第34話 闘技大会2日目 決勝 シーナvsダニエル
俺が追撃しようとしたのに止められたので、吹っ飛ばした彼は慣性の法則に従って壁に衝突し、そこには大きなクレーターが生成された。
爆裂音が静まり返った会場に響き渡る。
観客を見ると観客全員がこちらを見て口をあけたままだ。
魔法、使わなくてよかったな。もっと注目されているところだった。
「……今回の勝利はユウ ナミカゼ!! 皆さん拍手を!!」
テュエルの声が響く。が、俺に祝福の拍手を送る者は誰一人としておらず、話し声すら聞こえなかった。
なんか、辛い。
「薬だ、そうだ……能力を上げる薬をつかってるんだよ!」
「そ、そうか!だから召喚士の癖に訳が分らないスピードがでたんだな!!」
「憲兵さん!! こいつ薬やってます!!」
そうして再びブーイングが巻き起こる。
が、闘技場での入口の検問で引っかからなかったので俺が実際に疑われることはない。
魔法文化はセキュリティ面でも信頼できるほど発達しているのだ。
ただ、未だにブーイングしているのは現実ではありえない事が起こっていて、理解できないから否定しているからだろう。集団心理かな?
激しいブーイングの中、観客に俺は背を向けアルトがいるの部屋へと足を進める。
次の試合はシーナが出る試合だ。そこら辺の泥試合よりは面白いだろう。
闘技場の出口に戻ると、目を逸らしてこちらを全く見ないシーナがおり、次の彼女の試合の相手であるダニエルという男の子からは恐怖の視線という、先程とは全く違う視線を浴びた。
俺はごく普通に横を通り抜けようとしたが――
「……私は」
彼女は俺が通り過ぎて直ぐに、顔を上げて、出口に向かって話しかける。まるで独り言のようにも見えるが、おそらく俺に話しかけているのだろう。急に話し出すとは思っていなかったので足を止める。
互いに背を向けたまま、シーナは話を続ける。
「私は、この試合に勝ちに来ました。故に貴方には負けません」
互いに背を向けているので表情は分からないが、どこか無邪気な気持ちが出ている声であるような気がした。
俺は無言で再び足を進める。返事をしなかったのはもしこれが俺にではなく、隣のダニエル選手に向けているのだったなら、と考えたためだ。決してスカしてる態度をとっているのではない。
さて、姫様のVIPルームでくつろがせてもらうことにしよう。
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「おかえりっ! 流石だね!」
部屋に戻るとアルトが出迎えてくれた。無垢な笑顔で俺の微妙な心が洗われるような気がする。
「ありがとな。アルトもあのくらい――ん?」
気配探知がこの部屋に俺の知らない誰かいることを示す。この場所には他に二人いるようだ。先程はシーナの魔法、対処法についてて考えていたので気がつかなかったのだろうか。
「ん? どしたの?」
「だれか……いるのか?」
浮気現場に遭遇したような殺伐とした雰囲気になる。経験したことは勿論ない。
俺の声に反応したのか、高そうなソファの裏でそろりそろりと這い出てくる人影が一つ。
「えっとねあの人たちが――」
「あ……改めてこんにちは!」
おや、この声は聞いたことがあるな。試合が始まる前アルトと話していたリンクス君である。彼は未だに鎧を着ているが背丈は俺と同じくらいであった。
彼がいるってことは、金髪の女の子もいるのだろうか。
「えっとね……部屋にいきたいって言われたから連れてきたんだけと……ダメだった……かな?」
アルトが両指もじもじを合わせながら、まるで犬を拾ってきた子供のような目でこちらを見る。
親って大変なんだな。これを断るなんて俺には到底出来ない。
なので否定することは出来なかった。
「あ、ありがとうございます!」
「あー、リンクスだっけか? 俺は召喚士だし、敬語なんて使わなくていいぞ」
「俺はそういう差別とかしないんですが……敬語は苦手なんで普通に話しさせてもらいますね。よろしく!」
そう言って手を差し出してくる。
彼は根は大っ嫌いな人間が相手であろうとも笑顔で接する。この歳で完璧すぎだろ。全て完璧美人のようなイケメンが居てよいのだろうか。いや良くない。人類の敵だ。
そんな悶々とした気持ちのまま俺は握手を受け入れる。どこの世界も握手は友好的な行為のようだ。
「アルーお客さんって――誰?!」
声とともに背後かは現れたのは金髪の女の子。ミリュだっけか。
アルトともうあだ名で呼びあっているとは……魔王のコミュニケーション能力は目を見張るものがある。
俺もコミュ系の能力創ろうかな。 今は空きが一つしかないから創らないけど。
目的があれば行動は捗るのでレベル上げの目標にしておこう。
「あ、ユウ、この人がミリュ――」
「さっきの召喚士ね……っ、貴方は何をしたのよ。能力を上げる薬でも服用したのかしら?」
怒気を含んだ声で俺に言い放つ。まさかここで転生直後の洞窟生活のお供、わかめが出るか。確かにあれのおかげで能力は格段に上がっていたが、あれを薬とは言わないだろう。寧ろあれを薬と呼ぶなら俺はこの世界を否定する。
「俺がしているようにみえるか?」
「ええ。あのじゃないと動きの説明がつかないわ。」
「ねぇ、ミリュリュ、ユウのあれは全然本気じゃない? しかも、そんな薬なんて、闇市ぐらいでしか売ってないよ?」
凄く噛みそうなあだ名だな。それほどまでしてあだ名を付ける必要があるのだろうか。
「……検問で引っかかっていないなら……やっぱりしてないみたいね。ごめんなさい」
「ほんとなのか? ユウ?」
ミリュが考えた様な表情をし、リンクスが俺の両肩を持ち、驚愕の声を上げる
こちらの驚きは多分全力じゃないことについてだろう。
「見た感じ、俺が本気で戦い合えるのはアルトぐらいだ。それ以外は手を抜いてたって勝てるよ」
俺は肩を掴まれたまま、目を逸らしながら答える。するとリンクスは闘争心を刺激されたようで
「へぇ……! 自信あるな! 俺も学園の為、何より俺自身のため、負ける気はないぞ!」
と目を輝かせながら語る。熱いところも格好良いあたり、こいつの短所が見つけられない。
彼は俺と戦う前提で話しているが、彼とは今後一切戦うことは無いだろう。もし俺と戦う実力があったとしても、その前にアルトが相手だしな。ご愁傷様です。
「でもやっぱり信じられないわね……召喚士なのに……」
ミリュは観客と同じのような考えをしているようだ。どう説明すればいいものか。
「ユウは召喚士であって召喚士じゃないからね! 僕も最初は驚いたよー」
アルトは誇らしげに胸を張り、言い放つ。
俺は召喚士なんだが。
「アルが出会った時から、こいつはこうなの?」
「そだね!」
「アルは、色々不思議だな」
ミリュ、アルト、リンクスの順番で話す。
信頼を築くのは用意ではないはずだか、アルトのコミュニケーション能力により、なんとかこの場は収められたようだ。
「部屋に入って試合をみたいんだがいいか?」
「ああ! ごめん!」
やっと両肩から手を離し、俺を開放する。男にドキドキはしない。悪い意味で悪寒は走るが。
そして俺は値段が高そうなソファーに遠慮なく腰をかけ、試合を見守る。
さてもう終わってるのか?
『SSランカーのシーナ! よける! 避ける!』
シーナはどうやら遊んでいるようだ。反撃せず身を躱し連撃を流していく。
会場はダニエルが押してるように思えるが、実際はダニエルが遊ばれているのだ。
「くそっ!! なんで! 当たらない!! こんな!!ガキに! 」
ダニエルは剣を振り回しながら当たらないことに悪態をつく。
そんな様子にシーナは――
「……ふっ」
鼻で笑った。
「ガキィィィィ!! 殺してやる!!」
怒り狂った男性は顔を真っ赤にしながら剣を彼女に向け突進するようだ。ああ、終わったな。
「《鎌鼬》」
シーナが無詠唱で魔法の呪文を唱えた瞬間、不可視の風の刃が三発放たれて、それらは全て彼の身体の急所を狙い打たれてしまった。凄まじい威力が込められているようで、空中で三度弾かれて面白いくらいに吹っ飛んでいく。
俺は観察眼のスキルによって魔法が見えたが、やはり不可視であるのは厳しいものだろう。あの魔法は恐らく切断することができる魔法だが、このフィールド中では斬撃も衝撃波に変換される。
もうこの時点で場外だが、彼女はもう一撃放つ。
ガキと言われた事に腹がたったのだろうか。
まるで磁石に引き寄せられるように吹っ飛んだ彼は、観客席のバリアにくっつき、ズルズルと落ちていく。当然悲鳴があがる。
『勝者っ!! シーナ=レミファス!!』
『『わぁぁぁぁあぁぁぁっ!!』』
SSランカーというだけあり、なかなかの盛り上がりだ。俺の場合は魔法を使ったらまた観客になにか言われそうだ。
「すごい……! アレがSSランカーね……!」
「結構あいつ強かったよな? 挑発にのりやすいとはいえ……」
魔法学校の生徒二人が驚きの表情で見ている。が、俺たちは
「あいつもあいつで挑発に乗ってるな。意外と真っ直ぐな魔法だったし」
「あんなの読まれるにきまってるよー。相手が弱かっただけであんなのは実践じゃ通用しないからね」
と呆れた表示で結果を眺めていた。
次の試合はミリュが出るようだ。
「絶対勝ってくるわ。召喚士この試合で私の実力を目に焼き付けなさい! ……そ、それとさっきから勘違いしてて悪かったわ!」
「謝るのは今更感あるけどな。健闘を祈ってるよ」
俺に向けて指をさし、リンクスとアルトに応援されながら部屋から早足で出ていく。謝罪したのが恥ずかしかったのだろうか。
さて二属性魔術師の実力を見せてもらおうか。
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『さぁぁぁっ!! 続いて第三試合!! ミリュ=バルゾディアvsグレイローブ!!』
彼女の相手はボロボロの灰色のフードドローブを着ており、顔も姿も隠されている。この闘技大会は偽名が可能なので、なんとも安直な名前とも言える。
ちなみに、灰色ローブの背丈は非常に小さい。まるで小学生並である。
かといって、生き生きとした気もそれほど強く感じないし、やはり良く分からない相手である。
『試合――!!』
お互いに魔法を唱える用意を始める。灰色ローブも魔法クラスなのだろうか?
『開始いい!!』
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