第40話 闘技大会2日目 決勝 最弱者vs伝説の種族
それからは特に面白みがない試合が続いた。
というか選手の殆どが魔法学校の生徒らしい。観客のボルテージは下がらないのが不思議だ。小学生の運動会かよ。
「そろそろリンクスか?」
「俺はシードだぞ? しかも相手は、アルだ」
彼はなんとも絶望的な表情を浮かべる。
因みにもう一個のシードは竜人こと、蜥蜴もどきである。その試合は見てなかったが。
何はともあれ、リンクスの相手は魔王様であるのは不変である。本当にご愁傷様である。
状況で言えばレベル20前後の主人公が何の準備もなくレベル190のラスボスにエンカウントする感じだな。
そんなことを気にもしない魔王様はミリュと仲良く話している。ガールズトークは何であんなに盛り上がるんだろうな。
「……小腹が空いてきたな」
「ユウ、さっきパン買ってきてあげただろ?」
リンクス君はこんな俺でも優しくしてくれる。頼んだらパンを買ってきてくれる。パシリにおいても性格も顔もイケメンだからって妬んではいないさ。なんか負けた気がするのは気のせいではない。
「あっ、ユウ!もーすぐじゃないの? しかも相手は――」
アルトが気づいたようだ。なお、俺の次の相手は竜人のライガーである。
彼女は何やら彼を嫌っているので精神変換バリアがない状態で、本当の意味で仕留めるか、それとも仕留めないかで迷うところだ。
「ユウ! あんなやつに負けんじゃないわよ!?」
ミリュが伝説の竜人様をあんなやつ呼ばわりしている。支持度 がないのか?と思い俺は質問する。
「一応あの蜥蜴もどきは伝説の種族だろ? あんなやつ呼ばわりでいいのか?」
「ユ、ユウ……それもどうかと」
リンクスの表情は青くなるが気にしたことではない。するとミリュは悪びれもせずに言い放つ。
「あんな傲慢な態度の奴は竜人様ではないわ。竜人はもっと凄まじくて威厳があって弱者にも優しくて……昔は勇者と一緒に魔族に攻め入った時も大活躍だったらしいのよ!魔王も流石に伝説の種族と勇者だったから大苦戦!善戦したんだけど、負けちゃったんだけどね……」
「なるほどな」
アルトが嫌う理由はそれか。それは嫌うよな。
自分の領地に責めてきた敵である。戦争の相手であった。
「はいはいはいー!この話は終わりっ!ユウ!あんなやつ仕留めちゃっていいよ!」
アルトは明るく振舞い、俺の背中を押す。
「アルト。蜥蜴もどきには酷い目合わせてくる。お前達の分も含めてな」
このお前達とはアルトと魔族達、そしてあの奴隷の子だ。
俺はこの世界で人間という分類にいるが、人間たちには悪い思い出しかない。なので、どちらかといえば俺は魔族側についていて、応援するならば魔族である。
「あんなやつ竜人様の恥だわ! ダメージ変換バリアないんでしょう? いたぶってやりなさい!」
ミリュも怒っているようだ。種族関係なくライガー自身に対してだろう。
「もう遅いかもしれないけど粗相がないようにな……」
「リンクス。完全に手遅れだ。ミリュ、感謝はしとく」
「ユウ!ぶちのめしちゃって!!」
「ああ。任せろ」
俺は笑顔で応答する。
「なんか私達と対応違くない?」
「それ俺も思ったんだが……」
「そもそもお前ら俺と仲良くしてていいのか? 周りの目が冷たくなるぞ?」
いま気がついたが、俺に対する二人の好感度が徐々に上がっているのではないか。と気がついた。俺は嫌われ者の召喚士だ。そんなやつと仲良くなってなんのメリットがあるのだろうか?
「ほかの視線は関係ない。俺はユウが召喚士であろうが、ほかのクラスであろうが、ユウと仲良くなりたいんだ」
「私はリンクスが認める人は大体いい人って思ってるからね。まだ信用はできないけど。なアルがそこまで気にしてる人なんだから、悪い人ではないと思うけどね。言動あやしいけど」
そんなもんなのか……? リンクスにしてはかなり格好いい台詞である。簡単に女の子を落とせそうだ。
「二人の事はある程度信じてるけど……あんまりユウを馬鹿にしないでね?」
謎の威圧感で二人は息を呑んだ。本当に謎の威圧感だが。
「じゃ、行ってくるよ」
そう言って俺は扉から出ていく。さて、どう痛ぶってやろうか
~~~~
「……きたようだな」
竜人のライガーは目をつぶりながら俺に話しかける。俺はたったいま来たので、相手が気配を感知できる相手だということが分かる。まぁ、彼のレベルは50以上だしそれぐらい出来てもらわないとな。
『さあああああって!! 期待のカード!! 精神変換バリアがないので小さい子は見ちゃだめだぞぉぉぉっー!!』
それは祭りとしていいものなのだろうか。まぁ今日は例外だろうけど。
「潰せぇぇぇっっ!!」
「竜人様ぁぁっ!!生意気な召喚士にお灸を!!」
「竜人様ぁぁっっ!!」
「ふむ、人気者も大変だな」
このトカゲはドヤ顔で話している。俺とは正反対ってやつだな。
「お前は召喚士に負けるんだぞ?伝説の種族(笑)」
「相変わらず減らない口だ。まずはその口から削ぎ落としてやろう」
「やってみろよ蜥蜴」
「最弱者が……必ずなぶり殺してくれるわ」
『Booooooo!!』
『さあああっ!!互いにやる気は満々だ!!!どんな勝負をみせてくれるのかぁぁっ!!!……くり返しいうが子供は見ちゃダメだぞ♪』
「引いたわ」
俺はついつい本音が出た。恐ろしい殺意が上から振ってくる。多分彼女だろう。
「どうせ死ぬのだから遺言を残したらどうだ?」
「そうだななら『開始いいいいっっっ!!』――このじゃじゃ馬……」
思いっきり遮られてしまった。恥ずかしい。
「さて……まずは炙ってやろう《豪炎》」
彼が手のひらを広げて魔力を注ぎ、魔法を放つ。火属性魔法の、溶岩のような色をした火炎が高速で俺を飲み込まんと接近する。しかし、俺からしたら炎のが当たるまでの時間はあくびが出るくらい長い。
俺は風魔法を使い簡単に吹き飛ばす。
炎は消えずに向きを変えライガーの元へ戻り、逆に襲いかかる。
「なっ?!」
ライガーは驚いて羽を使い空を飛び避けたが、俺はこれで終わらせる気はない。攻撃の手を緩めたことを後悔するがいい。
「さて、こんくらいで驚くなよ? 《鎌鼬》」
真空の斬撃が竜人を襲う。目視できなかった竜人は回避行動をとる時間もなく、沢山の風刃が彼の体表に押し付けられ、彼の体のあちらこちらから鮮血が舞う。
「がぁぁっ?! なにが?!」
見事にヒットした。風の流れを読んで少しだけ回避行動に移れたため、致命傷だけは逃れたようだが、あたりは当たりである。
痛みのためコントロールを失ったため、生々しい落下音を響かせて竜人は文字通り地に落ちる。
俺は歩きながら竜人に近づいて言い放つ。
「おいおい? ホントにこの程度か? 召喚士に負けてるぞお前」
冷たい目線で俺は倒れた蜥蜴を見下す。
「この……弱者がぁぁっ!」
急に立ち上がり、蜥蜴もどきは爪を振るう。がそれは宙を切り当たることはなかった。
「これが……伝説ね?」
地を割り、猛者を叩き切る爪の連撃を軽々と回避しつつ、俺は更に挑発する。
するとライガーはバックステップで離れ、口を開く。
「ぁぁぁっくらえええっ!!《炎吹》!!」
鋭い牙が並ぶ口からレーザーの様な竜の息吹が放たれる。なかなか威力がありそうだ。
が俺は首を傾けるだけで回避しすぐさまブレスの元へと肉薄する。
「もっと真面目にやれよ」
台詞とともに俺は全力の力を込めた回し蹴りを叩き込む。体術レベル7の一撃だ。丁度いいぐらいにダメージが通るだろう。
「ぐぅぅぅっ?!」
簡単に吹っ飛ぶ。が俺も無傷とはいかなかった
「つつつ……これが竜の鱗か。硬いな」
俺も軽く足から血が出る。その傷は切り傷ということから、あいつの鱗は鮫肌の効果があるんだろう。
もちろんこの程度の傷なら動くのには何ら支障はない。
「ぐぁぁぁぁっ……ゆるさねぇ……ゆるさねぇぇぇ!召喚士なのにっ――馬鹿にしやがってぇぇっ!!」
砂埃が払われ、ミシミシ と彼の体が西洋型の竜の形になっていく。
変身できるのかこいつ。
「ほう……面白そうだが」
「がぁぁだぁっ!!!」
一体一の戦いなのに時間がかかる変身をするとは。
「お前馬鹿だろ」
俺は《風弾》を傷口に向けて放つ。
下衆とか言わない。
変身を痛みによって邪魔されたライガーは人間と西洋型のドラゴンが合体したような形だ。気持ちが悪い。
詳しくいうなら人間の形なのに鱗がしっかり生えていて背中から無駄大きい羽が生えている感じだな。
「がぁぁぁぁっ?!」
痛みでのたうちまわっている良く分からない形のライガーに俺は勝負を決めるため近づき
「がぁっ?!」
足を払い その回転を利用してくるりとひと回し、助走をつけつつも最後に逆の足で思いっきり踏みつける。クレーターができたので俺もだいぶおかしい脚力になったなと思う。
「がっはぁっ……」
彼は空気を吐き出し白目を剥く。
戦意は見られなかった。
「まだやるか?」
俺は動かない竜人に俺は勝利を決める一言を放った。
ご高覧感謝です♪