第35話 闘技大会2日目 決勝 ミリュvsグレイローブ
画面の向こうでテュエルが勢い良く腕を振り下ろす。
開始と同時に動いたのは灰色ローブだ。
「なっ?!」
ミリュは驚きの声をあげる。魔法の構えをしていたのに、急に動き出したのだ。野球のスクイズのようなものだろう。
どうやら灰色ローブは両手杖を魔法の媒体とするのではなく、打撃武器として使うようだ。
反応に遅れたがミリュはギリギリで魔法の構成を中止する事で対応し、頬を掠めるだけですんだようだ。
「…………」
灰色ローブは体制を立て直す隙を与えない。
手馴れているのか、不規則な猛攻がミリュを襲うが、彼女はその間にもぼそぼそとなにか呟いている。
「回避には……慣れてるのよっ!《氷結束縛》! 」
「……っ?!」
片手杖を振りおろし、灰色ローブへ向ける
どうやら回避しながらも魔法を起こしたようだ。魔法を起こすことはかなり集中力が必要なので、あの年で回避しながら魔法を使用するのはなかなか凄いと思う。
動きながら魔法を起こすというのは、走りながら数学を解くような感覚に似ている。
魔法に素早く反応し、灰色ローブは全力でバックステップする。
その瞬間、地面がスケートリンクのように凍りつき、凍てついた冷気が放たれた。
灰色のバックステップの飛距離もなかなかあり、魔法は地面を固めただけに終わった。
「…………」
「この程度じゃ私は倒せないわよッ!――《火炎球》! ――《水球!》」
遂に彼女の本領である二属性同時攻撃を開始するようだ。
俺は必要ないが、魔法を唱える時には詠唱が必要である。なので、少々放までのスピードは遅めだ。
しかし、詠唱を完了すれば威力の高い魔法が顕現する。この世界ではどれだけ効率よく詠唱時間を稼げるかがカギとなるのだ。
彼女の放った火の玉は素早く接近し、それに比べてゆっくりとしたスピードで飛んでいく水の玉が波のように灰色ローブに接近していく。まさに波状攻撃だ。
「っ………」
マシンガンのように散りばめられる炎球とその合間を縫って差し込まれる水の玉による面の制圧により、灰色ローブの可動範囲を狭めていく。
しばらく相手は弾幕を避けるように逃げていたが、灰色ローブは限界を感じ、弾幕の中を猛スピードで突っ切ることを決め、一気にミリュに近づく――その途中で水に滑ってしまった。
接近されることを見越して、滑るように水球を相手が移動する位置を予想し、水球を破壊して水を撒いたようだ。なかなか賢い。
「これで終わりよ!《炎渦》!!」
灰色ローブの周りで炎の渦が巻き起こる。明らかな火災旋風である。あんなの食らったら人間は耐えられないだろう。
ローブは動かない。が、魔力の高まりを感じる。何かしそうだ。
灰色ローブは完全に炎の渦に飲み込まれたが、未だに魔法は続く。
「はぁ……はぁ……私の……勝ちね?」
完全に会場はミリュの勝ちと思っていたが、俺とアルトはしっかりと魔力の高まりが大きくなっているのを察した。
「ミリュリュ!まだだよっ!!」
アルトが叫んだその瞬間炎の渦がすぅっと消失する。
炎の渦の中にいた灰色ローブは先程と同じようにボロボロのままだ。新たな傷が増えた様子はない。恐らく、俺が風の旋風の中でし続けた行為を同じく火災旋風の中でも行ったのだろう。
「そん、な?!」
先程とは違う魔力量にミリュは思わず後ずさる。
そして、この隙を逃がさず灰色ローブは杖を投げつけてくる。
「杖を投げっ?!」
なかなかの速度で投げられた杖でも、ギリギリで回避する。ミリュはやはり回避能力が高いな。
しかしなんで唯一の武器である杖を?
ミリュは避けたものの、大きく体制を崩す。
するとローブが先程よりも二倍以上速いスピードでミリュに肉薄する。
「なっ?!」
灰色ローブの拳は横に宙を切ったが、後ろに飛ばされたのはミリュであった。ポリゴンのような傷がミリュの頬に作り出される。
その灰色ローブの拳の上に装備されているのは鉤爪であった…
爪といっても指の爪ではなく、手首の上に鎧の腕の部分から長い爪が生えているような形だ。
斬撃は魔法より大きく吹っ飛ぶ。ミリュはまともに食らってしまった
「っ……やるわね……だけど……負けないっ!!」
かなりのダメージの筈だが、フラフラと立ちあがる。
灰色ローブも驚いた様な佇まいだ。
「まだ終ってない……!!《水刃》!」
水をうすく、そして高い圧力で圧縮することで殺傷力をあげた技だろう。やはりこの発想は学校生活の恩恵かだろうか。
「っ?!」
ブーメランのようにクルクルと回転する水の刃が灰色ローブを強襲する。
回避しきれないと思ったのか灰色ローブは腕を前に交差し、防御の構えをとる。
「くっ……!」
圧縮してるだけであり、威力はかなり強いようだ。
灰色ローブは吹っ飛ぶ。が空中でひと回転し、体勢を整えるフィールドの端ギリギリで止まる。
が、ダメージがないわけではなく灰色ローブは片膝をついた。
なかなか激戦だ。するとここでミリュが勝負を掛けるようだ。
「ホントはあの召喚士や皆に驚いてもらおうとしたけど……あんたにくれてやるわ!!」
ミリュの魔力が更に吹き荒れる。何起こるのか分からないので灰色ローブは迂闊に近づけないようだ。
「はぁぁぁっ!!これでも、喰らいなさいっ!!《水封炎砲》!」
彼女がつくった巨大な水球は彼女の二倍ぐらいの大きさがあり、その中に炎が入っている。なんと不思議な光景だ。
「くらえええっっっ!!!」
気合の声を上げミリュは掲げていた両手を振り下ろす。
すると空中に浮いていた水炎球はローブを目的にゆっくりと下降していく。
「っ!!」
回避は間に合わないと思ったのか、直接術者を狙いに全力で走る。
が魔法の発動は既に完了している。ローブの思惑は間に合わない。
「はぁぁぁぁっ!!」
爆発の音と、フィールドが壊れたような爆音が混ざった音が辺りに反響し、暴れ回る。
それによって生まれた衝撃波も空間を震わせ、見ている者達の心をも奮わせた。
『さぁ立っているのはどっちだぁぁっ!!』
テュエルの実況が響く。いまは炎と砂埃で何も見えない。
煙が晴れると影が見える。ふらふらとしながらも確実に立っている影と、横に横たわっている影。
立っている影の正体は、グレイローブ。
そして、その特徴ともいえるローブは色々なところが焼きただていて、そのローブに隠れていたのは、小さな女の子であった。
薄い水色の瞳は虚ろで、綺麗だったであろう銀髪はぼさぼさだ。
誰が見ても痛々しい痣や傷跡はこの試合が始まる前にあったと予想できる。
あいつはここに来る前に何があった?
「ど、どうしたのユウ?」
「あ……ああ。負けちゃったな金髪」
横たわっているのは金髪。ミリュである。
「……あいつのスピードが勝ったのか。まぁミリュは最近魔法の合体が上手くいかないって言ってたもんな」
リンクスは口を噛み締め悔しそうだ。
「リンクス。迎えにいってあげたらどうだ?」
俺は傷ついたミリュを迎え、なおかつ励ましにいくことを促す。
「そうだな! 行ってくる!」
リンクスは走ってミリュの元へ向かう。やっぱり好きな人が近くにいるのが何よりの励ましになるだろう。
我ながらいい判断だ。
「ユウ? 僕も行ってくるね?」
「勿論だ。止める理由もない。励ましてやってこい」
そういってアルトは部屋から出ていく。
しかし、俺の思考は全く別の場所にあった。
グレイローブという名前の彼女。
なんで戦う前からあんなに傷だらけだったんだ?
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「ただいまー」
俺が考えにふけっているとアルトの声が響く。
精神ダメージなので体には影響はないが、精神には影響はある。
なのでミリュは少しだけ精神的に参っている。
「はぁぁぁ……ゴメン……リンクス……」
「気にするなって!ミリュは良くやってくれたさ!」
「はぁ、ごめーん」
なんとも微笑ましい光景だ。もう結婚しろよ。
アルトも何とも微妙に暖かい視線で二人を見ている。彼らならならピリピリした空気でも和ませられる事ができそうだ。
「さて、アルト。次は誰だっけ?」
「えっと、次は獣人の……リオンって言う人と……ん?なんだろうこの人、角生えてるけどまさか……?」
アルトが考えに入ってしまった。まぁ試合になればわかるか。
『さあぁぁって!!先程は激闘だったが、今回も激闘が期待できるぞぉっ!!』
『わぁぁぁぁっ!』
ボルテージは最高潮。盛り上げって大事だよな。
『さぁ選手を紹介しよう!!まずは……巷で有名なエルフの彼氏! 獣人のリオン!!』
「なっ?! 有名なのか?」
俺より大きな獣人のが恥ずかしがっている。ケモミミがピクピク動く。耳は可愛い。耳は。
って、あの獣人は俺がこのサイバルに入る前に検問で少しだけ見たことある気がするな。こんなところで会うとはな。
彼の所持している武器はハルバートのような形だ。身長の大きさ、リーチもあり、この大会の優勝候補といわれてもいいだろう。
『続いて……なっ?!』
実況なのに驚いた声を上げる。選手紹介で驚いていいのかよ。普通選手は知っているだろう。
『これはこれは、ようこそいらっしゃいました!! それでは紹介しましょう!!このお方は!』
めっちゃかしこまってる。あのじゃじゃ馬姫が。
『消息も出身地も不明! 伝説の種族と言われる竜人がきたぞぉ!』
一瞬の静寂。そして。
『『えええええええええええっっ!!?』』
会場が一体となって驚いた瞬間であった。
勿論、俺はぼーっとしていた。何がすごいんだろうな。
累計ポイント200ポイント突破しました!
更新頑張りますのでどうかよろしくおねがいします!
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