしたものであったのだが、何故か今感じることが出来る気配は飢えた狼のような餓えににた気配を感じる。
(それのことなんだけど、ここ、魔物の研究していたらしくてさ。魔物化する薬も作っていたらしくて、それも、見回りの人達にも投与されてて、人間だった人たちが皆もう魔物になってる。もちろん僕からしたら大したことはないけどさ、人間を魔物にするなんて……信じられないよ)
(あいつらって、まじかよ。魔物になったのかよ……いったいこの世界の貴族はどうなってるんだ……?)
(分かんないよ……とりあえず早く戻ってきてね?)
(了解した。すぐ戻る)
そう言って俺は念話を切る。携帯電話のような便利なスキルだ。
それにしても、魔物化とは……この世界の人権に対する意識はどうなっているのだろうか。
こんなことが許される筈がないんだが。
彼女は撫でているうちに眠ってしまったようだ。
あいつらも迫ってきていることだし、逃げるか。
「転移魔法発動」
俺達は光につつまれ、外に向かっていった。
「ユウっ! 無事だよね?」
転移し終えていないのに、眩い光の向こうから声が飛んでくる。アルトの声だ。とても安心する。
「っと、お陰様でな」
俺はお姫様だっこで奴隷の子を連れてきた。
「……ユウ? その持たれ方、やられる方はかなり恥ずかしいんだよ?」
「そうだったよな。まあ寝てるから大丈夫だろ」
奴隷の子は時間をかけた回復魔法によりほぼ傷は見当たらなくなった。
アルトはすこしむっとした表情だ。感謝が足りないって言いたいのだろう。
全て終わったら言葉でしっかりと伝えることにしよう。
「さ……音消し頼むぞ?」
「はぁ仕方ないんだから……ユウは僕がいなかったらどーするのさっ!」
アルトは話しながら大量の魔力を込めた。
ほぼ何も聞こえないのでこれくらい消音してくれたなら俺が派手にやっても大丈夫だろう。
ほぼ音のない空間で、貴族の屋敷に向け俺は最大級の範囲魔法を放った。魔物化を解く方法なんて俺は知らない。悪いが一気にやらせてもらおう。この辺に誰もいないし、そのうえアルトの防音結界も貼っているので、ここで音が漏れたとしても被害が周囲に及ぶことは無いだろう。
「《星屑堕とし》」
魔法を起動した瞬間、空からひゅうううとなにかが落ちてくる音がする。
俺が落としたのは土魔法を最大まで質量を高め、そして炎でコーティングした隕石に近いイメージを持つ土と、炎の複合魔法だ。勿論結界を破らないちょうど良いサイズにしてある。
「えっ……」
「さて……逃げるぞ?」
音がどんどん大きくなる。低くなる。
俺たちは全力で宿へ向けて走る。
が、俺たちのスピードでも衝撃波には負けた。
この世界全体を激しく揺らす。消音にしたのに凄まじい爆音が飛び回り、衝撃波が森の中にあった貴族の屋敷の周りの木々を木っ端微塵に吹き飛ばしていく。破壊の波はあっという間に俺らに追いつく。
「……これは想定外だ」
「ユウのばかぁぁ!! 少しは焦ってよぉぉっ!!」
俺は衝撃波が当たる前に魔法纏を使い土属性を纏い、アルトと狐子にも纏わせる。茶色い光が俺たちにを包む。これで衝撃波で吹っ飛ばないはずだ。
ちなみに付加効果は防御力を上げ、吹き飛ばない だ。その代わり足が動かなくなってしまうが。
衝撃波は結界でも抑えられないらしい。いい勉強になったな。
貴族の屋敷がある森の中からは爆音が通り、通った瞬間には衝撃波が辺りの木々をなぎ倒す。
先程までいた屋敷を見ると火災にはなっているが、炎は広がっていない。結界は壊れていないようなので安心だな。
「ユウぅぅっ!もうこれバレるバレないの粋を超えてるからね?! 」
「……あっ転移した方良いんじゃないか?ここが遠い場所とはいえ、宿への影響も気になるところだな」
「僕も早く帰りたいよ……もう作戦なんて滅茶苦茶だよ……」
作戦内容は範囲魔法で屋敷を消すという作戦だ。
別に間違ったことはしていない。
(アルト、手を掴んでくれ。転移するぞ)
叫ぶのがもう疲れたので俺は念話で話す。
久々に大声をあげた気分だ。
俺は彼女を掴むため、狐子を片手で持ち上げて、肩の辺りで持つ。アルトは動かない体制のまま必死に手を伸ばし、俺と手が触れ合う。
「転移魔法、発動」
爆音が響くなか、俺たちは宿へと戻った。
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宿に戻ると色々と大騒ぎだった。
やれ隕石だ。やれ天災だ。やれ魔族だ。と色々な騒ぎになっていた。俺たちは直接部屋に移動したため怪しまれずに済んだ。
「あああ……もう疲れたよー……」
と言って部屋に戻った途端 俺の ベットにダイブする。狐の子はベットで休ませてやろうとしたが、アルトが占領してしまったためソファーで我慢してもらおう。
それとどさくさに紛れて感謝の言葉を伝えるなら今がチャンスだ。
「アルト、ここ俺の部屋な? それと今日はありがとな。お前がいなかったら違う騒ぎになっていたかもしれない……」
と俺はどさくさに紛れて言ったつもりだがアルトはしっかりと聞いていたようで、ベットの上に土足で立ち上がり、腰に手を当てながらドヤ顔でこういった。
「これだけ頑張ったんだもん。僕のお願いも聞いてくれるよね?」
魔界で魔王代理やれとかそういうめんどくさいことを頼まれたらどうしようかと考える。
「……叶えられる範囲ならな。貸しも一つあるし」
と念のため保険をかけておく。彼女のお願いはなかなかレベルが高そうだ。
「僕欲しい本があるんだけど……一緒に探してくれないかな?」
意外と庶民的な発想に驚きを隠せない俺であったが、アルトは一つ付け足した。
「ちなみに、このお願いは、誰にも話さないで欲しいんだ」
「いやそれは一向に構わないが……そんなのでいいのか? それと俺は世界で一つしかない魔法書を買える程お金もないが」
多分彼女のスペックなら本といっても国宝級のものだろう。なにせ魔王なのだから。そんな本だったら一億Gは軽く超えてしまうしな。
「僕が欲しいのはね……これ」
アルト1つの紙切れをポケットから取り出す。
開いて中身を見てみると色んな魔法陣が描かれている本――の写真が二つ映し出されていた。
「禁書・グリモワール、呪書・ガルドラポーク?……如何にも危なそうな本だな」
名前からして危ないやつだろう。なぜこんなものが欲しいのか……魔王だからか。男がロボットをかっこいいと思うように、魔王が魔書が欲しいのなら当然なことなのだろうな。ここで聞いちゃいけない気がする。
「実は僕が書いた本なんだけど、無くしちゃってさ。これが第三者の人の手に渡ると凄く、大変なの」
ってお前が書いたのかよ というツッコミを心の中で言う。アルトは至って真剣な表情で話しているので口には出せなかった。
土足でベットの上に立ちながらだが。
「だからさ協力して欲しいんだ。それに二つとも人間界にあるらしくてね。魔法学校へ行く理由の一つはこのためでもあるんだ……」
一つ、というには他に理由があるのだろう。まぁ聞かないでおいておこう。好きでもないやつが女の子に踏み込みすぎるとどうなるかなんて想像したくない。
「だからさ……お願いっ!!」
アルトは両手を顔の前でで合掌させながら俺に頼む。やはり土足でベットの上に立ちながら。
状況はどうあれ、俺の返答は、もちろん決まっている。
「そんな願いは貸しでもお代もいらんぞ? 俺たちは仲間だろ?」
少し恥ずかしくなってしまったが、最後まで言えたことに誰かに褒めてもらいたい気分だ。実際は遠慮するが。
「……グリモワールとガルドラポークがもし、誰かの手に渡っていたとしたら確実に戦闘になるよ? それでも?」
「なら尚更だな。俺はお前より弱いが肉壁にはなるだろう? ……守ってやるってつい最近言ったばかりだしな」
俺は更に恥ずかしくなり目を背ける。
すると彼女は――
「ユウぅぅっ! ありがとうぅ!! うっ?!」
ベットの上で飛び跳ねて喜んでいて、頭をぶつけた。
「はぁぁ……本当に大丈夫か?この魔王様は」
俺は痛がるアルトに回復魔法をかける。
「あはは……そういえばユウ、全然つかわないけど回復魔法できるんだね」
アルトはどこかトロンとした表情で俺に寄りかかる。
しばらく耐えていたが物凄くドキドキしてしまい、途中だが俺は魔法を中断する。心臓の鼓動が聞こえたかもしれない。
「あれ? おわり?」
眠そうな表情でアルトは俺に問う。
じぃっと俺を見てくる赤と青の瞳は、俺の精神を何処か大変な方向に消し飛ばしそうだ。
「後は、自分でどうにかしてくれ。俺も女の子には敏感なんだよ」
「えっ。どこがさ。鈍感でしょ」
「え、敏感なんだが」
「「えっ」」
その言葉を放つとソファーに座っていた狐の子がなんと事前動作もなく、体を起こす。
「あっ起きたみたいだな」
「あ、変身魔法つかえるんだね。前は獣耳見えなかったけど今見えるなぁ」
「……」
俺達を見つめてくと徐々に顔の色が青くなっていき、直ぐに表情が絶望的なもの代わる。
小さく丸くなり、身体と声を震わせて彼女なりの全力の抵抗と言うことがはっきりと分かった。
「……痛くしないで……ください……っ、もう……あれ以上は……ワタシ……っ」
目に涙をためながら怯える。
彼女をあらためて見てみると、ボサボサの銀髪に、その色にあった狐耳。飾り物ではなさそうである。
肌色、顔つきは完全に人間だが、頭の上では狐耳がぴくんぴくんと動いている。
「相当酷い目に合ったらしいね……」
「……だな」
俺はゆっくりと近づいていき、《物質創造》により、いつか食べた卵パンを創り出す。
物質創造では食べ物ももちろん創れる。が、その創った物を自身が食べると味もその後も大変な事になる。
あのまずいわかめでもお腹を壊さなかったのに、物質創造で作り出した食べ物を食べると十中八九腹を下してしまう。
しかも、無理して食べても空気をお腹に入れたような感覚しか感じられない。
魔法で食べ物を生み出せると思ったが、神様はそう簡単に魔法の使用者には食べさせてくれないようだ。
まとめると、この魔法により創った食べ物は第三者には与えられることはできるが、その作者は「食べられるが食べられない」ということになる。自身の魔力は食べられません。ということなのだろう。
以前アルトは魔法により作り出した食べ物は美味しく食べてくれたので、とりあえずあの味が再現されていることだろう。
俺は食えないが。
アルトは水を持ってきて狐の子へと渡す。
「……っ……ワタシを……どうしたいんです……か!? もうワタシには何も無いんです……っ!」
「安心して? 毒なんてはいってないよ?」
「とりあえずこれを食べろ。話はそれからだ」
狐の子とパンと水を受け取る。
まぁ無理に渡したんだが。
「……っ……」
ぎゅううと狐の子お腹がなる。やはり相当お腹は空いているようだ。
「ほらほらー食べちゃいなよー?」
アルトは無理やり狐の子の手を持ちパンを口へと運ぶ。
「んー……!んー……!」
涙目になりながらパンを噛み、こくんと飲み込む。
「……おい……しい……?」
それから彼女は一心不乱に飲み込み、流し込む。
あっという間に食べ終わった後さらにぎゅうううと更に狐の子のお腹がなる。
俺は再び創り出し、アルトは水のおかわりを渡す。
「おいしぃっ……おいしぃよ……!」
彼女はしばらく涙しながら無我夢中で食べ続けていた。
ご高覧感謝です♪




