第33話 闘技大会2日目 決勝 ユウvsヤヲン
その閉会式後、俺またいつもの宿へ戻った。不正疑惑もあり、すれ違う人の目線は非常に冷たかった。
俺が近くにいると、あからさまに批判する人間が殆どである。
観客として見ていた立場としてもやはり納得がいかないのであろう。俺に直接絡んできたりする者もいた。
まぁ、隣にいるアルトの威圧ですぐ失神してしまったが。
俺は威圧のスキルは持っていない。創ってもいいが空きが残り一つなので、生活や戦闘で必要では無いスキルで枠を埋めるわけにはいかない。
念のために枠をとっておくのが、大事なことに気づいたのはここ最近である。
それと今向かっているのは冒険者ギルド。ギルマスに報告するのは礼儀であるらしい。
「召喚士ってどうやって精霊とかを召喚できるんだ?」
俺はギルドに向かう途中にこんなことをアルトに聞いた。
すると彼女は嫌な顔一つせず答えた。凄まじい早口で。
「召喚士の召喚はまず契約対象に自分の力を示して上だと思わせなきゃだめなの。それも圧倒的なものをね。だから召喚士としてやっていけるのは数ある中でもほんのひと握りの運がいい人だけ。でも……ユウなら簡単に召喚が出来ると思うよ。魔王の僕より強いもんね!」
アルトは笑いながら答える。
「俺はお前よりレベル的にも実力的にも強くないはずだがな。それとひと握りってことは召喚士でも活躍してる者もいるにはいるんだな?」
「ウワサではね。とある国で精霊を駆使して戦う人がいるらしいよ。見たことないけど」
一応召喚士でも活躍の場があるようだ。職場いじめとかありそうだからそういうのはゴメンだな。
おっと、そんなことを考えたいたら着いたようだ。
いつもの木の扉を明け、 中へ入る。
するといきなり
「召喚士ぁぁぁっ!!」
入ったと同時に大きな男の拳が飛んでくる。
不意打ちだったが、速度、威力ともに対したことはないので軽々と身を躱す。
「あああああっ!?」
殴りかかってきた人物はどこかで見たような肩パットにスパイクがついていて背が高い大男だ。ゆわっしゃーなんて言葉が脳裏で聞こえたような気がする。
突然殴りかかってきた事もあり、彼は何かに対して怒っているようだ。
「このクソ野郎がっ! どの面下げてこのギルドに戻って気やがった?!」
「ユウは真面目に戦ってた。目が腐ってるんじゃないの?」
アルトが火に油を注いでいく。いやそれ絶対怒るでしょ――
「調子にのるんじゃねぇ……?! ぐぁっ?! アガガガガっ?!」
するとこの大男は急に体が震えだし、泡を吹いて倒れてしまった。なにこれ怖い。まるで高速移動するかのような震え具合だった。
「アルトじゃないよな?」
「僕やってないよ? やっても良かったけど」
「よう。嫌われ者の召喚士」
声と共に現れたのは大剣を床に刺したギルマスだ。
恐らくこれはギルマスが行ったのだろう。なにかの技だろうか。というかギルマスである彼女がこんなことをやっていいのだろうか。
「あー。とりあえず報告に来たぞ。俺たちはどっちも勝ったぞ」
「当然っていえば当然だな。とりあえず決勝出場おめでとう。SSランカーが出たときは焦ったが、全く心配の必要はなかったようだな」
「ユウの敵じゃないね!」
俺たちは適当に挨拶を交わす。アルトの魔法についてはオリジナルということで話せないと伝えておいた。
世界に数人しかいないもんな。全属性魔導師ってのは。
「それとアルト、ギルド本部から入隊の手紙が届いているが――」
「僕はいかないよ」
ギルマスの言葉を途中で切り、否定の意を表す。
「まさに即答だな。断るとは思っていたが」
本当はギルド本部への招待なんて青年枠では絶対にないといっていいほどありえない事なのだ。それほど彼女の実力を高く見たのだろう。
「んじゃ、俺ら明日もあるから帰るわ」
丁度いいところで俺はここから出る事にする。ギルマスがいるからいいものの、居なかったら暴言の嵐に飲み込まれているに違いない。
「おう。健闘を祈る」
「健闘ね? ふふふ……」
魔王様はまた人間の子供と戯れるようです。
俺も最後まで戦わないことを祈るばかりだ。
賞金のためなら全力を尽くすがな。
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闘技大会二日目
もう見知った天井、やはり俺も楽しみなのだろうか。かなり早起きしてしまった。
俺はそそくさと着替え、朝風呂へと向かう。
最近は朝にお風呂にいくのが趣味だ。
おっさんではない。
それとこの宿屋の人は俺が召喚士と知っていてもも、何も悪口を言わない。むしろ応援してくれる。ありがたい限りだ。
ってなんでありがたみを感じてるんだ俺。これが普通だよな?
お風呂に入った後はいつも食堂へと向かう。がここでいつもと違う事が起こる。
「……カツ丼だと?」
「僕も」
ドン、とトレイに置かれたのは、俺とアルトだけ頼んだものとは違いカツ丼であった。
おばさんの気遣いだろうか。少しだけ嬉しくなった俺であった。
「さて、賞金のために力をつけようか」
「ユウと戦うために!」
二人して食事の前の挨拶をし、闘技の目的を言い放ちカツ丼を食べ始める。
もし負けても賞金はもらえるよな?
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『さぁぁぁぁって!! ついにこの時がきたぁぁっ!! 闘技大会二日目!青年枠決勝枠を始めるぞぉぉっっ!!』
『『わぁぁぁぁぁっ!!』』
相変わらず朝からハイテンションな空気である。本当についていけなさそうだ。
闘技会場にいる俺たちが今から行うのは、闘技の行う順番と選手を決めることである。こればかりは真面目なくじ引きなようで不正はないはずである。
それと決勝に出場している時点で魔法学校への編入の権利があるので、俺はこれに則って編入をしようと思う。この世界について更に知れば魔法創造の創造の幅が広がるはずだからだ。異世界の学校って言うのも気になるしな。アルトには聞いていないので分からないが。
今いるのは合計十四人
敗者復活は来る前に終わったようだ。
正直言って相手に興味はない。
しかし、一方でアルトは周りの選手から積極的に話しかけられていた。
「こんにちわ! 貴方の戦い見てたわよ! 」
「凄まじい魔力だったから俺たちはほんとに驚いてな……」
「えっと……二人とも僕に名前を名乗らず何の用かな? 」
アルトは特になんの意識も持たず会話をしている。悪意も好意もない。悪意には敏感なアルトだが、あの二人からは感じないらしい。
「えっと……俺はリンクス=バトラーだ」
「私はミリュ=バルゾディア。私は達は貴女がちょっと気になってね。勿論悪い意味はないわよ?」
「そっか。僕はアルト。苗字はないよ。よろしくね!」
アルトの表情が少し緩む。どうやら大丈夫そうだな。会話が続いている彼女たちかは視線を外し、出場選手を観察する。
中でも目を引いたのは、小学生ではないかと思うほど小さな体に、ボロボロの灰色のフードローブを纏った選手である。なぜか、その者からは苦しみのようなオーラが伝わってきた。
『さぁぁぁっ!! くじ引きによって運命の選手を引き当てろぉっ!!』
と、雑談を終えたテュエルが空中に映し出されたスクリーンの向こうの画面で指をならすと、ボン! と目の前でファンシーな爆発が起こり、その中からくじ引き箱のような箱が出てくる。箱は浮いていた。
そういうところだけは凝ってるようだ。
『さぁっ! 右側の人から箱からくじを引いてみろっ!!』
テュエルも上機嫌に実況している。まぁどちらかといえば祭りだもんな。
「私からね」
そう言って出て行ったのは金髪のストレート。そして二属性魔術師である魔法学校の女の子。
悠々と歩いていき、くじの箱へ手を入れる。
そして彼女は玉のような物を箱から出し、番号を述べた
「五!」
『『わぁぁぁぁっ!』』
どうやら彼女はトーナメント票で左から五番目のようだ。
引いただけなのに歓声があがる。なんでだよ。俺を見習えよ。
『次!リンクス=バトラー!!』
イケメン君はちょっと緊張しているようでおどおどしながら歩いていく。そして箱から出た番号は。
「十四!……最後かぁ」
どうやら最後とシード権を引き当てたようだ。最初と最後はやりたくなかったので半分は心配がなくなった。
『次!アルト!!』
どうやら彼女のようだ。
イケメン君と金髪ちゃんに手を振って小走りで歩いていく。もうそこまで仲良くなったのかよ……
魔王だけあってコミュ力もあるらしい。すこし分けて欲しいところだ。
「八!」
トーナメント戦であるこの場において、彼女は右側の組のようで、俺が左側の組にえらばれれば決勝まで会えないことになる。できる限り戦闘は控えたいので、俺は絶対に左を引きたいところだ。とりあえず初戦でぶつかるのはやめて欲しい。
そうして次々と引いていき、最後から四番目の俺が引く時がきた。
残る枠は 1、2、4、10
何とかして四の数を引きたいところ。
透視のスキルでも創ってくればよかったかな。
そして俺はブーイングが飛び交う中箱から玉を取り出す。
出た数字は――
「…………」
一であった。
『一だぁぁぁぁっ!!』
『『うおおおおおおっ!!!』』
これは悪い意味で盛り上がっているのだろう。
俺が最初にぼこられるの楽しみにしている奴等から喜びの声があがる。
嫌われ者は辛いね。
俺は無言で元の場所へ戻る。
アルトを見ると グッ と親指をたてている。これでよかったのか?
そしてまた次々と引いていき、最後に引くのは、ぼーっとした表情のシーナだ。
残っている数字は四
二戦目か。
ちなみに初戦は敗者復活で復活した騎士のような格好の男だ。年齢は十五歳ぐらいである。年下だろう。
『さぁぁぁっ!! 選手は整った!! 最初に戦う者以外は待合室で待機せよっ!!』
俺はこのまま残ればいいようだ。この相手の戦士は魔力を使わなくても素手で倒せそうだ。
「ユウッ! 決勝でね!!」
「部屋で会えるだろ?」
「もー空気よもーよ」
「えっと……こんにちは?」
イケメン君が話しかけてくる。こいつ性格もイケメンってやつか?
とりあえず無視しておこう。ぷいっとな。
「ちょっと?! リンクスが挨拶してるでしょ?! 召喚士ってほんと常識ないわね?!」
「まぁまぁそういうなって……あはは……とりあえず健闘を祈るよ」
「……そっちもな」
適当に挨拶を返す。なぜ返したのか俺。
「んじゃ頑張ってね!! ユウ!!」
そういってアルトたちは部屋に戻っていく。なんだか締まらないな。
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『さあぁって!! 準備は整った!! これより決勝第一試合を始めるぅっ!!』
『『『わあああっ!!』』』
「どんなイカサマをしたのかわからないけど、相が悪かったね。僕はダールン家の長男。 ヤヲン=ダールンだ。君みたいな最弱のクラスが僕と戦えることを光栄におもったほうがいいよ?」
「よく回る口だ。弱い犬はよく吠える……だっけか?」
初めての対人戦に俺もワクワクしているようだ。挑発に挑発で返す。
「召喚士、きみは余程死にたいようだね。それに杖も持ってないなんてよほどお金が無いのかな?」
『さぁあぁぁっ!! 試合を始めますっ!!』
俺は指をくいくいっと曲げ、典型的な挑発をした。
ブーイングが起こるか気にする余裕はない。今からは戦闘。殺し合いなのだ。
『初めっ!!』
テュエルが空中に映し出された画面の向こうで手を振り下ろす。
刹那。貴族をおいて俺は動く。
貴族は未だにヘラヘラした笑みを浮かべている。
余裕なもんだな。
「まずは様子見だ」
足に力を込めて飛び込むように前進。
風を切って猛接近しているのに、彼は相変わらずへらへらしている。それだけ強いのだろうか。だげど、こいつには負けたくないな。
「まずはッ!!」
相変わらず彼は余裕なままだったが、俺が拳を握りしめ、飛び込んだ勢いのまま正拳突き。
様子見にはぴったりだが、相手未だに動かないので、このまま打ち込むことに決めた。それだけ余裕なのだろうか?
「ぐはおまうぉ!?」
人を殴ったとは思えないくらい重い音が響く。ただ、反応できていないだけであったようだ。
「なんだ。こんなもんか。様子見だったんだがな。ならもう少し――!!」
貴族はくの字に曲がりながら場外へ――は行かせない。彼が吹っ飛ぶ速度より俺は早く動き後ろに回り込む。
そして先にそこに居て待機していた俺は、回し蹴りを飛んできた貴族に叩き込む。
「ぐぉぅぅっ……」
次はデクレッシェンドの形に曲がる。素晴らしくよく曲がる体だ。
次は踏み潰してやろうかと考えながら駆け出したその時――
『そこまでぇぇぇっ!!』
テュエルの声が響き、俺は足を止める
『『………………』』
全員が口をあけて黙っている。彼女の合図より、あっという間に試合終了である。
あれれ? やりすぎた?
ご高覧感謝です♪