第38話 闘技大会2日目 決勝 ユウvsシーナ
『さああぁっ!! ご飯もいっぱい食べたところで試合を再開するぞっ! お前らついてこれるかぁっ!?』
『『ウオオオオオオオオッ!!!』』
昼休憩があったはずだが、観客のボルテージは下がるどころか、むしろ上がっている。
盛り上げ上手なのかこれが姫様のカリスマであるのかは俺にはわからない。
俺達の昼食は軽いもので、コッペパンのような形をしたパンを売店で買い、テュエルの部屋で食べた。
そんな中。
「リンクス……? お弁当作りすぎたんけど、食べない?」
「ほんとか?! ありがとなっ!!」
と、リンクスとミリュはイチャイチャしながら一緒にテュエルの部屋で食べていた。
居づらいことこの上ないが、出ていく気も無いので仕方なく我慢する。ここで注意をするのは人間として空気を読めない烙印を押されることになるだろう。
ちなみに俺達も別々な食べ物頼み、お互いの食べ物を半分づつ分け合うというドキドキなイベントもあったりした。
俺は異性とこんなことをするのは初めてであったため、少々緊張していた――のだが。
「んー! これも美味しいね!!」
「……そうだな」
アルトは全くもって緊張していない。魔王というだけあって、俺のような初な人間にも相変わらずの対応である。
このことから、彼女は既に彼氏が居るのではないかとの予想が脳裏をよぎって、俺の中での雰囲気は完全に霧散してしまった。
やはり彼女とは友達止まりなのだろうな。モテない男子はつらいな。
そんな悲しみに満ちた感情をひた隠しながら、黙々とパンを食べて味わう。
卵パンのパンとコロッケパンのパンは元いた世界より硬いが、卵に掛けられている白いソースとコロッケに掛けられている黒いソースはなんとも極上であった。
卵パンの卵はしつこくない甘さで、掛けられているソースも卵とパンを非常によく合わせてくれる。
コロッケパンのコロッケはジャガイモではなく甘いサツマイモのような味だった。
これもソースがしっかりと役目をこなし、美味しかった。
けちらず後一つずつ買っておけば良かったかもしれない。
外では観客、選手達が敵意、殺意が向いてくるので大変なので、もう必要以上に外に出たくないが。
「ねぇ? ユウ、もうすぐだよね?行かなくていいの?」
「っと、実況も再開したしそろそろ行くべきか」
俺は立ち上がり、気合を入れる。魔力も体力も精神力もバッチリだ。
「ユウっ! あんなチビ潰しちゃってね!」
「ユウ、お前の実力もう一度見せてもらうぞ!」
「応援ぐらいはしてあげるわ。感謝しなさい?」
真面目に応援してくれるだけありがたい……のか?
「ああ。いってくる」
俺はゆっくりと歩みを進める。
「ユウ?! 早くしないと遅れるよ?!」
アルトの焦る声が聞こえる。もうシーナは紹介も終わっているようだ。
「まぁ、慌てる必要はないな」
視線を扉の前に戻し、再び足を勧めた。
~~~
「……遅い」
シーナはひたすら待っていた。もう紹介が終わって三分は経っている。
『――である。おおっと!! ユウ ナミカゼ! ついに入場っ!!』
先程まで観客のリクエストによりテュエルの闘魔姫と呼ばれた由縁を話していたが、夕の入場により話を中断する。
「遅くなって悪いな」
『Boooooooo!!』
相変わらずのブーイングが上がる。こればかりは仕方ない。
俺が遅かったわけだしな……まぁ慌てる気もないが。
『さぁ再び紹介しましょう!!Fランクで召喚士、そして竜人にも喧嘩を売るいつも眠そうな男!!ユウ ナミカゼ!!』
俺はそんな風に見えてたのか。これはこれで盛り上げと考え流すべきなのだろう。
観客のブーイングが飛ぶ中、シーナが口を開く。
「遅刻したのになんの謝罪もなしですか?」
シーナは淡々と話す。少しだけ怒っているようだ。
まぁ最弱と考えられている者に待たされたのだから当然といえば当然なのだろう。
「あー……悪かったなー……」
俺は特に意識はしてないが棒読みで答える。
戦闘が開始する前に挑発してしまうのは癖になってしまった。
リューグオは挑発しないと遠距離からのブレスを放ってくる。
当然数百度もある高温のブレスに被弾すれば当然俺は死ぬ。
体のスイッチが戦闘モードに切り替われば、何処か挑発をしなきゃいけない。という考えが常に浮かび上がって来る。
癖とはいえ、有利になる場合もあるので直す気はない。
「次こそ仕留めて差し上げます」
SSランカーの殺気が辺りに充満する。蜘蛛と敵対してる時のような威圧感もある。これまでとはやはり空気の重みが違った。
『さぁぁぁっ!!両者気合十分!試合――』
シーナは杖を構え、俺は召喚陣からアルトの刀が元になった刀を取り出す。
会場中がざわつくが知ったことではない。
これからは、戦いだ。無駄な感情はすべて切り捨てる。
『開始ぃっ!!』
「風刃」
少女とは思えない魔力が込められた風の刃が合図の瞬間俺に向かい飛んでくる。無詠唱である。
魔法は基本的に詠唱が必要であるので、彼女は無詠唱を可能にするスキルのようなものを持っているのだろう。
突然目の前に風の刃が迫ってきても慌てることはない。
直撃するであろう位置から最小限に横へジャンプし回避する。
その行動と同時に俺も真似して風魔法を射つ。
「《風弾》」
イメージしたのは風の弾丸。対した魔力は込めていないが次の魔法の発動を妨害するには充分だろう。
SSランカー相手に魔法を使わず勝てると考えるほど俺は傲慢な男ではない。
「っ……」
彼女の目の前に展開された風の防壁により弾丸は防がれてしまったが、狙い通り魔法を妨害し、発動を中止させることができた。
俺は刀を持っているが、誰も魔法を使わないとは言ってない。
シーナはそのまま苦しげな表情を浮かべ別の魔法を発動する。
「《速風刃》っ!!」
おそらく彼女の魔法で最速の発動速度を誇る魔法だろう。それは一瞬で発動し、俺に襲いかかる。
「ハアッ!」
気合と同時に刀を振り下ろしをブーメランのような形状をした風魔法を叩き切ることを試みるが、完全には断ち切れず、魔法が爆散して、風の刃の破片が俺の体にあたる。切り傷が出来たような鋭い痛みが体中に走った。
「魔法は回避した方がよさそうだな。勉強になる」
魔法を使う相手とは戦ったことはあるが、刀で断ち、防ぐことができた。がシーナの魔法は込められている魔力が高いため、断ち切ることは出来なかったようだ。
「まだしゃべる余裕がある様ですね。ならこれならどうでしょう?《大嵐空間》」
彼女が魔法を唱えると会場に風が巻き起こり、俺はまるで竜巻の中に飲み込まれてしまったのではないか、と思ってしまうほど凄まじい風の嵐に、一瞬で飲み込まれてしまった。
この魔法は予選の時に見た多数の人間を吹き飛ばした魔法似ている。
が、先程とは何かが違う。
これぐらいで吹き飛ばないのは彼女も分かっているはずだが、彼女はこの魔法を引き起こした。
「へぇ、またこれか」
完全に竜巻の中へ飲み込まれてしまった俺は、どうしようかと考えていると、外から風を切るような音が耳に届き、竜巻の中を突き破って内部から風の刃が飛んでくる。突然のため回避はしたが少し当たってしまった。
「くっ……この竜巻の中に入っていると魔力の流れが読めないのか」
この竜巻の中にいると、魔力どころか気配すら感知出来ない。これがこの魔法の本質のtだな。
そんな事を考えている間にも風の刃は俺を猛襲する。
音や風の流れで何とか避けているがこれでは埒があかない。どうするか。
「って普通に脱出すればいいのか。なんで気づかなかったんだ?」
この竜巻の中は、風が中央に集まりぐるぐると巻き上がって上へ上昇する風となっている。
なので中央に集まる風に逆らえばいいだけの事。
なんで気づかなかったんだ俺。魔法の使用に気を取られすぎか?
俺は風の刃を回避しつつ。脱出を目指す。
「あぶなっ……やはり簡単には出してもらないようだな」
俺の横を凄まじい魔力が込められた風の大玉が通り過ぎる。魔力がこもっているという事は俺も大きく吹っ飛ばされるということである。
「さてどうするかな。闇魔法使ってみるか?……いや流石にそれはバレそうだ。なら風を逆向きに回してみるか」
俺はよけながら考え、行動に移す。
「《風巻き》」
イメージはいま見える風とは逆向きの竜巻。これは先程の《風弾》より消費魔力が多い。
が俺の総魔力からしたら対したことはない。
俺の周りで逆向きの風が巻き起こる。消費魔力は格段にこちらの方が高い。
これを維持しているのだからシーナの魔力もたいしたものだ。
砂埃が舞う風が消え、シーナの姿が見える。
かなり汗をかき、くまが良く見える。完全に魔力の使いすぎだ。
体力も削りながら魔法を使用していることからよほど俺を仕留めたいのだろう。
「なっ」
シーナが杖を構えながら驚く。
俺は少しだけダメージは受けたものの、大きいダメージはない。
「さて決着をつけようか?」
「ええ。なら……私も貴方に嫌われるのを覚悟して、本気でいきましょう」
俺は不敵な笑みを浮かべる。
仲良くなったつもりは無いが、俺に台詞を言い放つと、彼女はなにかを呟き出し始める。その途端先程とは違うどこか暗い魔力が彼女を覆う。
黒い風のような竜巻が徐々に彼女を飲み込んでいく。
「っ違う……これじゃ……ないっ!? 消えて……! 消えて消えて消えて消えて……消えてぇぇぇ!!」
彼女は頭を抑えながら叫び出す。
暗い魔力が強くなり彼女は完全に黒い竜巻に飲み込まれた。
「なにか起きそうだが、先に仕留めさせてもらおう。変身を待つほど俺は優しくないんでな」
俺は遠慮なく魔力をしっかり込めた《風弾》を手のひらから放つ。テレビではあれを敵が覚醒するシーンと判断し、正義の味方は手を止めるが、あいにく俺は正義の味方ではない。
彼女は纏っていた黒い竜巻を解除すると、その余波により風弾をいとも簡単に吹き飛ばし、俺の魔法は無害な微風となってしまった。
結構な魔力を込めたが無効化されたか。よほど強大な魔力で竜巻を遮られたと考える。
竜巻を消した彼女の姿を良く見ると外見もいくつか変化があった。
元々の緑の瞳は片方だけ黒くなっている。それも光を全て飲み込まんとする黒だ。
それに手には黒い風を纏っている。感じる魔力も先程の比ではない。
「あああああっ!!!」
彼女が野生の虎の様な叫び声をあげて杖を持ちながら俺に襲いかかってくる。
「なっ?!速――!?」
驚くべき速さで俺に接近すると同時に杖を突き立て、上に向けて払う。突然の加速に対応出来なかった俺は、防御も間に合わず突き刺さってしまう。精神ダメージ変換バリアにより完全には突き刺さっていないが、感覚では腹部を貫かれている痛みが発生しましている。
彼女の杖の先は、風魔法により薙刀の刃のようなものが作られており、ただの杖刺突武器と化していて余計にダメージが大きい。
「消えろっ!!」
俺は埃のように持ち上がり空へと舞う。
彼女は俺に追撃をかけるようで彼女も大きくジャンプする、だが俺もやられっぱなしとは行かない。
「はああああっ!!」
気合一閃。空中歩行を発動しながら俺は彼女に向けて攻撃を放つ
凄まじい衝撃がと金属音が俺とシーナの間を反復し、大きくなって外へと響き渡る。
俺は彼女を切りつけるように振ったのだが、杖の先の風の刃は硬質で、伝説級の刃と打ち合わされ、鍔迫り合いの音が彼女の纏う黒と混ざる。
四秒間の鍔迫り合いを制したのは――俺だ。
体制を崩したシーナはそのまま重力に従い落ちはじめる。
このチャンスを逃すわけには行かない。
その瞬間、一つつの名前が思い浮かぶ。俺はその名前を叫びながら刀を振るう。
「はあああっ!!《滅閃》んッ!!」
すると刀は灰色の光を帯びる。そのまま振るうといつもより力が入り、これまでないぐらい速く振るえた。
「まさかっ!?」
彼女は吹き飛び地面に落ちる。
俺は普通に着地し、相手の様子を見る。
動かない……よな?
『勝者ぁぁぁぁっ!ユウ ナミカゼぇぇぇっ!』
いつの間にか静まり返っていた会場にテュエルの声が響いた。
高覧感謝です♪