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七罪の召喚士  作者: 空想人間
第四章 闘技大会
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第41話 闘技大会2日目 決勝 アルトvsリンクス

 完全に静まり返っていた会場に俺の声のみが響きわたる。


 あれだけブーイングをしていた観客達も今回ばかりは何も言えないようだ。

 そういえば戦闘で沢山穴を作ってしまったが、勝手に治るものなのだろうか。


『しょ、勝者。ユウ ナミカゼ……』


 テュエルの姫様も展開に非常に驚いており、声は震えて、子供のように大きな声量は無い。

 こんな反応を見せてくれたのは俺が強くなったおかげだ。

 特訓に時間かけて良かったと心から思える。

 客席を見渡せば観客の驚いた表情が一人一人違っており、やはり面白い。



 ライガーは殺さないように手を抜いたつもりだ。先程彼の首元に触れたが、脈を感じたので恐らく命に別状はないだろう。

 もしここで俺になぜ殺さなかったのかと問われても、理由が見つからない。先程まで殺意はあったのだが、目の前に倒れ伏す彼を見てしまうと殺す気は失せてしまう。


『『…………』』


 場は完全に静まり返っている。空を仰げばもう夕方だ。このまま夜までやるのだろうか。


 そんなことを思いながら俺は出口へと足を進める。会場中の視線を背中に浴びながら。


 ~~~~


「ユウっ!! おかえり!! 格好よかったよー!」

「ありがとな。あんな奴正直、蜘蛛より弱い気がするが」

 

 俺はドアを開けて早速アルトの笑顔に迎えられる。

 ああ……俺も結婚したらこういう事あるのだろうか。

 また彼女のかっこいいと言う褒め言葉は明らかにお膳立てである。気にしてはいけない。俺に気があるとか思ってはいけない。経験談だ。


「……ユウ、君は召喚士サマナーじゃないよ。もう既に」


「召喚する精霊や魔物もいないんだ。仕方ないだろう?」


 リンクスが化物を見る目でこちらを見つめる。

 まぁ、最弱のクラスがが伝説の種族を文字通り足蹴にしたからその気持ちもわからないでもないが。


「流石にあそこまでやるとは……恐ろしいわ召喚士サマナー……」


「褒め言葉と受け取っておこうか」


 ミリュも腕を組みながらジト目で話す。


「さて、次はアルトとリンクスか」


「俺辞退していいか?」


「そんなことしたら学園長に何言われるか分からないよ?」


「……ははは」


「負けないからねっ!!」


 俺が今のところ一番興味がある試合について話すとリンクスは何とも絶望的な表情でうなだれた。


「ふふふー……リン……どうやって料理して欲しい?」


「……痛くないやつで」


「辞退してもいいよ? 僕はユウと戦うためだけに参加したんだから!」


 俺は賞金のためだからな。決して彼女と戦うためではない。もし優勝できればしばらくは依頼を受けなくても生活できるだろう。しかしアルトは明らかな挑発をぶつけているな。焚きつけているのだろうか。


「アル!リンクスなんてやっつけちゃって!最近リンクスは調子に乗ってるから、ね?」


「ミリュやめてくれ。アルなら本当にやりかねない」


「痛くないのだったらいいのかな? なら――」


「おい、精神破壊はやめろよ?」


 俺は彼女が暴走仕掛けてるので止める。精神破壊なんてされたらたまったもんじゃない。社会復帰も危うい場合、責任問題云々いわれそうだ。


「アル?! それはやめろよ?!」

「アル、それは流石に……」

「いやいや!しないしない! あの魔法意外と魔力使うからね。それにユウと戦うまでに魔力残しときたいから!」


 彼女は完全に魔法無しと言う事を伝える。

 普通からしたら挑発と考えるが、なにせ相手が相手だ。助かったと考えるべきだろう。


「アル……一応俺も勝つ気でいくからな?」


「うん!やばかったら魔法使うから頑張ってね!!」

「あははっ、 アル、リンクスが早くも折れそうだよ!」


 なんとも和やかな光景である。


 そんな雰囲気とは裏腹に俺は未だに考えていることがある。それは奴隷のような外見をした、狐の耳を持つ彼女。この大会ではグレイローブと名乗っていた選手のことだ。

 彼女の獣耳はローブに隠れていたが、竜人との戦いで姿が明らかになった。ただ、問題は別の場所にある。

 なぜ身体にはたくさんの怪我を負っていたのだろうか。彼女の身体には何かで叩かれて作られたようなあおなじみが出来ていた。

 そもそもこの大会での攻撃は精神へのダメージに変換されるので身体が実際に傷つく事はない。

 なぜローブが燃えたことかは永遠の謎だがそんなのはどうでもいい。


 (あの子供は、出場前から怪我を負っている。虐待の可能性もあるな)


 だからどうした といったらそれまでだが、とりあえず彼女には何かがある。気配探知で探知しやすくする為に印となるマーカーを付けておく。

 俺はこの大会ではっきり分かったが、他の者より力を持っていることが分かる。どうせなら、この力は人のために使いたいのだ。


 正義感に満ちていると、不意に扉からコンコンと音が聞こえる。


『次はリンクス=バトラーさん。アルトさんの出番です。時間がおしてますので準備の程をよろしくお願いいたします』


 試合のスタッフのようだ。俺の時も呼んでほしかったものだな。しかし、なぜ急にスタッフが?


「は……はいっ!いま行きます!」


「ふふふ、お手柔らかにね?」


「逆にこっちが願いたいところだよ」


 そう言ってアルトとリンクスは出て行った。


 部屋に残ったのはミリュと俺。

 知らない女の人と同じ部屋というのはなんとも緊張する。


「ねぇ。あんたさ、召喚士サマナーなのにどうやってそんなに強くなったの?」


 ミリュは考え込んだ表情で俺に問いかける。やはり負けたことでまだショックが残っているようだ。


「そもそも俺はそんなに強くはない。ただ、焦らず、慌てず、冷静にその場の状況を判断しているだけだ。どんな状況でもお前はしっかり落ち着いて考えられるか?」


「あんたみたいにすぶとくないのよ。こう見えて繊細なのよ?……でもアドバイスとして受け取っておくわ。別にあんたの言葉だから受け取ったわけじゃ無いからね?」


「……これってツンデレか。異世界でもあったのか……?」


「つんでれって……なにそれ?何処かの言葉かしら?」


「気にしないでくれ。っと、そろそろはじまるそ?」


 声に出してしまった。怪しまれないよな?


『わぁぁぁっ!!!』


『さぁぁっ!!どちらも人気ランキング上位!!美男と美女の注目カードだぁぁっー!』


「相変わらず人気だなあいつら」


「あんたが嫌われてるだけでしょ?それにアルだってあんたのことが好きなの分かってるでしょ?」


 そんなことを言われたので俺は本気で驚いてしまったが冷静に考える。


 「……ああ。そうか」


 ()()としてだよな。それにアルトはめちゃくちゃいい人だ。尚且つ美少女。俺よりずっと前からこの世界にいるんだから彼氏の一人や二人は居そうだ。魔王と呼ばれているのだから縁談もしているはずだし、もっといるかもしれない。

 ……考えてみれば俺に惚れる要素がないな。哀しくなってきたな。


「ユウ? 何考えてるの?」


「アルトは良い人だって考えてたんだよ」


「しっかり大切にしなさいよね?」


 友達として……な。変わらず接すればいいだろうか。

 そういえば俺が異世界にて初めて出来た友達となんだよな。


「お前もリンクスと末永くお幸せにな」


「なっ?!」


 すると彼女はみるみる顔を深紅に染め反発する。


「わわわわわわ……私とリンクスは、そそそ、そんな関係じゃ……」


「……仲がよろしいようでなにより」


「違うってば!?」


 反発を左から右へ受け流し俺は試合を見る。……まだ始まってなかったのかよ。


『さああって!!試合! 開始いいいっ!! 』



「リンクス!」

「うぉっとと!? なんだ?!」


 いきなり突撃しようとしていたリンクスは、アルトから不意に声をかけられ体制を崩す。


 そうしてアルト三つの指を立て、リンクスに見せつける。


「僕!三分間手使わないからそれまで頑張ってね!!三分以内に僕の体に触れられたら――そっちの勝ちでいいよ?」


 御確認下さい、魔王様が人間の子供と戯れるご様子です。

 それにしても完全に舐められてるなリンクス。

 魔王という立場にいるため、傲慢に振舞っているつもりなのだろうか。もしくはただ単に挑発してるだけなのかもしれないが。



「この……っ! アル! お前が強いのは分かってるが、舐めすぎだろ!?本当にいいんだな?!」


「ふふふ、早くしないと三分たっちゃうよ?」


 アルトは手をひらひらさせながら迎撃しない意を表す。

 俺の癖移ったか?


「もう知らねぇからなッ!はあああっ!!」


 リンクスは全力で駆けていき双剣を構え、上段を横凪に払う。がもちろん当たらない。アルトは少しだけ後ろに体を傾けた。一歩も動いていない。


「まだだぁぁぁっ!!」


 切り払い、下段蹴り、挙句の果てには短剣を投げていた。勿論攻撃が当たることは無い。


「せいっ!おらっ! せりゃぁぁぁッ!!」

「うーん!もう少し!」

「舐めんなっ!!」


 彼女はジャンプしたり、少しだけ体を傾けたりしていて、どれもこれも既のところで目をつぶりながら何度も繰り出される攻撃をひらりひらりと幾度となく躱す。

 完全に舐めきっているが、数十発振っても当たらない攻撃に、リンクスの行動にも少々苛立ちか見えて、乱雑になっていく。


「おらっ!!」

「あと一分だよー」

「あんまり舐めてるとッ!!」

「おっ?」


 リンクスの武芸、旋風脚が風をきりながらアルトへと接近する。

 しかし、彼女はニコッと笑った程度でやはり攻撃は当たらずリンクスは振り抜いてしまったため、隙が出来る。


 しかしアルトはそこを責めず、大きくバックステップで距離をとった。


「さて、もうあと三十秒かな?」

「はぁ……はぁ……っもう時間がないが、これで……決めるぞ!アルト!!」

「ふふ、おいで」


 リンクスが体内にある魔力を活性化させてこれまでで一番素早いスピードでアルトに肉薄する。

 しかし、彼女は動かない。笑みを浮かべたままであった。


「《一閃スラッシュ》!!《二閃ツインスラッシュ》!《四閃フォースラッシュ》ぅぅぅっ!!」


 最後の四閃という技は、剣から放たれた青い軌跡がアルトの周りで輝いていた。

 まるで達人の居合のような凄まじいスピードで剣戟が放たれる。俺も避けられるかどうか不安な速度だ。


「すごいよリンクス!!頑張れぇぇぇっ!!」


 ミリュはバルコニーに出て必死に叫ぶ


 が魔王様の変化は目を開いて少し後ろに下がっただけだ。


 そしてリンクスの体力の限界を超えて放たれる一閃はアルトを猛襲する。

 彼女はいつもどおり回避したが リンクスは――


「くそっ――どんな動きだよアル……っ」


 振り抜いて、そのまま倒れた。


 慣れない技をつかった反動だろう。俺も魔法纏を初めて使った時には彼と同じような事になったが――っとこれは後で考えることにしよう。



『リンクス倒れるぅぅっ!!』


 実況は熱く、観客も熱くなっている。あの二人が動いているだけて喜ぶ観客が多数なのだろうか。


「リン、凄いよ。まさか達人級の武芸を完成させるなんて……!」


 アルトも感嘆の声を上げ、十秒が経過すると。



『勝者ぁぁぁっ!!アルト!!』


『ワァァァァァァァァァッッッ!!!』


 この大会で一番盛り上がった瞬間である。リンクスが最後まで舐められていたので俺はなんだか複雑な気分である。

 とりあえず、リンクスに向けて合掌をしておいた。


ご高覧感謝です♪

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