第36話 闘技大会2日目 決勝 3戦目 リオンvsライガー 4戦目アルトvsエメラ
『『えええええええええええっっ!!』』
会場はいるのかどうかもわからない伝説の種族がこんな公の場にいることに驚いているようだ。
『さああぁっ! 紹介しましょう!! 竜人のぉぉっ!ライガー!』
「はぁ、我は見世物じゃないぞ?」
やれやれといった様子ででゆっくりと出てくる。
最初は赤いローブをしていたが、ついに正体を現すらしい。
ローブを投げる。
出てきたのは男。
逆立った青髪、赤い瞳。そして、大きな羽、鱗のようなものが間接部分にある。背は俺より少し高いぐらい。
そして頭に小さい角がはえている。
まさに想像していたとおりの竜人だ。それとこいつはレベル50以上らしい。上空から着陸してきた出てきた途端に気配探知に反応しためである。伝説の種族といわれるだけあってなかなか強そうだ。
「さて、貴様が相手か。楽しませてくれよ?」
「で、伝説にも等しい竜人とお手合わせ出来るなんて光栄だな」
「だろう?」
明らかに獣人の方が雰囲気に呑まれている。たしかに竜人側ば覇気があるが、威圧などのスキルをもっているのだろうか?
『それではっ!!はじめぇぇぇぇっ!!』
「うおおおおおおおおっっ!!」
初めの合図と同時にハルバートもどきを前に出し、リオンが猛襲する。
ライガーは一歩たりとも動かない。腕を組んだまま今から起こりうることを受け入れるように。
「くらぇぇぇぇっ!」
何のフェイントもないただ真っすぐに貫こうとしているのにも関わらず、竜人は一歩も動かない。
このまま貫ける、と誰しも思ったその瞬間にハルバードが竜人の体に触れると、金属がぶつかったような甲高い音が響き渡る。
「様子見とはいえ、もう少し力を出したっていいだろう。なぁ、獣よ」
ライガーは腕に鱗を纏ってハルバートから身を守ったようだ。鱗は硬いらしい。そりゃそうか。
「くっ……!!まだまだぁっ!!」
ハルバートを使い、連続突きなどの攻撃を不規則に行っていくが
相変わらずの金属音が響き、ダメージを与えられる事は無かった。
「くっ」
リオンはバックステップで距離をとる。
立ち幅跳びなんて比較にならないくらいの凄い飛距離だ。体力テストでは間違いなくAだろう。
「どうしたのだ? こんなもんじゃないだろう」
ライガーは淡々と述べる。息が上がっている様子はどこにもない。
一方リオンは
「くそ……はぁ……はぁ……」
連撃によりかなりスタミナを消費したようだ。
竜人の鱗は鉄壁だな。アルトと戦う前によく見ておくか。
「こないのか? ならこちらから行かせてもらおう」
ゴウッ!っと風を切り、一瞬でリオンとの距離を詰める。
「なぁっ?!」
「これで終わるなよ?」
ライガーは上に向けて腕を振る。
それだけだ。それだけなのに
凄まじい風圧と衝撃波が巻き起こり
そしてリオンの巨体が軽々と空へと上がる。
「がぁっ」
持ち上げられたリオンは重量に従い下へ落ちる。
落ちた途端、完全に失神しているのがわかった。
竜人の圧勝だ。
「……所詮獣はこんなものか」
静まり返った会場にライガーの声が響く。
『『わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』』
『しょおぉりぃぃ!!今回の勝利は竜人のライガァァッ!!』
それを合図に歓声があがる。
「……へぇあれが竜人ね」
隣にいるアルトが呟く。
殺気は今までの比ではなく本気で殺す、という意志がはっきり伝わってくる。
ここで「お前に何があった?」という勇気は俺には無い。
俺から見ていちゃいちゃしている二人もアルトの殺気でピンク色だった顔が真っ青にかわっていた。
それほど彼女の殺気は強いものであった。
会場を覗くとリオンがエルフに看取られながらタンカーで運ばれていった。可哀想という言葉が彼にぴったりである。
エルフは次の試合の相手だ。アルトの対戦相手である。負けることはないだろう。
「さて?アルト、次はお前だぞ行って来い。」
少し殺気が収まったところで俺は声をかける。
「そうだね。いってくる! リンクス、ミリュリュ、ユウ! 応援してねっ! 」
そう言って彼女は出て行く。先程までの雰囲気が嘘のようだ。
「……アルが怖いわ。豹変っぷりも含めて」
ミリュの声が静まり返った部屋に響いた。
俺は心の中で激しく同意した。
いったい彼女は竜人と何かがあったのだろうか?
~~~
『さああって!!続いて第五試合っ!!!まず出てくるのは~~!?アンケート 可愛い選手トップスリーで他を蹴散らし、大票を獲得した アルトだぁぁぁっ!!』
「皆ありがとー!!!」
『うおおおおおおおおおっ!!』
男女問わず凄い人気だ。まさにアイドルだな。
……てかそんなアンケートほんとにあったのか?怪しいもんだ。
そんな中このラブラブ二人は――
「俺はミリュに投票したんだか、やっぱりアルかー」
「ほんとっ?!もー……リンクスっ」
照れながら二人で見つめあって話している。俺の部屋で何して……じゃなかった……姫の部屋で何してるんだこいつら。
てか俺は投票の話すら聞かなかったんだが。まぁいいか。
『続いて! 巷で有名! 熱いエルフといえば彼女!リオンの恋人エルフ! エメラだあっ!!』
「……やはりいわれるのね」
『Fooooooo!!』
頭を抱えながらエルフはうなだれる
違う意味での歓声が飛ぶ。俺も召喚士じゃなきゃ一緒に楽しめたか? どちらにせよ俺の今の性格じゃ無理か。
エメラはミリュより薄目の金髪に、金の瞳。尖った耳が現世で考えられているエルフと同じだ。異世界感ある。
『さぁぁ!正々堂々始めましょう!』
「よろしくねっ!」
「こちらこそお手柔らかに。」
アルトの視線は飄々としたものだが、エメラの視線は真面目そのものだ。
『試合……開始いいっ!!』
テュエルが腕を振り下ろす。
それと同時にエメラの腕がアルトに向けられる。
「まずはこれを耐えきって見せてくださいね?《百火矢》」
この開始した瞬間、無詠唱で、しかも一瞬で幾つもの火矢が彼女の上に顕現される。
本当に百本あるかどうかは不明だが、それに近い炎の矢が現れたため、会場はざわめく。
「古代魔法かぁ」
アルトはうんうんと頷きながら感心していた。慌てるそぶりはまったく見せない。
「なぜ貴女がそこまで落ち着けるのかは分かりませんが行きますよ?」
「全部よけてあげるよ?」
「はっ……やってみなさいッ!!」
そう言い放つと火矢が一斉にアルトの命を刈り取らんと猛襲する。
アルトはにこにことした表情で相変わらずだ。
「アル!?逃げて!!」
「逃げろ! アル!」
アルトは手振る。
「なっ?!」
「えっ?!」
「死になさい」
二人は驚いた表情だ。エメラは淡々と言い放った
会場中がアルトのこの数瞬後は火に焼かれて負けると想像しているが、俺は違う。
なんてたってラスボスの魔王がただのエルフにやられるわけ無いからな。
視線を試合をしている場所へ戻す。
最初に飛来した火矢がアルトに着弾――しなかった。
彼女は少しだけ体を右に傾けて・避ける。
だがそれだけで火矢は終わらない。
アルトは残像が出来るくらい速く動き、火矢を躱す。一本、三本、十本以上どうじてさえ。
「……嘘でしょ?」
エメラがこれでもかというくらい目を見開いている。
そして最後の最後一本がアルトの真横を通る。
彼女は無傷。服にも体にも焼けた跡はない
『うおおおおおおおっ!!!』
会場がとてつもない盛り上がりを見せる。まぁそりゃそうだよな。百本に近い火矢が高速で飛来して来るのに、すべて回避しきったのだから。
「そんな?!」
「次はこっちでいいよね?《火炎球》!」
至って初級の魔法。だが威力がそこら辺の魔術師とは桁が違う。魔力が異常に込められた炎の玉はミリュの比ではなく、すべてを焼き付くさんと思えるほど異常な火炎球であった。
「こ、こんなの火炎球じゃないわよっ!」
「喰らってみる?降参をオススメするよ?」
アルトは目の前で火炎球を見せつける。
太陽の様な存在感が伝わる。
それを目の前にしたエメラの戦闘を続ける気持ちは皆無だった。
「降参。負けたわ」
「分かってくれて何より!」
『勝者ぁぁっ!!アルト!!』
『わぁぁぁぁぁっ!!』
これも圧勝だった。戦気を削ぎ落とす程の初級の魔法なんて聞いたことがないな。
「ほう、面白そうなのがいるじゃないか」
と、歓声で埋まる会場に一つの声が全てを沈める。
その声主は
「なにかな?トカゲ君」
竜人のライガーだ。羽を使い空に浮いている。
アルトは竜人が嫌いなことは確信に変わった。
もっとも殺気を出している時点で友好的なのは有り得ないが。
「ほう人間。我ら竜人にそのような口を聞くか。なんとも興味深い 」
「その汚らわしい口を閉じてね?それとも身体すらコントロール出来ないのが竜人なのかな?」
アルト、嫌いなのは分かるが怒らせるなよ
「……人間。我ら竜人を愚弄するか。……良いだろう。苦しんで死なせてやろう」
すると竜人のライガーが手に高密度の炎を纏う。
観客は驚いて何も言えない
ここで俺は考える。 もしアルトが竜人を仕留めてしまったら、伝説の種族を――やら、竜人様を――など、彼女に悪影響があるのは間違えないだろう。
アルトという存在が世界から嫌われるのは、絶対に嫌だ。
まず嫌われるのは俺の役目だ。召喚士の役目だ。
敵意を俺に向け、彼女を嫌われる立場から追い出す。
そう決めて俺は彼女の元へ転移する。
もう一度言おう。嫌われるのは俺の役目だ。
「アルト、その役は譲らねぇぞ」
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