第44話 闘技大会2日目 決勝戦 決着?
とにかく暗い。先程とは違い、空気もどこか重い。そして体からどんどん魔力が抜けていく。
それに観客の声、実況の声のどちらも聞こえない。
ここはどこだ?
「ここはね、僕だけの空間」
声が響く。それと同時に、ガスコンロのように俺の周囲で青い炎囲い込むように、突然燃え上がる。
それはすぐに小さくなり、足元で松明のような大きさの炎で留まり、四方へ散っていって壁に衝突する。それにより、あたりの光景がぼんやりと見て始めてきた。
どうやらここは大部屋ようだ。それもなかなか広い。高校の体育館よりも大きいのではないのだろうか。
とにかく、動きまわるには十分過ぎるくらいだ。天井はあるのかどうだかわからないぐらい高い。
「ようこそ。僕の空間へ」
目の前に炎が立ち上り、それらは左右に分かれて道を作るように真っ直ぐ次々と燃え上がる。
その炎の道の先に見えるのは、アルト。
豪華な装飾がほどこされている玉座に座り、頬に肘を突きながら俺に言い放つ。
そのようすは魔王という言葉がぴったりあう佇まいであった。
彼女の変身は解けていて背中には黒い羽があり、赤と青のオッドアイという、初めて出会った状態に戻っている。
他に違う点を上げるならば、彼女の存在感が先程までとは比べ物にならないくらい強く感じられるようになっていることだ。
思わずひれ伏しそうになりそうな威圧感がある。
「ならここは観客に見えないんだな?」
「そう。ここには僕とユウしか入れてないからね」
「どうやったら出れる?」
「どちらかが魔力切れか体力切れで倒れるまで。あいにくダメージは変換されるらしいけど……ね」
なるほどな。ここなら彼女も全力で戦えるし俺も全力で戦えるって訳か。
少し整理してみると、この場所は彼女の魔法で作った空間で、その中で俺は戦わされるらしい。
「勝てる算段をしてるみたいだけど、この空間に入った時点でユウの負けは確定してるんだよ。理由はこの空間に僕以外の人が入ると相手から常時魔力を吸い取らせてもらってるからね。それに――」
完全に悪役の顔で玉座に座りながら俺に言い放つアルトであったが、俺は彼女の言う通り魔力を常時吸い取られて、力が抜けていくのだ。
この暗い空間から抜け出るため、早く勝負を決めたい一心である。
魔王に向け手をかざす。話に夢中なのかこっちを向いていない。チャンスである。いまやこの場所は彼女の領地。不意打ちでも何でもない。
俺は《物質想像》を使い、最速でアルトに向けお馴染みの鍾乳石攻撃を放つ。
「だからね、ユウは――?!」
アルトは飛翔し、驚きつつも回避する。
俺の放ったすり鉢状に尖らせた鍾乳石は、凄まじいスピードで飛んでいき、玉座を完全に破壊する。
「はぁ、ユウ……僕説明してるんだけどさ」
彼女は空を飛びながらジト目で俺を見てくる。
「魔力が取られてるんだ。俺からしたら早く決めたい気持ちはわかるだろ?」
「いやでもさ、「ここはどこだー!?」 なんて、焦ったり……しないか。ユウだもんね」
「そりゃな」
そんなこと言っているあいだにも俺は風の刃を放つ魔法をひたすら打ち続けている。
それに比べてアルトはブツブツ語りながらもまるで蝙蝠のようにひらりひらりと攻撃を躱すのでどうにも腹立たしい。
魔力を吸い取られているとはいるが俺は遠隔攻撃は魔法か、大量の刀しかない。
「早く降りろ。こっちから行って欲しいのか?」
そう声をかけるとするとこちらに気づいたようにわざと振る舞い、こう言い放つ。
「あっ、ごめんね。気がつかなかったよー」
そうにこにこしながら俺を見つめる。
こいついつの間に挑発を執拗にするようになったんだよ。いや、これが彼女の本性なのか?
「なら、気づかせてやるよ!! まずは地に落ちな魔王様!!」
俺は挑発に乗り、土魔法である《引力倍加》を彼女の下へ向け放つ。
「おっとと」
急な出来事でもにアルトは口調を変えるだけで慌てたようすはない。
引力に従いなかなかのスピードで地面に向けて落ちたのに、くるりと一回転し、華麗に着地するだけ。
全然効果がない。
「さてと、やる気も十分みたいだし、僕もそろそろ行くよ?」
彼女は目を見開く。すると今までの彼女の存在感がより一層強くなり、どこかほんわかした雰囲気が裂風と共に吹き飛ぶ。
「……俺も本気を出さないとまずそうだ」
俺は再び魔力を巡らせる。集中力は先程より上がっているだろう。
「《グラーヴェ》」
彼女がそう呟くと急に彼女の魔力の流れが急変した。
彼女自身が巡らせる魔力も凄まじい。空気が更に重々しくなる。
目の前で魔力が爆発するような錯覚を感じ、彼女はゆらりと動いた。来るッ!
埃を巻き上げ飛翔していたスピードと同じスピードで迫る。
この程度の接近速度なら対応できる。俺は受け流し、カウンターを決めることにした。だが疑問なのはあの魔力量でこのスピードというのは何かおかしいがとりあえず行動する。
俺は刀をずらし、受けながす――つもりだった。
「なっ、重っ……?!」
「魔王の一撃、嘗めない方がいいよ?」
アルトの刃は凄まじいほど重く、ぶつけ合っているだけなのに俺は既に押されている。
彼女が唱えた魔法は、刀にも強化状態が付加されてると考えるのが妥当か。
金属が擦れ合う音が響く中、刀は徐々に反り返っていき、限界を迎えたのは――
「なっ!?」
俺の刀であっまた。
甲高い音をたてて真ん中からへし折れる。しかし、彼女の刀の威力は全く衰えていないので、抵抗を突き破った得物はぎらりと鈍い輝きを放ちながら俺に向かってくる。
彼女はそのまま俺に向かって刀を押し込むようだ。
俺に防御の手段はない。鍔を放り投げながら仕方なく下がる。
彼女は追ってこなかったが、刀を手に持っていない逆の腕をこちらに向けまた何かを呟いた。
俺は下がりながら新しい刀を取り出す。
「やられっぱなしでたまる――っ?!」
「《ア・テンポ》《リテヌート)》」
急に体が重くなる。俺の重力魔法なんて比じゃない。
「終わり」
そう冷たく言い放つと、アルトは更に疾く駆け、あっという間に俺に近づき刀を振りかぶる。
ここで終わりにはならないし、するつもりはない。確かに体は動かないが、魔法は使える。
俺は物質想像を使うと、鍾乳石が液体のようにドーム型に俺の体を覆う。
「くっ」
アルトな反撃を喰らうと予想してか、大きく距離を取る。ひとまず安心だ。
「これもすぐに壊されるだろうな。まだまだあいつも余裕とみた。奥の手使うか。この状態だともう凌げなさそうだしな」
俺は外壁を破裂させ少しでもダメージを期待するが勿論皆無だ。
「出してあげようとしたけどいらなかったかな」
非常に冷徹で冷たい声。元の彼女からは想像出来ない。
「さて準備運動は終わりだ。俺も全力で行く。覚悟しろよ?」
「期待してるよ。《ラルゴ》」
更に彼女の圧力が大きくなる。次の魔法も自身を強化するものだろうな。魔王様に期待されてるのだ。全力で答えてやろうではないか。
俺はスキルを発動するため声を上げた。
「《魔法纏・風》!」
足元から魔力を含んだ旋風が巻き起こり、俺の身体を一瞬だけ覆えば、僅かに俺の身体から若草色の魔力が漏れ出す。
仄かに発光する俺と、それらから感じられる圧力の違いに彼女は感嘆の声を上げた。
「へぇ」
目の前の竜巻が消えると、俺は文字通り風を纏っている状態になった。視界は今まででよりはっきり見え、風の流れもはっきり見える。
アルトは足を止め、俺の様子を見ている。
「さて、やるぞ?」
俺は風を纏いながら抵抗の無い空間を走る。
素早さは先程の二倍以上だ。
「いいねっ」
アルトは驚いた声を上げ、すぐさま防御体制を取る。
刀と刀がぶつかれば俺の刀が大体負ける。なので俺は刀を逆手に持ち回避重視の構えをとり、鍔迫り合いを回避する。
「そうくるのね」
斜めに逸らした斬撃をアルトは下がりながら俺の攻撃を流す。
やはり判断能力も高い。
魔法纏は身体能力を著しく上げるのはもちろん、それぞれの属性に合った魔法を使う場合にも強化される。
ただの風属性の威力が5であるとするならば、魔法纏の風を纏えば威力は上昇して10にまで上がるのだ。一つの属性でのみで戦いたい場合にとても優れたスキルである。
たが、デメリットもある。
これはスキルだが、魔力を消費する。スキルとは魔力を使わない魔法と説明したが、一応分類的にはスキルである。魔法纏がスキル欄にあるという理由なのだが。
そして、その消費する魔力も馬鹿にならないくらい大きい。
三十秒で魔力を丁度100だけを消費する。一分使用するだけでもおおよそ物質創造一回分だ。
長く使えば魔力不足で体が動かなくなり、筋肉痛が来るのはもう仕方ない事だ。使用するタイミングも考えなくてはいけない。
「いいよっ! ほんとにいいねっ!」
この間にも俺は刀を振り回し、猛攻を仕掛けているがアルトは全て回避されていた
攻め続けていると、回避に飽きたのか、彼女から再び変化を起こす。
「なかな面白くなってきたね……なら僕もいくよ《アレグロ》!!」
その瞬間アルトが更に加速する。
もはやの達人の冒険者でも目には見えないスピードで
俺たちは回避、剣舞を舞っていた。
凄まじい速度で周りを俺達が蹂躙していく。その余波により、柱が切れたり、床に大きく傷跡がついたりした。
それがしばらく続くとだんだん俺たちは頬を緩ませていく。
「ふっ!」 「あははっ……!」
何に対してだかは分からない。だんだんと二人は考えが手に取るように分かるようになってくる。
その分かったことから更に予測し、その上を行くため更に動く。
永遠とその時が続くと思いきや片方は限界が近づいていることを体で感じ取った。
その片方とはユウだ。魔力を吸い取られる場所かつ、魔法纏の消費、さらに途中途中の攻撃魔法により激しく魔力を消費した。
「くっ……まだまだ……」
「ユウはそろそろ限界みたいだね! なら次で決めてあげる!!」
「ほう、それは……好都合だ。なら俺も全力で決めてやる」
「《ヴィヴァーチッシモ》!」
アルトは何処か熱いオーラをもった闇を纏い、刃に込め、駆ける。
負けてられないなこれは!!
「《魔法纏》!《闇》!!」
俺は黒いオーラのような闇属性を纏う。この属性を使いすぎると魔法に精神を飲まれる、という噂が立っているが信憑性はない。
しかし、この闇属性を使えば、他の属性では得られない身体能力の向上が得られる。
なので俺は勝負を決めるため、危険を顧みずこの属性をまとった。
人間の得意な属性は、最も親しい人との同じ属性になるらしいが
、力の上昇具合をみると、それは正しいことが分かった。
「《コン・トゥッタ・ラ・フォルツァ》ぁぁぁっ!!」
「《滅閃》んんんっ!!」
アルトは漆黒のオーラを刃と身体に纏い、俺は灰色のオーラを刃に、身体には黒い魔力を纏って互いに最速で駆ける。
『『はあああああああっっ!!』』
辺りを激しい閃光が包んだ。
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『え、えーいま見えませんが物凄い戦いが起こっています』
会場は完全に冷めていた。なにせ選手が急に消えたのだから。
「おい!あれから三十分はたってるぞ!」
「いいかげんにしろー!」
『あ、あーとえーとですね……」
実況がとうとう解説のネタが切れたその時
ピキッと空間に亀裂が入る。
その音を聞き、誰しもが会場に目を向ける。
空間がわれ、出てきたのは。
「……はぁ……はぁ……いてて。もう少し手を抜いてくれよ。なんで俺がそもそもおぶらなきゃ」
「あはは……はぁ……はぁ……そっちこそね?」
アルトを背負った夕だった。
高覧感謝です♪